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グアテマラ強襲作戦 Ⅲ

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 俺たちは8階へ上がる階段下まで来た。
 感じる。

 双子はデータを抜き出したHDDをリュックに入れた。
 俺は特殊な通信装置を取り出すように言った。
 「皇紀通信システム」と呼んでいるが、通常の電波ではなく別な波動を使用する通信システムだ。
 今はアラスカ、そして作戦指揮官のターナー少将そして聖につなげることが出来る。
 まだコンピューターのデータ搬送には使えないので、まだ抜き出したデータはアラスカへは送れていない。
 音声のみの遣り取りだけだ。

 「聖、そっちはどうだ?」
 「大体片付いた。アキたちもそろそろ終わる」
 「じゃあそっちは任せていい。ちょっとこっちに来てくれないか?」
 「何かヤバそうか?」
 「ああ、今7階にいる。これから8階に向かうが、どうにも嫌な予感がするんだ」
 「じゃあ、すぐに行くな」
 「頼む。建物の中央にエレベーターと階段がある」
 「オッケー!」

 双子に聖が来ることを伝えた。
 なぜなのかとは問われなかった。
 二人は俺が感じているものを、何らかの方法で分かっているのだろう。
 この上ではヤバいことになる。
 先ほどの柱の化け物以上の奴だ。
 この基地が敵に襲撃され、壊滅的な損害を被った場合に出てくる最後の強者。
 ゲームで言うラスボスというものだ。
 この基地は俺たちを誘い込む罠ではない。
 何としても維持し発展させたかった拠点だったのだろう。
 だから、それが潰されそうになった場合に登場するようになっている。
 決戦兵器的な桁外れの奴だろう。
 
 俺や聖が最初から感じていなかったのは、そういうことだったのだと思う。
 最後に登場する仕組みだったのだ。
 敵は、まさか複数の柱の門番を突破する者がいるとは思っていなかった。
 しかし、俺たちは突破し、基地を壊滅させようとしている。

 聖がやって来た。
 油断なく周囲を警戒している。
 聖にも分かるのだ。

 「トラ、どうだ?」
 「もうすぐ仕掛けが終わるだろうな」
 「アキも呼ぶか?」
 「いや、俺とお前だけで行く。ルーとハーも撤退させる」
 「分かった」

 だが双子が嫌がった。

 「タカさん! 私たちも行くよ!」
 「駄目だ。お前たちは危険だ。相当な奴が出て来る」
 「それってどんな!」
 「虎白さんが言っていた。「地獄から来る奴がいる」のだと」
 「「!」」
 
 双子も知っている。
 一度だけ、北アフリカの戦線で最後に出てきたとんでもない化け物がいた。
 俺が滅したが、あれは俺との相性が俺に有利だったからだ。
 だが、地獄から来る奴が、常にそうとは思えない。
 だから聖を呼んだ。
 こいつと俺ならば、どんな敵とも戦える。

 双子が頑強に同行を言い張った。

 「タカさん、私たちも行くよ」
 「おい!」
 「亜紀ちゃんも皇紀ちゃんも呼ぶ。みんなで一緒に行こう」
 「駄目だ! お前たちは外にいろ」
 「だって! タカさんにもしものことがあったら、私たちは特攻するよ!」
 「そうだよ! 私たちがタカさんの仇を討たないわけないじゃん!」

 「!」

 「大丈夫。ちゃんと離れて見ているから。でも、タカさんに万一の時は、みんなで突っ込むからね」
 「……」

 聖が笑っていた。

 「トラ、連れてけよ。こいつら止まらねぇぜ」
 「まったくバカな連中だ」
 「ターナー少将たちはもう終わってると思う。先に撤退してもらうよ」
 「分かったよ」

 ハーが「皇紀通信」でターナー少将と話した。
 俺たちは最後の敵と戦うので、先に帰投するように話している。

 「もしかすると、グアテマラ全土が無くなるかもだから」
 
 ハーの言葉で、ターナー少将には分かっただろう。
 ターナー少将はデュールゲリエを10体送って来た。
 俺は必要ないと言ったのだが、何かの役に立つかもしれないと「スズメバチ」100体と共にやって来た。




 俺たちは亜紀ちゃんたちの到着を待って、8階へ向かった。
 俺が先頭に立ち、階段を上がって行く。
 俺と聖は通常だが、子どもたちが緊張しているのが分かる。
 狭い空間で、どのような敵が登場するのかが分からない。
 逃げ場はほとんどない。
 あの柱の化け物のタイプであれば、熱線を回避できない。
 しかし、俺の予感が別なタイプだと感じていた。

 8階はほとんど遮蔽物のない広い空間だった。
 窓が無く、ダウンライトが広大な空間をぼんやりと照らしていた。
 但し、壁は無いが太い柱が点在していた。
 屋上の分厚い構造を支えているのだろう。
 他のフロアのように、天井をぶち抜くのは至難の業だろう。
 ここにも「花岡」をレジストする処理があるに違いない。
 だから亜紀ちゃんも上空からの「最後の涙」の連射でほとんど通じなかったのだ。

 俺は「虎王」を二本抜いていた。
 聖も「レーヴァテイン」を既に起動している。
 聖は予備にもう二本持っている。

 フロアの東側に、何か他とは別な空間が見えた。
 そこだけ色の違う明かりが灯っている。
 俺は合図してそちらへ進む。
 子どもたちは20メートル以上離れて来るように言った。

 「亜紀ちゃん、合図したらとにかく天井をぶち抜け」
 「はい!」
 「何度でもやれ。諦めるな。もしかしたら俺たちの生死を分ける」
 「分かりました!」
 「皇紀と柳はそのシールドでとにかく全員を守れ。俺と聖は必要ない」
 「「はい!」」
 「ルーとハーはそれ以外のことを探れ。敵のこと以外にも、このフロアの構造や、とにかくすべてだ」
 「「はい!」」

 俺と聖が先行して進む。
 見えてきた。
 床に直径5メートルほどの紋様が描かれている。

 「トラ、あれはなんだ?」

 聖が叫んだ。
 戦場で動ずることのない男が、異様な戦闘に戸惑っていた。
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