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思い出の品

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 柳と家に戻ると、丁度カレーが出来上がった瞬間だった。

 「「「チッ!」」」
 「なんだ、その舌打ちはぁ!」
 
 危なかった。
 カレーで出遅れるということは、石神家では様々な弊害がある。
 「食の弱者」として、この先どんな目に遭うのか分からん。
 まあ、これまでいなかったが。

 みんなでカレーを食べた。
 今日はインドやエスニックなどではなく、昔ながらの日本のカレーだ。
 うちは多少拘ってはいるが、基本はゴロゴロ野菜と牛肉の塊だ。

 「明日は院長たちが来るからな!」
 「「「「はい!」」」」

 明後日からニューヨークとアラスカへ行く。
 ニューヨークではロックハート家との顔繋ぎと、あとは観光をしていただく。
 あまり旅行になど出掛けない二人なので、俺は楽しんで貰いたいと思っている。
 俺たちは聖の「セイントPMC」での戦闘訓練だ。
 子どもたちが中心になって行なう予定だった。。
 先日の妖魔襲撃にはロックハート家の支援砲撃とクレアの「スズメバチ」が大半の迎撃をこなした。
 それを抜けて来た上級妖魔には、聖以外はほとんど相手にならなかった。
 つまり、「セイントPMC」の対妖魔戦の構築が急がれるということだった。

 うちのカレーは速い。
 2分以上を掛けて一皿を喰う奴はいない。
 じっくりと丁寧に仕上げてたちまちに喰う。
 俺は仕事の時には、一杯だけ残している。
 幾ら俺が家長の権力をかざしても、カレーだけはそこまでだった。
 肉以上の恐ろしいほどの執念がある。
 まあ、俺がカレーが大好きだからなのだろうが。
 こいつらは、俺の好物を好きになった。

 「お前らよ、ここに来る前はどういうものが好きだったんだよ?」

 「「「「カレー!」」」」
 「……」

 柳まで目の色を変えて喰っている。
 俺も夢中で食べて、夕飯を終えた。




 風呂に入り、亜紀ちゃんが誘いに来た。

 「一緒に『虎は孤高に』を地下で観ませんか?」
 「やだ」
 「えーん」

 また大興奮の亜紀ちゃんと観るのはウザい。
 他の子どもたちが誘われたが、みんなに断られていた。

 「えーん」

 俺は柳を誘って、庭で飲もうと思った。

 「え!」
 「たまにはよ、庭の花を眺めながら飲もうぜ?」
 「はい!」

 柳は嬉しそうな顔でつまみを作り始めた。

 「……」

 亜紀ちゃんが迷っている。

 「亜紀ちゃんはテレビを観ればいいじゃないか」
 「わ、わたしもー!」

 柳を手伝い始めた。
 俺は笑って酒を持って庭に出た。
 テーブルと椅子を用意する。
 亜紀ちゃんと柳が料理を持って降りて来た。

 さつま揚げ焼き。
 サーモンのチーズ焼き。
 雪野ナス。
 ふろふき大根。
 ふきと油揚げの煮物。

 結構あっさり目だ。
 先日、食糧の大量消費をしたので、こういうものになった。
 俺は冷酒を用意した。
 江戸切子のグラスで飲む。

 「お刺身、とっとけば良かったですね」
 「まーなー」

 さつま揚げにすりショウガを乗せて食べる。
 まあ、こういうものもいい。
 目の前には、デンドロビュームが咲いていた。
 地面にLEDライトを仕込み、ほんのりと浮かび上がっている。
 柳が、さっき話した奈津江のデンドロビュームの思い出を亜紀ちゃんに話した。

 「へぇー! 奈津江さんはそれでデンドロビュームがお好きだったんですね!」
 「まあな。他の花も好きで、よく買って帰っていたよ」
 「そうなんですかー」

 多分、お母さんがそうだったのだろう。
 奈津江の好きな物は、ほとんどがお母さんが好きだったものだ。

 「綺麗な缶をとっとくとかもな」
 「あ! 奈津江さんのお部屋に一杯ありますよね!」
 「そうだな。お父さんがそれを知っていたから、日本に帰る時には奈津江のために持って帰ったみたいだ」
 「そうですか!」

 奈津江はそれに、いろいろなものを入れて大切にしていた。

 「タカさんも多いですよね!」
 「そうだな。まあ、誰でもそういうのはあるんじゃないか?」
 「そうですかねー」

 「亜紀ちゃんの部屋だって多いじゃないか」

 まあ、今は『虎は孤高に』関連グッズだが。
 俺がヤマトテレビに売れるからと用意させたのだが、亜紀ちゃんはコンプリートだ。
 俺の立場を利用し、出演者やスタッフ全員のサイン色紙まである。
 もちろん、俺も書かされた。

 「そうですね!」
 「柳の部屋もな」
 「そうですけど、あんまり人に自慢できるようなものでは」
 「そんなの、俺だってそうだよ」
 「アハハハハハハ!」

 柳の部屋には女の子らしいというか、綺麗なものが多い。
 アクセサリーや小物もそうだが、ぬいぐるみなどもある。
 
 「双子の部屋もな」
 「「アハハハハハハハ!」」

 マイクロビキニとアニマルヘッドだが。
 置き切れないので、裏の棟にも置き場所がある。
 
 「人それぞれでいいんだけどな。写真なんかは分かりやすいが、分かりやすい故にどうも軽いんだよな」
 「タカさん、最近一杯撮りますよね?」

 亜紀ちゃんの頭をはたく。

 「芸術と同じでな。表現の少ない方が深いんだよ。だから奈津江だって、お母さんじゃないデンドロビュームの花が大好きだったんだ」
 
 二人とも微笑んでデンドロビュームを見た。

 「あー! こんなとこにいたんだー!」

 ルーとハーがロボを連れて来た。
 こっちに走って来るので、亜紀ちゃんが慌ててサーモンのチーズ焼きを口に入れた。

 「お前らも何か持って来いよ。ああ、ロボのマットとお猪口もな!」
 「「はーい!」」

 二人はすぐにペプシコーラとチップス&チップスの「バターポテト」を一函抱えて来た。
 大阪の大丸梅田の限定商品だ。
 風花が送ってくれた。
 何種類ものフレーバーがあり、みんなで楽しく食べられる。
 亜紀ちゃんがすぐに一袋開けてバリバリと食べ始めた。

 「ルーとハーが来たからな。院長の大事なものの話をするか」
 「「わーい!」」

 柳が双子に、今話していたことを説明する。
 双子もニコニコして俺を見た。

 
 
 「俺が院長の家に呼ばれるようになってからのことだ」

 デンドロビュームが風に吹かれたか、静かに揺れた。
 俺はそれを見て微笑んだ。
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