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真夜の宝物

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 夕方に目を覚ました。
 まだ激痛があるので、熟睡出来ないでいる。
 それでも蓮花のスムージーが効いたか、寝る前よりも大分いい。
 夕飯は野菜カレーを頼んでいる。
 あれが体力回復には最もいい。
 何とか歩けるが手を貸してもらおうと、内線で子どもたちを呼んだ。
 全員が上がって来た。

 「おい、一人でいいぞ」
 
 全員が床に土下座した。

 「なんだ!」
 
 「さっき、真夜が庭で転びまして」
 「怪我したのか?」
 「いいえ、シャベルが土に刺さりまして」
 「あ?」

 何を言ってんだ?

 「ヒヒイロカネが2トン出て来ました」
 「!」

 気を喪いそうになった。
 あいつの豪運は一体どうなってやがる。

 「それと」
 「まだあんのか!」
 
 ハーが日本刀を俺のベッドに持って来た。
 鞘を払う。
 真っ黒の刀身。

 「黒笛かよ!」
 「はい。2回目に転んだ時に」
 「あのやろう!」
 
 真夜はいなかった。

 「あの」
 「なんだよ!」
 「100振り……」
 「……」

 体力が無くて怒鳴れなかった。
 情けない。
 とにかく俺を運べと言い、亜紀ちゃんにおぶさった。
 リヴィングのテーブルになんとか座り、野菜カレーを食べた。

 「ルー、ハー」
 「「はい!」」
 「「李さん」はぶっ壊せ」
 「「!」」
 
 二人が大泣きするので、勘弁した。

 「タカさん、真夜が謝りに来たいと」
 「いいよ、あいつのせいでもねぇだろう」

 確実にあいつの妙な豪運のせいだが。
 元々はクロピョンだが。

 「でも、真夜も気が済まないと思います」
 「しょうがねぇな」

 亜紀ちゃんが電話し、すぐに真夜が来た。
 走って来たのだろう。
 息を整えながら上がって来た。

 「石神さん! 申し訳ありません!」
 「いいよ、お前も災難だったな」

 お前が災難なんだけどな。

 「そんな! 石神さんにちゃんと言われてましたのに!」
 「いいって。まあ、真夜が掘り出すものって本当に良い物だからな。特に今回は俺たちにとっても重要なものだ」

 「黒笛」は虎白さんたちに送ろう。
 ヒヒイロカネは見当もつかないが。

 「でも、本当に申し訳なくて!」
 「まあ、あれは幾らで買い取るかなー」
 「ヒィィッ!」
 「1兆円くらいでいいか?」
 「か、勘弁して下さい!」

 随分と安い値段だが。

 「でも、そんな金額じゃ済まないぞ」
 「本当に! 大体石神さんのお庭にあったものですから!」
 「まあ、じゃあ考えておくよ」
 「お願いします! お金はどうか!」
 「じゃあ、俺の身体で支払うか」
 「ほんとですか?」

 亜紀ちゃんに肩を引っぱたかれた。
 あまりの痛さに白目になる。

 「す、すいません!」

 まあ、いつも亜紀ちゃんが世話になっているし、妹の真昼も双子が仲良しで世話になっている。
 何かしてはやりたいのだが。

 「とにかく、礼はさせてくれ。今はちょっと体調が悪くて何も思い浮かばん」
 「はい、あの、気になさらないで下さい」
 「そうはいかん。やってもらったことはきちんと礼をしなければな。まあ、真夜も金は十分にあるだろうから、別な形でな」
 
 真夜がちょっとホッとした顔をした。
 そして俺に言った。

 「一つだけ、お願いしたいことがあるんですが」
 「なんだよ?」
 「「花岡」を本格的に教えてください」
 「なんだと?」

 亜紀ちゃんも驚いて真夜を見る。

 「亜紀さんを護りたいんです! 私、何の力もないから!」
 「おい、真夜……」
 「お願いします! 強くなりたいんです。ずっと亜紀さんの傍にいたいんです!」
 「お前よ……」
 「真夜ぁー!」

 亜紀ちゃんが泣きながら真夜に抱き着いた。
 困った。

 「真夜、お前の気持ちは嬉しいよ。でもな、亜紀ちゃんも俺たちも、お前には普通の暮らしをして欲しいんだよ」
 「いいえ、石神さん! 私は亜紀さんの傍にいたいんです!」
 「弱ったな」

 俺は真夜にも野菜カレーを食べさせた。
 一旦落ち着きたかった。
 真夜は食べながら、また話していた。

 亜紀ちゃんが大好きで、下らない人生から抜け出せたのは亜紀ちゃんのお陰なのだと言った。
 高校生活も充実し、亜紀ちゃんのお陰で一緒に東大の医学部にも入れた。
 「カタ研」にも誘ってもらい、本当に嬉しかった。
 何度か亜紀ちゃんに「花岡」を教えてくれるように頼んだこと。
 それがいつも断られ、基本動作だけ教わったこと。
 それは真夜が暴漢などから身を護ることが出来るようにしてくれたこと。
 「カタ研」で何とか亜紀ちゃんの役に立とうと頑張っていること。
 いずれは研究者として「虎」の軍で働こうと思っていたこと。
 でも、亜紀ちゃんと一緒に戦いたいのだと。

 俺は困ってはいたが、やはり嬉しかった。
 真夜がこの世で望む唯一のものが亜紀ちゃんなのだ。
 亜紀ちゃんへの友情で真夜がここまで言ってくれることが本当に嬉しかった。
 亜紀ちゃんも聴きながらずっと泣いていた。

 「まあ、分かったよ。ソルジャーにするかどうかは別にして、「花岡」は習得させてやる。まあ、才能があればだけどな。でも、第二階梯までは真面目にやれば習得出来る。そうすれば、大抵の危機は乗り越えられるだろう」
 「ほんとですか!」
 「興味があるなら、真昼にも教える。聞いてみろよ」
 「ありがとうございます!」

 亜紀ちゃんも俺たちも、真夜や真昼を喪いたくはない。
 俺たちにこれだけ近い人間なので、狙われる可能性だってある。
 そう考えた。
 何にも増して、真夜の真剣で熱っぽい眼差しが俺の心を決めさせた。
 真夜はこの若さで、既に美しい宝石を抱いているのだ。
 亜紀ちゃんがニコニコして俺を見ていた。

 「但し、教えるのはルーとハーだ」
 「タカさん! どうしてですか!」
 「お前がいつもやり過ぎるからだよ!」
 「えぇー!」

 みんなが笑った。

 「じゃあ、悪いけど俺はまた休むな。ルー、ハー、真夜たちの訓練メニューを考えて相談してくれ」
 「「はい!」」
 「わたしもー!」
 「ああ、柳も一緒にやってくれないか?」
 「はい! 喜んで!」
 「わたしもー!」

 俺は皇紀に肩を借りて、また寝室へ行った。




 5年後。
 《Nuit et jour(ニー・エ・ジュール:夜と昼)》という二人の「虎」の軍のソルジャーが各地で華々しい戦果を挙げて行くようになった。
 最高幹部の実力を持っていたが、二人はずっとディアブロ・アキの麾下で活動した。
 よくディアブロ・アキの訓練での暴走や酒の席でのトラブルを、姉の真夜が宥めて納めてくれるので、他のソルジャーたちから感謝された。

 俺はまだそれを知らない。
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