上 下
2,016 / 2,808

挿話: ネコ塗れ「秘密兵器」

しおりを挟む
 少しさかのぼって、4月のある晩。
 柳が御堂と一緒に食事をして帰って来た。
 俺も行きたかったのだが、ちょっとスケジュールが合わなかったのと、たまには御堂と柳で食事をさせようと思った。
 新宿の「銀河宮殿」に行ったはずだ。
 柳は酒を飲むので電車で出掛け、また電車で帰って来た。
 満月の晩だった。
 俺と亜紀ちゃんは風呂上がりに軽く飲んでいた。
 柳が帰って来るなり、俺に興奮気味で語った。

 「石神さん! スゴイのを見ちゃいましたよ!」
 「御堂はスゴイよな」
 「違いますよ!」
 「なんだと! お前は御堂が凄くないって言うのか!」
 「だから、なんでいつもお父さんの話になるんですか!」
 「おい! 誤魔化すんじゃねぇ!」

 亜紀ちゃんが御堂の話だから取敢えず謝った方がいいと言い、柳が頭を下げて謝った。

 「すいませんでした」
 「おし!」
 「もう!」

 柳のテンションが下がった。
 それでも話を続ける。

 「さっき、「花見の家」の庭を見たんですよ」
 「ああ、あそこか」
 「ネコの集会やってました!」
 「マジか!」

 ロボがいつも満月と新月に出掛けるので、そういうものがあるのだろうとは思っていた。
 まさか本当にそうだったとは。

 「数十匹いましたよ。ロボが中心でした」
 「ほう!」

 「石神さん、見たことあります?」
 「いや、ねぇ」
 「私、見たんですよ!」

 なんかいつもこいつの言い方って気に障る。

 「良かったな」
 「はい!」

 柳がニコニコしている。
 
 「タカさん、今度見に行きましょうよ!」
 「そうだなぁ。でも折角ネコ同士で仲良くしてるのに、人間がお邪魔しちゃなぁ」
 「えー、ちょっとだけいいじゃないですかー」
 「うーん」

 柳が手を挙げた。

 「私、ちょっと輪の中に入って来ました」
 「えぇー」
 
 またこいつはどこでも遠慮なしに何でもやりやがる。
 それにちょっと自慢気なのも気に喰わない。

 「お前よ、ちょっとは相手のことも考えろよな」
 「大丈夫でしたよ?」
 「ネコがどう感じるなんて分からないだろう」
 「大丈夫ですって」

 ロボが庭で鳴いていた。
 気分のいい柳が、自分が中に入れると言って出迎えに行った。

 「あぁー!」

 柳の叫び声が聞こえ、亜紀ちゃんと見に行くとロボにぶっ飛ばされていた。

 「「……」」

 亜紀ちゃんがロボを抱きかかえて足を拭いてやった。





 ロボは段ボール箱が大好きだ。
 身体が大きいのでしょっちゅうではないが、大きな段ボール箱が空くとロボにやる。
 ボロボロになるまで楽しむ。
 リヴィングに置いておくと、ロボが中に入る。
 中でスヤスヤ寝ていることもあるし、顔だけ出してジッと楽しそうに俺たちを見ていることもある。
 誰かが近づくと箱の底に身を潜め、「遊べ」と合図する。
 箱の縁をトントンすると、シュバっと手を出してくる。
 俺たちも楽しく遊ぶ。
 上のフタを閉じて、側面に穴を空けてやったりする。
 そこから外を見るのも大好きで、時々手を出して「遊べ」と合図する。
 箱の上と下をたたんで穴だけにすると、ロボが箱の中に飛び込んで床を滑る遊びを始める。
 まあ、ロボも俺たちも楽しい。

 御堂の実家からまたオロチの抜け殻が届いた。
 軽いものなのだが何しろでかいので、大きな段ボール箱に入って来た。
 特注で作ってくれたのだろう。
 長さ2.4メートル、高さと幅1メートル。
 中にはいつものように黄色のウコン布に包まれて、軽く折り返されてオロチの抜け殻が入っていた。

 すぐに双子が「Ωケース」に入れて、「飛行」で蓮花研究所へ運んだ。
 御堂の実家から直送はしない。
 蓮花の研究所との関連を隠すためだ。

 段ボール箱なので、ロボにやった。
 俺を一度見てから、中へ入った。

 「……」

 ジッとしていて俺をまた見ていた。
 なんか、楽しくないらしい。
 やはりでか過ぎるのだろう。
 近づいて撫でてやり、俺も入って横になった。

 「にゃ!」

 容積が狭くなったことで、いつもの感覚になったか、ロボが喜んで箱の中で遊んだ。
 俺に身体をすりよせ、子どもたちが箱の縁を指でトントンし、ロボが楽しそうにシュパッとやる。
 大喜びだった。




 次の新月の晩。
 俺はオロチの入っていた箱を持って、「花見の家」に行った。
 子どもたちも付いてくる。
 ロボたちが集会をしていた。
 みんな俺をジッと見ていた。
 俺はそっとその中に入り、箱を横たえた。

 「ニャー!」

 ネコたちが喜び、俺の傍に寄って来る。

 「タカさん、いーなー」

 亜紀ちゃんたちは刺激しないように離れて見ていて、俺は段ボール箱の中に入って寝転がった。

 「にゃー!」

 まずロボが嬉しそうに中に入り、続いて他のネコたちも一斉に入って来る。
 数十匹のネコが全部入り、俺はネコ塗れになった。

 「おぉー! すげぇぞ!」
 
 ネコたちが中で喜んでくんずほぐれつで動き回る。

 「た、タカさん! わたしもー!」
 「石神さん! わたしもー!」

 亜紀ちゃんと柳が入ってこようとしたが、ネコでいっぱいなので足の踏み場がない。

 「「えーん!」」

 しばらくネコ塗れ風呂を楽しみ、俺は外へ出た。
 ネコたちはしばらく中で遊んでいたが、出て来て俺の傍に寄って来る。
 亜紀ちゃんと柳が段ボール箱に入ると、残っていたネコたちが一斉に逃げて出た。

 「「えーん!」」

 「あー、楽しかったぜ!」

 俺は周りにいるネコたちの頭を撫でて、空になった箱を抱えた。

 「じゃー、帰るよ! 邪魔したな!」

 「にゃー」

 ネコたちが一斉に鳴いて挨拶した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。

ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」  俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。  何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。  わかることと言えばただひとつ。  それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。  毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。  そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。  これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...