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ニューヨークの夜景

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 院長の前ではいつもニコニコしているルーとハーが、厳しい顔をして兵士たちを指導している。
 時に怒鳴り、叱咤しながら、真剣にやっている。
 亜紀ちゃんと柳も同じだ。
 真面目な顔で兵士たちを教えている。
 子どもではあるが、兵士の誰もが甘く見たりはしていない。
 命が、それ以上のものが掛かっていることを全員が知っている。
 「業」の軍に負ければ、人類がどうなるのかを分かっている。
 だからみんなが真剣に取り組んでいるのだ。
 院長もそれを感じている。
 目を見開いて、ずっと子どもたちと兵士たちを見ていた。

 3時を過ぎ、俺は一旦休憩にした。
 子どもたちが院長たちのいるテーブルに来た。
 兵士たちが冷たい紅茶をピッチャーに用意してくれた。
 みんなで頂く。
 ルーとハーは笑顔で院長と静子さんの隣に座る。
 院長たちも、顔を綻ばせた。

 「院長、そろそろ送って行きますよ」
 「いや、邪魔をしては申し訳ない。タクシーで帰るぞ」
 
 俺は笑って静江さんに電話し、ロックハートの車を回してもらった。

 「石神、お前たちはこんなにも真剣にやっているんだな」
 「まあ、俺はいい加減ですけどね。みんなは真面目にやってますよ」

 俺がそう言っても、院長は笑わずに俺を見ていた。

 「石神、お前は本当に大変なことをやっているんだな」
 「いいえ、単に喧嘩が好きなだけですから」

 迎えの車が来て、俺が見送った。





 休憩を終え、俺と聖がエキシビション的な戦闘を行なった。
 武器も「花岡」も使わない、単純な格闘技での戦闘だ。
 何台かカメラが用意された。
 最初からフルパワーでぶつかった。
 俺がブロウを、聖はフックを放つ。
 互いにブロックし、瞬時に足技がぶつかり合う。
 聖は旋回しながら右足の回し蹴り、俺は身体を捩じりながら聖の腹に蹴りを撃つ。
 互いに回避しながら次の攻撃を繋いでいく。

 「カメラ! 捉えているか!」
 「構えてますが、スピードが速くてどうなってることやら!」

 俺と聖が、互いに無数の突きを放った。
 残像で千手観音像のようになる。
 歓声が上がった。
 俺たちは多彩な技を放ち、そして有効打は一発も無い。
 「花岡」を使えば実戦の戦闘時の参考になる。
 しかし、俺たちはそうではない、戦いの「核」というものを見せ合っていた。
 大きな技は有効だ。
 でも、「戦闘」の本質はもっと深い。
 要は、自分よりも強い相手とどうやって渡り合うかということだ。
 そのためには、多彩で異様で、しかも強力な戦い方が必要になる。

 20分以上遣り合って、俺たちは離れて終わった。
 盛大な拍手が湧く。

 「スージー! 分かったか!」

 聖が副官のスージーを呼んだ。

 「はい! 相手の意表を衝きながら、攻撃の手を緩めないことだと観ました!」
 「よし!」

 聖が満足そうに笑った。
 
 「聖さん! 私とやってもらえませんか!」

 亜紀ちゃんが叫んだ。

 「よし、来い!」

 亜紀ちゃんが聖に向かった。
 一発で吹っ飛んだ。
 双子が何も言わずに飛び掛かって行く。
 同時に左右にぶっ飛ばされた。

 「相手にならねぇなぁ」

 みんなが笑い、亜紀ちゃんたちが悔しそうな顔をした。

 「なんでぇー!」
 「お前らの攻撃は「避けなければならない」というものではないからな。余裕で攻撃が出せるんだよ。気づいていないのか?」
 「分かりませんよー!」
 「ラーとフーのは不意打ちにもならねぇ」
 「「名前覚えろ!」」

 その後も夕方まで訓練をした。

 「トラ、ありがとうな」
 「いいって。俺たちも勉強になったよ」
 「今晩はやっぱり飲めないか?」
 「悪いな。さっきのお二人を楽しませたいんだ」
 「そっか。じゃあ、またな」
 「ああ。今度はゆっくり飲もう」

 俺たちはロックハート家に戻った。




 「タカトラー!」

 庭で響子が俺を見つけて駆け寄って来る。

 「おい、走るな!」

 慌てて駆け寄って響子を抱き締めた。
 六花が吹雪を抱いて笑って歩いて来る。
 ロボも駆けて来て俺に飛び上がった。

 「何をやってたんだ?」
 「庭を案内してたの」
 「そうか」

 俺はロボを抱き上げて額にキスをした。
 下に降ろして、六花から吹雪を受け取る。
 
 「今日も御機嫌だな!」
 
 吹雪がキャッキャと笑う。

 「院長たちは?」
 「少し休まれてます」
 「そうか」

 いろいろとあって、少しお疲れだろう。
 食事には起きて来たが、あまり食欲はなさそうだった。
 ロドリゲスが気を遣ってはくれたが、基本的に洋食はあまり食べないお二人だ。
 俺は食後にリムジンを借り、みんなをドライブに誘った。
 俺の運転で行こうとしたが、静江さんが運転手を用意してくれた。

 「お好きなように命じて下さい」
 「すいません。お借りします」

 ブルックリン側からブルックリン橋を渡る。
 ニューヨークの夜景が素晴らしい。

 「折角来たんですからね。この眺めは是非」
 「ああ、素晴らしいな」

 車を停めてもらい、みんなで外からニューヨークの夜景を眺める。

 「静子さん、どれか欲しいビルはありますか?」
 「エェ!」
 「双子が買いますから、遠慮なく言って下さい」
 「もう! 石神さん!」

 院長が笑っていた。

 「ルー、ハー! 選べないから全部買っとけ!」
 「「はーい!」」
 「辞めて下さいね!」

 みんなで笑った。
 俺はハドソン川を渡ってもらい、ニュージャージー州からまたニューヨークシティを眺めた。

 「ここもいいでしょう?」
 「そうだな。遠くなった分、全部の夜景が見えるな」
 「じゃあ、静子さん。ここを買っときますか!」
 「辞めてね!」

 「聖とよく来てたんですよ」
 「そうなのか」
 「あいつ、意外とこういう場所が好きでしてね」
 「ほう、お前と似ているんだな」
 「そうですかねぇ」

 俺は聖とニューヨークの夜景を眺めた話をした。
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