上 下
2,004 / 2,808

吉野 牛鬼狩 Ⅲ

しおりを挟む
 怒貪虎さんと一緒にカールを食べながら、いろんな話をした。
 主に私たちがタカさんの話をした。

 「私たちの両親が突然死んじゃってね。タカさんが兄弟4人を引き取ってくれたの!」
 「凄いおっきい家でね。でもそんなことよりも、タカさんが優しくって! 毎日泣いてたんだけど、すぐに元気になった!」
 「ご飯も毎回美味しい物を作ってくれてね!」
 「だからタカさんのために、何でもしたいの! 大好き!」
 「超好き!」

 怒貪虎さんは笑って私たちの話を聞いてくれた。

 突然、大きな気配がした。
 まるで爆発したみたいな巨大な圧力。
 怒貪虎さんが立ち上がった。

 「怒貪虎さん!」
 「ケロケロ!」
 「うん、お願いします!」
 「タカさんたちを助けて!」

 「ケロケロ」

 怒貪虎さんが走って山に入って行った。
 時々ジャンプして木々を乗り越えていく。
 物凄い速さだった。

 「タカさん……」

 私たちは怒貪虎さんの進む方角をずっと見ていた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 俺が「飛行:鷹閃花」で向かうと、巨大な牛鬼が見えた。
 体長50メートルはありそうだった。
 8人の剣士が周辺にいて、既に1人が立ち向かい離れて3人。
 他の剣士は逃げようとしていた。
 石神家の剣士はその場で勝てない強敵に対峙した場合、一人が犠牲になって敵の技や能力を出来るだけ出させていく。
 それを数人が見届けてその情報を持ち帰り、返し技を編み出す。
 数人が見届けるのは、途中で敵に殺される可能性があるからだ。
 だから別々な方向へ逃げて追跡をかわす。
 今も、一人の剣士が立ち向かい、3人が離れてそれを観ていた。
 他の4人は先に逃げて行く。
 
 「どこにいたんだよ、あんな奴!」

 俺は地上へ向かった。
 上空から、他の剣士が向かってくるのが見えた。
 単独で行動してた「剣聖」たちだ。
 俺は地上に降りた。
 一人残った剣士の隣に立った。

 「俺がやります! 離れていて下さい!」
 「ダメだ! お前は生き残らなくちゃいけねぇ!」
 「何言ってんですか!」
 「当主なんだからよ!」
 「!」

 何言ってんだ。
 牛鬼の背中の剛毛が逆立つ。
 これほど大きいと、まるで一本一本が槍のようだ。

 「来るぞ!」
 「おう!」

 俺が叫び、剣士が応じた。
 俺は前方に「虚震花」を撃ち込んだ。
 剛毛が霧散していく。
 剣士が大笑いして喜んだ。

 「行くぞ!」
 「俺も行く!」

 俺と剣士が一緒に走る。
 でかい脚が俺たちを薙ぎに来た。
 先に剣士が刀身で受け、そのままへし折られた。
 俺が飛んで必死に「流星剣」を合わせる。
 脚の半分が斬り裂かれた。

 倒れた剣士を抱き起した。
 
 「大丈夫か!」

 意識はあったが喋れない。
 口から鮮血を吐いた。
 肋骨が肺を破ったのだろう。
 俺はそのまま抱えて飛んで距離を取った。
 剣士は苦しそうな顔のまま、自分で懐から「Ω」「オロチ」の粉末を取り出して口に入れた。
 すぐに表情が柔らかくなる。

 「助かったぜ」
 「いいですよ! 大丈夫ですね?」
 「ああ」
 「じゃあ、ここにいて下さい」

 俺はまた牛鬼に向かって行った。
 牛鬼は俺に斬られた脚を上に持ち上げて威嚇していた。
 俺の「流星剣」でも、一太刀では斬り飛ばせなかった。
 余程の硬度がある。

 「高虎!」
 「虎白さん!」

 虎白さんと他の3人の剣聖が来た。
 流石に速い。

 「どうだ?」

 虎白さんが俺に聞く。
 俺は短い言葉で伝えなければならない。
 切羽詰まった状況で、即座に行動しなければならないためだ。
 敵が尋常では無い妖魔なのは全員が分かっている。

 「「カサンドラ」を。普通の刀剣じゃ斬れません」
 「おし!」

 その遣り取りで十分に伝わった。
 奥義を出し惜しみ出来る相手ではなく、しかも「カサンドラ」が必要になる敵だということだ。
 虎白さんたちが躊躇なく刀を置き、背中から「カサンドラ」を外して握った。
 一人がロングソード・モードにし、200メートルのプラズマの刀身を展開する。
 虎白さんと他の四人は通常のソード・モードで、1.5メートルの刀身を出す。
 そういうことも全員が悟って手分けした。

 何も打ち合わせなく、虎白さんたちは四方へ散った。
 俺はロングソード・モードの剣聖と一緒に正面に残る。
 ロングソード・モードの剣聖が正面から巨大な牛鬼に振り下ろす。
 一撃で両断出来るとは誰も思っていない。
 振り下ろされた「カサンドラ」は、巨大な牛鬼の背中を焼いた。
 牛鬼が絶叫する。
 熱いようだ。

 俺は「ブリューナク」を牛鬼の顔面に見舞った。
 牛鬼の右目が潰れる。

 「ざまぁ!」

 隣の剣聖も「カサンドラ」をどんどん顔に突き刺して行った。
 牛鬼の攻撃が俺たちに集中する。
 俺は飛ばして来る剛毛を「虚震花」で防ぎ、剣聖を護りながら戦った。
 虎白さんたちが四方から同時攻撃を仕掛けた。

 「連山!」
 「煉獄!」
 「雲竜!」
 「疾風」

 牛鬼が脚を斬り飛ばされ、やがて胴体をどんどん削られて行く。
 巨体なので多少の時間は掛かるが、「カサンドラ」を使った奥義は圧倒的だった。
 俺の隣で剣聖が言った。

 「あいつ、ジェヴォーダンよりも硬いな」
 「そうですか!」
 「じゃあ、俺も行くな!」
 「はい!」

 剣聖が笑って突っ込んで行った。
 俺も笑いながら牛鬼の上に飛んだ。
 
 「オロチ大ストライク!」

 虎白さんたちに倣って、技名を叫んでぶっ放した。
 胴体が四散し、牛鬼の身体がペシャンと潰れた。

 「おお!」

 斃し切ったようだ。

 「高虎ぁー!」

 下で虎白さんが俺に叫んだ。

 「はい! やりましたね!」
 「バカヤロウ! 何でてめぇがとどめ刺すんだよ!」
 「え!」
 「しかも一発でよ!」
 「す、すいません!」
 
 手で来いと言っているので、俺は虎白さんの隣に降りた。
 ぶっ飛ばされた。

 「てめぇ! 身体がちょっと痺れたぞ!」
 「すいませんでしたぁ!」
 「ふざけんなぁ!」

 他の剣聖も来て、みんなに蹴りを入れられた。




 50メートル級が他に3体おり、80メートル級が1体いた。
 剣聖たちが争って斃しに行き、俺は「飛行」でどんどんクールタイムに入る「カサンドラ」の予備を運ぶ役目に集中した。
 通常の牛鬼は他の剣士たちが狩って行った。
 堕乱我と違って、ちょっと強すぎだったので、牛鬼は全滅させた。

 あー、俺もやりたかったのになー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...