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ブロード・ハーヴェイのコンサート

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 土曜日朝7時。
 東京から出発する人間が全員揃った。
 うちの子どもたち、響子と六花と吹雪、院長夫妻、早乙女たち、鷹、一江と大森、真夜と真昼。
 蓮花研究所から蓮花とミユキたちとジェシカ、斬、タケとよしことミカとキッチと竹流。
 大阪の風花の家から風花と野薔薇、麗星と天狼と五平所。
 総勢34名。
 三か所から「タイガーファング」で行く。
 ニューヨークでは聖とアンジーと聖雅、ジャンニーニたち、エミー、それにロックハート家からアルたち3名。
 アラスカから栞と士王、桜花たちの5名。
 これで総勢16名。
 亜紀ちゃんが橘弥生からもらったチケット50枚が全部使われた。

 「もっと呼びたい人もいるんですけど」
 「もうやめとけ」

 亜紀ちゃんが残念がるが、もういい。
 俺と子どもたちと響子はロックハート家に厄介になる。
 まあ、子どもたちの「喰い」に対抗出来る場所はあまりない。
 他の人間はホテルを用意した。
 真夜と真昼はロックハート家に誘ったが、とんでもないと遠慮された。
 まあ、その方が気楽だろうが。
 斬は俺のギターなどに興味は無いが、士王目当てで来るのだろう。
 栞たちと同じスイートにし、鷹もロックハート家に呼んだが迷った挙句に栞たちと一緒になった。
 六花も散々迷ったが、結局タケたちと。
 タケたちが喜んだ。
 
 みんなで「花見の家」に行く。
 響子はもちろん寝ている。

 「こいつ、置いてったら面白いな」
 「絶対に辞めて下さい!」

 六花に怒られた。

 早乙女たちは「タイガーファング」は初めてだ。
 銀色の機体を見て感動している。

 「これで、世界中どこでも10分以内に移動出来るのか」
 「まーなー」
 「俺、飛行機も初めてなんだ」
 「そうなのかよ!」
 「凄く楽しみだよ!」
 「おめでとう!」
 「ああ! 海外も初めてだ!」
 「もういいよ」

 俺たちは笑いながら、「花岡」を使えない人間たちをシートにハーネスで固定して行った。
 響子とチビたちは「ポッド」に入れる。

 「おい、危ないから響子のパンツ、脱がしておこう」
 「そうですね!」

 六花がパンツを脱がせて、響子をポッドに納めた。

 早乙女が海外が初めてだと言っていたが、俺たちはアメリカとの関係で正式に入国手続きはいらない。
 パスポートも不要で、専用に発行されたカードだけだ。
 「虎」の軍の関係者ということで、すべて賄っている。

 青嵐が全員の準備を確認し、出発を宣言した。
 垂直に機体が浮遊し、目の前の大スクリーンに小さくなる地上が映る。

 「雪野さん! 浮きましたよ!」
 「ええ、全然感じませんよね!」

 早乙女たちが喜んでいる。
 プラズマの技術で、Gを感じないようになっている。

 10分後。

 「おい、着いたぞ」
 「本当に10分だよ!」
 「スゴイですね!」

 ニューヨーク19時10分。
 聖の「セイントPMC」の敷地に3機の「タイガーファング」が着陸した。




 「トラー!」
 「聖!」

 聖とスージーが出迎えてくれた。

 「また面倒を掛けたな」
 「そんなこと! コンサートを楽しみにしてるぜ!」
 「ああ、頑張るよ」

 すぐに他の「タイガーファング」も到着した。
 それぞれ乗って来た連中と挨拶する。

 聖とゆっくり話したかったが、俺たちはすぐに移動した。
 リムジンバスが待機しており、分乗してロックハート家に向かう。
 日本から来た人間たちは、今晩はロックハート家で夕食をご馳走になる。
 ホテルへは、同じリムジンバスが送り届けてくれる手配だ。

