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プチ復讐

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 少し遡って、7月の第二週の「牛鬼狩」の帰り。
 俺は激痛に呻いていた。
 一応は俺のミスで虎白さんたちを危険な目に遭わせて申し訳ないとは納得している。
 その上、虎白さんたちへの信頼を改めて痛感することになった。
 虎白さんには感謝している。
 
 しかぁーし!
 やっぱり痛ぇ。
 物凄く痛ぇ。
 激痛の中で、俺の中に納得できない何かが生まれた。
 亜紀ちゃんから、明日は吹雪の誕生日祝いだと言われ、この散々な身体を引きずって絶対に行くと決めた。
 それもこれも、どうしてこうなった!

 全身の痛みのために一睡も出来ないまま、六花のマンションへ運ばれ、根性で祝い帰って来た。
 そのまま気絶するように眠った。
 そして何度も激痛で目が覚めた。




 翌週の土日は、京都の道間家へ行ってゆったりと過ごした。
 美味い食事をし、麗星や天狼とまったりし、五平所たちとも楽しんだ。
 日曜日に戻り、俺は双子を呼んだ。

 「明日の「海の日」は、予定通りに石神家本家に行くぞ」
 
 双子が顔を見合わせて俺に言う。

 「タカさん、やっぱ辞めた方がいいって」
 「そうだよ、虎白さんたち、いい人だよ?」
 
 「知ってるよ!」

 そういう問題ではない。
 俺は仮にも石神家の当主であるにも拘わらず、一度たりともそういう扱いを受けたことが無い。
 別に敬って欲しいわけではないが、このままではいかん。
 組織というものは、形式や規範も重要なのだ。
 新たに剣士になった若い連中は、それなりに俺を立ててくれてはいる。
 でも、虎白さんや他の先輩たちはみんな俺を見下している。
 それではいかん。

 だから、俺は一矢報いるというような計画を立てた。
 剣技に関しては確かに虎白さんたちの方が上だから、俺が下でも構わない。
 しかし、そうではない分野で俺が上の能力を持っていることを示したっていいのではないか?
 威張りたいわけではない。
 ただ、もうちょっとだけ俺を認めて欲しい。

 「あの人らに、ちょっとくらいは驚いて欲しいだけだ」
 「うーん」
 「でも、またとんでもないことになるんじゃない?」
 「大丈夫だ!」

 尚もゴネる双子を制し、俺は絶対に行くと言った。
 俺はこれまでの荒波の人生の中で培ってきた交渉力がある。
 そして悪知恵も。
 観てやがれ。




 翌朝。
 8時に朝食を食べ、「ロクザン」を呼んだ。
 俺がウッドデッキで呼ぶと、ロクザンは庭に現われた。
 こういう所は妖魔は便利だ。
 別次元なのか何なのか、そういうものを使ってたちどころに来てくれる。

 「ロクザン。これから一緒に俺の本家へ来て貰いたい」
 「かしこまりました」
 「石神家は剣士の集団でな。妖魔を斬ることに特化している」
 「そうなのですか」
 「そこでだ。お前の「隠形」の能力で、みんなをアッと言わせたいんだよ」
 「かしこまりました」

 ロクザンはケムエルの能力を引き継ぎ、気配を消すことに長けている。
 だから虎白さんたちが感知できないことを知らしめ、俺が妖魔の感知能力では上だと示したいのだ。 

 俺たちは「飛行」で石神家本家へ出掛けた。
 ロクザンは大妖魔だけあって、一緒に飛行出来た。
 ゆっくりと飛んで、ものの10分で石神家のあの山の鍛錬場へ到着した。
 ロクザンには既に気配を消させている。
 俺は「虎王」を二本腰に差しているので、ありありと分かる。
 ふふふふ。

 石神家の剣士たちが、もう集まって鍛錬を始めていた。
 本当に真面目な人たちだ。
 上空から俺と双子が降りて来ると、みんな鍛錬の手を止めた。

 「高虎じゃねぇか。どうしたんだよ」

 虎白さんが近付いて来る。

 「ちょっと、みなさんどうしてるかと思って。ああ、当主の高虎ですが!」
 「なんだよ、珍しいじゃねぇか。呼んでもいないのに来るなんてよ!」
 「アハハハハハ!」

 虎白さんたちが嬉しそうな顔をするので、ちょっと気が退けた。

 「ああ、俺も一緒にやってもいいですか?」
 「もちろんだ! ああ、ルーちゃんとハーちゃんもいらっしゃい」
 「「こんにちはー!」」

 虎白さんが満面の笑みで双子の頭を撫でる。
 若い剣士に、飲み物を貰って来いと言ってくれた。

 「自分たちで持って来てますから!」
 「そうか。じゃあ、離れて見ててな」
 「「はーい!」」

 双子が「Ωケース」からジュースなどを取り出して飲み始めた。
 もちろんケースには「Ω」と「オロチ」の粉末がたっぷり入っている。
 念のためだ。
 俺は「虎王」を置いて、でかい木箱に突っ込まれている日本刀を一振り借りた。
 虎白さんが相手をしてくれる。
 今日は大分手加減してくれ、楽しく遣り合えた。
 数時間もいろんな剣士が相手をしてくれ、俺も充実した時間を過ごせた。

