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聖、石神家本家へ Ⅳ
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近づいて来る気配で目が覚めた。
俺は素早く全身の点検をする。
昨日の痛みはほとんどない。
感覚も問題ない。
「よう、飯だぞ」
「分かった」
洗面所へ案内され、顔を洗った。
座敷へ行くと、もう朝食が用意されている。
卵焼きと山菜の漬物。
それに白米と味噌汁。
質素なものだったが、本当に美味かった。
「お前、いつもどんなの喰ってんだよ」
「洋食だ。日本にいた頃からそうだった」
「じゃあ、こういうのは喰い慣れてないだろう?」
「ああ。だけど美味いよ。本当に美味い」
「そっか!」
虎白さんが嬉しそうに笑った。
「俺ら、別に金がねぇわけじゃないんだ」
「そうか」
「美味いもんを喰おうって奴がいなくてな」
「俺もそうだよ」
「そうかよ!」
トラに、前にここに頼めば大学の入学金やお袋さんの入院費も簡単に片付いた話をしたそうだ。
トラが泣きそうな顔になってたと虎白さんが言った。
俺も笑った。
「でもな、そうしたらお前と親友にはなれなかったかもってよ」
「!」
「その後の人生もな。大学で御堂と知り合わなかったし、奈津江とも付き合わなかっただろうってさ」
「トラ……」
食事が終わり、茶を飲んだ。
「まあ、あいつはあいつの人生がある。高虎は高虎だ」
「そうだな」
食事の支度や身の回りのことは、やってくれる女性がいるらしい。
俺も洗濯物があれば出して置けと言われた。
遠慮なくそうさせてもらった。
また山に登り、鍛錬場に行った。
「聖!」
「おはようさん!」
「今日もやっぞ!」
いろんな人に声を掛けられた。
みんな明るく、気持ちのいい人たちだ。
俺には虎白さんがついて、直接型を教えられた。
「今日も「虎地獄」かと思ったよ」
「お前、それで平然と来たのかよ」
「当たり前だ」
「高虎も泣きを入れてたのになぁ」
「ワハハハハハ!」
トラの時とは違うのは分かっていた。
俺は全身に鍼を打たれたが、トラは直接刀をぶっ込まれたと聞いている。
俺も幾つかは刺されたり斬られたりもしたが、多分数が違う。
そのことも聞いてみた。
「ああ、本来は「虎地獄」ってお前みたいにやんだよ」
「え?」
「高虎の場合、刀でツボを突いてっただけ」
「なんでだよ?」
「あいつ、ちょっと生意気じゃん?」
「あ?」
「当主になるのも嫌がってたしよ。だから」
「あー」
トラ、お前大変だな。
虎白さんが教えてくれる型は、すぐに覚えることが出来た。
剣技についてはド素人の俺が、不思議に思った。
「それが「虎地獄」の意味だぞ。身体に奥義を叩き込むっていうな。お前の中にはもう俺らの奥義が備わってる。今はそれをなぞらせて、本当に使えるようにしてんだ」
そういうことか。
虎白さんの言うことは分かった。
奥義というのは「型」だ。
その型を覚えることで、とんでもない威力の技が出せるようになる。
ただ、それは単に「技」であって、それだけでは十分じゃない。
より速く技を撃てること、そして技の特徴を知りそれを使い分けること。
更に、技をどんな状況でも撃てるように工夫すること。
更に、技を組み合わせて行くこと。
それは膨大な鍛錬でしかものにできない。
だから石神家では毎日稽古をしているのだ。
俺も、奥義は教わったのかもしれないが、これからそれを練って行かなければならない。
それに、俺は全ての奥義を教わったとも思っていなかった。
多分、鍛錬の積み重ねでしか会得出来ないものもある。
とにかく、俺は必死にやった。
