1,930 / 2,840
ニューヨークの夜景
しおりを挟む
院長の前ではいつもニコニコしているルーとハーが、厳しい顔をして兵士たちを指導している。
時に怒鳴り、叱咤しながら、真剣にやっている。
亜紀ちゃんと柳も同じだ。
真面目な顔で兵士たちを教えている。
子どもではあるが、兵士の誰もが甘く見たりはしていない。
命が、それ以上のものが掛かっていることを全員が知っている。
「業」の軍に負ければ、人類がどうなるのかを分かっている。
だからみんなが真剣に取り組んでいるのだ。
院長もそれを感じている。
目を見開いて、ずっと子どもたちと兵士たちを見ていた。
3時を過ぎ、俺は一旦休憩にした。
子どもたちが院長たちのいるテーブルに来た。
兵士たちが冷たい紅茶をピッチャーに用意してくれた。
みんなで頂く。
ルーとハーは笑顔で院長と静子さんの隣に座る。
院長たちも、顔を綻ばせた。
「院長、そろそろ送って行きますよ」
「いや、邪魔をしては申し訳ない。タクシーで帰るぞ」
俺は笑って静江さんに電話し、ロックハートの車を回してもらった。
「石神、お前たちはこんなにも真剣にやっているんだな」
「まあ、俺はいい加減ですけどね。みんなは真面目にやってますよ」
俺がそう言っても、院長は笑わずに俺を見ていた。
「石神、お前は本当に大変なことをやっているんだな」
「いいえ、単に喧嘩が好きなだけですから」
迎えの車が来て、俺が見送った。
休憩を終え、俺と聖がエキシビション的な戦闘を行なった。
武器も「花岡」も使わない、単純な格闘技での戦闘だ。
何台かカメラが用意された。
最初からフルパワーでぶつかった。
俺がブロウを、聖はフックを放つ。
互いにブロックし、瞬時に足技がぶつかり合う。
聖は旋回しながら右足の回し蹴り、俺は身体を捩じりながら聖の腹に蹴りを撃つ。
互いに回避しながら次の攻撃を繋いでいく。
「カメラ! 捉えているか!」
「構えてますが、スピードが速くてどうなってることやら!」
俺と聖が、互いに無数の突きを放った。
残像で千手観音像のようになる。
歓声が上がった。
俺たちは多彩な技を放ち、そして有効打は一発も無い。
「花岡」を使えば実戦の戦闘時の参考になる。
しかし、俺たちはそうではない、戦いの「核」というものを見せ合っていた。
大きな技は有効だ。
でも、「戦闘」の本質はもっと深い。
要は、自分よりも強い相手とどうやって渡り合うかということだ。
そのためには、多彩で異様で、しかも強力な戦い方が必要になる。
20分以上遣り合って、俺たちは離れて終わった。
盛大な拍手が湧く。
「スージー! 分かったか!」
聖が副官のスージーを呼んだ。
「はい! 相手の意表を衝きながら、攻撃の手を緩めないことだと観ました!」
「よし!」
聖が満足そうに笑った。
「聖さん! 私とやってもらえませんか!」
亜紀ちゃんが叫んだ。
「よし、来い!」
亜紀ちゃんが聖に向かった。
一発で吹っ飛んだ。
双子が何も言わずに飛び掛かって行く。
同時に左右にぶっ飛ばされた。
「相手にならねぇなぁ」
みんなが笑い、亜紀ちゃんたちが悔しそうな顔をした。
「なんでぇー!」
「お前らの攻撃は「避けなければならない」というものではないからな。余裕で攻撃が出せるんだよ。気づいていないのか?」
「分かりませんよー!」
「ラーとフーのは不意打ちにもならねぇ」
「「名前覚えろ!」」
その後も夕方まで訓練をした。
「トラ、ありがとうな」
「いいって。俺たちも勉強になったよ」
「今晩はやっぱり飲めないか?」
「悪いな。さっきのお二人を楽しませたいんだ」
「そっか。じゃあ、またな」
「ああ。今度はゆっくり飲もう」
俺たちはロックハート家に戻った。
「タカトラー!」
庭で響子が俺を見つけて駆け寄って来る。
「おい、走るな!」
慌てて駆け寄って響子を抱き締めた。
六花が吹雪を抱いて笑って歩いて来る。
