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グアテマラ強襲作戦

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 ブロード・ハーヴェイのコンサートも終わり、その翌日にほとんどの人間は帰った。
 残ったのは俺と子どもたち、それに響子はそのままロックハート家に残る。
 斬はそのまま、栞たちとアラスカだ。
 勝手に「飛行」で帰る。

 俺と子どもたちには、別な要件があった。
 みんなで聖の「セイントPMCに行く。

 「トラ! じゃあ、いよいよだな」
 「ああ、よろしく頼むぜ!」
 「お前と一緒に戦場に出るのは久しぶりだ」
 「そうだな!」

 聖が楽しそうだ。
 俺たちはこれから、中米のグアテマラに行く。
 クチュマタネス山脈の中に、「業」のものと思しき秘密施設の情報を掴んだためだ。
 元々が米資本による鉱山開発のための事業だった。
 グアテマラは鉄鉱石などの資源があるが、自国では技術的、予算的に開発出来ないでいた。
 しかしその資本は「反「虎」同盟」によるものであり、彼らは密かに「業」と繋がっていた。
 北アフリカで発覚した「反「虎」同盟」の存在は、直ちにアメリカのFBIやCIA、その他の軍事諜報機関によって探られ、その実態が一部明らかになっていった。
 直接捉えたゴールドマン将軍の自白(タマによる精神操作の結果)によって、全貌ではないが、結構重要な情報を得ることが出来た。
 出発前に、聖が集めてくれた資料を全員で検討する。 

 「トラ、鉱山の資料は揃っているぜ」
 「ああ、助かる。大分でかいな」
 「50平方キロある。山を結構改造してやがんな」
 「これだけ大規模な工事は、あの国じゃ無理だろう」
 「そうだ。多分ライカンスロープや妖魔を使ってんだろうな」

 俺たちのように、まともに金や人間を集めてのことではない。
 作業員として自由に操れるライカンスロープなどを投入しているのだろう。
 まあ、俺たちも資源や資材をクロピョンにやらせているが。
 規模として比較すれば、俺たちの方が余程大規模だ。

 聖がテーブルに図面を拡げた。
 スージーが図面の端にペーパーウェイトを置いて行く。

 「東西に走る山脈の麓から中腹に広大な敷地を拡げた。建物は最大のもので10万平米の8階建てのものだ。鉱山の施設じゃねぇな」

 聖の説明を子どもたちが真剣に聞いている。

 「恐らく、羽入たちがブラジリアで発見したものと同じ施設だと思われる」
 「聖、ライカンスロープの開発基地だと思うか?」
 「そうだと思う。それ以外に、あんなでかい建物を建てる理由が思いつかねぇ」
 「なるほどな」

 事前に俺は説明を受けている。
 この場で全員の頭に叩き込むための会話だ。
 軍事作戦のブリーフィングではよくやる形だ。

 「羽入たちが見た「柱」の怪物もいるかもしれんし、それ以上の奴がいる可能性もある」
 「ジェヴォーダンが最強というわけではないな」
 「そうだ。多分、他の強力な化け物をいろいろ用意してんだろうよ」

 聖が幾つかの航空写真を出して来た。
 偵察機から撮影した戦闘の写真や、どこかの軍事基地のようなものだ。

 「それに、あの辺一帯は政府軍と反政府軍と麻薬カルテルが三つ巴で争っている。グアテマラの火薬庫ってとこだな」
 「どこが強いんだ?」
 「どこも「そこそこ」って感じだよ。決着を付けられる程の戦力はねぇ」
 「「業」と繋がっているのは?」
 「そいつは分からねぇが、三つともっていうのもありうると思うぜ」
 
 スージーーが前に出た。

 「私の調査では、セイントが言った通りです。恐らく、「業」とのパイプを独占しようと、三者が争っているものと思われます」
 「とんでもねぇな」
 
 俺たちの作戦の目的が明確になった。

 「それじゃ、俺たちはこの「業」の研究開発施設と、周辺の三バカを全滅させる。スージー、作戦立案を頼む」
 「はい! 投入する戦力は、中隊規模200名です。国家への強襲作戦になりますので、それ以上の戦力は本格的な国家との戦争に繋がりかねません」
 「別にいいけどな」
 
 みんなが笑う。

 「周辺の正規軍、反政府軍、麻薬カルテルのギャングは、セイントPMCの人員で対応します」

 スージーが中隊の武装を説明する。
 全員が「カサンドラ」を持つが、基本的には各自がXM250とサイドアームにグロック17,それにクックリナイフ。
 支援武装にバレットM82対戦車ライフルに、スティンガー携行ミサイル、M134重機関銃を各10セット。
 弾薬を背負うと結構な重装備だが、全員「花岡」を習得しているので何のことはない。
 移動は徒歩だ。
 時速200キロで山野を走破するので、何の問題もない。
 

