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新宿悪魔 X
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早乙女の報告を聞いてすぐに、俺は愛鈴の映像と血液サンプルを持って蓮花研究所へ飛んだ。
血液サンプルを様々な検査機械に掛け、検査結果が出るまで蓮花と映像を見て話し合った。
「これまでのどのライカンスロープとも違いますね」
「ああ。ライカンスロープは強い個体ほど歪さが無い。ウェアウルフなどはそうだよな。だからあのタイプは強い」
「はい。オーガタイプもそういう意味では。ただ、人間に近い分、能力的には特徴がございません」
蓮花研究所では、ライカンスロープの素材やデータが一元的に集められている。
「アドヴェロス」で入手したものも、こちらへデータが送られるし、素材に関しては優先的に回される。
解析能力が桁違いだからだ。
それは警察の上層部も承知していることであり、世界最高の解析能力とデータベースが蓮花研究所に集中している。
「アドヴェロス」にも逐次情報提供をし、解析した対応策やライカンスロープの特徴などをフィードバックしてはいる。
しかし、すべてではない。
機密に属することも多く、「アドヴェロス」は戦闘や防御に必要な情報は得ているが、解析したデータの全てを把握しているわけではない。
その代わりに、「アドヴェロス」には解析データを基にした武装や対応策を渡している。
蓮花研究所で培ったノウハウや現行の技術を遙かに上回る兵器や兵装、また科学技術の数々は絶対に他からは提供できない。
また、ライカンスロープに関わる技術は、危険な事柄に転用出来るものもある。
だから俺たちが独占しているのだ。
まだ誰もそういうことを知らないので反発もないが、知られれば大変な騒ぎになるかもしれない。
国家でも公的機関でもない、民間の研究所が独占しているからだ。
まあ「虎」の軍であることを発表すれば大丈夫だろうが。
「そろそろ解析の結果が出ます」
蓮花が大きな画面に解析結果を出した。
高性能の量子コンピューターが検査結果を解析する。
「おい、これは……」
様々な数値が表にまとめられ、更にクロマトグラフィーなどの解析結果が美しいグラフとなって投影されている。
様々な分子構造や化学式などのCG映像もある。
そして量子コンピューターが出した推論。
《NEWTYPE : Dinosaur-type: Many Special feature》
これまでにない新たな「恐竜タイプ」と推論され、それが他には見られない特徴が多々あると言っている。
蓮花が愛鈴の細胞のCG映像を出した。
「石神様、この《UNKNOWN-cell structure》とはどういうことでしょうか?」
「細胞の中に未知の構造体があるようだな。まだ解析が終わっていはいないが、他の細胞には見られない強力なエネルギーを生み出すと推測している」
通常、動物は細胞内のミトコンドリアによってATPを生産し、そこからエネルギーを得ている。
しかし、愛鈴の細胞の中にはミトコンドリアとは別な器官があるようだ。
それが強大なエネルギーを生産すると推測された。
「それは一体!」
「そっちも興味深いけどな。ここの《UNKNOW-Fine Particle》だ。ナノサイズの大きさのようだが、何らかの機能を担っているとしている」
「ナノマシン!」
「俺もそうだと思う。愛鈴の多くの傷が一瞬で自然治癒したことと関係がありそうだな」
「修復するためのナノマシンでしょうか」
「そういう機能もあるだろうが、それだけではないと思うぞ」
「はい!」
俺と蓮花は驚愕しながら血液検査の解析結果を眺めた。
「磯良は竜を見たそうだ」
「はい、報告書にありましたね」
「竜の身体から何らかの光線が愛鈴を貫いた。そして愛鈴はこの特殊な身体に変化させられたと思う。もしくは元々あった資質が活性化させられたか」
「はい」
「具体的にどのような能力が発揮されるのかはまだ分からん。でも、それを支える細胞の構造とナノマシンとの連携を「ドラゴン・システム」と名付ける」
「はい!」
「ライカンスロープの特殊な能力は、細胞内の特殊な構造に支えられていることは分かっている。でも、多くの個体を解析して来た量子コンピューターが、尚も愛鈴の構造体は未知だと言っている。しかもその上の微小なナノマシンだ」
蓮花は驚愕したままだ。
「全身を変化させる完全なメタモルフォーゼは元に戻れないことも多い。戻れる奴もいたが、それは完全体が人間とかけ離れていなかった場合だな」
「はい、オーガタイプの一部でした」
「愛鈴ほどの激しい変化では前例がない。まあ、だから愛鈴も最終的な手段としていたわけだけどな」
