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素敵な焼き肉屋 Ⅱ

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 歩いて行ける距離だったので、全員で気軽に出掛けた。
 ロボは流石に留守番だ。

 「あ、ここですよ!」
 「おお」

 俺が事前に電話させた。
 俺たちが行くことを知らせておいた方が良いと思った。
 「数に限りがある」と断っていることで、俺たちのことが分かっていると判断した。
 ならば、出来るだけ準備させておく必要がある。

 「こんにちはー! 予約した石神ですー!」
 「はい! いらっしゃいませ!」

 まだ若い店主が俺たちを出迎え、広いテーブルに案内した。
 コンロは2台付いている。
 すぐにテーブルのメニューを拡げてくれ、好きなように注文して欲しいと言われた。

 「知っているのかもしれないけど、こいつら相当喰うぞ?」
 「はい! ロースとカルビがお好きと聴いてます。今日はそれぞれ特上で20キロずつは提供できます」
 「そうか。じゃあ、俺たちのペースを見て全部持って来てくれ」
 「はい! ありがとうございます!」

 愛想よく店主が下がり、すぐに大盛の皿が持って来られた。
 多分、5キロずつある。
 俺はスープとご飯を注文した。
 
 「お酒は宜しいですか?」
 「最初はいいよ。そのうちに飲みたくなったら頼むから」
 「はい!」

 上と特上に分かれている。
 当然特上で頼んでいる。
 子どもたちが早速肉を焼き始める。
 空気が変わった。

 あと10秒で焼き上がるという段階で、亜紀ちゃんがルーの顔にブローを放った。
 ルーは防御せずに硬い額で受け、そのまま網の肉をさらった。
 柳とハーが亜紀ちゃんに左右から蹴りを入れ、亜紀ちゃんは両腕でガードしながらルーの箸の肉に噛みつく。
 高速で亜紀ちゃんの頬に向かって三人の拳が伸びる。

 「あの! 喧嘩はどうか!」

 店主が慌てて飛んで来た。

 「あれ? 俺たちのことは知ってたんじゃ?」
 「え、ええ。でもどうか、喧嘩は。お肉は十分にありますから」
 「そう言われてもなー」

 俺にも止められん。

 「まあ、こいつら怪我はしないから好きなようにやらせてくれよ」
 「はぁ」

 店主はしばらく見ていたが、本当に怪我はしないので奥へ戻った。

 「お前ら、ちょっとは静かに喰え」
 「「「「はい!」」」」

 まあ、変わらねぇ。
 店主は子どもたちの「喰い」は知らなかったようだ。
 俺がどんどん肉を持って来てくれと頼み、大皿に盛られた肉が届いてからは、多少子どもたちも収まった。
 ガンガン焼いて、どんどん食べて行く。
 味は悪くない。
 真面目に仕込みをしているのが分かった。
 値段もいい。
 何しろ「銀河宮殿」や大ガード近くの高級店では数百万を喰う連中だ。
 松坂牛などの超高級肉は無いので、安く上がると俺は踏んだ。

 全部で40キロあった肉も、40分程で喰い尽くした。
 いつもながらに呆れた連中だ。
 店主と奥さんも呆然としている。

 「もう終わりかな?」
 「いえ、先ほど仕込んだので、あと10キロずつはありますが」
 「じゃあ、それも貰おうか」
 「は、はい!」

 俺は満腹になったので、別なテーブルでゆっくりと焼きながらビールを頼んだ。
 店主が俺の所へ来る。

 「亜紀ちゃんに手紙をくれたな」
 「はい。焼肉がお好きと聞いて、是非うちで召し上がっていただきたいと」
 「他の店の評判は聞いていたんだろう?」
 「ええ」

 ろくな評判ではなかったはずだ。

 「それなのに呼んでくれたのかよ?」
 「はい! 焼肉が好きな方に食べて頂きたくて!」
 「あんた、いい人だな」
 「エヘヘヘヘヘ!」

 15分ほどで、残りの肉も喰い尽くした。
 子どもたちが美味しかったと礼を言い、店員が笑いながら皿を下げて行く。

 「上ロースと上カルビも食べてみようかな?」
 「はい!」

 5キロずつ頼む。

 「タカさん! こっちも美味しいですよ!」
 「ほんとだ! こっちも好き!」

 元の肉の値段が違うのだろうが、店主の真面目な仕込みが効いているのだろう。
 俺も何切れか食べて、確かに美味いと言った。
 子どもたちが追加で注文する。
 今度は暴れずに、ワイワイと食べて行った。
 流石に一段落したのだろう。

