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NY ロックハート家の夕餉

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 翌朝。
 みんな5時に起きて準備を始める。
 院長夫妻は5時半にと言っていたが、やっぱり一緒に5時に起きた。
 申し訳ない。
 向こうについてすぐに夕食になるので、朝食は用意しない。
 いつもなら喰いたい奴には食わせるのだが、院長夫妻がいるので、それも辞めさせている。
 自分たちだけ喰うわけにはいかない。
 ロボだけササミを焼いて食べさせた。
 日本茶を煎れて、院長たちにはちょっと一服して頂いた。

 子どもたちが荷物を持って移動を始める。
 いつもの「花見の家」だ。
 俺も院長たちを連れて移動した。
 ロボもちゃんと付いて来る。

 「石神、本当にここから出発するのか?」
 「そうですよ。まあ、見てて下さい」
 「あ、ああ」

 「花見の家」には既に「タイガーファング」が到着していた。
 青嵐と紫嵐がいつものように俺に挨拶して来る。
 院長たちを紹介すると、笑顔で挨拶してきた。

 「「虎病院」の大院長様ですね!」
 「いや、まだ先だよ」
 「お待ちしてます!」

 院長が困った顔をしていた。
 まあ、本当にまだ先だ。
 院長は3回目の任期に入ったばかりで、まだこちらでも就任を期待されている。
 院長職をこれだけ乞われる人間はいない。
 1期5年で辞める人間がほとんどだ。
 院長の退任はアラスカがもっと稼働し、「虎病院」が本格的に動くようになってからだ。
 今はアメリカ人の医師たちを中心に回している状態だった。

 荷物を積み込み、院長夫妻を中へ案内した。
 響子はもうポッドではなく、柔らかい座席に座らせハーネスで固定する。
 院長たちも同じく俺がハーネスで固定した。

 「すいません、短い時間ですので」
 「ああ、宜しく頼む」

 一体どうなるのか分からないので、院長は不安そうな顔をしていた。
 静子さんは平気なようだ。

 「石神さん、楽しみだわ」
 「ええ」

 青嵐が確認に来て、出発すると言った。
 操縦席に戻って、機体を操縦する。
 若干の浮揚感があり、上昇を始めた。
 目の前の大スクリーンにその情景が映る。
 地上がみるみる小さくなって行く。

 「おお」

 院長が感嘆のため息を漏らした。

 「では行きますよ!」

 青嵐の声で、「タイガーファング」は加速していった。
 響子と院長がいるので、加速はいつもよりも柔らかい。
 しかしすぐにマッハ100を超えていく。
 中にいると、その実感はない。
 スクリーンは地上を映し出し、広い海洋を進んでハワイ島が瞬時に消えた。

 「今のがハワイですから」
 「よく見えなかったなぁ」
 
 20分程で減速に移り、アメリカ大陸を横断する。
 マッハ5まで落としているので、今度は景色も楽しめた。

 「もうすぐニューヨークに到着です」
 「なんだと!」

 まあ、特別に速い機体で行くとは説明したが、まさかこんなに速いとは思ってもみなかっただろう。
 院長が静子さんと顔を見合わせていた。

 「飛行機だと半日以上だよな?」
 「まあ、そうですね」
 「もう着いたのか」
 「本来はもっと速いんですけどね。院長たちに負担が掛からないようにしました」
 「そ、そうか。ありがとう」

 俺たちは「セイントPMC」の着陸場に降り、子どもたちがすぐに荷物を降ろして行く。
 夕方の5時半だ。
 俺は院長たちのハーネスを外し、青嵐が響子のものを外した。

 「響子、オッパイに触られてないか?」
 「ちょっとだけだよ」
 「あんだとぉー!」
 「いえ! 触ってませんから!」

 みんなが笑った。

 「トラ!」

 忙しいだろうに、また聖が出迎えてくれた。

 「よう! いつも悪いな!」
 「いいって」

 俺は院長夫妻を聖に紹介した。
 聖が俺と一緒に戦場を回り、今は傭兵派遣会社の社長であることは知っている。

 「俺が病院でずっと世話になっている蓼科文学院長と、奥さんの静子さんだ」
 「そうか。トラがいつもお世話になってます」
 「おい! お前、真っ当な挨拶が出来んだな!」
 「あたりまえだ!」

 聖も会社の社長だ。
 必要なこともあるのだろう。
 こいつも変わった。
 
 「俺がガキの頃から世話になってる大親友の聖ですよ」
 「ああ、話は石神からよく聞いています。どうぞ宜しくお願いします」

 お二人が聖と握手をした。

 「トラ、やっぱお前の大事な人たちだな」
 「なんだ?」
 「一目で分かった。いい方たちだ。今後は全力で守らせてくれ」
 「ああ、宜しくな!」

 敷地の外でロックハート家のリムジンが待っており、俺たちはそれへ乗り込んだ。
  
 「じゃあトラ、連絡を待ってる」
 「おう!」

 聖とは一旦分かれた。
 ロックハート家では既に夕飯の支度が整っており、荷物はメイドたちに運ばれ、俺たちはすぐに食堂へ案内された。
 響子だけはパジャマだったので、着替えて来る。
 アルと静江さんが大歓迎で待っていた。
 また院長夫妻を紹介した。
 アルたちは二度日本へ来たが、院長とは初対面だった。
 最初はセキュリティの関係で俺だけがアメリカ大使館へ行き、二度目は俺の家だったためだ。

 「高名な蓼科文学様にお会い出来て光栄です」
 「いいえ、とんでもない。こちらこそ世界に名だたるロックハート家の方々にお会い出来るとは」
 
 子どもたちはロドリゲスや執事長たちと挨拶し、勝手に盛り上がっている。
 響子も着替えて来て、みんなで着席した。

 「静子さん、食事は大丈夫ですか?」
 「ええ」

 ほとんど起きてから時間が経っていない。
 静江さんに言って、消化の良い食事をお二人のために頼んでいる。
 すぐに料理が運ばれ、院長たちには綺麗なゼラチンで固めた前菜が出て来た。
 メインも魚料理で、お二人が喜んで食べていて安心した。
 ロドリゲスはやはり腕がいい。

 静江さんが院長を見て言った。

 「あの、失礼ですが以前にお会いしたことはございますか?」
 「はい」

 院長は、百家響さんを執刀したのが自分だと明かした。

 「え! でもあの時は!」
 「すみませんでした。自分が執刀してどうにもならずに」
 「私、全然知りませんでした」

 院長は、当時の上司が静江さんたちに話したのだと言った。

 「執刀医は私でしたが、手術が上手く行ったわけでもないので、伏せられていました。上司が説明を差し上げる時に同席はしましたが」
 「ああ、それで!」

 アルが言った。

 「あの「奇跡の手」と呼ばれる蓼科様が、その時も手術をして下さったんですね」
 「はい。響子ちゃんの時にも申し訳ない」
 「いいえ。それはこのタカトラが見事にやり遂げてくれましたので」

 俺たちは話し込んだ。
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