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妖魔と悪魔
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「柳さん! 凄かったですね!」
亜紀ちゃんが柳に駆け寄り、ハイタッチをした。
双子も一緒にハイタッチをねだる。
「「オロチストライク」以上の技を編み出していたなんて!」
「エヘヘヘヘヘ!」
「柳ちゃん、今も毎日鍛錬してるものね!」
「柳ちゃん、ほんとにスゴイよ!」
「ありがとー!」
柳の真面目さが実った技だ。
一つの完成で終わらずに、俺たちのためにあれからもずっと求め続けている。
俺が技の進捗を他の子どもたちに話さないように言っていた。
「また名前を付けないとな!」
「もう考えてますよ!」
「おお!」
「「オロチ大ストライク!」
「……」
「あれ?」
「新技のかっちょいい名前を考えてから発表しようか」
「えーん……」
「タヌ吉!」
「はぁーい!」
タヌ吉が建物の方から走って来た。
ちょっと距離があったせいか、走りやすいジャージだ。
すぐ傍まで来て、いつもの着物姿に切り替える。
こういう拘りがカワイイ。
「この気持ち悪いのを「地獄道」に入れてくれ」
「はーい!」
タヌ吉の「地獄道」が開き、驚いたことに塵を吸引していった。
「お前、そういうことも出来んのな!」
「はい!」
タヌ吉が嬉しそうに微笑んだ。
どういう仕組みかは分からんが、土ぼこりは舞い上がらずに、ザエボスだった塵だけが吸い込まれて行った。
「タヌ吉は、あのザエボスって奴は知っていたか?」
「はい。結構な数の妖魔や悪魔を身に宿していましたね」
「「業」と比べるとどうなんだ?」
「それは何とも。桁が違い過ぎますから」
「そうか」
グリモワールにも載る有名な悪魔だと思っていたが。
まあ、人間の知る範囲など、世界の実態とはかけ離れているのだろう。
「さて、風呂にでも入るか! タヌ吉、一緒に入るぞ!」
「はい!」
蓮花、子どもたちも一緒に来る。
俺がタヌ吉の身体を洗ってやった。
「柳! 髪を洗ってやる!」
「はい!」
柳が喜んで来る。
順番に蓮花や他の子どもたちも洗ってやった。
湯船に浸かり、タヌ吉が隣で嬉しそうにしていた。
「ところでよ、悪魔と妖魔の違いってなんなんだ?」
タヌ吉に聞いた。
「悪魔は嘗て大きな力を持ち、神に戦いを挑んだ連中です」
「そうなのか」
「妖魔は「理(ことわり)」の中から生まれ、それぞれに力を持つ者のことでございます」
「では悪魔と妖魔は似た部分もあるということか?」
「はい。元は同じく悪魔も「理」の中から生まれました。まあ、そういうことでは人間や動物も同じなのですが」
「なるほどな」
タヌ吉が俺の肩に頭を乗せて話して行く。
「ただ、悪魔や妖魔はこの世界とは異なる場所で生きていることが多いのです。この世界は少々特別な場所とも言えます」
「それはどういうことだ?」
「高き場所にいる神がこの世界を特別な場所にしております。悪魔や妖魔も訪れることもありますが、好き勝手にしておりますと、神々から追い出されることもあります」
「神にもいろいろいるわけだな」
「はい。高き場所にいる神々は人間を愛しておりますが、もっと低き場所にいる神々の中には人間を嫌う者もおります」
「そうか」
俺はタヌ吉の頭に自分の頭を付けた。
「タヌ吉は「アザゼル」という名の者を知っているか?」
「……」
タヌ吉が応えなかった。
「それは話せない名だったか」
「申し訳ございません」
「いいさ。お前も「理」の中にいるわけだからな」
「はい」
タヌ吉が頭を離し、俺を横から抱いた。
「話せないのは、主様の御為でもあるのです」
「どういうことだ?」
「彼の者はあまりにも大き過ぎるのです。その話は人の身では少々受け止めるための器が足りません」
「そうか」
「主様であれば、然程のことはございませんが。でも、どのような影響があるのか、私にも測りかねます」
