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道間家の休日 Ⅱ

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 食事を終え、俺は麗星と風呂に入った。
 風呂を出て、涼しくなった庭先で酒を飲む。
 京都の夏は厳しいものだが、ここは何か過ごしやすいように道間家の技が使われているのかもしれない。
 夜風が心地よく吹いている。

 冷酒にしてもらい、豆腐がメインの肴があった。
 京都の人間は美味い豆腐と味噌の威力を知っている。
 様々な酒の肴を作るのもいいが、本当に良い豆腐と味噌があればそれはそれで最高なのだ。
 何種類かの豆腐と、味噌を和えたソラマメやゴボウの漬物などがしみじみと美味かった。
 冷酒に良く合う。

 「電話では詳しく話せなかった。五平所、俺の持ってきたデータを明日よく見ておいてくれ。麗星もな。意見を聞きたいんだ」
 「かしこまりました」
 「一つは蓮花研究所での巨大ワニの悪魔と、その悪魔の種子を植え付けられた新宿の奴のものだ。生化学的なデータも多いから、分からなければ俺に聞いてくれ」
 「はい、ありがとうございます」

 俺は二人に概略をもう一度話した。
 突然俺の家の庭にワニが現われ、その時には体長8メートルほどのサイズだったこと。
 それが俺の血を入れられると40メートルもの大きさになったこと。
 同時に、3月に種子を植え付けられた片桐にも変化が起き、片桐自身がワニの悪魔に匹敵するような能力を持ったこと。
 麗星と五平所は黙って俺の話を聞いていた。

 「両者には繋がりがあったのでしょう。それはこの世での形代を共有するものだったと思われます」
 「なるほどな。だから元の悪魔がいなくなって、片桐が自由に使えるようになったということか」
 「はい、元々は自分が滅せられた場合にその者に移り住む予定でやったことだと思われます」
 「どうしてそうならなかったのだ?」
 「あなた様が完全に悪魔を消し去ったためでしょう。だから欠片を持つ残された者が、自分の意志で扱うことになったのかと」
 「そうか、よく分かった」

 俺は根本的な話を麗星に聞いた。

 「悪魔と妖魔の違いは、以前に神と戦ったかどうかだと聞いた。そういう認識でいいのか?」
 「はい、概ねそのようなことかと。この世での構成や構造は似通ったものがありますが、悪魔というのは多くが元々は強大な力を持つ神や天使だった者たちです」
 「神もいるのか!」
 「はい。あなた様は既に、そのような者と遭遇しております」
 「!」

 麗星はその名を口には出さなかった。
 道間家の人間には出来ないことなのだろう。
 しかし、俺に話したということは、俺ならばある程度は自由に出来るということだと思った。
 だから確認した。

 「俺が直接話すことは出来るか?」
 「分かりません。普通の人間には到底無理でしょう。でも、あなた様は特別ですので」
 「分かった。ハイファ!」

 俺の前に、白装束のハイファが現われた。

 「今の話を聞いていたな」
 「はい」
 「答えられなければ話さなくてもよい。お前は元は神だったのか」
 「その通りでございます」

 ハイファが認めた。

 「他の神に戦いを挑んだのか」
 「その通りでございます」
 「それはいつのことだ」
 「遙かな太古の昔。人間にはそのようなことになりましょう」

 恐らくは、この地球に人間がまだ生まれていなかった時代なのではないか。
 俺の中の何かがそう告げているように感じた。 
 そのような存在が、どうして道間家に関わっているのか。
 でも、ハイファが道間家にいる一端のことは以前に聞いている。
 道間家を最高の状態にすることだ。
 具体的には道間皇王の誕生だ。
 その先はハイファは口にしていない。
 でも俺には想像出来た。

 「ハイファ、お前はまだ戦っているのか」
 「……」
 
 ハイファは答えなかった。
 しかし、否定せずにいるということが、俺の問いへの答えだった。

 道間皇王が神と戦える者になる。

 そのためにハイファは長い年月を道間家に寄り添って来た。
 再び戦うために。
 
 「ハイファ、天狼を宜しく頼む」
 「はい、必ず」

 ハイファは今度はニッコリと笑って俺を見た。
 これ以上は何も聞くことはない。
 俺の問いにハイファは正面から答えてくれた。
 道間家でハイファの望むものが確定して来たからだろうと思う。
 天狼が誕生し、その資質をハイファは確認している。
 人間の俺たちとしては随分と無茶で理不尽なこともあったが、ハイファとは存在が違うのだ。
 今後俺たちとハイファの望みが異なることにもなるかもしれない。
 でも、俺はハイファの中に、確かな「愛情」を感じていた。
 天狼を護り、道間家を護る愛だ。
 それだけは覆されることのない、俺たちの繋がりだ。
 俺はハイファを戻し、酒を飲んだ。




 
 美しい道間家の庭に、夏らしく様々な植物が生い茂り、美しい花が咲いている。
 ライトアップなどは全く無いが、その存在を不思議と強く感ずる。

 夜風に乗った花の香にいい気分になった。
 麗星が俺のグラスに酒を注ぐ。
 美しく、愛する女の酌に、またいい気分になった。

 ハスの花の香りが一際強く漂って来た。
 まるで極楽浄土を感じさせる、幻想的な夜になった。
 美しいその花を見たいとも思ったが、今夜は香りだけで良いと思い直した。
 何もかも手に入れたい俺ではない。

 麗星が優しく微笑んでいた。
 本当に美しい女だと思った。
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