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挿話: 真夜と真昼のNY観光

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 「真夜、ごめんねー! 今日はどうしてもタカさんと一緒に行かなきゃならないの」
 「いいですよ! 真昼と観光に行きますから」
 「おい、別に亜紀ちゃんはいらねぇぞ?」
 「タカさーん!」

 真昼と一緒に笑った。
 亜紀さんは石神さんと一緒に行きたいのだ。
 私も真昼も、亜紀さんのお陰でニューヨークなんて素敵な所に連れて来てもらった。
 それだけで十分だ。

 「「トラカード」、忘れないでね! 支払いはどこでもそれで出来るから」
 「はい」
 「あ、カードの使えるお店ならね! 屋台のお店は無理だから」
 「はい、分かりました」
 「カードは無制限だから!」
 「いえ、お金はちゃんと持ってますから」
 「うん、一応割引が効いて日本で精算だから自由に使ってね」
 「はい、ありがとうございます!」

 亜紀さんは本当に優しい。
 私たちのためにいろいろと気を遣って考えてくれている。

 「ニューヨークは危ないからね、ガードも付けてるから」
 「はい、クモコさんですよね?」
 「うん。蜘蛛子はデュールゲリエだけど、楽しいしいろいろ頼りになるから」
 「分かりました。ありがとうございます!」

 石神さんと亜紀さんたちは出掛けて行き、私たちも観光に出ようと思った。
 部屋がノックされる。
 クモコさんだろう。
 変わった名前だ。

 「どうぞ!」

 ドアを開けた。

 「「……」」

 蜘蛛だった。

 「初めまして、蜘蛛子です。今日は宜しくお願いします」
 「は、はい、こちらこそ」

 下半身は蜘蛛の身体。
 鋭い鉤爪がついた太い8本の脚で、大きな下腹部と胴体を支えている。
 そして上半身は美しい女性の身体で、胸にはキラキラした糸を巻き付けている。
 引き締まった細いお腹は剥き出しだ。
 一眼レフのカメラと大きなレンズを首に提げていた。
 以前に、石神さんたちがコスプレをした時に、蓮花さんに作られたそうだ。

 「では早速出掛けましょうか」
 「あの」
 「はい?」
 「その姿で外を歩いても大丈夫なんですか?」
 「もちろん!」
 「そうですかー」

 亜紀さんが手配したのだ。
 きっと大丈夫なのだろう。
 でも、アンドロイドだってことはすぐに分かる。
 どうなんだろー。




 門を出て、蜘蛛子さんが言った。

 「では、私の後ろにお乗りください」
 「はい?」
 「どうぞ。お二人が乗っても問題ありませんから」

 どうやら蜘蛛子さんは自分の背中の下腹部に乗るように言っているらしい。
 1メートルほどの幅と長さはある。
 確かに足の乗せ場はある。
 でも、そういう問題じゃない。

 「お姉ちゃん、乗ろう?」
 「え、うん」

 ニコニコして待っている蜘蛛子さんに「すいません」と言いながら上に乗った。

 「どうぞ私の肩に手を置いて。真昼さんは真夜さんの腰に。揺らさないように歩きますから大丈夫ですよ」
 「は、はい、お願いします」
 「「花岡」2級でしたよね?」
 「はい」
 「では参ります」

 8本の脚が高速で動き出した。

 「蜘蛛子さん!」
 「しっかりお掴まり下さい!」

 時速80キロ。
 他の自動車が私たちを見てびっくりしていた。

 「スピードを出しますよ」
 「えぇー!」

 時速220キロ。
 でも本当に揺れない。
 タイヤではなく8本の脚なのだが。
 どういう仕組みなのだろう。
 真昼を振り向くと、楽しそうに笑っていた。
 なんでー!





 最初に自由の女神像の場所に着いた。
 後ろからパトカーが追いかけて来ていた。
 私たちが停まると、数台のパトカーが囲んで銃を向けられた。

 「NYPDのみなさん! 「虎」の軍です!」

 蜘蛛子さんが叫んだ。
 警官の人たちが驚いている。
 銃口はそのままだ。

 「何か証明するものは!」

 蜘蛛子さんが「トラカード」を出すように言った。
 私がバッグから取り出して右手で上にかざした。
 警官の一人が近付いて来て、私からカードを受け取った。
 すぐに敬礼される。

 「失礼しました! 確かに確認しました! ようこそニューヨークへ!」

 他の警官も敬礼してきた。

 「あ、あの」
 「あなた方のことは、全警察官に周知いたします。何か御用がありましたら何なりと」
 「は、はい、ありがとうございます」
 「それでは!」

 パトカーが去って行った。

 「……」

 蜘蛛子さんがニコニコしていた。

 「戦闘にならずに良かったですね」
 「え!」
 「お二人をお守りするのが私の役目ですので」
 「拳銃を向けられて驚きました」
 「ああ、あんなもの。銃弾など幾らでも捌きますよ」
 「そ、そうですか」

 他の観光客たちが私たちを見ていた。
 
 「あの、次の場所に」
 「はい。でも折角ですので、ここで記念撮影をいたしましょう」
 「はぁ」

 真昼と一緒に立たされ、蜘蛛子さんが何枚も撮影していく。
 そのうちに他の観光客も近づいて来た。

 「あの、写真を撮ってもいいですか?」
 「死にてぇならな」
 「!」

 蜘蛛子さんが蜘蛛の脚の一本を地面に叩きつけた。
 アスファルトの地面が破壊され、4メートルの大穴が空く。
 観光客が逃げて行った。

 「さあ、今度はお二人で向き合って! そうです! お綺麗ですよ!」

 100枚くらい撮られた。

 「「……」」

 セント・パトリック大聖堂、ブルックリン植物園、コンサパトリーガーデン、など、蜘蛛子さんのガイドで回った。
 その度に写真を大量に撮られた。
 まあ、散策中の私たちを撮り、ポージングは最小限にしてもらった。
 ロックフェラーセンターで壁面を登ったのは参った。
 下で警備員と警察官が話しているのが見えた。
 何もお咎めは無かった。

 「そろそろお昼にしましょうか」
 「はい、そうですね」
 「エミーさんのお店でしたね?」
 「はい。先日日本で仲良くなって、ニューヨークに来たら是非寄って欲しいと」
 「かしこまりました」

 また蜘蛛子さんに乗って移動する。
 もう、みんなに見られるのも慣れた。

 「お姉ちゃん! 楽しいね!」
 「そ、そう」

 真昼は大喜びだ。
 まあ、ならばいいか。




 時々、通行人たちが手を挙げて挨拶して来る。
 私も振り返す余裕が出て来た。
 段々楽しくなってきた。
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