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吉野 牛鬼狩 Ⅴ
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全身の激痛で目が覚めると、あの駐車場の広場に横たわっていた。
体中がシュワシュワだ。
あの人ら、平然と刀でズブズブにしやがった。
どういうわけか、ギリギリで死なない程度に痛めつけることが出来る人たちだ。
俺もいろいろと言いたいことはあるが、まあ、今回は仕方が無いと思った。
俺の勘違いで、みんな死ぬところだったのだ。
「タカさん、大丈夫?」
ハーが俺の傍に座っていた。
気が付いた俺の頭を膝に乗せてくれる。
「奈津江は見えなかったな」
「うふふふふ」
ハーが優しい笑顔で笑った。
こいつ、いつの間にこんな顔が出来るようになったのか。
ルーも来た。
俺の頭を撫でてくれる。
「タカさん、お疲れ様」
「おう」
宴会が始まっていた。
怒貪虎さんを囲んで、みんなが飲み食いしている。
ルーは食材をバーベキュー台で焼いていたようだ。
「どのくらい寝てた?」
「4時間くらいかなー」
「そっか」
「身体はどう?」
「いってぇー」
「「アハハハハハ!」」
二人が笑う。
「最初にでかい奴をよ、俺が殺しちまったんだ」
「うん」
「そうしたらすげぇ怒られてさ。だからあいつは手加減してたのな」
「そうだったんだ」
「まったくよ。虎白さんたちの言うことって全然分かんねぇんだよな」
「うーん」
「怒貪虎さんと同じだぜ」
「そうかな」
ルーが微笑んで言った。
虎白さんが気付いて俺たちに近づいて来た。
「よう、生きてっか?」
「なんとか」
「じゃあ、後でしっかりぶっ殺してやんよ」
「あはははは」
虎白さんが俺の前に胡坐をかいた。
「おめぇはほんとにバカだかんな」
「すいませんでした」
「他の連中には言わなくたって伝わるのによ。お前の場合は言っても伝わらねぇってなぁ」
「ほんとにすいません」
虎白さんが笑った。
「まあ、お前が当主だ。お前の前で死ねれば俺たちは満足だけどな」
「さっき俺を死ぬほどやりましたよね?」
「ガハハハハハハハハ!」
虎白さんが、ルーとハーに怒貪虎さんにカールを持って行ってくれと頼んだ。
二人は察してハマーにあった袋を持って行った。
虎白さんが俺を見詰めて言った。
「高虎、お前俺たちは必要ねぇか?」
「はい?」
「俺らはこんなだからよ。頭のいいお前の作戦なんてなぞれねぇけどな」
「そんなことは。北アフリカでも助かりましたし」
虎白さんが俺の頭に手を置いた。
「俺たちは戦って死にたいのよ」
「はい、知ってます」
「お前のためにな」
「え?」
虎白さんが笑っていた。
「虎影のことはみんな大好きだったんだ。その虎影が運命の子を産むんだって言ってた。高虎、お前が生まれたって聞いて、俺らがどれだけ喜んだか知らねぇだろう?」
「!」
「虎影はな、最初は別な名前を考えてたんだよ。孝子さんと一緒にな。でも俺らが頼み込んだ。お前に「虎」の名を付けてくれってさ。虎影は最初は断ってたけどな。俺たち全員で押し掛けてうんと言うまで帰らなかった」
「虎白さん、それで俺が「高虎」って名前になったんですか」
「そうだよ! いい名前だ。ああ、もちろん虎影が付けたんだぜ? 孝子さんも喜んでたよ」
「そうなんですか」
「おい、なんだ泣いてるのか」
「だって……」
俺の目から涙が零れていた。
「最初からな、お前が次の当主に決まってた。俺らの夢だったんだ。お前は尋常じゃない運命を背負っていた。何度も死に掛けたよなぁ」
「はい。虎白さんたちが必死でやってくれたことも知ってます。そのお陰で俺は……」
「おう、必死だったぜ。何しろ俺らの夢だったしな。頑張ったよ」
以前はそんな風には言わなかった。
俺と虎白さんたちとの絆が強まったのだ。
「吉原龍子さんと巡り合わせてくれたのも」
「ああ、あの人な。でも、あの人もすぐにお前のために動いてくれた。お前のことを気に入ってたよ」
「はい、そうですか」
双子が怒貪虎さんに抱き着いていた。
怒貪虎さんが嬉しそうに双子の肩に手を回していた。
「あの怒貪虎さんもな」