昼飯は汁物だった。
若い連中が下からでかい寸胴を幾つも抱えて来た。
いろいろな野菜や豚肉、それに小麦粉の団子。
食材の旨味が染み出した、絶品のものだった。
みんな丼でどんどん食べて行く。
「美味いな、虎白さん」
「そうかよ」
俺が食事の感想を言うことは滅多にない。
トラが作ってくれた時の他は、ほとんどない。
トラの料理は絶品だ。
でも、これも本当に美味かった。
俺が喰っていると、他の剣士たちが寄って来た。
「お前、結構すげぇな」
「そうか」
みんなに口々に言われる。
「聖は、骨の使い方が分かってんだよな」
「え?」
虎白さんに言われた。
「大分やり込んでる。高虎もそうだったけどな。お前ら、相当な修羅場を潜って来たんだろう?」
「まあ、トラがいれば何のことも無いけどな」
みんなが笑った。
「高虎の虎相はべらぼうだが、お前も相当だよな」
「ああ、何だよ、その「虎相」って?」
「俺たちは本気になるとよ、身体が燃え上がるんだよ」
「なんだ、そりゃ?」
「人間の身体は、戦う時には脳からアドレナリンが放出される」
「え?」
虎白さんが人体の仕組みを語り出したので驚いた。
「そうすることで筋力が上昇し、血液の供給が増大すると共に、皮膚の血管が収縮していく。酸素の交換効率が上がり、瞳孔が拡大して見る力が増し、さらに痛覚が鈍る。要は強くなるってこった」
「あ、ああ」
医学的な知識があるとは思わなかった。
「でもよ、虎相はもっと別だ。普通の人間にゃ見えねぇが、身体が炎に包まれる」
「あんだ?」
「特別な状態だよ。身体が限界を超えて行くんだ。まあ、それが出来んのは剣士だけだけどな」
「へぇー」
「お前にも昨日見た」
「俺が?」
「そうだ。どこで覚えたのかは知らねぇがな。逆に聞きてぇよ」
「俺には分かんないよ」
「そうだな」
虎白さんが立ち上がった。
一呼吸で、虎白さんが変わった。
身体の周囲の空気が揺らいでいるようにも見えた。
「どうだ?」
「ああ、変わったのが分かる」
「そうか」
虎白さんが笑って、元に戻った。
「高虎は別格だ。あいつ、普段から虎相が出ているからな」
「そうなのか?」
「まあ、普通の人間にゃ見えねぇし、あいつもいつもの状態だから気付いてもいないけどな。それに、あいつの虎相はおっかないもんじゃない。高虎はいつも大事な人間を護ろうとしてやがる。だからだろうな」
「トラが?」
「あいつ、女にモテんだろ?」
「まあ、そうだな」
「男はあいつが好きになるか敵になるかだろう?」
「そんな感じだな」
「ワハハハハハ!」
何となく分かった。
トラはそういう奴だ。
午後の鍛錬を終え、みんなで山を降りた。
今日は普通に歩ける。
「おう、風呂に入れよ。昨日はそのまま寝ちまったからな」
「ああ」
風呂から上がり、スージーに電話をした。
問題なくやっているようだ。
次にトラに電話した。
「聖! どうだよ?」
「ああ、昨日はへばったけどな。「虎地獄」をやられた」
「なんだと! お前大丈夫かよ!」
俺が鍼を打たれてからだったと言うと、トラが激怒していた。
「あいつらぁー!」
「まあ、いいじゃんか」
「良くねぇよ!」
「でも、俺も結構痛かったぜ?」
「俺は死に掛けたんだぁー!」
「ワハハハハハ!」
トラはそれでも、俺が無事なのを喜んでくれた。
「まあ、無茶苦茶な人たちだけどよ、意外に優しい面もあるからな」
「そうだな。良くしてもらってるよ」
「なんかあったら連絡しろよ」
「ああ、分かった」
夕飯にはステーキが出た。
俺だけだ。
虎白さんは昨日みたいな焼き魚だった。
「虎白さん、俺もそういうのにしてくれよ」
「え、そうか?」
「うん」
「分かったよ!」
きっと俺が食べ慣れないものだと気を遣ってくれたんだろう。
