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ブロード・ハーヴェイのコンサート Ⅵ
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コンサートの後、俺と橘弥生の関連者とブロード・ハーヴェイの役者やスタッフたちはパーティの予定だった。
でかいクラブハウスを借り切ってのものだ。
大量の料理が別のレストランから運ばれているはずだ。
多くの人間が自由に交流できるように、着席ビュッフェのスタイルになっている。
オリヴィア先生も当然来ていただく。
大型バスが用意されており、全員が移動する。
来賓の挨拶と共に俺も挨拶し、俺の乾杯の音頭で始まった。
「オリヴィア先生にいらして頂けるなんて!」
俺はオリヴィア先生の手を取って、一緒のテーブルに座った。
橘弥生と徳川先生も一緒だ。
静江さんも誘って座って頂いた。
「レイとタイガーの舞台ですもの。どうしたって来るわ」
「そうですか!」
サンドラと緑子も来た。
「トラ! 私の演技はどうだった?」
「ああ、最高だ! 流石は大女優だな。圧巻だったぜ」
「本当に!」
サンドラが嬉しそうに笑った。
「最初に言った通りだったな。最高の舞台にしてくれた」
「ありがとう! トラとミディ(緑子)のお陰よ!」
「そんなことは。サンドラの努力の賜物だよ」
「嬉しい!」
俺に抱き着いてキスをして来る。
「おい!」
「いいじゃない!」
「良くねぇ! 俺にはいろいろ恋人が多いんだ」
「緑子も?」
「あ、こいつはただの友達」
緑子が面白くなさそうな顔をする。
しょうがねぇだろう。
「今日は俺の子どもたちも来てるんだぞ」
「え、どこ?」
俺は亜紀ちゃんを呼んで、士王と吹雪と天狼を連れて来るように言った。
栞たちがそれぞれ子どもを抱いて来る。
「本当にたくさんの女性と関係しているのね!」
「なんだよ!」
「じゃあ、私もね!」
「おい!」
みんなが笑った。
「私も結婚しなくても構わないわ」
「そういう問題じゃねぇ!」
六花が「虎曜日」の説明を始めやがる。
それをまた静江さんが通訳する。
サンドラが大爆笑し、是非自分も入ると言った。
オリヴィア先生も大笑いしていた。
「タイガーは昔からそうよね?」
「先生!」
俺の高校時代の乱れた男女関係を話された。
「ホナミが一番だったよね?」
「あー」
「ホナミとは?」
俺は正直に高校を卒業してからのことを話した。
「今も探してはいるんですけどね」
「そうなの。残念だわ」
「はい」
俺は他の人間とも挨拶しなければならず、席を立った。
聖が物凄く感動していて笑った。
「トラ! 最高の芝居だったよ!」
「お前他に知らないだろう!」
「うん!」
アンジーが笑いながら、それでも最高だったと言った。
蓮花が俺の顔を見るなり大泣きして困った。
タケたちの所へ行くと、竹流がすぐに寄って来た。
「神様! また最高のコンサートでした!」
「そうか!」
「はい! 僕なんかを呼んでくれてありがとうございます!」
「お前はたった一人の弟子だからな!」
「はい!」
竹流は、俺のどの演奏が良かったと興奮気味に語ってくれる。
「あのクライマックスでの燃える音楽! あれが最高でしたよ!」
「お前は一番分かってくれるなー!」
「はい!」
頭を撫でて、一杯喰えと言った。
院長は早乙女たちと楽しそうに話していた。
「よう! 楽しんでるか?」
「ああ、石神! いい芝居と最高のコンサートだったよ!」
「そうかよ。今日はお前の曲を弾けなくて悪かったな」
「そんなの! あのオリヴィア先生と再会出来て良かったな!」
「ああ、俺も驚いた」
「石神、お前の高校時代の先生だったんだって?」
「ええ、とてもお世話になって。うちは貧乏だったんで、よく詩集とかお借りしてたんです」
「そうだったか。お前は詩が好きだものなぁ」
「オリヴィア先生のお陰ですよ。いろいろ教えて頂きました」
「そうか」
最後に、ジョン・C・ウェラー氏に挨拶に行った。
もう車いすで、右腕しか動かない状態。
それでも俺のために来てくれた。
橘弥生と静江さんと一緒に行く。
「ウェラーさん、俺はやりましたよ」
「うん。日本でのサントリーホールのコンサートも、ミス・タチバナから音源をもらった。最高のコンサートだった」