 「亜紀ちゃんがさ、嬉しそうな顔をしてたんだよ」
 「そうなんですか!」

 俺にビールの追加を持って来た店主に言った。

 「知っての通り、結構出禁を喰らっててな。この辺の100均には「石神亜紀お断り」ってプレートが売ってるくらいでよ」
 「ワハハハハハハ!」
 「だからさ、是非来て欲しいっていうあなたの手紙が嬉しかったんだろうよ」
 「そうですか」

 潰された店もあるのだが、それを知っての上で誘ってくれた。
 有難い人だ。

 「「数に限りがある」って断ってくれたのが良かったよ」
 「そうですか。本当は御満足するまで提供しなきゃいけないんでしょうけど」
 「あいつらは無理だよ!」

 店主が笑った。

 「でもさ、不思議なんだけど最初から分量を知らされるとそれで収まるんだ」
 「はぁ」
 「まあ、「喰い」のベテランだからな。そうしてもらうと丸く収まる」
 「そうじゃないと?」
 「量にもよるけど、暴れることもあっからなー」
 「それは!」

 俺は笑って、今まで「銀河宮殿」とその前は新宿の大ガードの有名店しか受け入れてもらえなかったと話した。

 「「銀河宮殿」って、梅田精肉店さんのお店ですよね!」
 「おお、よく知ってるな」
 「はい! うちも梅田精肉店さんに卸してもらってますので!」
 「おい、うちもだよ!」
 
 俺がしょっちゅう届けてもらうのだと話すと、店主が大笑いした。

 「大変ですね!」
 「そうなんだよー!」

 なんか友情すら店主に感じた。

 「こいつらよ、蕎麦の薬味までステーキなんだぜ!」
 「ワハハハハハハ!」

 上ロースと上カルビを20キロ食べて、俺は終了を宣言した。

 支払いは90万円で収まった。
 
 「うちの最高の売上です!」
 「よかったな!」

 俺も100万以下で嬉しかった。
 子どもたちも満足している。

 「気に入ったようだから、今後も利用させてくれ」
 「こちらこそ、宜しくお願いします!」
 「ああ、こいつらが来たら、せいぜい一人10キロまでにしてくれ。俺から言い聞かせておくよ」
 「はい!」
 「学校帰りなんかにも来るだろうしな。家族で来る時には、また事前に連絡を入れるから、無理のない範囲で用意してくれればいいよ」
 「分かりました! 是非いらして下さい!」
 「ああ、いい気分で帰れるのは久しぶりだぜ」
 「アハハハハハハ!」

 


 本当に気持ちのいい店だったので、一江に頼んでネットで広めてもらった。
 一江がやり過ぎた。

 「タカさん!」
 「あんだよ?」
 「あの「桜蘭」ってなかなか入れないようになっちゃったんですよ!」
 「なんでだよ?」
 「いつも行列なんです!」
 「そっか」

 亜紀ちゃんが不満そうだったが、ああいう店は繁盛して欲しい。
 
 「今度予約して行くか」
 「はい!」

 亜紀ちゃんがニコニコした。

 「じゃあ、今日は「銀河宮殿」に行きますか!」
 「お、おー」

 まあ、仕方が無い。
 焼肉はとことん食べたくなることがある。
 俺の子どもなのだから、俺の責任だ。
 俺が電話した。

 「今日は500万円を超えたら止めて下さいね」
 「かしこまりました!」

 普通の家族の数年分の食費だろう。
 まあ、俺のせいなのだろう。
 こいつらがカワイイのだから、それもしょうがない。
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