トラ、この人本当に優しいぜ。
お前にそっくりだよ。
俺は素早く全身の点検をする。
昨日の痛みはほとんどない。
感覚も問題ない。
「よう、飯だぞ」
「分かった」
洗面所へ案内され、顔を洗った。
座敷へ行くと、もう朝食が用意されている。
卵焼きと山菜の漬物。
それに白米と味噌汁。
質素なものだったが、本当に美味かった。
「お前、いつもどんなの喰ってんだよ」
「洋食だ。日本にいた頃からそうだった」
「じゃあ、こういうのは喰い慣れてないだろう?」
「ああ。だけど美味いよ。本当に美味い」
「そっか!」
虎白さんが嬉しそうに笑った。
「俺ら、別に金がねぇわけじゃないんだ」
「そうか」
「美味いもんを喰おうって奴がいなくてな」
「俺もそうだよ」
「そうかよ!」
トラに、前にここに頼めば大学の入学金やお袋さんの入院費も簡単に片付いた話をしたそうだ。
トラが泣きそうな顔になってたと虎白さんが言った。
俺も笑った。
「でもな、そうしたらお前と親友にはなれなかったかもってよ」
「!」
「その後の人生もな。大学で御堂と知り合わなかったし、奈津江とも付き合わなかっただろうってさ」
「トラ……」
食事が終わり、茶を飲んだ。
「まあ、あいつはあいつの人生がある。高虎は高虎だ」
「そうだな」
食事の支度や身の回りのことは、やってくれる女性がいるらしい。
俺も洗濯物があれば出して置けと言われた。
遠慮なくそうさせてもらった。
また山に登り、鍛錬場に行った。
「聖!」
「おはようさん!」
「今日もやっぞ!」
いろんな人に声を掛けられた。
みんな明るく、気持ちのいい人たちだ。
俺には虎白さんがついて、直接型を教えられた。
「今日も「虎地獄」かと思ったよ」
「お前、それで平然と来たのかよ」
「当たり前だ」
「高虎も泣きを入れてたのになぁ」
「ワハハハハハ!」
トラの時とは違うのは分かっていた。
俺は全身に鍼を打たれたが、トラは直接刀をぶっ込まれたと聞いている。
俺も幾つかは刺されたり斬られたりもしたが、多分数が違う。
そのことも聞いてみた。
「ああ、本来は「虎地獄」ってお前みたいにやんだよ」
「え?」
「高虎の場合、刀でツボを突いてっただけ」
「なんでだよ?」
「あいつ、ちょっと生意気じゃん?」
「あ?」
「当主になるのも嫌がってたしよ。だから」
「あー」
トラ、お前大変だな。
虎白さんが教えてくれる型は、すぐに覚えることが出来た。
剣技についてはド素人の俺が、不思議に思った。
「それが「虎地獄」の意味だぞ。身体に奥義を叩き込むっていうな。お前の中にはもう俺らの奥義が備わってる。今はそれをなぞらせて、本当に使えるようにしてんだ」
そういうことか。
虎白さんの言うことは分かった。
奥義というのは「型」だ。
その型を覚えることで、とんでもない威力の技が出せるようになる。
ただ、それは単に「技」であって、それだけでは十分じゃない。
より速く技を撃てること、そして技の特徴を知りそれを使い分けること。
更に、技をどんな状況でも撃てるように工夫すること。
更に、技を組み合わせて行くこと。
それは膨大な鍛錬でしかものにできない。
だから石神家では毎日稽古をしているのだ。
俺も、奥義は教わったのかもしれないが、これからそれを練って行かなければならない。
それに、俺は全ての奥義を教わったとも思っていなかった。
多分、鍛錬の積み重ねでしか会得出来ないものもある。
とにかく、俺は必死にやった。
昼飯は汁物だった。
若い連中が下からでかい寸胴を幾つも抱えて来た。
いろいろな野菜や豚肉、それに小麦粉の団子。
食材の旨味が染み出した、絶品のものだった。
みんな丼でどんどん食べて行く。