「え?」
「お前、竜胆の花が綺麗だって言ったんだって?」
「!」
俺が子どもの時に山の中で出会った人だ。
あの時は武士の姿だったが。
「この花があればもう他はいらないって言っただろう? 怒貪虎さんが喜んでたよ」
「あの人は!」
虎白さんが俺の口をそっと塞いだ。
「口にするな。あの人は石神家の守護神だ。絶対に名を知られるな」
「……」
虎白さんがまた俺の頭に手を乗せた。
「虎白さん」
「あんだよ」
「これから、どんどんお願いしていいですか?」
「おう!」
「俺を助けて下さい!」
「任せろ!」
虎白さんが嬉しそうに笑った。
「じゃあ、そろそろお開きだ! 最後にやっぞ!」
虎白さんが歌い出した。
♪ ドドンコー ドドーンコォ ドンドコドン(どんどこどん) ドドンコー ドドーンコォ ドコドコドン(どこどこどん) ドドンコドドンコ ドーコドコドコドーン (どどんこどん どこんこどん) ♪
全員が輪になって踊った。
双子も一緒に楽しそうに踊っている。
怒貪虎さんが真ん中で踊っている。
俺は生憎身体が動かねぇ。
でも、一緒に歌った。
全員が荷物を積み込み、エンジンを掛けて行った。
酒を飲まない人間もいたのだろう、と思う。
まあ、どうでもいい。
虎白さんと怒貪虎さんが来た。
「お前、運転出来んのか?」
「誰か呼びますよ」
「そっか」
「怒貪虎さん、お世話になりました」
「ケロケロ」
やっぱ分かんねぇ。
「また、いつか」
「ケロケロ」
俺の頭をペチっと叩いて笑って去った。
車には乗らず、山の中へ入って行く。
そういう人なのだろう。
まあ、街には出れないだろうが。
石神家の人間が去り、俺と双子が取り残された。
「おい、亜紀ちゃんを呼んでくれ」
「はーい!」
ルーが電話した。
10分後に、「Ωスーツ」を着た亜紀ちゃんが飛んで来た。
もう夜の8時になっている。
「タカさん!」
「おう、悪いな。ハマーを運転してくれ」
「大丈夫なんですか!」
「大丈夫だよ。まあ、数日は寝てる」
「タカさん!」
双子が亜紀ちゃんを説得し、俺は後ろのシートを倒してベッドにしたところへ寝かされた。
双子が添い寝する。
亜紀ちゃんがゆっくりと走らせた。
「家に着くのは夜中か」
「ゆっくり行きますから!」
「頼むぜ」
まだ身体が痛む。
「あ、タカさん!」
運転している亜紀ちゃんが呼んだ。
「なんだ?」
「お昼頃に、「李さん」が再起動したんです!」
「ああ、あれか。こうなっちまう予言だったのかな」
「……」
亜紀ちゃんが黙っている。
「どうした?」
「それがですね、ちょっと違うんですよ」
「なんだ?」
「あのですね、「李さん」が言ってたのは、「子どもの誕生日は祝えない」って」
「!」
明日、吹雪の誕生日を祝う約束を六花としていた。
六花が飛び上がって物凄く喜んでいた。
俺は子どもたちの誕生日祝いなどしたことがない。
今年は士王と天狼のためにちょっと時間を作って誕生日祝いのようなことをした。
だから吹雪にもと思ったのだ。
石神家本家の行事が終わるまでは俺も楽しめないので、時期をずらした。
「六花は、明日のためにいろいろ準備しているはずだ!」
「タカさん、無理だよ! 死んじゃうよ!」
「いや、絶対に行く!」
部屋を飾り付けるのだと言っていた。
普段やったことはないだろう六花が、笑顔で楽しそうにそう言っていた。
「死んでも行く」
「「「タカさーん!」」」
翌日。
俺は全身に包帯を巻き、悪いが寝間着のままで運ばれた。
亜紀ちゃんと双子が付き添い、ハマーからストレッチャーに乗せられて六花のマンションの部屋に入った。
「トラ!」
「おーす!」
出迎えた六花が驚く。
ルーが事情を話し、とにかく俺が来たがったから運んで来たと言った。
そのままリヴィングのソファに横たえられる。
何も飲み食い出来なかったが、吹雪が俺の傍で笑っていた。
子どもたちは遠慮してハマーで待っていた。
「トラ、こんな姿になってまで」
「六花と吹雪を愛しているからな」
「トラぁー!」
六花が抱き着いて、長いキスをした。
苦しいので、途中でタップした。
バースデーケーキを一口だけ、根性で口に入れた。
家に戻り、占いロボ「李さん」にはカバーが掛けられ、裏の研究棟に仕舞われた。
