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道間家の休日 Ⅷ

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 話し合いが終わり、天狼の顔を見に行った。
 9時になっており、もうすぐ眠る時間だ。
 俺の顔を見て天狼が喜んだ。

 「おう、顔を見に来たぞ」

 俺が言うと布団の上で天狼が俺に抱き着いて来る。
 俺は抱き上げて軽く回った。

 「お前のことは毎日思っているぞ。俺の大事な子だ」
 「はい!」
 
 俺は天狼を布団に寝かせ、小椋佳の『揺れるまなざし』を歌った。
 麗星が隣に座って一緒に聴いていた。

 ♪ 昨日までの寂しさ嘘のように 君の姿に色褪せて ♪

 「お前が生まれて来てくれて、俺はこれまでの人生が全部変わった。士王や吹雪もそうだけどな。それに亜紀ちゃんたちがうちに来てくれたことが始まりだ」

 天狼が俺を見詰めている。

 「俺の人生には確かな意味があった。お前たちがそれを感じさせてくれた。ありがとう」
 「はい!」

 天狼の額を撫でて眠らせた。
 麗星が俺に腕を絡めて、嬉しそうに笑っていた。





 庭に案内され、ハスの池の畔に板が敷かれてテーブルと椅子が置いてあった。

 「蓑原から、石神様がこのハスを気に入られたと聞きましたので」
 「それでわざわざ用意してくれたのか」
 「はい」

 俺と麗星、五平所と三人で飲む。
 今日は俺のためにワイルドターキーが用意してあった。
 
 「おい、洋食かよ!」
 「はい! うちの料理人は洋食も中華も一流です!」
 「ほんとにこっちに来ようかなー」
 「是非!」

 ポテトの香草焼き(ジャガイモは俺の好物)。
 タコとキャビアの和え物。
 ラムチョップ。
 厚揚げのオリーブオイル炒め。
 オイルサーディン。
 カプレーゼ(俺の好物)。
 それにサラミやソーセージ。

 ハスの香りがまた漂って来た。

 「ハスの花は美しいよな」
 「はい」
 「泥の中からこのような美しい花を咲かせる。だからこそますます美しい」
 「はい」
 
 しばらく美しい花を眺めた。

 「あなたはお庭にお好きな花を植えていらっしゃいますね」
 「ああ、大分頑張ったよ」
 
 花など育てたことのない俺だったので、最初は大分苦労した。
 庭師に世話してもらいながら、自分でも一生懸命にやった。
 竜胆や月下美人など、その思い出と共に特に苦労した話を二人に話した。

 「お宅で庭を拝見した時に、竜胆の花から特に強いものを受けました」
 「そうか」
 「特別はお花だったのですね」
 「俺の中ではな。俺に命とは何なのかを教えてくれた思い出だからな」

 口には出さなかったが、怒貪虎さんのことを思い出した。
 この世ではあの姿なのだろうが、本当は俺が子どもの頃に見たあの侍なのだろう。

 「他のものも、みんなあなた様が大好きのようでしたよ?」
 「そうか。それは嬉しいな」
 
 俺は最近は食い物ばかり増えたと言った。

 「双子がなぁ。スイカから始まってカボチャとかジャガイモとかなぁ。まあ、みんな俺の好物をあいつらがやってるもんで、文句も言い難くてな」

 二人が笑った。

 「しかも抜群に美味いんだよ! まいるぜぇ」
 「みんなあなた様が大好きですからね」
 
 隅にギターが置いてあった。

 「おい、あれって俺に弾けってことかよ」
 「はい!」

 麗星と五平所が一緒に嬉しそうに笑った。

 「じゃあ、篠笛を持って来いよ。一緒にやろう」
 「は、はい! しばらくお待ちを!」

 嬉しそうに笑い、麗星が母屋に走って行った。

 「歩け! 転ぶぞ!」

 振り向いて頭を少し下げ、ゆっくり歩いて行った。
 待っている間、俺は五平所に少し聞かせていた。

 「あぁ! 五平所! お前はわたくしのいない間に!」
 「お屋形様!」

 俺は笑って、麗星に篠笛を吹かせた。
 その音律に合わせて俺も弾き始める。

 麗星の音が以前と変わっていた。
 自由で明るい音が、しっとりと温かいものになっていた。
 麗星が変わったのだ。
 甲音から大甲音への移行が、心地よい裏返りを見せながら展開していく。
 以前はそれが自由奔放に繰り広げられて良かったのだが、今は優しく思い遣りのある音の追い方だった。
 二人で自由に鳴らしながら演奏し終えた。

 「おい、五平所! お前泣いてんのかよ!」
 「い、いえ、すみません!」
 「なんだよー」

 麗星と二人で笑った。
 俺がベートーヴェンの『月光』を奏でた。
 二人が黙って聴いていた。

 「おい、何で今度は泣いてねぇんだ!」
 「す、すみません!」

 俺はギターを置いてまた飲んだ。

 「来週は絶対に来てくれよな」
 「はい! もちろんです」
 「五平所もな!」
 「はい、あの、私なども宜しいのでしょうか?」
 「当然だ! お前はもう家族みたいなもんだからな」
 「ありがとうございます!」
 「泣け!」
 「はぁ」

 泣かなかった。
 来週の土曜日の晩に、俺のサントリーホールでのコンサートがある。
 橘弥生に無理矢理セッティングされたものだ。
 うちの子どもたち、六花、鷹、栞も桜花たちを連れて来る。
 蓮花とミユキたち、紅六花の中からも大勢来るし、竹流も来る。
 千両と桜、柿崎一家、大阪から風花と野薔薇、絶怒の連中も来るらしい。
 塩野社長や杉本たち。
 御堂はもちろんで、大渕教授。
 「カタ研」の連中。
 院長夫妻に病院の俺の部下たちやその他のスタッフ。
 病院ではナースたちの間でシフトの争奪戦が起きた。
 ヤマトテレビの『虎は孤高に』の出演者たちやスタッフに緑子。
 アメリカからロックハート家とブロード・ハーヴェイの関係者たち。
 亜紀ちゃんがエミーたちも誘ったようだ。
 聖とアンジーが来るのは嬉しい。
 南とミユキも来てくれる。
 その他にも俺と関りのある人間たち。
 そういうことで、俺の関係者でほとんど埋まった。
 他は橘弥生が呼ぶ音楽関係の人間たちだ。
 自由党の政治家や企業の偉い人間たちも来たがったようだが、俺が一江に命じて俺の関係者で予約を瞬時に取らせた。
 あんまり知らない人間たちよりも、俺の知り合いで埋めたかった。
 その反面、花輪や生花などは多くなるだろう。
 俺へのアピールが予想される。
 きっと大混乱になる。
 俺は知らねぇー。

 




 俺は京都の静かな夜を味わった。
 騒々しい俺の人生だが、こういう時間がまだ味わえる。
 麗星と五平所に感謝した。 
 
 「よし! 今晩は五平所がまた泣くまで弾くぞ!」
 「はい!」
 「いえ、あの!」

 俺は笑ってギターを弾いた。
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