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百家の来訪

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 8月第一週の金曜日。
 もう子どもたちは夏休みに入っており、それぞれにやっている。
 皇紀は相変わらず忙しいし、双子も手伝っている。
 亜紀ちゃんと柳は鍛錬を中心にやっている。
 だが、皇紀以外は基本的にのんびりとしている。

 「タカさん! 今日は早目に帰って下さいね!」

 亜紀ちゃんがニコニコして言う。

 「なんでだよ?」
 「だって! 今日は『虎は孤高に』ですよ! しかも8時からの拡大特別篇じゃないですか!」
 「ああ」

 まあ、楽しみじゃないわけではないが。

 「それはいいけど、明日の準備は大丈夫だろうな?」
 「バッチリです!」

 明日は百家から当主の尊正さんと、娘の緑さんが来る。
 本当は先週に来たいとのことだったが、生憎俺のコンサートがあり、一週ずらしてもらった。
 尊正さんは早くヒヒイロカネを観たかったようなのだが。
 
 「おい、ヒヒイロカネはちゃんと綺麗にしてあるだろうな?」
 「大丈夫ですよ! 昨日、水洗いしておきました」
 「そうか。一応後で一緒に確認しよう」
 「はーい!」

 朝食の後で、亜紀ちゃんと一緒に庭に出た。

 「本当はどこかに入れたいんだけどなー」
 「無理ですよ! 置いておける部屋なんてありませんよ。それにどこの窓を外したって入りませんって」
 「そうだけどよー」

 直径13メートル、高さ8メートルだ。
 一応、パイプを組んで、ブルーシートで囲ってはいるが。
 蓮花の研究所に運ぶ予定で、今準備をしている。
 新たに格納庫を作っている最中で、運搬には大規模輸送用のタイガーファングを使う予定だ。
 操縦は青嵐と紫嵐にさせる。
 俺は一通り汚れが無いか見て回った。

 「おい!」
 「どうしました?」

 亜紀ちゃんが来る。

 「ほら!」
 「あ!」

 下の方に傷が付いている。

 「なんだこりゃ?」
 「引っ掻いてますね」
 「掘り出した時か?」
 「いいえ、ちゃんと綺麗な表面でしたよ」
 
 ロボが来た。
 俺の顔を一度見て、ヒヒイロカネに上体を伸ばした。

 カリカリカリカリ……

 「「……」」

 爪とぎをしていた。

 「なんか、丁度いいんですかね?」
 「まあ、しょうがねぇか」

 俺は病院へ行った。




 響子の部屋へ行くと、響子が服を選んでいた。

 「よう!」
 「タカトラ! 今日はタカトラの家だね!」
 「そうだな!」

 明日尊正さんと緑さんが来るので、響子も会わせるつもりで今晩から泊める。

 「何着ようかなー」
 「お前、パジャマでいいじゃん」
 「やだよー!」

 とにかくパンツを脱げと言うと背中を叩かれた。

 「おかしいな、いつもならすぐに脱ぐのに」
 「身体の調子が悪いんですかね」
 「おし! 調べよう」
 「はい」

 「やめてよー!」

 スルっと脱がせた。

 「よし! 異常なし!」
 「良かったですね」

 「良くないよー! おじいちゃんに言い付けてやる!」
 
 「「!」」

 こいつ、いつの間にそんな反則技を覚えやがった。

 「六花! 響子にパンツをもう一枚履かせてやれ!」
 「はい!」

 「いらないよー!」

 「こ、れでチャラだからな!」
 「なんでよー!」

 早目に昼食を摂って、午後からオペをした。
 6時に上がって、響子と六花に声をかけて家に帰った。
 響子と六花は、六花のグランディアで来る。
 俺のベンツの後ろを付いて来た。




 俺が門を開け、六花のグランディアも続いて、ガレージに納めた。
 六花が吹雪を抱いているので、俺が響子と六花の荷物を持って玄関に入った。
 ロボが熱烈歓迎をする。
 ロボが興奮しているのは、亜紀ちゃんが既に大興奮だからだろう。
 今日が『虎は孤高に』の放映日だと分かっている。

 「ロボー!」

 響子にロボが抱き着いて顔をペロペロする。
 六花も「しゃがめ」と合図されて吹雪と一緒に顔を舐められる。
 亜紀ちゃんが駆け降りて来た。

 「響子ちゃん! 六花さん! 吹雪ちゃん! いらっしゃい!」

 みんなで上に上がった。
 俺たちは着替えて、夕飯を食べた。
 子どもたちはもう済ませている。
 夕飯は鶏の胸肉のハンバーグだ。
 響子のメニューに合わせた。
 ハーが吹雪に食べさせる。
 俺は神宗(かんそう)の塩昆布を出して、二人に食べさせた。

