1,948 / 2,806
パレボレのアルバイト
しおりを挟む
5月9日火曜日。
子どもたちはみんな学校へ行く。
俺は明日まで休みにしている。
2日間はのんびりと過ごすつもりだった。
「タカさん、「カタ研」に顔を出して下さいよ」
「ああ」
「タカさんが来るとみんな喜びますから!」
「そうだなぁ」
「石神さん、お願いします!」
まあ、ヒマだしいいかと思った。
久し振りに東大へ行くのもいい。
木下さんの食堂に顔を出そうか。
「そういえば、本郷校舎の近くに美味しいカレー屋が出来たんですよ!」
「ほんとか!」
「インド人の経営者で、本格的ですよ!」
「いいな!」
「カタ研」の集まりは3時だそうだ。
俺はカレーが大好きだ。
「私、午後は授業は無いんでタカさんに合わせますよ?」
亜紀ちゃんがニコニコして言った。
「じゃあ、一緒に喰うか」
「はい!」
「え! 私はフランス語の講義が!」
「じゃあ、またな」
「なんでぇー!」
12時にしようと柳が言ったが、亜紀ちゃんが間に合わず俺も喰った後で時間を持て余す。
柳も半泣きで諦めた。
しょっちゅう一緒に昼飯を食ってるじゃんか。
俺はアヴェンタドールで亜紀ちゃんを迎えに行くことにした。
亜紀ちゃんを1時に迎えに行き、カレー屋は1時半頃に入れるだろう。
子どもたちが出掛け、俺はロボとゆっくりした。
ロボを乗せて亜紀ちゃんをピックアップした。
「カタ研」のために用意したマンションの駐車場に車を停め、ロボの御飯を用意する。
俺たちはそのままカレー屋に行った。
「予約した石神です!」
亜紀ちゃんが言うと、奥のテーブルに案内された。
40もテーブルが並ぶ大きな店だった。
スパイスのいい香りが漂っている。
店内は清潔で、ちょっとしたフレンチレストランの感じだ。
真っ白な漆喰の壁に、インドのカラフルな織物が掛けられている。
他のインド料理店のような派手さはなく、俺は気に入った。
ランチのコースに幾つかの料理を追加した。
ナスとマトン、ダル、キーマ、それにグリーンカレー。
グリーンカレーにライスをつけてもらった。
他はナンで食べる。
ナンはプレーンとチース、セサミ、ガーリックを頼んだ。
5人前になるが、亜紀ちゃんがいるから大丈夫だ。
サラダが最初に来た。
「きちんと喰えよ!」
「はい!」
サラダは一人前だ。
千切りのキャベツとトマト、キュウリ、コーンの普通の野菜サラダだった。
ドレッシングが別について来る。
俺たちはドレッシングを注いで食べ始めた。
「「お!」」
美味かった。
イタリアンに近いが、絶妙な酸味と旨味があった。
自家製だろうが、大した腕前だ。
野菜に興味の無い亜紀ちゃんがバリバリと食べた。
「このドレッシング、欲しいですね!」
「頼んでみろよ!」
俺も気に入った。
店員をブザーで呼ぶ。
小柄な男が来た。
「「!」」
パレボレだった。
「お前! 何してる!」
「アルバイトです! 先月報告しましたよね?」
「ん?」
亜紀ちゃんがメールを確認した。
「あ、あった」
読んでいなかったようだ。
「パレボレ、お前にはちゃんと金を渡しているだろう?」
俺が言った。
以前は酷いものだったが、パレボレが心を入れ替えてからはちゃんとしたマンションに住まわせ、生活費も十分に渡しているはずだ。
もちろん、電気ガス水道も使える。
「はい、でもお世話になりっぱなしというのも申し訳なくて」
「何言ってんだよ。お前、最近じゃ結構「カタ研」で活躍してるそうじゃないか」
「いいえ、とんでもない! 自分なんか全然ですよ!」
パレボレは変わった。
以前は自分が高等な人間だと思っていたが、俺たちと付き合うようになってそれが与えられただけのものだと悟った。
人間は能力や知識ではない。
自分以外の大事な何かのために生きることだと分かったようだ。
亜紀ちゃんが聞いた。
「お前、何か欲しいものがあるのか?」
「いいえ。でも、たまにはみなさんにお菓子なども買って行きたいと思います」
「その金はあるだろう?」
「はい。でも自分のお金は全部石神さんたちに頂いているものなので。そういうお金を使うことは出来ませんから」
「ほう」
亜紀ちゃんが冷たく言ったが、顔は綻んでいた。
「まあ、無理するなよな。それに俺たちがやってる金で「カタ研」のみんなに菓子を買ったっていいんだぞ」
「ありがとうございます。でも経験にもなりますし、アルバイトはさせてください」
