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新宿悪魔 Ⅵ

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 「愛鈴さん、交代に来ました」

 都庁で「アドヴェロス」が借りた部屋に入った。
 
 「磯良!」

 愛鈴さんが俺を抱き締める。

 「なんですか!」
 「だって、嬉しいんだもん!」
 「だからなんで!」

 俺は笑って愛鈴さんを離した。

 「伊勢丹で「ざくろ」の弁当を買って来たんですけど、食べて行きませんか?」
 「ほんと! 嬉しいよ!」
 「じゃあ、お茶を煎れますね」
 「磯良は座ってて!」

 愛鈴さんと一緒に食べるつもりで、1時間早く来た。
 愛鈴さんがすぐに給湯室へ行った。
 俺はテーブルに弁当を二人分拡げた。
 ざくろに予約して作ってもらった特製幕の内弁当だ。
 愛鈴さんがお茶を持って戻って来る。

 「あぁ! これ高いやつでしょ!」
 「いや、俺が食べたかったんで」
 「磯良! 私の分は出すからね」
 「いいですよ。俺、お金って使い道が無いですから」
 「じゃあ、身体で払う!」
 「え!」
 「今晩、一緒にいるから」
 「何言ってんですか!」

 愛鈴さんが俺の前に座ってニコニコしていた。

 「磯良は寝てていいよ」
 「ダメですよ」
 「じゃあ、一緒に起きてようよ」
 「困りましたね」
 「私、寮に帰っても何もすることがないしさ」
 「ああ」
 「ここで磯良と一緒にいる方が楽しいよ」
 「まあ、俺はいいですけどね」
 「うん! じゃあ食べよう!」
 「はい!」

 二人で食べた。

 「この鴨のロースト、美味しい!」
 「どれも味付けは薄いですけどね。それが俺は好きなんです」
 「私も! タケノコご飯も美味しいね!」
 「はい」

 ゆっくりと味わいながら食べた。

 「磯良、よくこういうの知ってるね」
 「早霧さんですよ。あの人にしょっちゅういろいろと連れてってもらってますから」
 「ああ! 私もご馳走になってばっかりだな」
 「誰かが喜んで食べる顔が大好きなんですって」
 「いい人だね」
 「今度、何か一緒にご馳走しましょうよ」
 「そうだね!」

 食事を終えて、俺が弁当を片付けた。
 愛鈴さんがコーヒーを淹れて来てくれる。

 「ああ、6時になりましたよ」
 「今日はここにいるって言ったでしょ?」
 「本当に帰らないんですか?」
 「いいじゃない」
 「まあ、いいですけどね」

 俺を心配してのことだとは分かっている。
 任務で愛鈴さんとは何度も一緒に夜を過ごしている。
 性的な意味で俺と一緒にいたいわけではないのは分かっている。
 俺が本部の成瀬さんに電話をし、愛鈴さんが引き続き俺と一緒にいることを話した。
 愛鈴さんも成瀬さんも、何も慌てることは無い。

 「じゃあ、交代でちゃんと寝てね」
 「はい!」

 それだけだ。
 俺たちは互いに信頼しているし、信頼関係を壊すようなことは絶対に出来ない。
 まあ、言い換えれば、同意の上であれば、男女の関係になってもいいのだろう。
 俺にも愛鈴さんにも、そのつもりは無いのだが。

 「ねえ、今日は『虎は孤高に』をやるよね!」
 「ああ、そうですね!」
 「一緒に観ようよ!」
 「いいですね!」

 コーヒーを飲みながら、いつものように雑談した。

 「磯良は強いよね」
 「そんなことは。何度も愛鈴さんや他の人たちに助けられてますよ」
 「そんなの! 私たちが磯良に助けられてることの方が多いよ!」
 「まあ、これからもお願いします」
 「こちらこそ」
 