 「ご飯に合いますね!」
 「美味しいよ!」

 「そうだろう。大阪の老舗だけどな。オンラインでも買えるけど、銀座の松屋にも入っているよ」
 「六花! 買っておいて!」
 「はい!」

 響子がご飯をお替りした。
 食後は双子が作ったクリームブリュレを食べて、響子は大満足だった。

 「みなさん! 早くお風呂へ!」

 俺たちが食べている間に、子どもたちはどんどん風呂に入っていた。
 亜紀ちゃんに急かされて、俺たちも風呂に入る。
 響子はパンツを二枚履いていた。

 「亜紀がたいへんだね」
 「まあ、毎週なぁ。今週は特に拡大枠だろ? だから余計によ」
 「私も楽しみです!」
 「ちょっとうるさいんだけど、我慢して観てくれな」

 風呂から上がり、7時過ぎになった。
 放映は8時からなのだが、亜紀ちゃんが準備に余念がない。
 他の子どもたちも、笑って亜紀ちゃんの指示に従っている。

 雪野ナス。
 唐揚げ(大量)。
 ポテトチップス(手作り・厚め)。
 それとアスパラを大量に茹でた。
 野菜を喰え。
 それとメロンバナナジュースをみんなで飲む。

 俺たちはその間、ロボと遊んでいた。
 吹雪にピンポン玉を投げさせ、ロボがこっちへ転がして来る。
 吹雪が喜んだ。
 15分前になり、亜紀ちゃんが呼びに来た。
 まだ時間はあったのだが、俺たちは笑って下へ降りた。
 そして10分前。
 番宣が流れた。

 「危なかったぁー!」

 亜紀ちゃんが叫ぶ。
 こういうのも見逃したくなかったようだ。

 「あ! 皇紀! 録画してる?」
 「ううん、まだだよ」
 「このウツケがぁ!」

 皇紀が頭を引っぱたかれ、俺が後でヤマトテレビから貰ってやると言って納めた。
 響子が大笑いしていた。

 亜紀ちゃんがCMの間に唐揚げをバクバク食べる。
 六花も大好きなので一緒に食べている。
 1分前になり、亜紀ちゃんが俺たちの前に座った。

 「始まりだぁー!」
 
 亜紀ちゃんが吼えた。
 驚いたことに、山口君(大学時代からの俺役)が冬野(御堂役)と話しているシーンから始まった。
 東大の学食でのことだ。
 もうすぐ始まる『虎は孤高に』の大学生編からの紹介も兼ねることにしたのだろう。
 俺が御堂に思い出を語る形で、特別篇が始まった。

 「山口さんだぁー!」
 「うるせぇ!」

 立ち上がるので尻を蹴飛ばして座らせた。
 響子が大笑いだ。

 俺がRZで横横を疾走するシーンでテーマ音楽が流れる。

 「ウォォォーーー! いつもと違う!」

 一緒に歌おうとしていた亜紀ちゃんが叫ぶ。
 ロボも口を空けて呆然としていた。
 なんでだよ。

 「タカさん!」
 「黙れ! 特別篇のために作ったんだよ!」
 「なんで!」
 「別にいいだろう!」

 局の意向だ。

 「なんで!」
 「あんだよ!」
 「なんで私に教えてくれなかったんですかぁー!」
 「なんで教えなきゃいけねぇんだ!」
 「だって! 一緒に歌えないじゃないですか!」
 「いいから聴けよ!」

 亜紀ちゃんが膨れながら座った。
 ロボが腿に脚を置いてポンポンしてやる。

 「あー! これもいい!」

 機嫌が直った。

 「タカトラ、楽しいね!」
 「そうかぁ?」

 響子が楽しそうなので、良かった。
 途中で亜紀ちゃんが何度も叫び、最後は号泣して終わった。
 美紗子が、みんなの中に突き刺さった。




 リヴィングへ上がり、吹雪と響子を先に寝かせた。
 他の人間で飲んだ。
 皇紀と双子は引き続きメロンバナナジュースだ。

 「うちは毎回「亜紀ちゃん劇場」を見せられるんだよな」
 
 みんなが笑った。
 楽しく話し、1時からの『ザ・オトメン・ポエム』をみんなで観て大爆笑して寝ることにした。

 六花と俺の寝室へ行くと、響子と吹雪が額を寄せ合って寝ていた。
 俺たちは笑って、二人の両側に横たわって眠った。
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