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聖、石神家本家へ Ⅵ

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 聖が妙な銃を持っていると言っていた。
 新幹線の中で不思議な出来事があってのことらしい。
 俺は聖の話を聞いてすぐに、またあの人の仕業かと思った。
 とにかく、油断は出来ないことだったので、聖のいる石神家本家へ向かった。

 聖は虎白さんの家で俺を待っていた。

 「よう!」
 「トラぁー!」

 聖が嬉しそうな顔をする。
 でも元気そうだ。
 虎白さんたちが、大事にしてくれていたことが分かる。

 「元気か?」
 「ああ、大分虎白さんたちに世話になっちまったよ」
 「そうか」

 虎白さんはもう上の鍛錬場に行っているらしい。
 当主が来たのだが。
 俺は早速、聖に問題の銃を見せてもらった。
 大判の風呂敷にくるまれていたが、その風呂敷を見てもう確信した。
 百家の紋が入っていた。
 聖に人相の説明は無理だろうと、俺が紙と鉛筆を探してスケッチした。

 響さんの顔と、着物の柄だ。
 今は夏なので、青いススキと黄色のスペクタピリスの柄を描いた。

 「トラ、お前絵が上手いなー」
 「いや、それでどうなんだよ」
 「バッチリ!」

 聖が親指を立てて見せた。

 「着物の柄は? ススキは青で、スペクタピリスは黄色だ」
 「あー、確かそんなだったかな」
 「ほんとか?」
 「白地の着物は確かで、黄色い花とススキだったな」
 「そっか」

 聖は敵の記憶は間違えない。
 俺は地の色までは口にしなかったので、確かだろう。

 「じゃあ、やっぱり響さんだろうなぁ」
 「キョウさん?」

 俺はロックハート家の静江さんの妹だと話した。

 「百家の人間だよ」
 「なんだ、やっぱ敵じゃないんだな?」
 「まあな。但し、もう死んでるんだけどな」
 「!」

 聖が気絶しそうになった。
 そういえば、こいつは心霊的なものが苦手だった。

 「おい! しっかりしろ!」

 慌てて両肩を揺すって目を覚まさせた。

 「と、トラ、じゃあ幽霊だったのか?」
 「まあ、そういうのとも多分違うけどよ。なんかさ、俺も何度も会ってるんだよ」
 「お前も?」

 俺は響子と一緒に同じ夢を見たとか、百家に行っても夢で逢ったこと。
 そして学生時代に魚籃坂で現実に邂逅したことと、多分九州で古伊万里の大皿をもらったことなどを話した。

 「じゃあ、幽霊じゃないんだな!」
 「そうだ!」

 分からんが、聖が不安がるので肯定しておいた。
 聖が安心する。

 「よく分からない存在なんだけど、きっとお前に必要なものなんだろうよ」
 「そうなの?」
 「うん」

 俺も分からん。

 「一度よ、百家に行ってみっか?」
 「百家?」

 そういえば、こいつは何も知らない。
 まあ、響子のことで話したことはあるのだが、聖は覚えてないんだろう。

 改めて二つの銃を観た。
 銃器は散々見て来ているが、これは間違いなく銘品だ。
 バランスもよく、パーツの組み合わせが完璧な状態だった。
 聖が分解してみたと言うので、もう一度やらせた。
 俺にも分かったが、聖の方が上手い。
 たちまちに自動小銃の内部の機構を俺に見せてくれた。

 「削り出しが美しいな」
 「そうだろう? 感動したぜ」
 「ユニークモデルか」
 「ああ、多分な。こんな精巧なパーツは、特別に組んだものだろうよ」

 大型拳銃の方も分解させた。

 「ブレットは50口径か」
 「そうだな。とにかくこっちも丁寧に削り出してるよ」

 弾頭も見た。
 聖が言っていた通り、自動小銃のものも拳銃のものも、鉤十字が先端に刻まれており、薬莢の底にも同じものが彫り込んである。

 「このマークはなんだ?」
 「分かんね」
 
 弾頭の先端は3ミリ程度で平たく削って在り、そこに鉤十字が刻まれている。
 
 「まだ試射はしてねぇな」
 「ああ。どうする?」
 「やってみっか?」
 「暴発の心配はなさそうだしな」

 銃口のライフリングを覗いても、ちゃんとしている。
 内部の機構を確認しているし、火薬に問題が無ければちゃんと発射されるだろう。
 本来はベンチテストで固定して撃つべきだが、俺たちは二人ともその必要は無いと判断した。