俺たちは、愛鈴が自分のために完全なメタモルフォーゼをしなかったのではないことを知っている。
愛鈴は「デミウルゴス」を摂取しても理性を残していた。
しかし、全身を妖魔化した場合に、精神がどうなるのかは不明だった。
愛鈴以外は全て獣性を増して、狂暴化する者がほとんどだった。
あの精神的に屈強な連城十五ですら、激しく闘争心を増していた。
だから、愛鈴は最後の手段として考えていた。
そして、万一自分の理性が喪われれば、磯良に殺して欲しいと頼んでいたことを聞いた。
それは、愛鈴が磯良を愛していることを示していた。
男女の恋愛感情ではない、もっと別の何かだろうが。
「愛鈴は完全体にメタモルフォーゼしても、人間の姿に戻れる。それは、この特殊な「ドラゴン・システム」のせいではないかと俺は思う」
「そうですね。そして完全体になっても理性を残していることも」
「そうだろうな」
俺は量子コンピューターに命じて、もう一つの映像を出させた。
「もう一つの問題はこいつだ」
全長40メートル近いと報告された、巨大なワニだ。
「間違いなく、ザエボスという悪魔ですね」
「ああ。襲われた土谷美津が、3月に中央公園で巨大なワニに遭遇したことを片桐から聞いている」
「それがザエボスだったと」
「そうだな。万一の場合に備えて、片桐に自分の分体を埋め込んだんだろうよ」
「それでは、ザエボスが甦ったということでしょうか?」
「ちょっと違うと思うぞ。ザエボスは俺が完全に消滅させた。片桐の中にいるのは、分体ではあってもザエボス自身ではないだろう。それでも、ザエボスと同等の力があるのかもしれん。ザエボスは死に、その力だけ持っているという感じかな」
「それも恐ろしいことでございますね」
「ああ。一番厄介なのは、気配を完全に近い形で消すことが出来るということだ。多分、ザエボスが言っていた異次元に隠すことなんだろう。40メートルの身体のほとんどを異次元に仕舞っていたからな」
「はい」
「それに、あいつが相手となれば、「アドヴェロス」は荷が重い。俺たちが出るしかないな」
「さようでございますね」
「まったく、いろいろと面倒なことだ」
「はい」
今の時点で蓮花と話すべきことは終わった。
蓮花はこのままより詳細な解析に入る。
俺はそろそろ帰るつもりだった。
「じゃあ、そろそろ帰るな」
「はい、わざわざお越しいただきまして」
俺は研究所の庭から飛び去った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
片桐を逃してしまった翌週の火曜日。
俺は「アドヴェロス」の作戦本部で成瀬と話し合った。
「成瀬、石神の言った通りだったな」
「はい。しかも新宿周辺から出ていないようですね」
「土地勘があるのと、あとは石神が言った通りに自分を止める人間がいないという思い上がりだろうな」
強盗事件の発生をまとめた資料を俺と成瀬で観ている。
全て単独犯であり、テレビカメラに映っているのが片桐と思われる男だった。
しかし、顔がはっきり映っているものはない。
コンビニから始まって景品交換所やブランド品の買取所、などだった。
計画的に金を集めるというものではなく、今は手あたり次第に襲うというように見える。
要するに、自分は金をいつでも手に入れられるという余裕すら感じる。
実際その通りなのだが。
ある程度まとめて奪うつもりはあるようだが、大きな資金のある銀行や競馬場などの施設は襲っていない。
まがりなりにも経理課長であったのだから、そういう施設からは奪いにくいという考えはあるのかもしれない。
「街頭カメラや協力してもらっているカメラ映像を解析しても、まだ居所が掴めない」
「巧妙に顔を隠していますね。頭の悪い奴ではないようです」
片桐と思われるのは、腕から伸びる触手で店員たちが攻撃されていることだ。
服装も途中で変えているようで、何とも追跡のしようがなかった。
「ホテルや宿泊所の調査はどうなっている?」
「新宿一帯のものを調査中ですが、何しろ数が多くて。新宿署や他の警察署からも応援を頼んでいますが、まだ」
「そうか」
「でも、あれだけの大量の服装を持っているんです。絶対にヤサはありますよね?」
「そう思うが。もしかしたら、どこかの住居を襲っているのかもしれないな」
「その可能性は大いに」
そうなると、捜査は一気に困難になる。
現在、強盗事件での被害総額は2000万円に上っていた。
十分な金額であり、もうしばらくは強盗はしなくなるかもしれない。
「殺人事件はまだ起きていないな?」
「片桐の犯行としては。でも我々が知らない場所で、すでにやっているかもしれませんね」
「……」
俺は唇を噛み締めた。
悔しい。
こんなに捜査が行き詰った経験は無い。