「先のことなんか、知らないでいいよな」
「「うん!」」
双子が笑って運んで行った。
体中がシュワシュワだ。
あの人ら、平然と刀でズブズブにしやがった。
どういうわけか、ギリギリで死なない程度に痛めつけることが出来る人たちだ。
俺もいろいろと言いたいことはあるが、まあ、今回は仕方が無いと思った。
俺の勘違いで、みんな死ぬところだったのだ。
「タカさん、大丈夫?」
ハーが俺の傍に座っていた。
気が付いた俺の頭を膝に乗せてくれる。
「奈津江は見えなかったな」
「うふふふふ」
ハーが優しい笑顔で笑った。
こいつ、いつの間にこんな顔が出来るようになったのか。
ルーも来た。
俺の頭を撫でてくれる。
「タカさん、お疲れ様」
「おう」
宴会が始まっていた。
怒貪虎さんを囲んで、みんなが飲み食いしている。
ルーは食材をバーベキュー台で焼いていたようだ。
「どのくらい寝てた?」
「4時間くらいかなー」
「そっか」
「身体はどう?」
「いってぇー」
「「アハハハハハ!」」
二人が笑う。
「最初にでかい奴をよ、俺が殺しちまったんだ」
「うん」
「そうしたらすげぇ怒られてさ。だからあいつは手加減してたのな」
「そうだったんだ」
「まったくよ。虎白さんたちの言うことって全然分かんねぇんだよな」
「うーん」
「怒貪虎さんと同じだぜ」
「そうかな」
ルーが微笑んで言った。
虎白さんが気付いて俺たちに近づいて来た。
「よう、生きてっか?」
「なんとか」
「じゃあ、後でしっかりぶっ殺してやんよ」
「あはははは」
虎白さんが俺の前に胡坐をかいた。
「おめぇはほんとにバカだかんな」
「すいませんでした」
「他の連中には言わなくたって伝わるのによ。お前の場合は言っても伝わらねぇってなぁ」
「ほんとにすいません」
虎白さんが笑った。
「まあ、お前が当主だ。お前の前で死ねれば俺たちは満足だけどな」
「さっき俺を死ぬほどやりましたよね?」
「ガハハハハハハハハ!」
虎白さんが、ルーとハーに怒貪虎さんにカールを持って行ってくれと頼んだ。
二人は察してハマーにあった袋を持って行った。
虎白さんが俺を見詰めて言った。
「高虎、お前俺たちは必要ねぇか?」
「はい?」
「俺らはこんなだからよ。頭のいいお前の作戦なんてなぞれねぇけどな」
「そんなことは。北アフリカでも助かりましたし」
虎白さんが俺の頭に手を置いた。
「俺たちは戦って死にたいのよ」
「はい、知ってます」
「お前のためにな」
「え?」
虎白さんが笑っていた。
「虎影のことはみんな大好きだったんだ。その虎影が運命の子を産むんだって言ってた。高虎、お前が生まれたって聞いて、俺らがどれだけ喜んだか知らねぇだろう?」
「!」
「虎影はな、最初は別な名前を考えてたんだよ。孝子さんと一緒にな。でも俺らが頼み込んだ。お前に「虎」の名を付けてくれってさ。虎影は最初は断ってたけどな。俺たち全員で押し掛けてうんと言うまで帰らなかった」
「虎白さん、それで俺が「高虎」って名前になったんですか」
「そうだよ! いい名前だ。ああ、もちろん虎影が付けたんだぜ? 孝子さんも喜んでたよ」
「そうなんですか」
「おい、なんだ泣いてるのか」
「だって……」
俺の目から涙が零れていた。
「最初からな、お前が次の当主に決まってた。俺らの夢だったんだ。お前は尋常じゃない運命を背負っていた。何度も死に掛けたよなぁ」
「はい。虎白さんたちが必死でやってくれたことも知ってます。そのお陰で俺は……」
「おう、必死だったぜ。何しろ俺らの夢だったしな。頑張ったよ」
以前はそんな風には言わなかった。
俺と虎白さんたちとの絆が強まったのだ。
「吉原龍子さんと巡り合わせてくれたのも」
「ああ、あの人な。でも、あの人もすぐにお前のために動いてくれた。お前のことを気に入ってたよ」
「はい、そうですか」
双子が怒貪虎さんに抱き着いていた。
怒貪虎さんが嬉しそうに双子の肩に手を回していた。
「あの怒貪虎さんもな」
「え?」
「お前、竜胆の花が綺麗だって言ったんだって?」
「!」
俺が子どもの時に山の中で出会った人だ。
あの時は武士の姿だったが。
「この花があればもう他はいらないって言っただろう? 怒貪虎さんが喜んでたよ」