ロボも駆けて来て俺に飛び上がった。
「何をやってたんだ?」
「庭を案内してたの」
「そうか」
俺はロボを抱き上げて額にキスをした。
下に降ろして、六花から吹雪を受け取る。
「今日も御機嫌だな!」
吹雪がキャッキャと笑う。
「院長たちは?」
「少し休まれてます」
「そうか」
いろいろとあって、少しお疲れだろう。
食事には起きて来たが、あまり食欲はなさそうだった。
ロドリゲスが気を遣ってはくれたが、基本的に洋食はあまり食べないお二人だ。
俺は食後にリムジンを借り、みんなをドライブに誘った。
俺の運転で行こうとしたが、静江さんが運転手を用意してくれた。
「お好きなように命じて下さい」
「すいません。お借りします」
ブルックリン側からブルックリン橋を渡る。
ニューヨークの夜景が素晴らしい。
「折角来たんですからね。この眺めは是非」
「ああ、素晴らしいな」
車を停めてもらい、みんなで外からニューヨークの夜景を眺める。
「静子さん、どれか欲しいビルはありますか?」
「エェ!」
「双子が買いますから、遠慮なく言って下さい」
「もう! 石神さん!」
院長が笑っていた。
「ルー、ハー! 選べないから全部買っとけ!」
「「はーい!」」
「辞めて下さいね!」
みんなで笑った。
俺はハドソン川を渡ってもらい、ニュージャージー州からまたニューヨークシティを眺めた。
「ここもいいでしょう?」
「そうだな。遠くなった分、全部の夜景が見えるな」
「じゃあ、静子さん。ここを買っときますか!」
「辞めてね!」
「聖とよく来てたんですよ」
「そうなのか」
「あいつ、意外とこういう場所が好きでしてね」
「ほう、お前と似ているんだな」
「そうですかねぇ」
俺は聖とニューヨークの夜景を眺めた話をした。
時に怒鳴り、叱咤しながら、真剣にやっている。
亜紀ちゃんと柳も同じだ。
真面目な顔で兵士たちを教えている。
子どもではあるが、兵士の誰もが甘く見たりはしていない。
命が、それ以上のものが掛かっていることを全員が知っている。
「業」の軍に負ければ、人類がどうなるのかを分かっている。
だからみんなが真剣に取り組んでいるのだ。
院長もそれを感じている。
目を見開いて、ずっと子どもたちと兵士たちを見ていた。
3時を過ぎ、俺は一旦休憩にした。
子どもたちが院長たちのいるテーブルに来た。
兵士たちが冷たい紅茶をピッチャーに用意してくれた。
みんなで頂く。
ルーとハーは笑顔で院長と静子さんの隣に座る。
院長たちも、顔を綻ばせた。
「院長、そろそろ送って行きますよ」
「いや、邪魔をしては申し訳ない。タクシーで帰るぞ」
俺は笑って静江さんに電話し、ロックハートの車を回してもらった。
「石神、お前たちはこんなにも真剣にやっているんだな」
「まあ、俺はいい加減ですけどね。みんなは真面目にやってますよ」
俺がそう言っても、院長は笑わずに俺を見ていた。
「石神、お前は本当に大変なことをやっているんだな」
「いいえ、単に喧嘩が好きなだけですから」
迎えの車が来て、俺が見送った。
休憩を終え、俺と聖がエキシビション的な戦闘を行なった。
武器も「花岡」も使わない、単純な格闘技での戦闘だ。
何台かカメラが用意された。
最初からフルパワーでぶつかった。
俺がブロウを、聖はフックを放つ。
互いにブロックし、瞬時に足技がぶつかり合う。
聖は旋回しながら右足の回し蹴り、俺は身体を捩じりながら聖の腹に蹴りを撃つ。
互いに回避しながら次の攻撃を繋いでいく。
「カメラ! 捉えているか!」
「構えてますが、スピードが速くてどうなってることやら!」
俺と聖が、互いに無数の突きを放った。
残像で千手観音像のようになる。
歓声が上がった。
俺たちは多彩な技を放ち、そして有効打は一発も無い。
「花岡」を使えば実戦の戦闘時の参考になる。
しかし、俺たちはそうではない、戦いの「核」というものを見せ合っていた。
大きな技は有効だ。
