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占いロボ「李さん」

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 双子が以前から挑戦していることがある。
 「未来予測システム」だ。
 最初は膨大な変数を量子コンピューターで解析し、未来のシミュレーションを行なおうというものだった。
 もちろん難解なカオス理論やフラクタル問題が立ちはだかる。
 だからこそ、数学大好きの双子が燃えた。

 そして、双子ならではのヘンなねじ曲がり方を経て、一つの完成を観た。

 



 「タカさーん! 朝ですよー!」
 「今日はパンツ履いてませんよー!」
 「見せろー!」

 7月最初の土曜日。
 いつものように楽しい双子の朝の起こし方だ。
 俺の頬を二人のモジャモジャが挟み、俺は大満足で起きた。

 「タカさん、今日はちょっと発表があります!」
 「ほう!」

 俺は大満足なので上機嫌で返事した。

 「やっと完成したの!」
 「ちょっとスゴイよ!」
 「なんだよ?」
 
 「「占いロボット!」」
 「ほう!」

 別にそんなに興味は無かったが、一応大満足モードでうなずいた。

 朝食はロールパンにハム、マカロニサラダ、ツナ、スクランブルエッグを自由に挟むものだった。
 子どもたちは楽しそうに選んで挟んで行く。
 俺はスクランブルエッグに七味マヨネーズを乗せて挟んだ。
 
 「あ! 美味しそう!」

 早速他の子どもたちも真似していく。
 まあ、賑やかでいい。

 朝食の後でコーヒーを飲んでいると、双子が台車に何か乗せて来た。
 大きな布が被せられている。

 「発表! 占いロボット「李さん」だよ!」

 ルーが紹介し、ハーが布を取った。
 白髪交じりの総髪長髭の男の上半身だった。
 着物姿で、利休帽を被った易者の姿だ。
 ちょっと険しい表情で俺たちを見ている。

 双子が説明した。

 「李さんは特に手相と顔相を観るよ!」
 「数分後から1週間先まで占うよ!」

 まあ、膨大なデータを駆使して組み上げたのだろうが。
 ロボは最初は見ていたが、すぐに興味を失くしておもちゃ箱からピンポン玉を取り出して遊び始めた。

 「じゃあ、誰か占ってみて!」
 「はい!」

 柳が喰いついた。
 こいつ、占いとか好きだったか。

 ルーがニコニコして柳を李さんの前に連れった。

 「柳ちゃん! 挨拶!」
 「あ! 御堂柳です! 宜しくお願いします!」
 
 李さんがニッコリと笑って、柳の顔をジッと見詰めた。

 「いつもは逃げられない災難が、今日は大丈夫じゃ」
 「え?」
 「お前ぇ! 疑うかぁ!」
 「す、すいません!」

 李さんが真っ赤な顔で怒り、柳が謝った。
 ちょっと気圧されて後ろに下がる。

 ベキ

 ロボが遊んでいたピンポン玉を踏んで潰した。
 柳がよろけて亜紀ちゃんが後ろから支えてやる。

 「あ、ロボ、ごめん!」

 すぐに謝ったが、ロボが「地獄松明燃え尽き百灯キック」を柳に見舞った。
 柳は気付かずに潰したピンポン玉を拾おうと身を屈めた。
 柳の後頭部をロボが通り過ぎ、後ろにいた亜紀ちゃんの顔面に炸裂した。
 亜紀ちゃんがぶっ飛ぶ。
 ロボは満足して毛づくろいを始めた。

 「「「「「……」」」」」」

 当たった。
 毎回100%で柳に命中していたロボキックが、初めてかわされた。
 そしてロボは、キックが誰かに命中さえすれば満足することも分かった。
 へぇー。

 「おい、李さんスゴイな!」
 「そうでしょ!」

 双子が喜んでいた。
 皇紀が手を挙げた。

 「はい、じゃあ次は皇紀ちゃんね!」

 真面目な皇紀がちゃんと挨拶して李さんがニッコリする。

 「お前の隠し事な。彼女にバレるぞ」
 「ギャァァァァァァーーーー!」

 ハーが風花に電話した。

 「あのね、皇紀ちゃんがフィリピンでね……」

 「……」
 
 「おい、また当たったな!」
 「「うん!」」

 皇紀がリヴィングの隅で膝を抱えていた。

 「じゃあ、亜紀ちゃんもいっとく?」
 「えー、私はいいよ」

 亜紀ちゃんは占いに興味が無さそうだ。

 「そんなこと言わずにさ」
 
 ルーに手を引っ張られ、亜紀ちゃんが李さんの前に行った。

 「よろしくお願いしまーす」

 李さんがニッコリせずに亜紀ちゃんを見ていた。
 真剣な顔だ。

 「お前、今日は出掛けない方が良いぞ」
 「なに?」
 「災難の相がある」
 「なんで?」
 「あるのじゃ!」
 「ふーん」

 亜紀ちゃんは全然気にしていない。
 まあ、亜紀ちゃんは大抵の「災難」は乗り越えられる。

 「ちょっとすぐには分かんないね」
 「亜紀ちゃん出掛ける予定なの?」
 「うん、真夜と映画見に行く」
 「そうなんだー」

 映画館に爆弾が仕掛けられても大丈夫だ。
 だから俺も止めなかった。

 


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「あー、面白かったね、真夜!」
 「まさかプーさんがあんなものになってるとは!」

 二人で笑いながら映画館を出た。
 パブリックドメインになったあるキャラクターを使ったホラー映画だった。

 「ねえ、ちょっと何か摘まんで行かない?」
 「まあ、そうなると思いました」
 「アハハハハハ!」

 歌舞伎町に入り、お気に入りになったお好み焼き屋に入った。
 4人前を注文する。

 「ここの店ってちょっと汚いけど美味しいんだよね!」
 「ええ、もう4回目でしたっけ」
 「うんうん!」

 すぐに店員が丼を持って来て、真夜が鉄板に拡げる。
 亜紀にやらせると厄介なことになるからだ。
 自分が焼いたものは、絶対に他人には喰わせない性癖がある。
 でも亜紀が後から悔やむので、真夜が最初から作るという暗黙のルールが出来た。
 そうすると、亜紀も多少は真夜に食べさせられる。
 豚玉スペシャルから。

 「亜紀さん、そろそろ返しますね」
 「うん!」

 亜紀の目が光る。
 もうじきだ。
 真夜はちょっと緊張する。
 誤って最初に手を出すと、本能的な亜紀のパンチが出るからだ。
 亜紀が半分を取るまでは絶対に手を出してはならない。
 亜紀が半分を持って行った。

 「真夜も食べなよー」

 口いっぱいに頬張った声で言う。

 「はい!」

 真夜もニコニコして、残りの一部を切り取った。
 天井から何か音が聴こえる。

 「二階の人も盛り上がってるね!」
 「ああ、そうですね!」

 ザワザワした音。
 二階は畳なので、それが擦れている音だろうか。
 何気なく上を見た真夜が叫んだ。

 「亜紀さん! 危ない!」
 「ん?」

 天井の板が破れ、大量の小さな何かが降って来た。

 「「ギャァァァァァァーーーー!」」

 大量のネズミとゴキブリだった。
 油煙を吸って腐敗していた天井板が、この瞬間に破れた。
 天井裏で巣を作ってうごめいていたネズミとゴキブリが一斉に落ちて来た。
 丁度亜紀の上にあった天井板で、亜紀の全身に降り注ぐ。
 落ちて来たネズミとゴキブリは、恐慌状態で駆け巡り、亜紀の身体にもよじ登って行く。
 反射的に口に持って行ったお好み焼きを口に入れようとして、そこにぶら下がっているゴキブリが口の中に入った。

 「&(’R'&%((&)!!!!」

 意味を為さない悲鳴を上げて、亜紀が店を飛び出した。
 真夜も慌てて追い掛ける。

 「ブリューナク!」
 「亜紀さん、ダメですってぇー!」

 慌てて入り口に真夜が立ちふさがり、亜紀の攻撃を止めた。
 店内は大騒ぎになっていた。





 「当たった……」
 「はい?」

 ようやく気を鎮めた亜紀が呟いた。

 「李さん、すげぇ」
 「はい?」

 亜紀は真夜の手を引いて、靖国通りでタクシーを拾って帰った。

 「李さんって誰です?」
 「神様!」
 「えぇ?」

 亜紀の長い髪の間からゴキブリが頭を出した。
 車内で亜紀が暴れるととんでもないことになるので、真夜は見ないフリをした。
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