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新宿悪魔 XⅣ
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俺たちが現場に着いた時、既に救出者を運んだバスは大破し、全員が殺されていた。
30名いた救出者のうち15人が無残に引き裂かれ、警官に射殺された2名の女性が倒れていた。
移送していた警官5名とパトカーに乗っていた警官8名も死んでいた。
俺はその現場を見て、すぐに子どもたちを移動させた。
もう救出すべき生存者がいなかったからだ。
「お前たちは「真光の会」に戻って待機していろ」
「え? タカさん、一緒に手伝いますよ」
「ここは俺がやる。いいからお前たちは行け」
「はい、分かりましたけど」
亜紀ちゃんが不審そうな顔をしていたが、俺の指示に従った。
紫嵐の運転する「ファブニール」が走り去って行った。
「早乙女、土屋美津の方を頼めるか?」
「ああ、もちろんいいが」
「愛鈴と磯良は外してくれ」
「どうしてだ?」
「土屋美津は善人だ。片桐に犯されて変わってしまっただけだ」
「!」
「こちらを片付けてから俺も向かう。便利屋、お前は悪いが俺に付き合ってくれ」
「合点でございますです」
これから13人の女たちを殺さなければならない。
罪の無い女たちだ。
片桐に無理矢理犯されてその上に悪魔に変えられてしまった哀れな人間たちだった。
その女たちを冷酷にも殺す。
それは俺の役割だ。
土屋美津は、悪いが早霧か葛葉にやってもらうかもしれない。
だが愛鈴や磯良には手を染めて欲しくない。
子どもたちも、磯良たちも、きっと心に傷が付く。
便利屋の索敵で、女たちはすぐに見つかった。
健康保険センターのある交差点だった。
バスからそれほど離れてもいなかった。
まだ北新宿の住民は戻していないので、周囲に人はいない。
女たちはそれほど狡猾ではなかった。
13人が固まって移動していた。
分散して追っ手をかわすという知能が無いのだろう。
人間の理性を喪い、ただ人間を襲って殺すだけの悪鬼になっている。
女たちは俺を見て怯えた。
「許せとは言わん。ここで終わりだ。安らかに逝け」
女たちは低く呻きながら俺を見ていた。
目に涙が浮かんでいるのが見えた。
俺は全員を「虚震花」で消滅させた。
塵芥が女たちの立っていた場所に積み上がり、風に消えて行く。
「旦那、遺体を残して調べなくても良かったんで?」
「ああ、構わない」
「そうですか」
便利屋が残った塵芥に両手を合わせた。
青嵐も降りて来て、一緒に手を合わせた。
俺にはそんな資格は無い。
俺は便利屋を連れて警察病院へ向かった。
まだ「アドヴェロス」のハンターたちは土谷美津を発見していない。
「便利屋、どうだ?」
「それっぽいのを捕まえましたよ。あっちです」
便利屋の案内で青嵐に指示を出していく。
警察病院に隣接する四季の森公園に気配があると言う。
早乙女には、土屋美津も俺が引き受けると連絡した。
俺は青嵐と便利屋を車に残し、公園へ入った。
寝間着姿の土屋美津を見つけた。
「私を殺しに来たのですか?」
驚いたことに、土屋美津には意識があった。
「まだ意識があるのか?」
「はい。でも、恐ろしい欲望の方が強いですけどね」
「間に合うかもしれない。大人しく俺と来てくれ!」
俺が言うと、土谷美津が笑った。
「あなたは優しい人ですね」
「おい! 理性があるのなら、戻る可能性だってあるんだ!」
「もういいんです。私はとんでもないことをしてしまいましたから」
「悪魔の因子のせいだ! あんたのせいじゃないぞ!」
「ダメです。私自身が、もう消えたいんです。最後にあなたに死なせてもらうのなら、それで満足です」
「おい……」
土谷美津が俺の方へ向いて、また微笑んだ。
「私、片桐課長が好きだった」
「……」
「やっと幸せになれると思ったのにな。どうしてこんな……」
「最後に正しいと思う選択が出来るのなら、俺はそう悪くない人生だったと思うよ」
「そう思います? だったらもういいかな。あの看護師さんと警官の方には申し訳ないことをしました」
「仕方がないさ。あんたの優しい心はそれを悔やんでいるんだしな。元々あんたのせいじゃない」
「そうは行きませんけどね。さあ、殺してください」
俺は仮面を外した。
土谷美津に顔を隠したまま殺すのは気が退けたからだ。
「あなたは!」
「?」