「あなたに頂いたイグナチオ・フレタのお陰ですよ」
「ああ、あの子が歓喜していたね。やはり君の所へ行きたかったんだな」
「そう言って頂けると光栄です」
ウェラー氏が微笑んで俺に手を伸ばした。
俺はその手を両手で握りしめた。
「君の手は温かい。気持ちがいい」
「そうですか」
「僕の一生には確かな意味があった」
「あなたは最高の音楽家です」
「いや、君にイグナチオ・フレタを渡すことが出来たんだ。これでもう思い残すことはない」
「あなたの音楽に、俺は感動しました。だからあなたの望み通りに、今日演奏をしました」
「そうか」
「あなたがいたからです」
「石神さん……」
付き添いの人間が、車いすに設置された機械を観ていた。
「ミスター・ウェラー。そろそろお時間です」
「そうか。石神さん、これからも頑張って下さい」
「はい、あなたがそうおっしゃるのなら」
ウェラー氏が嬉しそうに笑い、会場を去って行った。
恐らく、今生でお会いする最後の機会になっただろう。
偉大な音楽家を俺は見送った。
オリヴィア先生が隅に立っていた。
俺が見つけると手招きされた。
「まるで昔、こっそり会ってた時みたいですね!」
「そうね!」
二人で笑い、俺は端のテーブルに座って頂いた。
飲み物を持って行く。
「タイガー、実はね、あなたに会うのをずっと躊躇っていたの」
「どうしてですか?」
俺ももっと早くに会えるのではないかと思っていた。
あの日、レイの話の中で、偶然にオリヴィア先生が共通の知り合いだと分かった時。
その場でオリヴィア先生と電話で話し、お互いに会いたいと言った。
「私ね、レイに嫉妬していたの」
「え?」
「私はあなたを簡単に捨てて逃げてしまった」
「オリヴィア先生……」
オリヴィア先生は悲しそうな顔で俺を見ていた。
その瞳は悲しみに満ち、俺も直視は出来なかった。
「あなたはまだ子どもだったし、私と一生を共に出来る相手とは考えなかった。だからあなたと離れてしまった」
「それはそうですよ。俺は全然ガキでしたから。しかも無茶苦茶な」
オリヴィア先生はちょっと微笑み、また悲しそうな顔をした。
「ステーツに戻って、他の男性と付き合ったわ。結婚してもいいと思った人もいた」
「そうですか」
「でもね、気付いてしまった。私はタイガーだけしか考えられなかった」
「……」
「いつもあなたの瞳を思い出していた。綺麗な漆黒の宝石みたいな瞳。タイガーのその瞳が忘れられなかった」
「オリヴィア先生……」
俺の手を握って言った。
「レイから電話をされて、タイガーが目の前にいると言われて驚いたわ」
「ええ、俺もですよ」
「その瞬間、レイがあなたのことを愛していることが分かった」
「はい」
「私が戻れない場所に、レイがいると知って、どうしようもなかった。自分が悪いのにね」
「そんなことは。あの時はああするしか無かったんですよ」
オリヴィア先生の俺の手を握る力が強まった。
「あの日に帰りたかった! どうしようもなく、それしか考えられなかった!」
「……」
ふいに、握る力が弱まった。
「でも、レイが死んでしまった」
「はい」
「誰も話してはくれなかったけど、タイガー、あなたのためにレイは死んだのでしょう?」
「そうです。俺と敵対する組織にレイが拉致された。救出に向かいましたが、その中でレイは俺を護るために死んだ」
俺は一体どんな顔をしていたのだろう。
オリヴィア先生が俺を見詰めながら泣いていた。
「タイガーもレイを愛していたのね」
「はい。最高の女性でした。日本に帰ってきたら、俺たちは本当の恋人になるはずでした」
「そう。残念だったわね」
「はい」
俺が話したことで、賢明なオリヴィア先生には何事かが分かったに違いない。
だから俺も告白した。
「オリヴィア先生、俺が「虎」の軍を率いています」
「やっぱりそうだったのね。ロックハート家でのあなたの扱いや、皇紀君が名代で来たことで、何となく思ってた。タイガーは想像もつかない重要な人物になっているのだと」
「俺は昔のままですよ。どうしようもなく喧嘩ばかりで」
「さっき紹介してくれた女性たちは、みんな仲間なのね」
「はい。巻き込んでしまった連中です。だからみんな大事なんです。ここにいる多くの人間たちがそうですよ。ロックハート家も日本から連れて来た連中も」
