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聖、蓮花研究所へ

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 百家で和食の膳を頂いた。
 洋食しか食べない聖が、喜んで美味いと言いながら食べていた。
 そういえば、虎白さんのとこでどんなものを喰っていたのだろう。

 「虎白さんとこの飯って、お前大丈夫だった?」
 「ああ! あれは美味かったぜ! 毎日毎日、ほんと幸せ」
 「そ、そっか」

 意外だった。
 
 「一度さ、洋食を作ってくれたんだ。俺なんかに気を遣ってくれてさ」
 「そうか」
 「有難かったんだけど、いつもの飯にしてくれって頼んだ。本当に美味いんだよ!」
 「へぇー」

 聖は食事に文句を言わない奴だったが、美味いものは純粋に喜んで美味いと言う。
 そういう奴だった。

 「この食事も美味いな! ありがとうございます!」

 百家の皆さんも喜んでくれた。
 聖が純真で正直な人間であることは、すぐに分かってくれていた。
 だが、豪勢な膳ではなかった。
 テンプラや刺身などは多少あるが、後は煮物や漬物などだ。
 椀も豆腐の吸い物であり、質素とも言える。
 でも聖は喜んだ。
 これから連れて行く蓮花の研究所では、達人蓮花の料理が喰える。
 聖がまた喜ぶ顔が楽しみだ。

 いろいろとご馳走になってしまい、俺たちは礼を述べた。

 「石神様。宜しければあの神銃のことをまた調べておきます」
 「はい、お願いします」
 「それと、聖様にこの神銃を渡したのは……」
 「アハハハハハハハ!」

 俺は聖にスケッチと着物の柄で確認したと話した。

 「やはり……」
 「緑さん、やっぱりオキャンな人ですね、響さんは」
 
 緑さんが爆笑した。
 死に別れた人間だが、こうして現世で俺たちに関わっていることが嬉しいのだと思う。

 「ああ、そうだ! 響さんの墓参りをさせていただけませんか?」
 「もちろんです! ありがとうございます!」

 俺と聖は尊正さんと緑さんに案内され、墓所へ行った。
 神道のものなので、俺はお経は唱えなかった。
 聖と手を合わせて挨拶した。

 「響さん、聖に素晴らしいものをありがとうございました。大事にいたします」
 
 聖は真剣な顔で「聖光」と「散華」を墓前で掲げ、深く頭を下げた。
 俺たちは、蓮花研究所へ向かった。

 


 蓮花研究所には、子どもたちが先に行っている。
 ブランたちを連れて、ロシアのオムスクのミサイル基地を強襲する予定だった。
 先日、俺のサントリーホールでのコンサートの際に、そこから核弾頭ミサイルが発射された報復だ。
 ミサイルは即座にアラスカからのヘッジホッグの攻撃で「消滅」している。
 すぐに報復を行なわなかったのは、御堂がロシア政府に抗議し、折衝しようとしたからだ。
 それがとん挫したため、「虎」の軍による武力行使になったという次第だ。

 「石神様! 聖様! お待ちしておりました!」
 「ああ、すぐに話したいことがある」
 「かしこまりました!」

 本館の玄関先に降りたので、すぐに俺たちは中へ入る。
 子どもたちは、ブランと戦闘訓練をしているとのことだった。

 俺と聖は着替えて、作戦室へ移る。
 蓮花とジェシカが待っていた。
 俺は聖が「聖光」と「散華」を手に入れたいきさつを話し、百家でこれらが「崋山家」によって製作されたものらしいと言った。

 「崋山家ですか」
 「俺も知らなかった。戦国時代から妖魔を斃す銃を作って来た家系らしいぞ」
 「わたくしもまったく。一体どのような技術で創られたのでしょうか」
 「ヒヒイロカネらしいぞ」
 「え!」

 蓮花が驚く。

 「あの柱の!」
 「そうだ。どうもタイミングが合い過ぎているな」
 「はい!」

 蓮花から報告を受けているが、あのヒヒイロカネの巨大な柱が来て、蓮花は神秘体験をした。
 自分に似た女性から、ヒヒイロカネの精錬や加工法を教わったということだった。
 しかも、夢の中ではない。
 現実に目の前にその女性が現われ、蓮花に手ほどきをしたと言うのだ。
 俺も俄かには信じがたい話だったが、蓮花が言うことなので、そのまま受け止めた。
 
 「ヒヒイロカネは神の宿ったものであり、高度に使えば神をも滅することが出来るそうです」
 
 そう聞いた俺は、「虎王」のことをすぐに想像した。

 「聖、弾を見せてくれ」
 「おう」

 聖が弾薬箱から、それぞれ弾丸を取り出して見せた。
 俺たちには、この弾丸ですら持つことが出来ない。

 「弾頭はヒヒイロカネですね」
 「ああ、でも弾核全てがそのようだ」

 俺は弾薬箱のフタに書いてある製造法を示した。
 ジェシカがそれをカメラで撮影した。

 「これで十分です。わたくしにはすべて理解出来ました」
 「そうか!」
 「恐らく、製造過程では、わたくしたちにも扱えるものと思われます。聖様が手元にされたものは、もう誰にも扱えなくなるのでしょう」
 「そういうことまで分かるか?」
 「はい」

 蓮花が普段とは違う目をしていた。
 何かが降りているのかもしれない。

 「じゃあ、早速製造の手配をしてくれ。1万発ずつ頼む」
 「かしこまりました」
 「火薬の製法もあるからな。そっちも大丈夫だな?」
 「はい」

 俺も馴染みのある薬品ばかりだった。
 発射薬にはそれほどの意味は無いのだろう。

 「弾頭と薬莢の刻印もそのまま頼む。ヒヒイロカネと共に、それが肝なんだろう」
 「はい、間違いなくそのように致します」

 ジェシカはレーザーの計測器で後で全体のデザインをデータ化すると言った。
 聖が計測器まで弾丸を運んで行った。

 「子どもたちはやってるか?」
 「はい、楽しそうに」
 「そうか」

 戻って来た聖と一緒に、俺は蓮花たちと先日のグアテマラの「地獄の悪魔」との戦闘解析のデータを話し合った。

 「デュールゲリエたちが、戦闘時の破壊検証を記録していました」
 「ああ」
 「石神様の「虎王」はともかく、聖様が撃った「レーヴァテイン」の破壊検証のデータが揃いました」

 「地獄の悪魔」への破壊検証は困難を極めた。
 「レーヴァテイン」の出力記録を元に、量子コンピューターが膨大な変数の解析をして、ようやく何とかなった。
 未知の相手だったためだ。
 最適解を目指すために、逐一データ解析をしていたのでは、量子コンピューターでも数万年単位で時間が必要だった。
 ナップザック問題に類する、NP問題と化していたのだ。
 つまり、「レーヴァテイン」の有効攻撃が、「地獄の悪魔」のレジストや耐久性のどのような組み合わせで可能であったのかという問題になっていた。
 それらの変数の組み合わせが膨大過ぎて、アルゴリズムが未定になる。
 しかし、蓮花研究所の多体構造の量子コンピューターが、ついにアルゴリズムを発見し、NP問題を解決してしまった。
 一ヶ月近く掛かったが、俺たちは数学的な未知の問題を突破したのだ。
 もちろん、外部に発表はしない。

 その大発見により、「地獄の悪魔」を斃す方法がこれから模索出来ることとなった。

 「聖、「聖光」と「散華」の威力を測定しよう」
 「ああ」
 
 聖は何にも分かっていないが、やるべきことは理解していた。
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