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百家の来訪 Ⅲ

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 また尊正さんたちをリヴィングに戻したが、いろいろ不味いことになった。
 俺が想像も付かない百家の伝承が重なったようだ。
 元々ヒヒイロカネが出現したこと自体が、とんでもない伝承だったようだ。
 更にそれがロボの爪痕が見つかり、途方もないことになっているらしい。

 「石神さん、大変なことになりました」
 「そうなんですか!」

 本当に大変そうだが、俺には全然分からん。

 「もう、こうなっては全てを打ち明けましょう」
 「いや、別にいいんじゃないですか?」
 「あれだけの「御印」が出ては、そうも参りません」

 俺は聞きたくないのだが。
 尊正さんは緑さんと顔を合わせ、うなずき合った。

 「実は、百家の伝承で、この世の終わるほどの大災難の時に、ヒヒイロカネの円柱が現われるというものがあります」
 「へ、へぇー」

 マジか。

 「その現われる場所には、大悪魔と戦う勇者がいらっしゃるのだとされています」

 おい。

 「あ、あれはどっかからうちへ届いたんだっけかなー」
 「は、はい。確か、宅急便の人が置いてった……」

 亜紀ちゃんがヘルプに入ったが、宅急便は無理だろう。
 頭を引っぱたく。
 尊正さんが笑っていた。

 「石神さん。お気持ちは分かりますが、私どもも石神さんが「業」と戦う人間だと知っておりますので」
 「すいませんでしたぁー!」

 逃げられないようだ。
 尊正さんが真剣な顔に戻って言う。

 「続けても?」
 「どうぞ!」

 「ヒヒイロカネは、勇者の象徴であり、また勇者に絶大な力を与えるものとされています」
 「なるほど!」

 また全然分からん。

 「そして、さらに」
 「まだあるんですか?」
 「もしもヒヒイロカネに宇宙龍の印があったならば」
 「スゴイですね!」
 「それは、石神様が神となることを示しているということです」
 
 「じょ、冗談じゃねぇぞ!」

 思わず大声で叫んでしまった。
 尊正さんも緑さんも、子どもたちも驚いている。
 慌てて謝った。

 「あ、いや、すみませんでした。あのですね、俺はそんな大それたものじゃないですよ。本当にちっぽけな人間ですから」
 「こちらこそ、言葉を選ぶべきでした。石神さんは神になることなど望んではおられませんよね。でも、これは少々言い訳めいてもしまうのですが、神道における神というのは、優れた功績を成し遂げた人間も多いのです。八百万の神というのはそういうもので」

 菅原道真などが確かにいる。

 「まあ、俺はそういうことでも全然違いますけどね」

 俺は絶対に人間だ。
 尊正さんが俺を見ている。

 「石神さん。このことは石神さんの御意志とは別です。神託ですので」
 「ふぅー」

 冷たく言い放たれた。
 話し合うような問題でもない。
 しかしまた途方もないことを言われたものだ。
 子どもたちも驚いて俺を見ている。

 「百家としましても、全力で協力してまいりますので」
 「それはありがたいのですが、喫緊の問題としまして、あのヒヒイロカネはどうすればいいんですかね?」

 俺はそれだけ確認したかったのだが。

 「御協力したいのですが、余りにも曖昧な伝でして。そのまま申し上げれば、伝承では「虎王」を打ち上げた際に神宮寺の妻となった者の血筋にと」
 「はぁ」

 誰だよ。
 尊正さんが、百家に伝わる「虎王」の伝を教えてくれた。
 巫女の予言で、神宮寺の当主が百家にヒヒイロカネを貰い受けに来るというものがあったそうだ。
 その予言の通りになり、百家は鑑となっていたヒヒイロカネを渡したそうだ。
 そして、神宮寺の当主に百家にヒヒイロカネがあることを教えたのが、妻だったということだ。

 「女性のことですので、記録には結婚前の家名は残っておりません。ただ「蓮華」とだけ」

 「!」

 驚いたなんてもんじゃない。
 家名が分かったわけではないが、俺には確信が生まれた。

 「その蓮華の血筋とありますが、これ以上は私どもも検討も付きません」
 「神宮寺の当主の妻が「蓮華」という名前だったのですか!」
 「はい。そのように記されております」
 
 俺は蓮華と蓮花の双子の姉妹の話を尊正さんにした。

 「姉の蓮華は「業」に支配されて死にました。妹の蓮花は「業」と戦うために、その後から俺に協力してくれています」
 「なんと! では蓮華の血筋というのは!」
 「俺も丁度、蓮花にヒヒイロカネを送る段取りを組んでいたところだったんですよ!」
 「その蓮花様はどのようなことをなさっているのですか?」
 「俺たちの技術の中枢を。詳しくはお話しできませんが」
 
 「そういうことでしたか」

 尊正さんは考え込んでいた。

 「これは私の想像なのですが」
 「はい、お聞かせ下さい」
 「恐らく、蓮花様はヒヒイロカネを目の前にすれば、何かが分かるのだと思います」
 「はい?」
 「神の託であれば、そのような仕儀になるかと。人はその影のようなものですから」
 「それでは、自動的に発現し、行動すると?」
 「その通りです。とにかく、ご心配はありません」
 「そうですか」

 またしても全然分からん。
 まあ、蓮花の研究所に送るしかないのだが。
 でも、これで百家の予言の話も聞いたし、実物も確認してもらった。
 俺の知りたくもないことも知ったし、知りたかったことも一応は分かった。

 響子を見ると、話の内容が難しく、眠そうにしていた。
 六花はいつものように腕を組んで目を閉じている。
 寝ているのだろう。
 俺が軽く声を掛けようと思うと、突然響子の目が見開いた。

 「「------」よ」

 まるで鈴の音のような音が聞こえた。
 言葉としては聞き取れない。

 「おい……」

 俺が響子に声を掛けると、全員が座ったまま昏倒した。

 「なんだ!」





 響子の身体が白く光っていた。
 俺と「響子」だけになった。
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