「美味いな、虎白さん」
「そうかよ」
俺が食事の感想を言うことは滅多にない。
トラが作ってくれた時の他は、ほとんどない。
トラの料理は絶品だ。
でも、これも本当に美味かった。
俺が喰っていると、他の剣士たちが寄って来た。
「お前、結構すげぇな」
「そうか」
みんなに口々に言われる。
「聖は、骨の使い方が分かってんだよな」
「え?」
虎白さんに言われた。
「大分やり込んでる。高虎もそうだったけどな。お前ら、相当な修羅場を潜って来たんだろう?」
「まあ、トラがいれば何のことも無いけどな」
みんなが笑った。
「高虎の虎相はべらぼうだが、お前も相当だよな」
「ああ、何だよ、その「虎相」って?」
「俺たちは本気になるとよ、身体が燃え上がるんだよ」
「なんだ、そりゃ?」
「人間の身体は、戦う時には脳からアドレナリンが放出される」
「え?」
虎白さんが人体の仕組みを語り出したので驚いた。
「そうすることで筋力が上昇し、血液の供給が増大すると共に、皮膚の血管が収縮していく。酸素の交換効率が上がり、瞳孔が拡大して見る力が増し、さらに痛覚が鈍る。要は強くなるってこった」
「あ、ああ」
医学的な知識があるとは思わなかった。
「でもよ、虎相はもっと別だ。普通の人間にゃ見えねぇが、身体が炎に包まれる」
「あんだ?」
「特別な状態だよ。身体が限界を超えて行くんだ。まあ、それが出来んのは剣士だけだけどな」
「へぇー」
「お前にも昨日見た」
「俺が?」
「そうだ。どこで覚えたのかは知らねぇがな。逆に聞きてぇよ」
「俺には分かんないよ」
「そうだな」
虎白さんが立ち上がった。
一呼吸で、虎白さんが変わった。
身体の周囲の空気が揺らいでいるようにも見えた。
「どうだ?」
「ああ、変わったのが分かる」
「そうか」
虎白さんが笑って、元に戻った。
「高虎は別格だ。あいつ、普段から虎相が出ているからな」
「そうなのか?」
「まあ、普通の人間にゃ見えねぇし、あいつもいつもの状態だから気付いてもいないけどな。それに、あいつの虎相はおっかないもんじゃない。高虎はいつも大事な人間を護ろうとしてやがる。だからだろうな」
「トラが?」
「あいつ、女にモテんだろ?」
「まあ、そうだな」
「男はあいつが好きになるか敵になるかだろう?」
「そんな感じだな」
「ワハハハハハ!」
何となく分かった。
トラはそういう奴だ。
午後の鍛錬を終え、みんなで山を降りた。
今日は普通に歩ける。
「おう、風呂に入れよ。昨日はそのまま寝ちまったからな」
「ああ」
風呂から上がり、スージーに電話をした。
問題なくやっているようだ。
次にトラに電話した。
「聖! どうだよ?」
「ああ、昨日はへばったけどな。「虎地獄」をやられた」
「なんだと! お前大丈夫かよ!」
俺が鍼を打たれてからだったと言うと、トラが激怒していた。
「あいつらぁー!」
「まあ、いいじゃんか」
「良くねぇよ!」
「でも、俺も結構痛かったぜ?」
「俺は死に掛けたんだぁー!」
「ワハハハハハ!」
トラはそれでも、俺が無事なのを喜んでくれた。
「まあ、無茶苦茶な人たちだけどよ、意外に優しい面もあるからな」
「そうだな。良くしてもらってるよ」
「なんかあったら連絡しろよ」
「ああ、分かった」
夕飯にはステーキが出た。
俺だけだ。
虎白さんは昨日みたいな焼き魚だった。
「虎白さん、俺もそういうのにしてくれよ」
「え、そうか?」
「うん」
「分かったよ!」
きっと俺が食べ慣れないものだと気を遣ってくれたんだろう。
トラ、この人本当に優しいぜ。
お前にそっくりだよ。
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