今も多くの警察官が足を棒にして捜し回ってくれている。
俺は待つしかない自分を嘆いた。
血液サンプルを様々な検査機械に掛け、検査結果が出るまで蓮花と映像を見て話し合った。
「これまでのどのライカンスロープとも違いますね」
「ああ。ライカンスロープは強い個体ほど歪さが無い。ウェアウルフなどはそうだよな。だからあのタイプは強い」
「はい。オーガタイプもそういう意味では。ただ、人間に近い分、能力的には特徴がございません」
蓮花研究所では、ライカンスロープの素材やデータが一元的に集められている。
「アドヴェロス」で入手したものも、こちらへデータが送られるし、素材に関しては優先的に回される。
解析能力が桁違いだからだ。
それは警察の上層部も承知していることであり、世界最高の解析能力とデータベースが蓮花研究所に集中している。
「アドヴェロス」にも逐次情報提供をし、解析した対応策やライカンスロープの特徴などをフィードバックしてはいる。
しかし、すべてではない。
機密に属することも多く、「アドヴェロス」は戦闘や防御に必要な情報は得ているが、解析したデータの全てを把握しているわけではない。
その代わりに、「アドヴェロス」には解析データを基にした武装や対応策を渡している。
蓮花研究所で培ったノウハウや現行の技術を遙かに上回る兵器や兵装、また科学技術の数々は絶対に他からは提供できない。
また、ライカンスロープに関わる技術は、危険な事柄に転用出来るものもある。
だから俺たちが独占しているのだ。
まだ誰もそういうことを知らないので反発もないが、知られれば大変な騒ぎになるかもしれない。
国家でも公的機関でもない、民間の研究所が独占しているからだ。
まあ「虎」の軍であることを発表すれば大丈夫だろうが。
「そろそろ解析の結果が出ます」
蓮花が大きな画面に解析結果を出した。
高性能の量子コンピューターが検査結果を解析する。
「おい、これは……」
様々な数値が表にまとめられ、更にクロマトグラフィーなどの解析結果が美しいグラフとなって投影されている。
様々な分子構造や化学式などのCG映像もある。
そして量子コンピューターが出した推論。
《NEWTYPE : Dinosaur-type: Many Special feature》
これまでにない新たな「恐竜タイプ」と推論され、それが他には見られない特徴が多々あると言っている。
蓮花が愛鈴の細胞のCG映像を出した。
「石神様、この《UNKNOWN-cell structure》とはどういうことでしょうか?」
「細胞の中に未知の構造体があるようだな。まだ解析が終わっていはいないが、他の細胞には見られない強力なエネルギーを生み出すと推測している」
通常、動物は細胞内のミトコンドリアによってATPを生産し、そこからエネルギーを得ている。
しかし、愛鈴の細胞の中にはミトコンドリアとは別な器官があるようだ。
それが強大なエネルギーを生産すると推測された。
「それは一体!」
「そっちも興味深いけどな。ここの《UNKNOW-Fine Particle》だ。ナノサイズの大きさのようだが、何らかの機能を担っているとしている」
「ナノマシン!」
「俺もそうだと思う。愛鈴の多くの傷が一瞬で自然治癒したことと関係がありそうだな」
「修復するためのナノマシンでしょうか」
「そういう機能もあるだろうが、それだけではないと思うぞ」
「はい!」
俺と蓮花は驚愕しながら血液検査の解析結果を眺めた。
「磯良は竜を見たそうだ」
「はい、報告書にありましたね」
「竜の身体から何らかの光線が愛鈴を貫いた。そして愛鈴はこの特殊な身体に変化させられたと思う。もしくは元々あった資質が活性化させられたか」
「はい」
「具体的にどのような能力が発揮されるのかはまだ分からん。でも、それを支える細胞の構造とナノマシンとの連携を「ドラゴン・システム」と名付ける」
「はい!」
「ライカンスロープの特殊な能力は、細胞内の特殊な構造に支えられていることは分かっている。でも、多くの個体を解析して来た量子コンピューターが、尚も愛鈴の構造体は未知だと言っている。しかもその上の微小なナノマシンだ」
蓮花は驚愕したままだ。
「全身を変化させる完全なメタモルフォーゼは元に戻れないことも多い。戻れる奴もいたが、それは完全体が人間とかけ離れていなかった場合だな」
「はい、オーガタイプの一部でした」
「愛鈴ほどの激しい変化では前例がない。まあ、だから愛鈴も最終的な手段としていたわけだけどな」
俺たちは、愛鈴が自分のために完全なメタモルフォーゼをしなかったのではないことを知っている。
愛鈴は「デミウルゴス」を摂取しても理性を残していた。