「あの人は!」
虎白さんが俺の口をそっと塞いだ。
「口にするな。あの人は石神家の守護神だ。絶対に名を知られるな」
「……」
虎白さんがまた俺の頭に手を乗せた。
「虎白さん」
「あんだよ」
「これから、どんどんお願いしていいですか?」
「おう!」
「俺を助けて下さい!」
「任せろ!」
虎白さんが嬉しそうに笑った。
「じゃあ、そろそろお開きだ! 最後にやっぞ!」
虎白さんが歌い出した。
♪ ドドンコー ドドーンコォ ドンドコドン(どんどこどん) ドドンコー ドドーンコォ ドコドコドン(どこどこどん) ドドンコドドンコ ドーコドコドコドーン (どどんこどん どこんこどん) ♪
全員が輪になって踊った。
双子も一緒に楽しそうに踊っている。
怒貪虎さんが真ん中で踊っている。
俺は生憎身体が動かねぇ。
でも、一緒に歌った。
全員が荷物を積み込み、エンジンを掛けて行った。
酒を飲まない人間もいたのだろう、と思う。
まあ、どうでもいい。
虎白さんと怒貪虎さんが来た。
「お前、運転出来んのか?」
「誰か呼びますよ」
「そっか」
「怒貪虎さん、お世話になりました」
「ケロケロ」
やっぱ分かんねぇ。
「また、いつか」
「ケロケロ」
俺の頭をペチっと叩いて笑って去った。
車には乗らず、山の中へ入って行く。
そういう人なのだろう。
まあ、街には出れないだろうが。
石神家の人間が去り、俺と双子が取り残された。
「おい、亜紀ちゃんを呼んでくれ」
「はーい!」
ルーが電話した。
10分後に、「Ωスーツ」を着た亜紀ちゃんが飛んで来た。
もう夜の8時になっている。
「タカさん!」
「おう、悪いな。ハマーを運転してくれ」
「大丈夫なんですか!」
「大丈夫だよ。まあ、数日は寝てる」
「タカさん!」
双子が亜紀ちゃんを説得し、俺は後ろのシートを倒してベッドにしたところへ寝かされた。
双子が添い寝する。
亜紀ちゃんがゆっくりと走らせた。
「家に着くのは夜中か」
「ゆっくり行きますから!」
「頼むぜ」
まだ身体が痛む。
「あ、タカさん!」
運転している亜紀ちゃんが呼んだ。
「なんだ?」
「お昼頃に、「李さん」が再起動したんです!」
「ああ、あれか。こうなっちまう予言だったのかな」
「……」
亜紀ちゃんが黙っている。
「どうした?」
「それがですね、ちょっと違うんですよ」
「なんだ?」
「あのですね、「李さん」が言ってたのは、「子どもの誕生日は祝えない」って」
「!」
明日、吹雪の誕生日を祝う約束を六花としていた。
六花が飛び上がって物凄く喜んでいた。
俺は子どもたちの誕生日祝いなどしたことがない。
今年は士王と天狼のためにちょっと時間を作って誕生日祝いのようなことをした。
だから吹雪にもと思ったのだ。
石神家本家の行事が終わるまでは俺も楽しめないので、時期をずらした。
「六花は、明日のためにいろいろ準備しているはずだ!」
「タカさん、無理だよ! 死んじゃうよ!」
「いや、絶対に行く!」
部屋を飾り付けるのだと言っていた。
普段やったことはないだろう六花が、笑顔で楽しそうにそう言っていた。
「死んでも行く」
「「「タカさーん!」」」
翌日。
俺は全身に包帯を巻き、悪いが寝間着のままで運ばれた。
亜紀ちゃんと双子が付き添い、ハマーからストレッチャーに乗せられて六花のマンションの部屋に入った。
「トラ!」
「おーす!」
出迎えた六花が驚く。
ルーが事情を話し、とにかく俺が来たがったから運んで来たと言った。
そのままリヴィングのソファに横たえられる。
何も飲み食い出来なかったが、吹雪が俺の傍で笑っていた。
子どもたちは遠慮してハマーで待っていた。
「トラ、こんな姿になってまで」
「六花と吹雪を愛しているからな」
「トラぁー!」
六花が抱き着いて、長いキスをした。
苦しいので、途中でタップした。
バースデーケーキを一口だけ、根性で口に入れた。
家に戻り、占いロボ「李さん」にはカバーが掛けられ、裏の研究棟に仕舞われた。
「先のことなんか、知らないでいいよな」
「「うん!」」
双子が笑って運んで行った。
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