「ああ! あなたでしたか! だったらもう本当に満足です!」
「俺を知っているのか?」
「はい! 前に新宿のつばめグリルで偶然お見掛けしたんです。部下の女性がホスト通いで」
「あの時か!」
一江のことだ。
「素敵な方だと思ってました! 部下思いの優しい」
「俺はそんなんじゃないよ」
「あなたとまた出会っていれば」
土谷美津が泣いた。
「また出会っていれば、私の人生も変わったかも」
「あなたは立派な人だ。俺はそう思う」
「ありがとうございます」
俺は「虚震花」で土谷美津を消した。
最後は笑っていた。
その笑顔が俺の脳裏に焼き付いた。
新宿への封鎖が解かれ、昼過ぎからは規制も解けいつもの新宿が戻った。
マスコミが一斉に今回の巨大なワニの化け物について報道を始めた。
「新宿の悪魔」として、大々的に事件のことを発信していく。
「アドヴェロス」の成瀬が報道を誘導し、警察による徹底した捜査と非難誘導により犠牲者が最小限に納まったとした。
幾つもの召喚魔法陣を破壊したことで、事件は終息したと。
「真光の会」の施設は敷地内への立ち入りが拒まれたことで、遅れを生じたことになった。
数日前から先遣の敵が侵入していたと発表された。
「真光の会」の横浜の本山が警察や政府に抗議したが、元々世間から隔離されていたことが逆に非難され、やがて抗議活動も収まった。
「虎」の軍から見舞金100億円が支払われたこともその一因だった。
体長40メートルもの巨大なワニの化け物の映像がマスコミによって流され、日本中を震撼させた。
「真光の会」の他、片桐や土谷美津、庄司和美は先遣隊の犠牲になったと発表され、他にも何人もの行方不明者が同じく犠牲者であることが分かった。
片桐の扱いについて俺と警察とで少し揉めたが、あいつも確かに犠牲者だったのだ。
ザエボスによって変貌させられたのだから。
ザエボスは「業」に送り込まれたのではなかった。
だが、俺の血と響子を欲しがっていた。
ならば、どこかで繋がっていたのかもしれない。
俺はリヴィングで観ていたテレビを消した。
マスコミが犠牲者を通り一遍にしか扱わないことが耐え切れなかった。
化け物を前に怯えながら殺されて行った人間たちだ。
誰にも助けを求められず、蹂躙され殺されるしかなかった。
そして、自分を化け物に変えられ、深い悲しみの中で死んで行った土谷美津。
彼女の、あの最後の笑顔が忘れられない。
30名いた救出者のうち15人が無残に引き裂かれ、警官に射殺された2名の女性が倒れていた。
移送していた警官5名とパトカーに乗っていた警官8名も死んでいた。
俺はその現場を見て、すぐに子どもたちを移動させた。
もう救出すべき生存者がいなかったからだ。
「お前たちは「真光の会」に戻って待機していろ」
「え? タカさん、一緒に手伝いますよ」
「ここは俺がやる。いいからお前たちは行け」
「はい、分かりましたけど」
亜紀ちゃんが不審そうな顔をしていたが、俺の指示に従った。
紫嵐の運転する「ファブニール」が走り去って行った。
「早乙女、土屋美津の方を頼めるか?」
「ああ、もちろんいいが」
「愛鈴と磯良は外してくれ」
「どうしてだ?」
「土屋美津は善人だ。片桐に犯されて変わってしまっただけだ」
「!」
「こちらを片付けてから俺も向かう。便利屋、お前は悪いが俺に付き合ってくれ」
「合点でございますです」
これから13人の女たちを殺さなければならない。
罪の無い女たちだ。
片桐に無理矢理犯されてその上に悪魔に変えられてしまった哀れな人間たちだった。
その女たちを冷酷にも殺す。
それは俺の役割だ。
土屋美津は、悪いが早霧か葛葉にやってもらうかもしれない。
だが愛鈴や磯良には手を染めて欲しくない。
子どもたちも、磯良たちも、きっと心に傷が付く。
便利屋の索敵で、女たちはすぐに見つかった。
健康保険センターのある交差点だった。
バスからそれほど離れてもいなかった。
まだ北新宿の住民は戻していないので、周囲に人はいない。
女たちはそれほど狡猾ではなかった。
13人が固まって移動していた。
分散して追っ手をかわすという知能が無いのだろう。
人間の理性を喪い、ただ人間を襲って殺すだけの悪鬼になっている。
女たちは俺を見て怯えた。
「許せとは言わん。ここで終わりだ。安らかに逝け」
女たちは低く呻きながら俺を見ていた。
目に涙が浮かんでいるのが見えた。
俺は全員を「虚震花」で消滅させた。
塵芥が女たちの立っていた場所に積み上がり、風に消えて行く。