「そうか」
俺は改めてこの店のドレッシングが欲しいと言った。
パレボレが店長に聞いて来ると言った。
「あいつも変わったな」
「そうですね!」
亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。
カレーがまた美味かった。
頼んだどれも絶品に美味い。
ドレッシングを頼んだが、カレーも全部レシピが欲しいくらいだった。
「美味いな!」
「そうですよね!」
亜紀ちゃんと堪能した。
山盛りのタンドリーチキン。
ベトベトしたものは俺は嫌いなのだが、この店のものはカリッと焼き上げられていた。
漬け込みも抜群で、肉に旨味が増している。
「これもいいな!」
「ね!」
二人でバリバリ食べる。
シシカバブも美味かった。
パレボレが2リットルのペットボトルを抱えて来た。
「店長がどうぞって。気に入って貰えて嬉しいと言ってました」
「そうか、ありがとうな!」
「パレボレ、どうしてこの店で働こうと思ったんだ?」
「はい! 賄いが出ますので!」
「「ワハハハハハハ!」」
ニコニコとして戻って行った。
「まあ、あいつも楽しそうに働いてて良かったな」
「そうですね」
亜紀ちゃんと満足して食べ終え、レジで会計を頼んだ。
パレボレがレジに入る。
信頼されているのだろう。
俺が支払い、明細を見た。
「おい、ドレッシングの分が入ってねぇじゃんか」
「あれは自分からのプレゼントで」
「おい、それは申し訳ないよ」
「いいんです! 石神さんにはお世話になってますから」
「ダメだって。払うから言ってくれ」
「いえ、本当に! 大した金額でもありませんし」
他の客が後ろに並んだので、俺も引っ込んだ。
「じゃあ、今度お礼をするな」
「いえ! 今日は来て頂いて嬉しかったです!」
「おお! 本当に美味い店だったな! また来るからな!」
「はい!」
厨房から店主らしいインド人の男性が出て来て、ニコニコしながら頭を下げた。
俺は亜紀ちゃんと、マンションに戻った。
子どもたちはみんな学校へ行く。
俺は明日まで休みにしている。
2日間はのんびりと過ごすつもりだった。
「タカさん、「カタ研」に顔を出して下さいよ」
「ああ」
「タカさんが来るとみんな喜びますから!」
「そうだなぁ」
「石神さん、お願いします!」
まあ、ヒマだしいいかと思った。
久し振りに東大へ行くのもいい。
木下さんの食堂に顔を出そうか。
「そういえば、本郷校舎の近くに美味しいカレー屋が出来たんですよ!」
「ほんとか!」
「インド人の経営者で、本格的ですよ!」
「いいな!」
「カタ研」の集まりは3時だそうだ。
俺はカレーが大好きだ。
「私、午後は授業は無いんでタカさんに合わせますよ?」
亜紀ちゃんがニコニコして言った。
「じゃあ、一緒に喰うか」
「はい!」
「え! 私はフランス語の講義が!」
「じゃあ、またな」
「なんでぇー!」
12時にしようと柳が言ったが、亜紀ちゃんが間に合わず俺も喰った後で時間を持て余す。
柳も半泣きで諦めた。
しょっちゅう一緒に昼飯を食ってるじゃんか。
俺はアヴェンタドールで亜紀ちゃんを迎えに行くことにした。
亜紀ちゃんを1時に迎えに行き、カレー屋は1時半頃に入れるだろう。
子どもたちが出掛け、俺はロボとゆっくりした。
ロボを乗せて亜紀ちゃんをピックアップした。
「カタ研」のために用意したマンションの駐車場に車を停め、ロボの御飯を用意する。
俺たちはそのままカレー屋に行った。
「予約した石神です!」
亜紀ちゃんが言うと、奥のテーブルに案内された。
40もテーブルが並ぶ大きな店だった。
スパイスのいい香りが漂っている。
店内は清潔で、ちょっとしたフレンチレストランの感じだ。
真っ白な漆喰の壁に、インドのカラフルな織物が掛けられている。
他のインド料理店のような派手さはなく、俺は気に入った。
ランチのコースに幾つかの料理を追加した。
ナスとマトン、ダル、キーマ、それにグリーンカレー。
グリーンカレーにライスをつけてもらった。
他はナンで食べる。
ナンはプレーンとチース、セサミ、ガーリックを頼んだ。
5人前になるが、亜紀ちゃんがいるから大丈夫だ。
サラダが最初に来た。
「きちんと喰えよ!」
「はい!」
サラダは一人前だ。
千切りのキャベツとトマト、キュウリ、コーンの普通の野菜サラダだった。
ドレッシングが別について来る。
俺たちはドレッシングを注いで食べ始めた。
「「お!」」
美味かった。
イタリアンに近いが、絶妙な酸味と旨味があった。
自家製だろうが、大した腕前だ。
野菜に興味の無い亜紀ちゃんがバリバリと食べた。
「このドレッシング、欲しいですね!」
「頼んでみろよ!」
俺も気に入った。
店員をブザーで呼ぶ。
小柄な男が来た。
「「!」」
パレボレだった。
「お前! 何してる!」
「アルバイトです! 先月報告しましたよね?」
「ん?」
亜紀ちゃんがメールを確認した。
「あ、あった」
読んでいなかったようだ。
「パレボレ、お前にはちゃんと金を渡しているだろう?」
俺が言った。
以前は酷いものだったが、パレボレが心を入れ替えてからはちゃんとしたマンションに住まわせ、生活費も十分に渡しているはずだ。
もちろん、電気ガス水道も使える。
「はい、でもお世話になりっぱなしというのも申し訳なくて」
「何言ってんだよ。お前、最近じゃ結構「カタ研」で活躍してるそうじゃないか」
「いいえ、とんでもない! 自分なんか全然ですよ!」
パレボレは変わった。
以前は自分が高等な人間だと思っていたが、俺たちと付き合うようになってそれが与えられただけのものだと悟った。
人間は能力や知識ではない。
自分以外の大事な何かのために生きることだと分かったようだ。
亜紀ちゃんが聞いた。
「お前、何か欲しいものがあるのか?」
「いいえ。でも、たまにはみなさんにお菓子なども買って行きたいと思います」
「その金はあるだろう?」
「はい。でも自分のお金は全部石神さんたちに頂いているものなので。そういうお金を使うことは出来ませんから」
「ほう」
亜紀ちゃんが冷たく言ったが、顔は綻んでいた。
「まあ、無理するなよな。それに俺たちがやってる金で「カタ研」のみんなに菓子を買ったっていいんだぞ」
「ありがとうございます。でも経験にもなりますし、アルバイトはさせてください」
「そうか」
俺は改めてこの店のドレッシングが欲しいと言った。
パレボレが店長に聞いて来ると言った。
「あいつも変わったな」
「そうですね!」
亜紀ちゃんが嬉しそうに笑った。
カレーがまた美味かった。
頼んだどれも絶品に美味い。
ドレッシングを頼んだが、カレーも全部レシピが欲しいくらいだった。
「美味いな!」
「そうですよね!」
亜紀ちゃんと堪能した。
山盛りのタンドリーチキン。
ベトベトしたものは俺は嫌いなのだが、この店のものはカリッと焼き上げられていた。
漬け込みも抜群で、肉に旨味が増している。
「これもいいな!」
「ね!」
二人でバリバリ食べる。
シシカバブも美味かった。
パレボレが2リットルのペットボトルを抱えて来た。
「店長がどうぞって。気に入って貰えて嬉しいと言ってました」
「そうか、ありがとうな!」
「パレボレ、どうしてこの店で働こうと思ったんだ?」
「はい! 賄いが出ますので!」
「「ワハハハハハハ!」」
ニコニコとして戻って行った。
「まあ、あいつも楽しそうに働いてて良かったな」
「そうですね」
亜紀ちゃんと満足して食べ終え、レジで会計を頼んだ。
パレボレがレジに入る。
信頼されているのだろう。
俺が支払い、明細を見た。
「おい、ドレッシングの分が入ってねぇじゃんか」
「あれは自分からのプレゼントで」
「おい、それは申し訳ないよ」
「いいんです! 石神さんにはお世話になってますから」
「ダメだって。払うから言ってくれ」
「いえ、本当に! 大した金額でもありませんし」
他の客が後ろに並んだので、俺も引っ込んだ。
「じゃあ、今度お礼をするな」
「いえ! 今日は来て頂いて嬉しかったです!」
「おお! 本当に美味い店だったな! また来るからな!」
「はい!」
厨房から店主らしいインド人の男性が出て来て、ニコニコしながら頭を下げた。
俺は亜紀ちゃんと、マンションに戻った。
1
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、
ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、
私のおにいちゃんは↓
泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる