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道間家の休日 Ⅵ

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 天狼を部屋から出して、俺たちは話し合いを続けた。

 「じゃあ、次はこれだ」

 俺は袱紗に入れた塊を取り出した。
 麗星と五平所が真剣な顔でそれを見る。

 「これはまさしく……」
 「私もこの大きさは初めて目にしました」

 ヒヒイロカネだった。
 俺が「虎王」で切り取って持って来た。

 「写真でも分かるように、直径13メートル、高さ8メートルだ」
 「信じられません」
 「大黒丸は、このようなものまで……」

 写真は、円柱の脇に真夜を立たせて取った。
 発見者だからだ。

 「こいつがよー、前から面倒なものばっかりうちで掘り出すんだよ」
 「ああ、レッドダイヤモンドですか」
 「そうそう。あれは参ったよなぁ」
 「ここにもお送りになられましたわね」
 「しょうがねぇよ。ああ、幾らでも売っていいからな」
 「はい、その折には」

 一応、科学的根拠は無視して、文部科学省に届け出を出して証明書は摂っている。
 売る分には問題ないものにはなっているのだが。

 「俺も知識がなくてさ。『竹内文書』とかくらいしか知らねぇ」
 「はい。道間家でも直接にはそれほどは。ですが、「虎王」の主原料であり、「御霊」を吸いこの世で最も硬い金属となるとされています。そして「御霊」を吸う折に神素もまた吸われ、神剣となることも」
 「でも、精錬法はもう分からないんだよな?」
 「その通りです。「虎王」を作ることはおろか、どのように加工するのかも分かりません。ただ」
 「なんだ?」
 「百家であれば。あそこには古の精錬法も残っているかもしれません」
 「百家か!」
 「はい。日本国の歴史の中心です。宮家以前の歴史の中枢でございますので」
 「ああ、御神体なんかもすぐに用意してたしなー」
 「御神体?」
 「そう。前に響子を連れて百家の大社に遊びに行ったんだよ。その時に俺がさ、ちょっと空手道場で遊んでたんだ。調子に乗って自然石割を見せたら、道場の御神体だったの」
 
 「あなた様……」

 「弱っちゃってさ。一緒にいた緑さんって百家の人が、すぐに用意しますって言ってくれて、助かっちゃった」
 
 「あなた様……」

 麗星はまた俺を睨んでいたが、話が進まないので諦めたようだった。

 「じゃあ、百家に聞いてみるな」
 「あなた様、あそこは滅多なことでは何かを頼める家ではございません」
 「そうかなー。じゃあ、聞いてみるな」
 「はい?」
 
 その場で電話をした。
 緑さんだ。
 
 「ああ、あの時はお世話になりました!」
 「いいえ、こちらこそ響子に会えて!」
 「それでですね、最近ヒヒイロカネが庭から出て来まして」 
 「はい?」
 「直径13メートルで、高さは8メートル。どうしようかと思ってるんですよ」
 「石神さん!」
 「今、京都の道間家にいましてね。相談してたら、百家の方が詳しいって聞いたものですから」
 
 「本当にヒヒイロカネなのですか!」
 「はい、間違いないかと」
 「どのようにご確認を?」
 「はい、妖魔のタマに聞いたらヒヒイロカネだって」
 「!」

 緑さんは驚いている。
 麗星と五平所が物凄い力で俺の肩を掴んでいる。

 「精錬法も今は分からないということで。百家の方であれば何か御存知ですかね?」
 「ち、父に相談いたします!」
 「はい、宜しくお願いします!」

 電話を切った。

 「あなた様!」
 「おう、なんか聞いてくれるってさ!」
 「あなた様は、なんという!」
 「良かったな!」

 麗星と五平所が俺の肩から手を外した。
 二人ともゲンナリとしている。

 「あなた様、百家という家系は日本の中枢だと申し上げましたですよね?」
 「うん」
 「何故気楽にあんな大変なことを!」
 「え、だってあそこしか無いんだろ?」
 「それにしても! ヒヒイロカネを持っていることすら異常ですのに! それをあの百家に何とかしろとは!」
 「えー、だって優しい人たちだったぜ?」
 「親しいのですか!」
 「うん。2泊してきた。ああ! 風呂がさ、シャワーがねぇんだよ! 響子を洗うのに困っちゃったよなー」
 「本当に百家に泊まったのですか!」
 「うん、だって響子のお母さんの静江さんって、百家の人だぞ?」
 「「!」」

 あれ、話してなかったっけか?

 「あなた様! どうしてこれまで教えて下さらなかったのですか!」
 
 麗星が激高している。

 「え、だってお前あんまし響子に興味なかったじゃん」
 「そ、そんなことは! ロックハート家の跡継ぎで、愛らしい方だとは。それに何と申しましても「光の女王」という特別な存在だと」
 「その通りじゃん」
 「百家の関りも教えて下さいませ!」
 「わりー」

 しょうがねぇだろう。
 俺だって女の素性をいちいち他の女に話すのもアレだしなぁ。
 でも麗星の怒りが収まらない。

 「麗星」
 「はい」
 「響子が百家の血筋だということは、最大の機密だったんだ」
 「はい?」
 「お前たちだから今話した」

 大ウソ。

 「え、そんな雰囲気じゃありませんでしたよね?」
 「お前だからだ! お前は俺の女たちの中でも特別なんだよ」
 「あなた様!」
 
 麗星が俺を潤んだ目で見ている。

 「響子はロックハート家の人間だ。あの家の特殊性はもう知っているよな?」
 「はい、それはもう! 生涯に一人の子しか為せないと」
 「そうだ。それに加えて、あの百家の血が入っているとなると、お前、どうなると思う!」
 「あなた様!」

 どうなるんだろー。

 「そういうことだ。お前と五平所ならば大丈夫だろうけど、もちろんこのことは今でも最高機密だ」
 「「はい!」」

 うちの子どもらとか知ってるけどなー。
 御堂や蓮花も六花もなー。
 ああ、栞や鷹もか。
 
 俺の電話が鳴った。
 
 「もしもし」
 「尊正です」
 「これはどうも!」

 百家当主の大宮司だ。

 「先ほど緑から話は伺いました。本当にヒヒイロカネですか」
 「はい。今度御送りしますよ」
 「それは! もし本物のヒヒイロカネであれば、大変なことですぞ!」
 「そうですか」
 「百家の予言にあるのです。この電話ではお話し出来ませんが」
 「そうですか」
 
 尊正氏も興奮している。

 「今日程を調整しております」
 「はい?」
 「一度私が石神様の御宅へ伺って、確認したいと」
 「ああ、構いませんよ! あの時は大変お世話になりましたから。今度はうちで歓迎させて下さい」
 「それは恐縮です。それではまたご連絡いたします」
 「宜しくお願いします。お手数をお掛けして申し訳ありません」
 「まったくそのようなことは! ではまた」
 「はい」

 電話を切った。

 「おい、何とかなりそうだぞ!」
 「「……」」

 麗星と五平所が少し休みたいと言った。
 
 「じゃあ、夕飯の後でまたな!」
 「「はい……」」

 



 どうにか俺が道間家に来た目的も果たせそうだ。
 夕飯はなんだろうなー。
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