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吉野 牛鬼狩 Ⅳ

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 突然、巨大な気配が湧き起った。
 丁度虎白さんに、3本目の「カサンドラ」を届けた所だった。

 「なんだこりゃ!」
 「でかいですね!」

 50メートル級の時も大きかったが、それよりも遙かにでかい。

 「こいつはまずいぜ」
 
 あの虎白さんが少し脅えの気配さえ浮かべている。
 そんな顔は初めて観た。

 「高虎! とにかく急いで行くぞ!」
 「はい!」

 俺も呼んでもらえた。
 今度は失敗しないぞー!





 山頂に近い場所だった。
 体長240メートルの桁違いの牛鬼だった。
 集まって来る剣士は、剣聖たちが離れているように言っていた。
 剣士では多分一蹴で殺される。
 5人の剣聖だけが現場に集結した。
 他の剣士から預かったらしい「カサンドラ」を大量に持っている。

 「虎白! こりゃ見切戦か?」

 見切戦とは、多分一人が犠牲になって次に繋げるあの作戦のことだろう。
 先ほども、他の剣士たちがやろうとしていた。
 石神家の剣士たちは、敵の強さを見誤らない。
 それ程の強い敵だということだ。
 虎白さんが俺を見た。

 「どうだ、高虎?」

 虎白さんはやれると踏んでいるようだった。
 俺まで加えてくれるのは嬉しかった。
 俺も笑顔で応えた。

 「ぶっ殺しましょうよ。あんなのは残しとくと不味い」
 「そうか!」
 「はい!」

 虎白さんが俺の背中を叩き、他の剣聖たちも笑った。
 どうやら討伐に決まったようだ。

 「二人一組だ。一人は虎楯に徹しろ。「カサンドラ」はどうだ?」
 「さっき離れた連中から全部もらってきた」
 
 全部で30本ほどあった。

 「5本ずつ持て。50分はもつな」

 ロングソード・モードは10分でクールタイムに入る。

 「高虎はさっきの攻撃で仕掛けろ」
 「分かりました!」
 「てめぇ、分かってるだろうなぁ!」
 「身に染みてます!」

 俺にとどめを刺すなということだろう。
 あんなに恐ろしく強大な敵を前に、流石に石神家の剣聖たちは違う。
 
 「じゃあ行くぞ!」

 虎白さんが号令を掛け、全員が散っていく。
 俺はまた空中へ上がり、「オロチストライク」を連射した。
 さっきは「オロチ大ストライク」で一撃で仕留めてしまったからだ。
 予想通り、「オロチストライク」は全然効かず、痛みは与えているようだがダメージはほぼ無かった。
 やはり異常に頑丈な奴だ。

 虎白さんたちが俺を見ている。
 怖い顔をしているのが見える。
 俺は笑顔で手を振って斃さないので安心するように伝えた。
 でも、虎白さんたちも攻めあぐねているようだった。
 何しろ巨大な体躯だ。
 一人が奥義で攻撃し、もう一人は敵の攻撃を防ごうとしている。
 防衛担当がさっき虎白さんが言っていた「虎楯」ということなのだろう。

 剣聖の一人が倒れた。
 何かおかしい。

 その時、俺は空中から急速に接近する気配を捉えた。
 プレッシャーは無いので敵ではない。
 しかし、ここには石神家の剣聖以上の強い者はいないはずだた。

 「あれは!」

 緑色の影が高速で移動し、巨大牛鬼の頭部へ迫った。

 ぺちん

 牛鬼の頭が破裂した。

 「!」

 怒貪虎さんだった!
 怒貪虎さんは地上に立って、何か舞のような動きをし、牛鬼の粉砕された首の巨大な傷へ向かって何かを撃ち込んだ。
 牛鬼の身体に亀裂が入り、バラバラに刻まれて沈んだ。
 周囲にいた虎白さんがちが一斉に地面に倒れた。
 俺は急いで救出へ向かった。

 ほとんどの剣聖たちは意識を喪い掛けていた。
 俺は全員に「Ω」「オロチ」の粉末を飲ませて離れた場所へ移動させた。
 怒貪虎さんも、そっちへ行く。
 虎白さんはかろうじて意識があった。

 「高虎……」
 「はい、勝ちましたよ!」
 「……」

 運んだ。
 俺はハマーに戻り、「エグリゴリΩ」の粉末を取り出した。

 「「タカさん!」」

 ウインナーを焼いていた双子も呼ぶ。

 「一緒に来い! 急げ!」
 「「はい!」」

 双子がウインナーを口に咥えて一緒に空中へ飛んだ。
 空中で繋がったウインナーが次々と双子の口に消えた。




 倒れていた虎白さんたちに「エグリゴリΩ」の粉末を飲ませ、双子が「手かざし」をして回った。
 全員が意識を取り戻し、20分もすると動けるようになった。

 虎白さんたちは怒貪虎さんに土下座で感謝した。

 「ありがとうございました! お陰で命拾いしました!」
 「ケロケロ」
 「すいません! 俺らだけでやれると踏んでいたんですが」
 「ケロケロ」
 「はい! おっしゃる通りです!」

 俺には相変わらず「ケロケロ」は分からん。
 虎白さんが俺を向いた。
 他の剣聖たちもだ。

 「高虎」

 俺なんかにまで礼を言われるのは違う。
 俺は万一のために持って来た「エグリゴリΩ」を使っただけだ。

 「高虎、お前……」

 虎白さんは立ち上がりながら手足を動かしていた。
 自由に動くのを確認しているようだ。
 他の剣聖たちも同じように動いていた。

 「虎白さん、俺はたまたま持って来た「Ω」の粉末を使っただけで、あ、あれはちょっと特殊なもの……」
 「高虎ぁ!」
 「はい!」

 虎白さんが恐ろしい声で叫んだ。

 「てめぇ! なんであいつをすぐに殺さなかったぁ!」
 「へ?」
 「てめぇがぐずぐずしてやがったから! 俺らは死ぬとこだったぞ!」
 「はい?」

 俺の頭が真っ白になった。

 「最初に言ったよな! お前に頼むってよ!」
 「あ、あれは、俺に余計なことをすんなって……」
 「このバカヤロウ!」

 虎白さんにぶっ飛ばされた。

 「死んだ女房と子どもたちが見えたぞ!」

 他の剣聖たちも来た。

 「死んだお袋が手を振ってた!」
 「じいちゃんが花畑にいたぞ!」
 「ポチが足元にいた!」
 「……」




 全員にボコボコにされた。
 「エグリゴリΩ」の粉末が無ければヤバかった。
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