 「じゃあ、そろそろ昼にすっか!」

 みんなで一度下の里に下りて、でかい集会場のような場所に入った。
 女性たちが食事を用意してくれている。
 ちゃんと俺たちの分もあった。
 川魚の焼き物と汁物にご飯。
 川魚は大皿に盛られ、好きなように取るようになっていた。

 「おい、この子らは肉が大好きなんだ。こないだ狩って来た鹿がいい頃合いだろう」
 「はいよ!」

 女性が奥に行き、しばらく待つとシカ肉のステーキを持って来てくれた。
 ルーとハーが大喜びだ。

 「これ、美味しいよ!」
 「スゴイよ! なんでこんなに美味しいの?」

 「熟成したからな。血抜きしてしばらく冷たい場所に置いておくと、肉の中に旨味が増すんだよ」
 「へぇー!」

 多分双子も知っているだろうが、実際に熟成の妙で大感動していた。
 剣士たちは、とにかく米を大量に喰っていた。
 川魚を骨ごとバリバリと噛み砕きながら、丼の飯を掻き込む。
 それでいて気品がある食べ方なので不思議だ。

 食事を終え、お茶を飲んでから、また山に登った。
 こうして一日中鍛錬をしているのだろう。

 山頂の広場に出て、俺が言った。

 「ところで虎白さん、俺が連れて来た奴をまだご紹介してませんでしたね」
 「なんだ? 誰か連れて来たのかよ?」
 「はい! え、気付きませんでした?」
 「なんだと?」

 ルーとハーが不安そうな顔になった。

 「だって、最初からいるじゃないですか」
 「どこだよ!」
 「え、ほんとに気付いてない?」
 「……」

 虎白さんが俺を睨んでいた。

 「えー! 他のみなさんは気付いてましたよね!」
 
 誰も返事をしない。
 みんな俺を見ている。

 「まさかー! え、でも、それって不味いんじゃ!」
 「おい、高虎……」
 「ロクザン! お前が見えて無かったようだぞ!」

 ロクザンが俺の隣に姿を現わした。

 「ほら! 最初から俺の傍にいましたって!」
 「……」
 「ね、虎白さん!」
 「……」

 俺は自然に笑いが込み上げて来た。
 楽しくてしょうがなかった。

 「やだなー。まさか気付いてなかったとは。道理で聞かれなかったはずですね!」
 「てめぇ……」

 「石神家って、妖魔を狩るじゃないですか。ちょっとこれは不味い……」

 虎白さんたちの顔が変わっていた。
 鬼の形相になっている。

 「あ! 炎の柱! 出ました!」
 
 ハーが叫んだ。
 不味い!

 「い、いや! ちょっと! 冗談ですって!」
 「高虎、てめぇ!」
 「すいませんでした! ほんの悪戯心でしたぁ!」
 
 虎白さんが叫んだ。

 「おい、妖魔! もう一度姿を消せ!」

 ロクザンがまた隠形に入った。

 「全員、「虎眼(こがん)」を使え! 妖魔と高虎をぶった斬れ!」
 『オウ!』

 ロクザンは隠形のまま移動したが、石神家の剣士たちがそれを追った。
 本当に見えているようだ。

 「ロクザン! 逃げろ!」

 ロクザンが飛んでどこかへ消えた。
 剣士全員が俺に向かって来た。

 「てめぇ! 舐めやがって!」
 「ちょっと優しくすりゃ調子に乗りやがって!」
 「覚悟しろ!」
 「虎地獄だぁ!」

 「ほんとにやめてぇー!」

 スバズバのブスブスにされた。





 双子に「Ω」「オロチ」「手かざし」のオールで助けてもらった。
 俺はシュワシュワの身体で土下座し、必死に謝った。

 「だから言ったのに」
 「タカさんって、時々バカみたいよね」
 「すまんね……」

 双子に手を引いて飛んでもらい、家に帰った。

 「明日も休む?」
 「いや、行くよ」
 「でも大丈夫?」
 「ああ、なんかさ」
 「なーに?」
 「あの人らにやられ慣れちゃった」
 「「ん?」」

 「なんか傷の治りが早い」
 「「へぇー」」

 でも、もうああいうことは辞めようと思った。
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