「タイガーは変わらないのね」
「はい」
やっとオリヴィア先生が微笑んだ。
「私にも手伝わせて」
「え?」
「戦うのは無理だけど、何でもいいからやらせて」
「でも……」
また俺の手を強く握った。
「今度は逃げたくないの。それを言いたくて来たの」
「オリヴィア先生……」
「タイガー、お願い。もう恋人になるつもりはないわ。でも、あなたの力になりたい」
俺はしばし考えた。
オリヴィア先生も、俺の関係者だ。
そして今も敬愛して已まない人だ。
「アラスカで、日本語を学びたいという人間が大勢いるんです」
「ほんとに!」
「アラスカは「虎」の軍の最高司令部があるんです。今基地と隣接して、巨大な都市が出来ています。主な言語は英語なんですが、日本人も多く、外国人は日本語の習得を望む人間も多いんですよ」
「それなら、私に手伝わせて!」
「今の仕事はどうします?」
「辞めるわ」
「もしもいい会社であれば、その会社ごと移転してもらっても。もしくはアラスカに支部を作って頂いてもいいんですけど」
「ほんとに! 早速話してみる!」
「お願いします。俺も時々顔を出しますし」
「タイガー!」
「「虎曜日」の人ですからね」
オリヴィア先生が俺に抱き着いて来た。
「先生は今も綺麗だ」
「タイガー……」
「また連絡を下さい」
「うん、必ず!」
俺は皇紀を呼んだ。
皇紀が嬉しそうにオリヴィア先生と再会できて嬉しがった。
「タカさん、あの時、オリヴィア先生にいろいろタカさんのお話を聞いたんですよ」
「そうかよ」
「タカさんが無茶苦茶過ぎて時々困ったって」
「なんだと!」
「授業中にパンツを脱いでるんで、最初はただの変質者かと思ったそうですよ」
「お前もやれよ!」
「僕はもう学校に行ってませんよ!」
「それだけやりに行け!」
「無理ですってぇー!」
オリヴィア先生が大笑いしていた。
オリヴィア先生がアラスカで日本語を教えてくれるのだと皇紀に話した。
「ほんとですか!」
「ええ、今タイガーと話していたの」
「僕も絶対に会いに行きますからね!」
「ええ、是非来てね」
「じゃあ、そこでパンツを脱げよ」
「絶対に辞めてね!」
三人で笑った。
先の楽しみが出来た。
アラスカでなら、オリヴィア先生を護れる。
本当にいい夜になった。
でかいクラブハウスを借り切ってのものだ。
大量の料理が別のレストランから運ばれているはずだ。
多くの人間が自由に交流できるように、着席ビュッフェのスタイルになっている。
オリヴィア先生も当然来ていただく。
大型バスが用意されており、全員が移動する。
来賓の挨拶と共に俺も挨拶し、俺の乾杯の音頭で始まった。
「オリヴィア先生にいらして頂けるなんて!」
俺はオリヴィア先生の手を取って、一緒のテーブルに座った。
橘弥生と徳川先生も一緒だ。
静江さんも誘って座って頂いた。
「レイとタイガーの舞台ですもの。どうしたって来るわ」
「そうですか!」
サンドラと緑子も来た。
「トラ! 私の演技はどうだった?」
「ああ、最高だ! 流石は大女優だな。圧巻だったぜ」
「本当に!」
サンドラが嬉しそうに笑った。
「最初に言った通りだったな。最高の舞台にしてくれた」
「ありがとう! トラとミディ(緑子)のお陰よ!」
「そんなことは。サンドラの努力の賜物だよ」
「嬉しい!」
俺に抱き着いてキスをして来る。
「おい!」
「いいじゃない!」
「良くねぇ! 俺にはいろいろ恋人が多いんだ」
「緑子も?」
「あ、こいつはただの友達」
緑子が面白くなさそうな顔をする。
しょうがねぇだろう。
「今日は俺の子どもたちも来てるんだぞ」
「え、どこ?」
俺は亜紀ちゃんを呼んで、士王と吹雪と天狼を連れて来るように言った。
栞たちがそれぞれ子どもを抱いて来る。
「本当にたくさんの女性と関係しているのね!」
「なんだよ!」
「じゃあ、私もね!」
「おい!」
みんなが笑った。
「私も結婚しなくても構わないわ」
「そういう問題じゃねぇ!」
六花が「虎曜日」の説明を始めやがる。
それをまた静江さんが通訳する。
サンドラが大爆笑し、是非自分も入ると言った。
オリヴィア先生も大笑いしていた。
「タイガーは昔からそうよね?」
「先生!」
俺の高校時代の乱れた男女関係を話された。
「ホナミが一番だったよね?」
「あー」
「ホナミとは?」
俺は正直に高校を卒業してからのことを話した。
「今も探してはいるんですけどね」
「そうなの。残念だわ」
「はい」
俺は他の人間とも挨拶しなければならず、席を立った。
聖が物凄く感動していて笑った。
「トラ! 最高の芝居だったよ!」
「お前他に知らないだろう!」
「うん!」
アンジーが笑いながら、それでも最高だったと言った。
蓮花が俺の顔を見るなり大泣きして困った。
タケたちの所へ行くと、竹流がすぐに寄って来た。
「神様! また最高のコンサートでした!」
「そうか!」
「はい! 僕なんかを呼んでくれてありがとうございます!」
「お前はたった一人の弟子だからな!」
「はい!」
竹流は、俺のどの演奏が良かったと興奮気味に語ってくれる。
「あのクライマックスでの燃える音楽! あれが最高でしたよ!」
「お前は一番分かってくれるなー!」
「はい!」
頭を撫でて、一杯喰えと言った。
院長は早乙女たちと楽しそうに話していた。
「よう! 楽しんでるか?」
「ああ、石神! いい芝居と最高のコンサートだったよ!」
「そうかよ。今日はお前の曲を弾けなくて悪かったな」
「そんなの! あのオリヴィア先生と再会出来て良かったな!」
「ああ、俺も驚いた」
「石神、お前の高校時代の先生だったんだって?」
「ええ、とてもお世話になって。うちは貧乏だったんで、よく詩集とかお借りしてたんです」
「そうだったか。お前は詩が好きだものなぁ」
「オリヴィア先生のお陰ですよ。いろいろ教えて頂きました」
「そうか」
最後に、ジョン・C・ウェラー氏に挨拶に行った。
もう車いすで、右腕しか動かない状態。
それでも俺のために来てくれた。
橘弥生と静江さんと一緒に行く。
「ウェラーさん、俺はやりましたよ」
「うん。日本でのサントリーホールのコンサートも、ミス・タチバナから音源をもらった。最高のコンサートだった」
「あなたに頂いたイグナチオ・フレタのお陰ですよ」
「ああ、あの子が歓喜していたね。やはり君の所へ行きたかったんだな」
「そう言って頂けると光栄です」
ウェラー氏が微笑んで俺に手を伸ばした。
俺はその手を両手で握りしめた。
「君の手は温かい。気持ちがいい」
「そうですか」
「僕の一生には確かな意味があった」
「あなたは最高の音楽家です」
「いや、君にイグナチオ・フレタを渡すことが出来たんだ。これでもう思い残すことはない」
「あなたの音楽に、俺は感動しました。だからあなたの望み通りに、今日演奏をしました」
「そうか」
「あなたがいたからです」
「石神さん……」
付き添いの人間が、車いすに設置された機械を観ていた。
「ミスター・ウェラー。そろそろお時間です」
「そうか。石神さん、これからも頑張って下さい」
「はい、あなたがそうおっしゃるのなら」
ウェラー氏が嬉しそうに笑い、会場を去って行った。
恐らく、今生でお会いする最後の機会になっただろう。
偉大な音楽家を俺は見送った。
オリヴィア先生が隅に立っていた。
俺が見つけると手招きされた。
「まるで昔、こっそり会ってた時みたいですね!」
「そうね!」
二人で笑い、俺は端のテーブルに座って頂いた。
飲み物を持って行く。
「タイガー、実はね、あなたに会うのをずっと躊躇っていたの」
「どうしてですか?」
俺ももっと早くに会えるのではないかと思っていた。
あの日、レイの話の中で、偶然にオリヴィア先生が共通の知り合いだと分かった時。
その場でオリヴィア先生と電話で話し、お互いに会いたいと言った。
「私ね、レイに嫉妬していたの」
「え?」
「私はあなたを簡単に捨てて逃げてしまった」
「オリヴィア先生……」
オリヴィア先生は悲しそうな顔で俺を見ていた。
その瞳は悲しみに満ち、俺も直視は出来なかった。
「あなたはまだ子どもだったし、私と一生を共に出来る相手とは考えなかった。だからあなたと離れてしまった」
「それはそうですよ。俺は全然ガキでしたから。しかも無茶苦茶な」
オリヴィア先生はちょっと微笑み、また悲しそうな顔をした。
「ステーツに戻って、他の男性と付き合ったわ。結婚してもいいと思った人もいた」
「そうですか」
「でもね、気付いてしまった。私はタイガーだけしか考えられなかった」