 表に出て、山道に入った。
 
 「おい、この辺でいいだろう」
 「ああ」
 「あの50メートル先の樹を狙えよ」
 「分かった」

 聖が自動小銃を構えた。
 さまになっている。
 単発に合わせ、コッキングレバーを引く。

 「スムーズだぜ」

 聖が嬉しそうな顔をした。
 肩に構えてトリガーを引く。

 ドン

 大口径の重たい発射音だった。

 「おい! 反動がねぇぞ!」

 聖が驚いている。
 標的の50センチの幹が粉砕されて倒れた。

 「スゲェな!」
 「だな!」

 聖は拳銃も隣の幹に狙って撃った。
 また一発で幹が粉砕された。

 「なんだこりゃ!」
 「おい、拳銃弾だよな」
 「ああ、威力はすげぇけど、こっちも反動がほとんどねぇよ!」
 
 ショートリコイルの機構は分かっていたが、聖が想像以上に軽いのだと言った。

 数十人の急速に接近する気配がした。

 「なんだ?」
 「おう?」

 「いたぞ!」
 「あ! てめぇかぁ!」
 「高虎! お前何のつもりだぁ!」

 「やべ!」
 「トラ?」

 銃声と倒木の音で、襲撃と思った石神家の剣士たちが来たのだ。

 「あの! なんでもありませんから!」
 「ふざけんなてめぇ!」
 「ぶっ殺してやる!」
 
 「ちょ、ちょっとぉー!」

 斬られはしなかったが、やっぱりボコボコにされた。
 




 上の鍛錬場に言った。

 「お前! 来たんなら何で顔を出さねぇ!」
 「あやうく「黒笛」で吹っ飛ばすとこだったぞ!」
 「俺らは襲撃者は容赦しねぇんだ!」

 「すいませんっしたぁー!」

 まあ、俺が悪い。
 襲撃者が本当にあるような戦闘集団の庭で、断りもなく銃を撃ったのだ。
 勘違いされて殺されてもしょうがない。

 「あの、俺が撃ったんです」
 「聖はいいよ。どうせ高虎がやろうって言ったんだろう」
 「はい」

 てめぇ……。

 なし崩し的に俺も鍛錬に参加させられた。
 だが、聖の仕上がりが見られたので良かった。
 聖は恐ろしく強くなっていた。
 剣技で、石神家と一緒に行動出来るだろう。
 鍛錬を終え、俺も虎白さんの家で夕飯を頂いた。

 「聖はすげぇぜ。虎相まで既にあった奴だからな。まあ、高虎の相棒だけのことはあるな」
 「そうですか!」

 俺が嬉しそうに笑うと、聖も喜んだ。

 「もう明日は帰るんだろう?」
 「はい、お世話になりました」
 「いいって。今度一緒に行こうや」
 「はい!」

 集会場に行き、剣士全員と宴会をした。
 みんなが聖の成長の早さを褒め、聖が珍しく恥ずかしそうにしていた。
 でも他の剣士たちと楽しそうに話す聖を見て、俺も嬉しかった。
 誰も知らない土地で、しかも特殊過ぎる人たちの中だった。
 聖はちゃんと打ち解けて、信頼されていた。
 やっぱり聖は最高にいい奴だ。
 聖の必死に学ぼうとする心が、虎白さんたちにもすぐに分かったのだろう。
 それに、俺の親友だということで、きっと大事にしてくれたに違いない。
 深夜まで飲み続け、俺と聖は先に休ませてもらった。

 「高虎、ちょっと来い」

 虎白さんに呼ばれ、庭に出た。

 「おい、聞いたかよ。聖の虎相は怒貪虎さんに似てたんだよ」
 「はい」
 「お前、どう思う?」
 「分かりませんね」
 「お前も聖の親父は知らないのか?」
 「まあ、ちょっと話せない約束がありまして」
 「その人は剣士なのか?」
 「いや、違うと思いますが。でも俺もよく分からない人なんですよ」
 「そっか」

 虎白さんはそれで納得してくれた。

 「ああ、土産をありがとうな」
 「ああ! 俺が勝手に聖に持たせたんです。すいませんでした」
 「いいよ。大事にする」
 「そうですか」

 虎白さんは笑って、また集会場に戻った。
 聖が俺の布団まで敷いてくれていた。

 「じゃあ寝るか」
 「ああ、その前にちょっと見てくれよ」
 「あ?」

 聖が俺を別な部屋へ案内した。
 仏間だった。
 俺も前に線香を上げさせてもらって知っている。

 「お!」

 俺が聖に頼んだ、双子のガラスの天使が仏壇に供えてあった。

 「そっか」
 「トラ、虎白さん、喜んでたぜ」
 「そっか」
 「ちょっと泣いてた」
 「そっか!」

 聖と部屋へ戻り、寝た。
 久し振りに聖と一緒に寝た。
 懐かしかった。
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