 「デュールゲリエも貸すぞ」
 「はい、お願いします。デュールゲリエの支援があれば、強力なライカンスロープや妖魔が出て来ても対応できるでしょう」
 「お前らも頑張れよ」

 また笑いが起きた。

 「巨大施設へは、トラ、セイント、そしてお子さんたちだけで対応をお願いします。私も同行します」
 「スージーは全体の指揮を執った方がいいんじゃないか?」
 「それはアラスカから来るターナー少将にお願いします。我々は誰が上になっても指揮系統に問題はありません」
 「へぇー」

 聖が認めた人間に全面的に従うという訓練が行き届いているのだろう。
 これは普通の軍隊には稀有なことだが、傭兵組織は上官が死ぬことは十分にありうることだからだ。
 その場合、残った人間が危地を脱するには、即座に新たな命令系統を構築し、従う他ない。
 正規軍のように、上下関係が明確にはなっていないからだ。

 「許容破壊範囲は?」
 「他所の国ですから、存分に」
 「捕虜の必要は無いな?」
 「まったくもって迷惑です」
 「じゃあ、ぶっ殺しまくりか!」
 「はい! その通りでお願いします」

 全員が笑った。

 現地への移動は「タイガーファング」だ。
 輸送用のものが既にあり、シベリアからの避難民輸送で大活躍した。
 直接現場に降下し、文字通りの強襲作戦を展開する。
 今回行く聖の「セイントPMC」の兵士たちは、全員が「花岡」を習得している。
 だから通常の戦闘は楽勝で終わるだろう。
 山岳地帯なので戦車の機甲師団は無いだろうし、戦闘ヘリは多少あっても、デュールゲリエがいれば問題ない。
 航空支援も同様だ。
 「スズメバチ」は、現代の航空戦では桁違いの性能を示す。
 細かな質疑応答も終え、俺たちは出発の準備をした。
 全員「Ωコンバットスーツ」を着こみ、更に皇紀と柳が「Ωシールド」という、「Ω」の粉末を混ぜた特殊合金の大楯を持たせた。
 羽入たちが遭遇した「柱」タイプの熱線を防ぐためだ。
 紅が「スズメバチ」で防御した際に、破壊検証を同時に記録していた。
 そこから、熱線に耐え得るシールドを製作した。
 高さ3メートル、横幅2メートルだ。
 一枚で俺たち全員が隠れられるサイズにした。
 それを念のために二人に持たせる。
 総重量200キロあるが、二人ならば問題ない。

 「タイガーファング」4機が到着し、ターナー少将に挨拶した。
 作戦の全体は既にスージーが送っている。
 ターナー少将と中隊の指揮官たちを集めて、もう一度ブリーフィングする。
 事前に集めた敵の所有する兵器や武装、兵士の練度などの情報も説明していく。
 ターナー少将に、最後に挨拶させ、準備は整った。
 
 「まあ、自由にやってくれよ」
 「タイガー、お前たちへの支援は必要無いのか?」
 「多分、とんでもないライカンスロープがいる。俺たち以外は損耗するばかりだろうな」
 「そうか、分かった。必要があれば連絡してくれ」
 「分かった」

 俺たちは「タイガーファング」に乗り、出撃した。





 5分後、スクリーンに作戦行動地域の景色が映った。
 4機の「タイガーファング」の全員に通信する。
 もう各自がやるべきことは分かっているはずだ。

 「作戦開始!」

 「タイガーファング」が降下し、それぞれの部隊が飛び出していく。
 3機が殲滅目標の敷地にそのまま降りて強襲を開始した。

 「俺たちも行くぞ」

 俺たちは目標の巨大な建築物から500メートル離れた場所に降りた。
 「タイガーファング」はそれぞれすぐに上昇し、帰投して行く。
 アラスカで予備の兵力と共に待機する予定だ。
 もう建物に警報が鳴り始めている。

 「聖、こりゃスゲェな」
 「ああ、ブラジリア以上だ。やっぱいるな」
 「しかも一匹じゃねぇ」
 「そうだな」

 俺と聖は既にプレッシャーを感じていた。
 ジェヴォーダン以上の奴らがいる。

 「亜紀ちゃん、上空から「最後の涙」を連射しろ」
 「はい!」

 亜紀ちゃんがすぐに飛んで、「最後の涙」を撃ち始めた。
 建物が一部削れていくが、亜紀ちゃんの攻撃の通常の破壊ではない。
 「最後の涙」を喰らえば、一発で建物ごと爆散しているはずだ。
 亜紀ちゃんも気付いているだろう。

 「レジストする何かがあるようだな」




 本格的な戦闘が始まった。
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