「……」
「いつもあなたの瞳を思い出していた。綺麗な漆黒の宝石みたいな瞳。タイガーのその瞳が忘れられなかった」
「オリヴィア先生……」
俺の手を握って言った。
「レイから電話をされて、タイガーが目の前にいると言われて驚いたわ」
「ええ、俺もですよ」
「その瞬間、レイがあなたのことを愛していることが分かった」
「はい」
「私が戻れない場所に、レイがいると知って、どうしようもなかった。自分が悪いのにね」
「そんなことは。あの時はああするしか無かったんですよ」
オリヴィア先生の俺の手を握る力が強まった。
「あの日に帰りたかった! どうしようもなく、それしか考えられなかった!」
「……」
ふいに、握る力が弱まった。
「でも、レイが死んでしまった」
「はい」
「誰も話してはくれなかったけど、タイガー、あなたのためにレイは死んだのでしょう?」
「そうです。俺と敵対する組織にレイが拉致された。救出に向かいましたが、その中でレイは俺を護るために死んだ」
俺は一体どんな顔をしていたのだろう。
オリヴィア先生が俺を見詰めながら泣いていた。
「タイガーもレイを愛していたのね」
「はい。最高の女性でした。日本に帰ってきたら、俺たちは本当の恋人になるはずでした」
「そう。残念だったわね」
「はい」
俺が話したことで、賢明なオリヴィア先生には何事かが分かったに違いない。
だから俺も告白した。
「オリヴィア先生、俺が「虎」の軍を率いています」
「やっぱりそうだったのね。ロックハート家でのあなたの扱いや、皇紀君が名代で来たことで、何となく思ってた。タイガーは想像もつかない重要な人物になっているのだと」
「俺は昔のままですよ。どうしようもなく喧嘩ばかりで」
「さっき紹介してくれた女性たちは、みんな仲間なのね」
「はい。巻き込んでしまった連中です。だからみんな大事なんです。ここにいる多くの人間たちがそうですよ。ロックハート家も日本から連れて来た連中も」
「タイガーは変わらないのね」
「はい」
やっとオリヴィア先生が微笑んだ。
「私にも手伝わせて」
「え?」
「戦うのは無理だけど、何でもいいからやらせて」
「でも……」
また俺の手を強く握った。
「今度は逃げたくないの。それを言いたくて来たの」
「オリヴィア先生……」
「タイガー、お願い。もう恋人になるつもりはないわ。でも、あなたの力になりたい」
俺はしばし考えた。
オリヴィア先生も、俺の関係者だ。
そして今も敬愛して已まない人だ。
「アラスカで、日本語を学びたいという人間が大勢いるんです」
「ほんとに!」
「アラスカは「虎」の軍の最高司令部があるんです。今基地と隣接して、巨大な都市が出来ています。主な言語は英語なんですが、日本人も多く、外国人は日本語の習得を望む人間も多いんですよ」
「それなら、私に手伝わせて!」
「今の仕事はどうします?」
「辞めるわ」
「もしもいい会社であれば、その会社ごと移転してもらっても。もしくはアラスカに支部を作って頂いてもいいんですけど」
「ほんとに! 早速話してみる!」
「お願いします。俺も時々顔を出しますし」
「タイガー!」
「「虎曜日」の人ですからね」
オリヴィア先生が俺に抱き着いて来た。
「先生は今も綺麗だ」
「タイガー……」
「また連絡を下さい」
「うん、必ず!」
俺は皇紀を呼んだ。
皇紀が嬉しそうにオリヴィア先生と再会できて嬉しがった。
「タカさん、あの時、オリヴィア先生にいろいろタカさんのお話を聞いたんですよ」
「そうかよ」
「タカさんが無茶苦茶過ぎて時々困ったって」
「なんだと!」
「授業中にパンツを脱いでるんで、最初はただの変質者かと思ったそうですよ」
「お前もやれよ!」
「僕はもう学校に行ってませんよ!」
「それだけやりに行け!」
「無理ですってぇー!」
オリヴィア先生が大笑いしていた。
オリヴィア先生がアラスカで日本語を教えてくれるのだと皇紀に話した。
「ほんとですか!」
「ええ、今タイガーと話していたの」
「僕も絶対に会いに行きますからね!」
「ええ、是非来てね」
「じゃあ、そこでパンツを脱げよ」
「絶対に辞めてね!」
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