でも、「戦闘」の本質はもっと深い。
要は、自分よりも強い相手とどうやって渡り合うかということだ。
そのためには、多彩で異様で、しかも強力な戦い方が必要になる。
20分以上遣り合って、俺たちは離れて終わった。
盛大な拍手が湧く。
「スージー! 分かったか!」
聖が副官のスージーを呼んだ。
「はい! 相手の意表を衝きながら、攻撃の手を緩めないことだと観ました!」
「よし!」
聖が満足そうに笑った。
「聖さん! 私とやってもらえませんか!」
亜紀ちゃんが叫んだ。
「よし、来い!」
亜紀ちゃんが聖に向かった。
一発で吹っ飛んだ。
双子が何も言わずに飛び掛かって行く。
同時に左右にぶっ飛ばされた。
「相手にならねぇなぁ」
みんなが笑い、亜紀ちゃんたちが悔しそうな顔をした。
「なんでぇー!」
「お前らの攻撃は「避けなければならない」というものではないからな。余裕で攻撃が出せるんだよ。気づいていないのか?」
「分かりませんよー!」
「ラーとフーのは不意打ちにもならねぇ」
「「名前覚えろ!」」
その後も夕方まで訓練をした。
「トラ、ありがとうな」
「いいって。俺たちも勉強になったよ」
「今晩はやっぱり飲めないか?」
「悪いな。さっきのお二人を楽しませたいんだ」
「そっか。じゃあ、またな」
「ああ。今度はゆっくり飲もう」
俺たちはロックハート家に戻った。
「タカトラー!」
庭で響子が俺を見つけて駆け寄って来る。
「おい、走るな!」
慌てて駆け寄って響子を抱き締めた。
六花が吹雪を抱いて笑って歩いて来る。
ロボも駆けて来て俺に飛び上がった。
「何をやってたんだ?」
「庭を案内してたの」
「そうか」
俺はロボを抱き上げて額にキスをした。
下に降ろして、六花から吹雪を受け取る。
「今日も御機嫌だな!」
吹雪がキャッキャと笑う。
「院長たちは?」
「少し休まれてます」
「そうか」
いろいろとあって、少しお疲れだろう。
食事には起きて来たが、あまり食欲はなさそうだった。
ロドリゲスが気を遣ってはくれたが、基本的に洋食はあまり食べないお二人だ。
俺は食後にリムジンを借り、みんなをドライブに誘った。
俺の運転で行こうとしたが、静江さんが運転手を用意してくれた。
「お好きなように命じて下さい」
「すいません。お借りします」
ブルックリン側からブルックリン橋を渡る。
ニューヨークの夜景が素晴らしい。
「折角来たんですからね。この眺めは是非」
「ああ、素晴らしいな」
車を停めてもらい、みんなで外からニューヨークの夜景を眺める。
「静子さん、どれか欲しいビルはありますか?」
「エェ!」
「双子が買いますから、遠慮なく言って下さい」
「もう! 石神さん!」
院長が笑っていた。
「ルー、ハー! 選べないから全部買っとけ!」
「「はーい!」」
「辞めて下さいね!」
みんなで笑った。
俺はハドソン川を渡ってもらい、ニュージャージー州からまたニューヨークシティを眺めた。
「ここもいいでしょう?」
「そうだな。遠くなった分、全部の夜景が見えるな」
「じゃあ、静子さん。ここを買っときますか!」
「辞めてね!」
「聖とよく来てたんですよ」
「そうなのか」
「あいつ、意外とこういう場所が好きでしてね」
「ほう、お前と似ているんだな」
「そうですかねぇ」
俺は聖とニューヨークの夜景を眺めた話をした。
1
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
人形の中の人の憂鬱
ジャン・幸田
キャラ文芸
等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。
【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。
【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる