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挿話: 蓼科夫妻のNY見物 Ⅱ

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 昼食は、ルーちゃんたちのお勧めに任せた。
 「マレア」というシーフードイタリアンだった。
 俺も静子もこういう店は分からなかったが、注文も二人がしてくれた。
 ルーちゃんたちも一緒に座る。
 事前に話してあったか、二人が料理を食べないことも何も言われなかった。

 最初に生野菜と小エビのサラダのようなものが来た。
 さっぱりとした味付けで、静子と喜んで食べた。
 グリルした野菜と魚介類の皿が来て、少量のパスタが一緒に出て来た。
 油をほとんど使わない料理で、岩塩で味付けしているそうだ。
 これも胃に負担なく食べられた。

 「本当に美味しいな!」
 「そうですね!」
 「こんなにいいお店を、どうもありがとうね、ルーちゃん、ハーちゃん」
 「いいえ! 蓼科様方は「虎」の軍の最も重要人物の方々ですから」
 「また、そんなことを」
 
 ルーちゃんとハーちゃんが顔を見合わせて笑っていた。

 「本当でございますよ。響子様や御子様方、それに栞様たちや麗星様たち、六花様たち、蓮花様たち、他にも石神様にとって大切な方々がいらっしゃいます。でも、石神様が恩義を最も抱いて大切にされているのは、蓼科様方です」
 「あいつ……」
 「石神様を鍛え上げ、また最も苦しい時に支えて下さったことを、石神様はお忘れになっていません。今は亡きご両親と同じく大切に思われています」
 「……」

 静子がハンカチで目を押さえていた。
 俺も涙を堪えなければならなかった。

 「俺たちもなんだよ。あいつと出会って本当に楽しい思いをさせてもらった。そのことを忘れたことはない」
 「さようでございますか」

 一層ルーちゃんとハーちゃんが笑った。
 本当に嬉しそうだった。

 食事も終わり、俺が支払いに席を立とうとすると、ルーちゃんに止められた。
 ウェイターをルーちゃんが呼ぶ。

 「御席で会計をするのです」
 「そうなのか! ああ、こういう店はあまり知らなくて」
 「いいえ、どうぞ「トラカード」を御用意下さい」
 「あ、ああ」

 財布から石神から渡されたカードを取り出す。
 ニューヨークでの支払いは全てそのカードでと言われていた。
 なんでも、割引になって日本に戻ってからの精算になるそうだ。
 俺たちはパスポートも持たずに特別な配慮で入国している関係で、そういうことにして欲しいと言われた。

 ウェイターはカードを恭しくトレイに乗せて行った。
 しばらくして、またトレイにカードを乗せて戻って来た。
 今度はお店の支配人が来た。

 「御高名な蓼科文学様と奥様のお越しを光栄に思います」
 「い、いいえ!」
 「何卒、今後とも御贔屓にしていただければ幸いと存じます」
 「はい、とても美味しいお料理でした」
 「それは! 是非またお越し下さいませ」

 訳が分からないまま、写真を是非にと言われた。
 どうしようかとおも思ったが、静子との記念にとも思い承諾した。
 俺と静子と支配人が並ぶ。

 「ルーちゃん、ハーちゃん、一緒に写ろう」
 「「はい!」」

 二人が嬉しそうに笑って並んだ。
 ウェイターが一眼レフのカメラを持っていて、撮影された。
 店を出てから気付いた。

 「そうだ、カードのサインをしてないぞ」
 「必要ありません。そのカードは特別ですので」
 「そうなのか?」
 「はい!」

 そこそこの金額になったはずなのだが。
 まあ、石神がやることだから、大丈夫だろう。
 その後は、ニューヨーク現代美術館に行った。
 俺は芸術など分からないと思っていたが、ルーちゃんたちが説明しながら案内してくれ結構感動した。
 ゆっくりと移動したので、収蔵品の多くは見られなかったが、俺は満足した。
 2階のカフェに行き、ハーちゃんが俺たちにコーヒーとチーズケーキを持って来てくれる。
 4人で座って、のんびりとコーヒーを飲んだ。

 「そうだ、秘書たちに土産を買わないと」
 「それでしたら、先ほどのゴッホの絵を譲っていただきましょうか?」
 「なに!」
 「ルーの冗談ですよ」

 ハーちゃんが笑っていた。
 ジョークも言えるのか。
 地下のギフトショップへ行った。
 俺にはよく分からないので、静子に相談した。

 「あのトートバッグなどは如何ですか?」
 「ああ、いいな!」

 二人で選んでいると、ルーちゃんとハーちゃんがが自分たちも選んでいいかと聞いて来た。

 「ああ、君たちの方がいろいろいいものを選んでくれるかな」
 「「はい!」」

 二人が嬉しそうにあちこちから持って来る。
 俺たちが選んだトートバッグに次々に写真立やメモ帳などを入れて行く。

 「あら、面白いですね!」
 「そうか?」

 トートバッグが膨らんで行った。
 なるほど、これは楽しい土産かもしれない。
 俺は二人に礼を言って、また「トラカード」で支払いをした。

 「この後はどうしましょうか」
 「ああ、ホテルに戻ってくれるかな。少々疲れた」
 「かしこまりました。では、マッサージを致しましょう」
 「え!」
 「お任せ下さい。その後で少しお休み下さい。夕食前にお起こししますから」
 「そうか、じゃあお願いしようかな」
 「「はい!」」

 ホテルでシャワーを浴び、寝間着に着替えて静子と一緒にマッサージをしてもらった。
 優しく身体をほぐしてくれ、本当に気持ち良かった。
 俺たちは少し眠った。




 夕飯はホテルに泊まっているメンバーのほとんどで一緒に食べた。
 各自メニューやコースが異なっていて、俺と静子は小さめの肉のステーキがメインだった。
 俺たちに合わせてくれている。
 何も注文をしていないので、石神が全部手配してくれているのだろう。
 隣に花岡さんたち、向かいに一江や一色たちが座り、今日の観光のいろいろな話をしてくれた。

 「総長が大はしゃぎで!」
 「だって! ニューヨークはいいな!」

 一色が楽しそうに笑った。
 普通に名所めぐりをしたようだが、楽しい仲間たちと一緒で良かったのだろう。
 花岡さんと峰岸たちはヘリコプターでの観光を楽しんだらしい。
 幼い士王君は斬さんが預かっていたそうだ。

 会場は貸切で、そのままお酒をみんなで飲むらしい。
 俺と静子は出掛けると言って退出した。
 ルーちゃんとハーちゃんが入り口で待っている。

 「では参りましょうか」
 「遅い時間に済まないね」
 「いいえ! 私たちも綺麗な景色を見てみたいですから!」
 「そうか」

 前に石神に連れて行ってもらった夜景がまた観たかった。
 だからルーちゃんたちに無理を言って、車を出してもらった。

 ハドソン川から夜景を眺める。
 やはり絶景だった。

 「綺麗ですね」
 
 静子が言った。
 ハーちゃんが魔法瓶で持って来た紅茶をカップに入れてくれた。
 静子と一緒に飲んだ。

 「石神は美しいものを一杯知っているな」
 「はい。今日の美術館の絵も素敵でした」
 「あいつは辛い目に一杯遭っているからな。だから綺麗なものを求めるんだろう」
 「そうですね」

 ルーちゃんとハーちゃんも、うっとりと夜景を眺めていた。

 「ここは石神様がご案内して下さったのですね」
 「そうだ。あいつはこういうものを沢山知っているんだよ」
 「はい。本当に綺麗です」

 ルーちゃんとハーちゃんにも、こういうものを感じる感性があるらしい。
 俺はそのことがやけに嬉しかった。
 この可愛らしい二人に、素晴らしいものを入れている。

 「蓼科様。今日、この景色を見たことは忘れません」
 「そうか」
 「「お二人に感謝を」」

 ルーちゃんとハーちゃんが頭を下げた。

 「石神のお陰だよ! じゃあ、もう一つの場所に行こうか」
 「「はい!」」

 ニュージャージー州まで行き、また夜景を眺めた。




 是非またここに来よう。
 出来ればルーちゃんとハーちゃんと一緒に。
 石神に言うと、あいつは何と言うだろうか。
 きっと喜んでくれる。
 そんな気がした。
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