 俺はもちろんコンサートの準備があるが、他の人間たちは双子が手配した旅行会社がそれぞれ案内することになっていた。
 各グループごとに添乗員が付き、希望の場所へ付きっ切りで案内してくれる。
 院長夫妻はゆっくり美術館見物をするようだ。
 食事なども、添乗員が手配している。
 早乙女たちや六花たちも、観光コースを決めており、蓮花たちは独自に遊ぶ計画を立てていた。
 また蓮花が大はしゃぎで、ジェシカとミユキに目を離すなと言っておいた。
 栞たちは桜花たちを無理矢理観光に出し、栞と斬、鷹と士王はのんびりするようだ。
 まあ、斬が士王とゆっくりしたいのを考えたのだと思う。

 ロックハート家に着き、早乙女や「紅六花」のメンバーたちが圧倒されていた。
 真夜と真昼は硬直している。
 この二人もでかいビルの最上階に住んでいたが、やはり「邸宅」は次元が違うのだ。
 全員で大広間へ案内され、豪華な食事が始まった。
 日本から来た俺たちは「朝食」なので、ビュッフェ形式にしてもらった。
 もちろん、うちの子どもたちは別に関係なく、大量のステーキを喰い荒らして行く。
 ロドリゲスが子どもたちとハグしようとして、俺が危ないから後にしろと言った。
 六花も喰いに入りたがっていたので、吹雪を預かり、士王と天狼も俺の近くに座らせた。
 少しずつ食べられそうなものをやっていると、斬がプリンを持って来た。
 士王の隣に座る。

 「お前も好きに喰って行けよ」
 「ふん!」

 にこやかな顔で、士王にプリンをやった。
 天狼と吹雪がじっと見ているので、斬はその二人の口にも入れてやる。

 「お前の子はみんなカワイイな」
 「なんだと!」

 俺が驚くと、斬が笑った。

 「本当じゃ。士王もそうだが、この二人もいい顔をしている」
 「お前、無理して言わなくていいぞ?」
 「なんじゃ!」

 吹雪は前に観ているが、天狼は初めてのはずだ。
 俺が紹介すると斬が微笑みながら見ていた。

 「吹雪は美しいな。そして優しく強い。天狼はまた違うな。道間の最高峰か」
 「分かるのかよ?」
 「分かるさ。生命の波動が違う。並外れた男になるだろう」
 「へぇー」

 まあ、斬のような人間に褒められると何だか嬉しい。

 「じゃが、「花岡」ではないな。「花岡」は士王とこっちの吹雪か」
 「そうか」
 
 斬は吹雪の中にも「花岡」の才能を見抜いているようだった。

 「まあ、血の繋がりは無いが、三人とも宜しく頼むぜ」
 「いや、そういうことでもない」
 「なんだと?」
 
 斬が俺を見た。

 「花岡家は強い血を求めて来た」
 「ああ、なるほどな」
 「じゃから、道間家とも繋がったし、石神家の血も入っておる」
 「え!」
 「当たり前じゃろう。あの石神家ぞ。何としても血を入れたいに決まっているだろう」
 「マジか!」
 「じゃから、お前の子はみんなわしの家とは血が繋がっておる。みんなカワイイ孫じゃ」
 「ほんとかよ!」

 驚いた。
 まあ、斬が俺に気を遣うわけはなく、真実なのだと分かった。
 天狼の「道間皇王」のことは黙っていた。
 道間家の秘密だろうと思った。
 しかし、斬は尋常ではない天狼の運命を感じていたようだった。

 「このような子らが生まれるということは、いよいよ世界は切迫しておるな」
 「そうだな」

 斬が柔和な顔を一瞬、残酷な鬼の顔に変えた。
 またすぐに戻って、にこやかに士王たちと戯れる。

 どちらも、斬の本当の顔だ。
 冷酷無惨にして、深く優しい。
 だから俺は斬が大好きなのだ。
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