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100日じゃ多分死なないワニ、と思ったら呆気なかった

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 俺が懸命に盛り上げようと話題を振っていると、蓮花が俺に言った。

 「石神様、お耳に入れておきたいことが」
 「ああ、なんだ?」
 「クロ子が夕べあの巨体になった時に呟いていたのです」
 「おう」
 「《これでやっと血を手に入れた》と」

 「なんだ?」

 俺の中で、一挙に何かが繋がった気がした。

 「タマ!」
 「なんだ」

 タマが忽然と現われる。
 もう俺たちは誰も驚かない。

 「夕べ、あのワニを観たな」
 「ああ、観た」
 「あれは本当にワニなのか?」
 「いや、悪魔だ」

 「「「「「「なんだとぉー!」」」」」」

 全員が驚いて叫んだ。

 「お前! どうして言わなかったんだぁ!」
 「なんだ、主も気付いていたんじゃないのか?」
 「ワニだろう! あれはぁ!」
 「そうだったのか。俺も主の遣り取りが何おかしいとは思っていたが」
 「言えよ、てめぇ!」

 タマは俺が何を怒っているのかという顔をしていた。

 「じゃあ、あれはクロピョンが寄越したんじゃないのか?」
 「多分そうだろう」
 「言えよ!」
 「すまなかった」

 一応謝るからやりにくい奴だ。
 まあ、妖魔は人間とは物事の概念も思考法も違う。
 タマも悪気があるわけではないのは分かっている。

 「お前よー」
 「今、あれがここにいるな」
 「そうだよー!」
 「主の血を与えたのか」
 「死にそうだったからな!」
 「あれは大抵のことで死ぬことはないが」
 「だから言えってぇ!」
 
 ならば六花の攻撃は大して効いていなかったということか。
 あいつ、擬態しやがった。

 「悪魔って、どんな奴だよ?」
 「ザエボスという悪魔の中でも強い部類だな」
 「なんだと!」
 
 魔導書『ゴエティア』の中に出て来る、ソロモン王が使役した72体の悪魔の一人だと記憶している。
 確か巨大なワニに乗っている奴だ。
 だからか。

 「お前、勝てるか?」
 「主の血が入ったからもう無理だな」
 「てめぇ!」
 「主の血には我は逆らえない。あいつを滅するのは俺には無理になった」
 「チィッ!」

 今更どうしようもない。

 「じゃあ、タヌ吉にも無理か」
 「多分な。あいつが自分で「地獄道」に入るのなら別だが。でもあいつは絶対にしないだろう」
 「チキショウ!」

 悪魔ザエボスは最初から俺の血を狙っていたのか。
 してやられたことは悔しいが、この段階で絵図が読めたことは良かった。




 食事を終えて、全員で外に出た。
 俺は「七星虎王」を握っている。
 巨大化したワニになったので、念のために持って来た。
 
 体長2メートルになっていたクロ子だったが、でかいイノシシを全て食べ終えていた。
 身体の維持には不要なほどの大きさだったはずだ。

 「おい、ザエボス」
 「……」
 「お前、なんで俺の所へ来た?」
 「……」

 クロ子は黙って俺を見ていた。
 
 「おい、何とか言え」
 「お前の血が欲しかった」
 
 先ほどまでの可愛らしい女性の声とは全く異なる、耳に障る甲高い声だった。
 ガラスを引っ掻くような不快な音だ。

 「何で俺の血なんか欲しいんだ」
 「神素だ。それを取り入れれば、神とも渡り合える。大抵の悪魔の中で俺の敵はいなくなる」
 「ほう。それで取り込んだのかよ?」
 「もちろんだ」

 次の瞬間、クロ子だった2メートルの身体が膨れ上がり、最初の38メートルサイズに戻った。
 そして口を大きく開き、哄笑する。

 「お前は悪魔の軍団長だったな」
 「それは人間の勝手な見方よ」
 「どういうことだ?」
 「まあ、お前には説明しておいてやる。我ら悪魔は他の悪魔を殺し、取り込むのだ」
 「なんだと?」
 「軍団長というのは、要するにそれだけ多くの悪魔を取り込んだということだ」
 「なるほどな」

 俺は「業」のことを思った。
 あいつが融合した「大羅天王」のことだ。
 一度は身に宿した悪魔を下級神によって引き剥がされ、再び吸収を始めた。
 今では途轍もない数の妖魔を吸収している。

 「「大羅天王」を知っているか?」
 「もちろんだ。あいつもこの地上で受肉しているな」
 「お前はあいつに勝てるか?」
 「……」

 ザエボスは黙っていた。
 ならば、勝てないのだろう。

 「ふん、口ほどにもねぇ」
 「アレは特別だ。既に神と戦えるほどの力を蓄えている」
 「俺の血を仕込んでも無理か」
 「アレは立ち向かう相手ではない。関わらぬことしか出来ない」
 「お前も受肉したんだ。この世界でどうやって逃げる?」
 「方法は幾らでもある」
 「そうか」

 ザエボスが上を向いた。

 「我のことを知ったからには、お前たちを生かしては置かぬ」
 「へぇ」
 「人の身でお前は強い部類だろう。だが所詮は人間だ。大悪魔の我とは比ぶべくもない」
 「そうかよ」
 「神素を有していたとしても、お前は人間だ」
 「さっきは随分と俺に執着してたじゃねぇか」
 「お前よりも欲しいものがあったからな」
 「!」

 響子だろう。
 俺を通じて響子に近づくつもりだったか。

 「でももう良い。大まかなことは分かった」
 「そうか。俺も分かったぜ」
 
 俺は「虎王」を抜いた。
 柳が「オロチストライク」を放った。
 三条の螺旋が伸び、ザエボスの体表で黒い炎となって消えた。

 「人の身でよくはやったがな。その程度では到底我には通じん」
 
 「石神さん! あれ、やってもいいですか!」
 「おう! 喰らわせてやれ!」
 「はい! 「オロチ大ストライク」!」
 「あー、名前は叫ぶなー」

 柳の右手から五条の螺旋が膨れ上がり、ザエボスの腹にぶち込まれた。
 腹が爆散し、大穴が空く。

 「効きましたよー!」
 「よくやった!」
 「お前!」

 ザエボスが口を開いて巨大な電光を吐き出す。
 子どもたちが散り、柳は蓮花を抱えて飛んだ。
 ミユキたちも子どもたちと一緒に離れる。

 俺は「虎王」を握って電光に突っ込み、ザエボスの口先から頭部までを両断した。
 ザエボスが悲鳴を上げる。

 「なんだ、またカワイイ声で鳴くな!」
 「ギザバァー!」

 声帯が傷ついたか、醜い声を放った。
 俺は「虎王」を振るい、ザエボスの身体を切り刻んで行く。
 言葉にならない悲鳴で呻きながら、ザエボスは数百の肉片となり、次第にそれらも崩れて行った。
 子どもたちが「オロチストライク」で肉片を撃つと、完全に崩れ去り、地面に黒い塵が拡がって行った。

 蓮花が俺の腕を掴み、震えていた。
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