 二人で笑った。

 「まだね、勇気がないんだ」
 「え?」

 愛鈴さんが寂しそうに笑った。

 「あのね、私の身体って腕しか変えてないでしょ?」
 「まあ、それで十分ですからね」
 「うん。でも全身も変えられるの」
 「そうですか」
 
 それは分かる。
 「デミウルゴス」を摂取した人間は、最終的に全身をメタモルフォーゼ(変態)させられる。

 「でも、全身を変えたら、私自身がどうなるのか。それが怖いのね」
 「はい。愛鈴さんはやらなくていいですよ」

 実際、全身をメタモルフォーゼした人間は、理性を喪って狂暴化することも多かった。
 それを言うなら、メタモルフォーゼした時点で狂暴化することが大半だ。
 愛鈴さんは、そういうことが一切無かった。
 でも、全身をメタモルフォーゼしたらどうなるのかは分からない。
 そういう不安をずっと抱えていたのだろう。

 「うん、ありがとう。でもね、磯良が危なかったら、私は必ずやるからね」
 「そうですか……」

 「もしもね、私が私でなくなっちゃったら、磯良が殺して」
 「え……」

 「お願い」
 「分かりました」

 愛鈴さんは何度も俺を必ず守ると言ってくれて来た。
 毎回、必ず。
 俺は今分かった。
 愛鈴さんは俺に戻らなければ殺して欲しいと伝えたかったのだ。
 それが言えなくて、何度も俺を守ると言い続けて来たのか。
 今日も俺と一緒にいると言ったことも、その言葉を言うためだったのではないか。

 「俺も愛鈴さんを絶対に守りますよ」
 「磯良……」

 愛鈴さんが涙を流した。
 
 「俺はそのために、今よりもずっと強くなります。愛鈴さんを必ず守りますからね」
 「うん、ありがとう……磯良……」

 愛鈴さんが嬉しそうに笑った。
 涙を流しながら。

 美しい人だ。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 チャイムが鳴り、オートロックを外して土谷を中へ入れた。

 「片桐課長……」

 玄関先のチャイムが鳴り、ドアを開けると土谷が恥ずかしそうにドアの前に立っていた。

 「やあ、いらっしゃい。どうぞ中へ入って」
 「はい……」

 俺が出したスリッパを履いて、土谷が上がった。

 「食事は後にしようか」
 「はい?」
 「先にシャワーを浴びよう」
 「え、そうですか」
 「ほら、こっちだよ」
 
 土谷が驚いている。
 やがて笑った。

 「ほら」
 「片桐課長って、結構強引なんですね」
 「何を言ってるんだ」
 「まあ、今日はそういうつもりで来ましたけど」
 「だったらいいじゃないか」
 「意外です」
 「そうかい?」
 「いいですけどね。リードしてくれる人の方が好きですし」
 「アハハハハハ」

 服を脱いで一緒にシャワーを浴び、そのまま突き入れた。
 土谷の準備は整っていた。
 
 「え、いきなり」
 「我慢出来ないよ」
 「もう……」

 そのまま中へ放ち、ベッドへ行った。
 何度も土谷を翻弄し、5度ほど中へ出して俺は満足した。
 息を整えてから土谷が言った。

 「凄いんですね、片桐課長……」
 「まだまだだけどね。食事にしよう。そっちも我慢出来ないんだ」
 「ちょっと休ませて下さい」
 「ダメだよ。さあ」

 土谷を立たせてガウンを羽織らせた。
 自分も羽織る。

 「あの、これって……」

 妻が使っていたものだ。

 「さあ」

 俺は手を引いて食堂へ連れて行った。

 「妻と娘がいなくなったってみんなが言うんだけどね」
 「はい」
 「今から見せるよ」
 「はい?」

 冷蔵庫から二人の首を取り出してテーブルに置いた。

 「ヒィッ!」

 「ああ、庄司さんはもう残ってないんだ」





 土谷美津が気絶した。
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