しかし、全身を妖魔化した場合に、精神がどうなるのかは不明だった。
愛鈴以外は全て獣性を増して、狂暴化する者がほとんどだった。
あの精神的に屈強な連城十五ですら、激しく闘争心を増していた。
だから、愛鈴は最後の手段として考えていた。
そして、万一自分の理性が喪われれば、磯良に殺して欲しいと頼んでいたことを聞いた。
それは、愛鈴が磯良を愛していることを示していた。
男女の恋愛感情ではない、もっと別の何かだろうが。
「愛鈴は完全体にメタモルフォーゼしても、人間の姿に戻れる。それは、この特殊な「ドラゴン・システム」のせいではないかと俺は思う」
「そうですね。そして完全体になっても理性を残していることも」
「そうだろうな」
俺は量子コンピューターに命じて、もう一つの映像を出させた。
「もう一つの問題はこいつだ」
全長40メートル近いと報告された、巨大なワニだ。
「間違いなく、ザエボスという悪魔ですね」
「ああ。襲われた土谷美津が、3月に中央公園で巨大なワニに遭遇したことを片桐から聞いている」
「それがザエボスだったと」
「そうだな。万一の場合に備えて、片桐に自分の分体を埋め込んだんだろうよ」
「それでは、ザエボスが甦ったということでしょうか?」
「ちょっと違うと思うぞ。ザエボスは俺が完全に消滅させた。片桐の中にいるのは、分体ではあってもザエボス自身ではないだろう。それでも、ザエボスと同等の力があるのかもしれん。ザエボスは死に、その力だけ持っているという感じかな」
「それも恐ろしいことでございますね」
「ああ。一番厄介なのは、気配を完全に近い形で消すことが出来るということだ。多分、ザエボスが言っていた異次元に隠すことなんだろう。40メートルの身体のほとんどを異次元に仕舞っていたからな」
「はい」
「それに、あいつが相手となれば、「アドヴェロス」は荷が重い。俺たちが出るしかないな」
「さようでございますね」
「まったく、いろいろと面倒なことだ」
「はい」
今の時点で蓮花と話すべきことは終わった。
蓮花はこのままより詳細な解析に入る。
俺はそろそろ帰るつもりだった。
「じゃあ、そろそろ帰るな」
「はい、わざわざお越しいただきまして」
俺は研究所の庭から飛び去った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
片桐を逃してしまった翌週の火曜日。
俺は「アドヴェロス」の作戦本部で成瀬と話し合った。
「成瀬、石神の言った通りだったな」
「はい。しかも新宿周辺から出ていないようですね」
「土地勘があるのと、あとは石神が言った通りに自分を止める人間がいないという思い上がりだろうな」
強盗事件の発生をまとめた資料を俺と成瀬で観ている。
全て単独犯であり、テレビカメラに映っているのが片桐と思われる男だった。
しかし、顔がはっきり映っているものはない。
コンビニから始まって景品交換所やブランド品の買取所、などだった。
計画的に金を集めるというものではなく、今は手あたり次第に襲うというように見える。
要するに、自分は金をいつでも手に入れられるという余裕すら感じる。
実際その通りなのだが。
ある程度まとめて奪うつもりはあるようだが、大きな資金のある銀行や競馬場などの施設は襲っていない。
まがりなりにも経理課長であったのだから、そういう施設からは奪いにくいという考えはあるのかもしれない。
「街頭カメラや協力してもらっているカメラ映像を解析しても、まだ居所が掴めない」
「巧妙に顔を隠していますね。頭の悪い奴ではないようです」
片桐と思われるのは、腕から伸びる触手で店員たちが攻撃されていることだ。
服装も途中で変えているようで、何とも追跡のしようがなかった。
「ホテルや宿泊所の調査はどうなっている?」
「新宿一帯のものを調査中ですが、何しろ数が多くて。新宿署や他の警察署からも応援を頼んでいますが、まだ」
「そうか」
「でも、あれだけの大量の服装を持っているんです。絶対にヤサはありますよね?」
「そう思うが。もしかしたら、どこかの住居を襲っているのかもしれないな」
「その可能性は大いに」
そうなると、捜査は一気に困難になる。
現在、強盗事件での被害総額は2000万円に上っていた。
十分な金額であり、もうしばらくは強盗はしなくなるかもしれない。
「殺人事件はまだ起きていないな?」
「片桐の犯行としては。でも我々が知らない場所で、すでにやっているかもしれませんね」
「……」
俺は唇を噛み締めた。
悔しい。
こんなに捜査が行き詰った経験は無い。
今も多くの警察官が足を棒にして捜し回ってくれている。
俺は待つしかない自分を嘆いた。
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