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道間家の休日 Ⅳ

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 「もう一つの問題は、北海道のものですね」

 先日羽入と紅が遭遇した、鳥人の妖魔の集団だ。

 「ああいうものは他にもいるということだな」
 「本来は決して多くはございません。ほぼ、人間が遭遇することは稀かと」
 「でも、いるにはいるんだな」
 「さようでございます。石神家の方々が定期的に間引きしていた堕乱我などもそうですね」
 「あれは半分養殖みたいなものだったけどな」
 「ワハハハハハ!」

 虎白さんたちは狩り尽くさないで少し残して、翌年にまた狩る楽しみにしていた。
 困っている人たちにとっては迷惑な話だっただろうが。
 まあ、俺と同じで善人の集団じゃない。

 「稀だとはしても、妖魔に人間が犠牲になることはあるんだなぁ」
 「さようでございます。恐らくは常の人間には理解できないことですので、単なる犯罪として解かれているのではないかと思います」
 「俺は知らなかったぜぇ」
 「まあ、一般には関わることがありませんからね」
 「でも、今じゃ俺、頻繁だぜ?」
 「アハハハハハ!」

 麗星も笑っていた。

 「あなた様が特別であられることと、それと」
 「ああ、「業」との絡みだな」
 「はい。そのようなことかと」

 俺たちは「業」の操る妖魔との戦いを始めている。
 その関わりということだ。

 「これまで人間と妖魔とは特別な関りでありました。それこそ滅多には遭遇することのない、ほぼ無縁と言ってもよろしいかと」
 「お前たちのような一部のヘンタイだけのものだったよな」
 「さようでございます」
 「それが今じゃ妖魔との戦いを前提としていなきゃならねぇ。どうなってんだ、これ?」
 「まったくです」
 「どれもこれも「業」のせいかぁ」
 「ろくでもない奴ですね」
 「まったくだぁ」

 三人で笑った。
 こんな異常事態を俺たちは笑うことが出来る。
 「業」の出現で、世界が変容したのだ。
 人間と出会うことのない妖魔が跋扈する世界になった。

 「まあ、こうなっては仕方がねぇ。今後もああいうことが増えていくということだな」
 「はい。恐らくは、「業」との戦争以外でも、人間は妖魔と接していくことになるでしょう」
 「この世の理(ことわり)が壊れたな」
 「はい。ほぼ接点を持たなかった妖魔との関係が、これから増えて行きます。それに対して対策を持つ必要がありますね」

 俺、異世界転生はスローライフ物が好きなのだが。
 現実は忙しいバトル物だ。
 
 「出会えば戦いになるな」
 「多くの場合は」
 「それ以外を考えない方がいいだろう。紅は初見でカワイイものだと思ったようだけどな」

 「確かに綺麗な顔をしていますね」

 麗星が割って入って言った。 

 「俺には分からんけどなぁ。まあ、妖魔と人間は思考が違うから油断は出来ないということだな」
 「私にも人間離れした顔に見えますね」
 「そうだろう?」
 
 五平所が同意する。

 「あの、わたくしは結構愛くるしい顔だと」
 「おお、女性にはそう見えるのかな」
 「でも男性を魅惑するところじゃないですか?」

 五平所が反論する。
 麗星がカワイイと拘る。

 「女性型なんだから、女じゃなくて男を魅了しなきゃなぁ」
 「あの、別にわたくしも魅了されているわけでは」
 「百合じゃないの?」
 「あなた様!」

 まあ、どうでもいい。
 でも、男女で意見が分かれるのかもしれない。

 「紅がよ、ピルちゃんって愛称を付けたんだよ」
 「さようでございますか」

 麗星が俺に言う。

 「資料ではあなた様が集落の敵を何とかして欲しいと言ったとありますが」
 「おお、言ったな! そう言えばな!」

 「それが紅さんの意識を誘導したのでは……」
 「そう言われるとそうかもな!」
 「「……」」

 「あんだよ!」
 「いえ、なんでもございません」

 まるで「お前のせいだろう」という目だった。
 ちょっと話題を逸らす。

 「ああ、そういえばさ、こいつらなんていう妖魔か分かるか?」
 「卑流卑流(ぴるぴる)という名ですね」
 「あれ、ピルちゃんに似てるじゃん」
 「はい、あの鳴き声に因んだものだと、今回初めて分かりました」
 「安直だなー」

 こいつら、やたらと拘った名前を付けやがってるくせに。
 
 「まあいい。道間家で、他にもこういう妖魔が常態でいる場所は知っているか?」
 「はい、幾つかは。ですが、ほとんどが管理されております」
 「管理?」
 「比較的、人間に友好的か、あるいは実害の無い者たちです。集団でいるのは、石神家の方々が関わっている場所だけでございますし」
 「あの人らなー」
 「堕乱我は吉野の金山寺と百家が管轄と言いますか、石神家の方々との繋がりを続けるためにでございます」
 「え、じゃあ虎白さんたちがこっそり遺してたのも知ってたの?」
 「はい、それはもう。でも被害が起きない数まで減らしてはくれていましたので」
 「毎年10億円とか聞いたけど?」
 「その程度、石神家とのパイプを思えば」
 「そっかー」
 「何かあった場合に、あの方々の手をお借りできるのであれば、本当に安いものかと」
 「へぇー」

 そんなに頼りにされていたか。
 俺はふと思った。
 
 「あれ?」
 「どうなさいました?」
 「いや、俺ってさ、石神家の当主じゃない」
 「さようでございますね?」
 「あのさ、去年の堕乱我狩の後で、10億円なんて見てねぇんだけど」
 「あぁ!」
 「どうなってんだろうな?」
 「まあ、愉快な一族でございますね」
 「そんなもんかよ!」

 麗星と五平所が笑った。
 まあ、俺も金が欲しいわけではない。

 あの人たちもそうだとは思うが、だからこそ気にしていないのだろう。
 次の問題に移った。
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