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聖、石神家本家へ Ⅱ

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 タクシーの運転手に場所を告げると、すぐに通じた。
 
 「あの辺は、ちょっと変わった土地ですからね」
 「そうなのか」
 「ええ、刀持った人がいてまるで江戸時代かと思えば、見たことも無い未来的な建物まで出来ちゃって」
 「へぇ」

 トラが創った「ヘッジホッグ」だろう。

 「お客さんはお仕事で?」
 「まあ、そんなところだ」
 「そうですか! 時々、とんでもない人が行くんですよね」
 「そうなのか」
 「なんか偉い人。それに高貴って言うんですかね、そんな人も。知らないけど、物凄く育ちのいい人たち」
 「そうか」

 興味は無かった。
 まあ、トラの本家なら、なんでもあるだろう。
 タクシーの中から電話をした。
 電話番号はトラから入れてもらってる。
 名前はなんだっけか?





 1時間も走ると、石神家に着いた。
 どこの家かは分からないので、適当な場所で降りた。

 「おう、あんた、聖か?」

 すぐにトラと同じく身体のでかい年配の男が俺に声を掛けてきた。

 「そうだ。あんたは?」
 「俺、虎白ってんだ」
 「ああ、あんたが。トラから聞いてる」
 「なんて?」
 「一番無茶苦茶で強くて優しい人だって」
 「ワハハハハハ!」

 トラに言われたことをそのまま言うと、虎白さんは大笑いした。
 虎白さんが俺を自分の家まで案内してくれる。
 日本家屋の玄関に入り、靴を脱ぐのだと思い出した。
 部屋へ案内され、俺の荷物を中へ置く。
 新幹線の中の女が持って来たガンが気になったが、まあ、トラの実家なら問題ないだろう。

 「その格好でいいのか?」

 俺が着ていた麻のサマースーツ見て虎白さんが言った。 
 茶も出ないか。

 「もうやるのか」
 「そのために来たんだろう」
 「分かった、着替える」

 俺は家の中で着替えた。
 タイガーストライプのコンバットスーツだ。

 「おし! じゃあ行くか!」

 虎白さんが走り出した。
 もう結構な年齢のはずだが、見た目も走り方もまったく衰えは無い。
 トラが「Ω」の粉末を飲ませたと聞いている。
 そのせいだろう。

 虎白さんは裏の山を駆け上り、山頂近くの広場まで案内した。
 そこでは30人近くの人間が剣で遣り合っていた。
 何人かは独りで「型」らしいことをやっている。

 「全員! 高虎が寄越した聖だ! 今日からしばらく一緒にやっぞ!」

 それぞれに手を上げたり「おう」と言ったりした。
 俺も軽く頭を下げただけだ。

 「とにかく、今の実力だ。おい、虎枝(とらえ)! 相手をしろ!」
 「押忍!」

 若い奴が俺に鞘から抜いた日本刀を持ってきた。
 真剣でやるのか。
 俺は虎枝と向き合った。
 「はじめ」の合図も無い。
 もう始まっているのだ。
 事前に注意も無いし、どうやれということも無い。
 俺は上段から斬り掛かった。
 虎枝が身を捻ってかわし、俺に向けて横に薙いで来た。
 俺もバックステップで避ける。
 「本気」なのが分かった。
 しばらく互いに攻撃し、防御していった。
 段々、身体が温まって来た。
 本気でやって構わないことが分かった。
 虎枝と遣り合っていると、周りが騒ぎ始めた。

 「おい!」
 「あいつ、虎相だぞ!」
 「すげぇ火柱だ!」
 「なんだよ、あいつは!」

 みんなが驚いている。
 何のことか分からない。
 俺はさっきちょっと見た他の男たちの真似をした。

 「「未仏」じゃねぇか!」
 
 俺は剣の技を知らない。
 だから見たものをそのままやってみた。
 なぞってみると、そこからまた派生する動きが分かって来た。
 俺の相手の虎枝の顔が変わった。
 俺は剣を上に持ち上げ、ブレるような動きで振り下ろす。

 「虎枝! 避けろ!」

 誰かが叫び、同時に俺の前に何かが突っ込んで来た。
 虎白さんが俺が振り下ろした剣を弾き飛ばした。

 「やべぇな! お前どこで今の剣を知った!」
 「いや、さっき見たから」
 「!」
 「俺、今日が初めてだよ?」
 「なんだと! 高虎に手ほどきを受けたんじゃないのか?」
 「いや、全然。まあ、トラの剣技は多少見てるけどさ」
 「虎相はどうしたんだよ!」
 「コソウ?」
 「そうだよ! お前、まさか気付いてないのか?」
 「なんだよ?」

 虎白さんが目を丸くして俺を見ていた。
 
 「お前、嘘は言って無いな」
 「ああ」
 「そうか。まあ、ちょっと休憩だ。あー、やっぱ高虎が送って来た奴だったぜ。まったくとんでもねぇ」
 
 冷えた麦茶が持って来られた。
 1リットルの容器のまま俺にも渡された。

 「お前、見ただけで奥義を覚えたのかよ?」
 「あ? ああ」
 「すげぇな! おい、虎白! 「虎地獄」やっか?」
 「待て。おい、高虎からスゲェ薬を貰って来てるか?」

 「Ω」の粉末などのことだろう。
 傷をたちどころに治してしまうものだ。

 「ああ、あるよ」
 「うーん」

 「虎地獄」は、トラから聞いてる。
 奥義を学ぶ際に、何度も斬られるそうだ。
 だから「Ω」の粉末が必要なのだろう。
 トラは、俺がそれを学べると見込んでくれているのだ。

 「ちょっと誰か、真白(ましろ)のババァを呼んで来い」
 「お! やるのか!」
 「聖、お前いつまでいれんだっけか?」
 「一月は時間を取ってる」
 「そんなにか! じゃあ、やってみっか!」
 「ああ」

 ほどなくして、年老いた女性が担がれて来た。

 「虎白! なんだよ急に!」
 「真白、悪いな。この高虎が寄越した聖がよ、相当出来るみてぇでな」
 「ほう!」

 長い白髪の髪の女が俺をジッと見詰めた。

 「確かに! こりゃ相当だね!」
 「な! 高虎に劣らねぇぞ!」
 「そうだね。じゃあ、思い切りやっていいのか?」
 「頼むわ」

 戸板が持って来られ、俺はそこに横になるように言われた。
 真白という老婆は鞄から沢山の鍼の刺さった布を拡げた。

 「じゃあ、やるよ!」

 俺の服を脱がせること無く、コンバットスーツの上から次々に鍼を刺して行く。
 深部に響くような感じがある。
 
 「おい!」

 数十本を刺されると、全身のあちこちに激痛が走った。

 「おお! 凄い「虎相」じゃないか!」
 「ババァ! 痛ぇ!」
 「ハッ! 我慢おしよ!」
 「痛ぇよ!」

 真白は俺の言葉を無視して、更に鍼を刺して行く。
 俺はそのうち意識が真っ赤に染まっていくのを感じた。
 もう言葉も出ない。

 「聖! 立て!」

 虎白の声が聞こえた。
 俺は激痛を感じながら立ち上がった。

 「よし! やっぞ!」
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