「旦那、遺体を残して調べなくても良かったんで?」
「ああ、構わない」
「そうですか」
便利屋が残った塵芥に両手を合わせた。
青嵐も降りて来て、一緒に手を合わせた。
俺にはそんな資格は無い。
俺は便利屋を連れて警察病院へ向かった。
まだ「アドヴェロス」のハンターたちは土谷美津を発見していない。
「便利屋、どうだ?」
「それっぽいのを捕まえましたよ。あっちです」
便利屋の案内で青嵐に指示を出していく。
警察病院に隣接する四季の森公園に気配があると言う。
早乙女には、土屋美津も俺が引き受けると連絡した。
俺は青嵐と便利屋を車に残し、公園へ入った。
寝間着姿の土屋美津を見つけた。
「私を殺しに来たのですか?」
驚いたことに、土屋美津には意識があった。
「まだ意識があるのか?」
「はい。でも、恐ろしい欲望の方が強いですけどね」
「間に合うかもしれない。大人しく俺と来てくれ!」
俺が言うと、土谷美津が笑った。
「あなたは優しい人ですね」
「おい! 理性があるのなら、戻る可能性だってあるんだ!」
「もういいんです。私はとんでもないことをしてしまいましたから」
「悪魔の因子のせいだ! あんたのせいじゃないぞ!」
「ダメです。私自身が、もう消えたいんです。最後にあなたに死なせてもらうのなら、それで満足です」
「おい……」
土谷美津が俺の方へ向いて、また微笑んだ。
「私、片桐課長が好きだった」
「……」
「やっと幸せになれると思ったのにな。どうしてこんな……」
「最後に正しいと思う選択が出来るのなら、俺はそう悪くない人生だったと思うよ」
「そう思います? だったらもういいかな。あの看護師さんと警官の方には申し訳ないことをしました」
「仕方がないさ。あんたの優しい心はそれを悔やんでいるんだしな。元々あんたのせいじゃない」
「そうは行きませんけどね。さあ、殺してください」
俺は仮面を外した。
土谷美津に顔を隠したまま殺すのは気が退けたからだ。
「あなたは!」
「?」
「ああ! あなたでしたか! だったらもう本当に満足です!」
「俺を知っているのか?」
「はい! 前に新宿のつばめグリルで偶然お見掛けしたんです。部下の女性がホスト通いで」
「あの時か!」
一江のことだ。
「素敵な方だと思ってました! 部下思いの優しい」
「俺はそんなんじゃないよ」
「あなたとまた出会っていれば」
土谷美津が泣いた。
「また出会っていれば、私の人生も変わったかも」
「あなたは立派な人だ。俺はそう思う」
「ありがとうございます」
俺は「虚震花」で土谷美津を消した。
最後は笑っていた。
その笑顔が俺の脳裏に焼き付いた。
新宿への封鎖が解かれ、昼過ぎからは規制も解けいつもの新宿が戻った。
マスコミが一斉に今回の巨大なワニの化け物について報道を始めた。
「新宿の悪魔」として、大々的に事件のことを発信していく。
「アドヴェロス」の成瀬が報道を誘導し、警察による徹底した捜査と非難誘導により犠牲者が最小限に納まったとした。
幾つもの召喚魔法陣を破壊したことで、事件は終息したと。
「真光の会」の施設は敷地内への立ち入りが拒まれたことで、遅れを生じたことになった。
数日前から先遣の敵が侵入していたと発表された。
「真光の会」の横浜の本山が警察や政府に抗議したが、元々世間から隔離されていたことが逆に非難され、やがて抗議活動も収まった。
「虎」の軍から見舞金100億円が支払われたこともその一因だった。
体長40メートルもの巨大なワニの化け物の映像がマスコミによって流され、日本中を震撼させた。
「真光の会」の他、片桐や土谷美津、庄司和美は先遣隊の犠牲になったと発表され、他にも何人もの行方不明者が同じく犠牲者であることが分かった。
片桐の扱いについて俺と警察とで少し揉めたが、あいつも確かに犠牲者だったのだ。
ザエボスによって変貌させられたのだから。
ザエボスは「業」に送り込まれたのではなかった。
だが、俺の血と響子を欲しがっていた。
ならば、どこかで繋がっていたのかもしれない。
俺はリヴィングで観ていたテレビを消した。
マスコミが犠牲者を通り一遍にしか扱わないことが耐え切れなかった。
化け物を前に怯えながら殺されて行った人間たちだ。
誰にも助けを求められず、蹂躙され殺されるしかなかった。
そして、自分を化け物に変えられ、深い悲しみの中で死んで行った土谷美津。
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