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怒貪虎(ドドンコ)さん Ⅴ

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 本当に美味い朝食を頂き、俺たちは帰ることにした。
 みんなに引き留められたが、もう疲労困憊だ。
 酒を飲むのかもしれないが、とても付いて行けない。
 お世話になった礼を言い、ハマーに荷物を積んだ。
 みんなから俺が処置して助かったとまた礼を言われ、恥ずかしかった。
 でも、本当に喜んでくれていて、だから俺もちょっとだけ甘えた。

 「ちょっと温泉ででも休んで帰ろうと思うんですが、どこかいい場所とか知ってます?」

 折角岩手まで来たのだから、温泉でちょっとのんびりしたかった。
 双子も喜ぶ。

 「あー、それならよ、山の中にあるんだけどな。ほとんど知られてねぇいい湯があるぞ」
 「どこですか!」

 剣士のみんなも、あそこはいいと絶賛している。
 虎白さんが笑って地図を用意してくれた。

 「こんなとこに!」
 「誰もいねぇと思うよ。宿もねぇ。自炊の竈くらいはあるけどな」
 「スゴイですね!」
 「効能は俺が保証してやる。どんな疲れも吹っ飛ぶぜぇ」
 「楽しみです! ありがとうございました!」
 「いいって」

 俺は礼を言ってハマーを出発させた。
 なんか、解放された喜びが相俟って、物凄くいい気分になった。

 「タカさん! なんか食材を買い出ししてから行こうよ!」
 「そうだな!」

 市内のスーパーで肉や野菜、それに油や調味料などを買い込んだ。
 フライパンも買う。
 まあ、竈が使えなくても、俺たちなら何とでもなる。

 「浴衣も買おうよ!」
 「おし!」

 コンバットスーツの替えはあったが、温泉はやっぱ浴衣がいいだろう。
 石鹸やタオルなども買い込む。
 すっかり温泉気分になった。

 買い出しが終わり、ハマーで目的地へ向かう。

 
 ♪ ドドンコー ドドーンコォ ドンドコドン(どんどこどん) ドドンコー ドドーンコォ ドコドコドン(どこどこどん) ドドンコドドンコ ドーコドコドコドーン (どどんこどん どこんこどん) ♪

 ルーとハーが歌い出した。
 俺は思い出すのも嫌だったが、機嫌が良かったので、一緒に歌った。
 楽しくなって来た。
 来る時とは大違いだ。

 随分と走って、山の中の秘湯に着いた。
 丁度昼時になって、そんなことも俺の気分を良くした。

 「あそこじゃない?」
 「そうだな!」

 簡単な木組みの小屋が見えた。
 駐車のスペースは2台分くらいしかない。
 俺たちのでかいハマーを停めると、もう他の車は入らない。
 でも誰も来ないだろうから、気にしなかった。
 万一来たら、その時のことだ。

 俺たちはウキウキでハマーを降り、その場で浴衣に着替えた。
 小屋の下の窪地に湯気が上がっている。

 「なんかいい雰囲気だね!」
 「ザ・秘湯って感じだよ!」
 「そうだな!」

 貸切で三人で入れるなんて最高だ。
 ワイワイ言いながら、細い道を降った。
 もう三人とも小屋に浴衣を置いて全裸だ。
 石鹸とタオルだけ持っている。

 ポチャン

 「あれ?」
 「誰かいるよ?」
 「そ、そうだな」

 俺はともかく、ルーとハーは中学女子だ。
 先にいる方が男性だと不味い。
 まあ、二人は気にしないのだが。
 念のために二人を途中に残して俺が先に行った。
 俺たちも楽しみに来たが、当然先客の方が優先だ。

 「すいませーん! ご一緒しても宜しいですかー?」

 大きな声で叫んだ。
 湯気がもうもうと立ち込めている。
 湯の向こう側に、人影が見えた。
 湯船の大きさとしては、4人が一遍に入っても問題は無い。

 「三人なんです。実は俺の他は女の子でし……」

 「ケロケロ」

 「!」

 怒貪虎さんが入ってた。

 「な、なんで、ここに……」
 「ケロケロ」

 ルーとハーを呼んだ。

 「「あ!」」
 「ケロケロ」
 「怒貪虎さんだぁー!」

 二人が喜んだ。
 怒貪虎さんもニコニコしている。
 手招きされた。

 「す、すいません……」

 この人なら、双子の裸も問題ないだろう。

 「ケロケロ」
 「うん、そうなの! 虎白さんに教わって来たんですよー!」
 「ケロケロ」
 「そうなんだ! じゃあ一緒だね!」

 三人で楽しく話し始めた。

 「ケロケロ」

 怒貪虎さんに肩を叩かれた。

 ぱちん

 「ケロケロ」
 「へぇー! タカさんてそんなに凄いですかー!」
 「ケロケロ」
 「じゃあ、楽しみですね!」
 「ケロケロ!」

 さっぱり分からん。

 俺は仕方なく怒貪虎さんを誘い、洗い場で背中を流した。
 やっぱり全身カエルだった。
 ちょっとヌルヌルする。

 「石鹸使って大丈夫ですか?」
 「ケロケロ」
 
 いいのか悪いのか分からん。
 俺は薄めに付けて丁寧に怒貪虎さんの背中を洗った。
 俺の背中も流してくれそうな感じだったが、遠慮して双子に洗ってもらった。

 気分の悪いまままた湯に浸かり、しばらくして俺は食事を作ろうと思った。
 なんか居づらい。

 「怒貪虎さん、食事の用意をして来たんですが、一緒に召し上がりますか?」

 「ケロケロ!」
 「えー、それは悪いですよー!」
 「ケロケロ」
 「うーん、じゃあちょっとだけ!」

 「?」

 双子が何か言っていたが、怒貪虎さんが湯から上がった。
 全裸のまま、小屋から風呂敷を降ろして来た。
 湯船の脇に拡げる。

 「カール……」

 みんなでカールを食べた。
 1時間も湯に浸かり、俺たちはそろそろと思った。
 怒貪虎さんはまだまだいるようだ。

 「じゃあ、俺たちはそろそろ」
 「ケロケロ」
 「ええ、だから帰るって……」

 いきなり湯船から怒貪虎さんの右足が伸びて俺の胸を突いた。
 30メートルぶっ飛んで、岩に叩きつけられた。

 「ゲェェェ!」

 双子が急いでハマーから「Ω」「オロチ」を持って来る。
 口から鮮血が流れた。
 肋骨が肺に刺さった。

 「タカさんが悪いよ!」
 「そうだよ! 失礼だよ!」

 「帰る」と言ったのだが。
 俺は治療を終えて必死に謝って帰った。

 





 食材は山の麓で食べた。
 あんまし美味しくなかった。 
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