「分かった。よく分かったよ」
タヌ吉の語っていることは矛盾している。
俺には受け止められると言いながら、影響があると言う。
それは恐らく、俺が人間ではなくなる可能性があるということだろう。
情報というのは、単なる知識ではない。
情報は存在を破壊することもあるのだ。
ポール・ヴィリリオの言う、「トランスアパランス(超外観)」だ。
情報が存在を支配することがあるのだ。
アザゼルはクロピョンが連れて来た。
タマがクロピョンとの意志疎通を何とかこなしてはいるが、それでも存在の大きさの違いで齟齬はしょっちゅうある。
俺などはほとんど役に立たない。
ただ、アザゼルを絶対の信頼の置ける者として、俺に連れて来た。
最初はクロピョンの眷属だとばかり思っていたが、そうでないことが次第に分かって来た。
今も、もしもアザゼルがクロピョンの眷属であれば、タヌ吉が語れないわけがない。
俺は御堂をどのような攻撃からも守れる者を希望していた。
当時は「業」の膨大な妖魔の攻撃も、神の召喚も思考の中には無かった。
だが、クロピョンは恐らく「業」の真価が分かっていたに違いない。
今タヌ吉が語ったように、「業」の恐ろしさや強大さは大妖魔たちには分かっているらしい。
ならば、俺が頼んだことを実現するに、アザゼルがどれほどの存在であることか。
アザゼルは数十億の妖魔の攻撃や、召喚した下級神とも渡り合えるのだろう。
俺がその時に理解していなかったとしても、クロピョンは確実にそれが可能な者を呼んで来た。
俺がアザゼルについて知っていることはほとんどない。
しかし、俺の中で、アザゼルをどこかで知っている感覚があるのも事実だ。
俺自身にもそれがどういうことなのかは分からない。
「主様……」
タヌ吉が俺を抱く力を強めた。
俺はタヌ吉が俺の問いに応えられないことが苦痛を与えることを知った。
「悪かったな、いろいろと聞いてしまった」
「いいえ。私は主様のために……」
「ああ、これからも頼むな」
「はい」
俺はここから離れた場所にいる、一つの存在のことを考えていた。
亜紀ちゃんが柳に駆け寄り、ハイタッチをした。
双子も一緒にハイタッチをねだる。
「「オロチストライク」以上の技を編み出していたなんて!」
「エヘヘヘヘヘ!」
「柳ちゃん、今も毎日鍛錬してるものね!」
「柳ちゃん、ほんとにスゴイよ!」
「ありがとー!」
柳の真面目さが実った技だ。
一つの完成で終わらずに、俺たちのためにあれからもずっと求め続けている。
俺が技の進捗を他の子どもたちに話さないように言っていた。
「また名前を付けないとな!」
「もう考えてますよ!」
「おお!」
「「オロチ大ストライク!」
「……」
「あれ?」
「新技のかっちょいい名前を考えてから発表しようか」
「えーん……」
「タヌ吉!」
「はぁーい!」
タヌ吉が建物の方から走って来た。
ちょっと距離があったせいか、走りやすいジャージだ。
すぐ傍まで来て、いつもの着物姿に切り替える。
こういう拘りがカワイイ。
「この気持ち悪いのを「地獄道」に入れてくれ」
「はーい!」
タヌ吉の「地獄道」が開き、驚いたことに塵を吸引していった。
「お前、そういうことも出来んのな!」
「はい!」
タヌ吉が嬉しそうに微笑んだ。
どういう仕組みかは分からんが、土ぼこりは舞い上がらずに、ザエボスだった塵だけが吸い込まれて行った。
「タヌ吉は、あのザエボスって奴は知っていたか?」
「はい。結構な数の妖魔や悪魔を身に宿していましたね」
「「業」と比べるとどうなんだ?」
「それは何とも。桁が違い過ぎますから」
「そうか」
グリモワールにも載る有名な悪魔だと思っていたが。
まあ、人間の知る範囲など、世界の実態とはかけ離れているのだろう。
「さて、風呂にでも入るか! タヌ吉、一緒に入るぞ!」
「はい!」
蓮花、子どもたちも一緒に来る。
俺がタヌ吉の身体を洗ってやった。
「柳! 髪を洗ってやる!」
「はい!」
柳が喜んで来る。
順番に蓮花や他の子どもたちも洗ってやった。
湯船に浸かり、タヌ吉が隣で嬉しそうにしていた。
「ところでよ、悪魔と妖魔の違いってなんなんだ?」
タヌ吉に聞いた。
「悪魔は嘗て大きな力を持ち、神に戦いを挑んだ連中です」
「そうなのか」
「妖魔は「理(ことわり)」の中から生まれ、それぞれに力を持つ者のことでございます」
「では悪魔と妖魔は似た部分もあるということか?」
「はい。元は同じく悪魔も「理」の中から生まれました。まあ、そういうことでは人間や動物も同じなのですが」
「なるほどな」
タヌ吉が俺の肩に頭を乗せて話して行く。
「ただ、悪魔や妖魔はこの世界とは異なる場所で生きていることが多いのです。この世界は少々特別な場所とも言えます」
「それはどういうことだ?」
「高き場所にいる神がこの世界を特別な場所にしております。悪魔や妖魔も訪れることもありますが、好き勝手にしておりますと、神々から追い出されることもあります」
「神にもいろいろいるわけだな」
「はい。高き場所にいる神々は人間を愛しておりますが、もっと低き場所にいる神々の中には人間を嫌う者もおります」
「そうか」
俺はタヌ吉の頭に自分の頭を付けた。
「タヌ吉は「アザゼル」という名の者を知っているか?」
「……」
タヌ吉が応えなかった。
「それは話せない名だったか」
「申し訳ございません」
「いいさ。お前も「理」の中にいるわけだからな」
「はい」
タヌ吉が頭を離し、俺を横から抱いた。
「話せないのは、主様の御為でもあるのです」
「どういうことだ?」
「彼の者はあまりにも大き過ぎるのです。その話は人の身では少々受け止めるための器が足りません」
「そうか」
「主様であれば、然程のことはございませんが。でも、どのような影響があるのか、私にも測りかねます」
「分かった。よく分かったよ」
タヌ吉の語っていることは矛盾している。
俺には受け止められると言いながら、影響があると言う。
それは恐らく、俺が人間ではなくなる可能性があるということだろう。
情報というのは、単なる知識ではない。
情報は存在を破壊することもあるのだ。
ポール・ヴィリリオの言う、「トランスアパランス(超外観)」だ。
情報が存在を支配することがあるのだ。
アザゼルはクロピョンが連れて来た。
タマがクロピョンとの意志疎通を何とかこなしてはいるが、それでも存在の大きさの違いで齟齬はしょっちゅうある。
俺などはほとんど役に立たない。
ただ、アザゼルを絶対の信頼の置ける者として、俺に連れて来た。
最初はクロピョンの眷属だとばかり思っていたが、そうでないことが次第に分かって来た。
今も、もしもアザゼルがクロピョンの眷属であれば、タヌ吉が語れないわけがない。
俺は御堂をどのような攻撃からも守れる者を希望していた。
当時は「業」の膨大な妖魔の攻撃も、神の召喚も思考の中には無かった。
だが、クロピョンは恐らく「業」の真価が分かっていたに違いない。
今タヌ吉が語ったように、「業」の恐ろしさや強大さは大妖魔たちには分かっているらしい。
ならば、俺が頼んだことを実現するに、アザゼルがどれほどの存在であることか。
アザゼルは数十億の妖魔の攻撃や、召喚した下級神とも渡り合えるのだろう。
俺がその時に理解していなかったとしても、クロピョンは確実にそれが可能な者を呼んで来た。
俺がアザゼルについて知っていることはほとんどない。
しかし、俺の中で、アザゼルをどこかで知っている感覚があるのも事実だ。
俺自身にもそれがどういうことなのかは分からない。
「主様……」
タヌ吉が俺を抱く力を強めた。
俺はタヌ吉が俺の問いに応えられないことが苦痛を与えることを知った。
「悪かったな、いろいろと聞いてしまった」
「いいえ。私は主様のために……」
「ああ、これからも頼むな」
「はい」
俺はここから離れた場所にいる、一つの存在のことを考えていた。
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