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ハーのガーディアン Ⅱ 必殺! 「分身」の技

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 5月下旬の、皇紀が戻って来る少し前。
 カタ研の集会の帰り、双子は「クリームメロンソーダ」巡りで寄り道をした。
 丸の内に美味しい店があるという情報を得てのことだ。

 「なんかさー。「クリームメロンソーダ」って意外と郊外の小さい店が美味しいって気がするんだよね」
 「うん。都心だと凝り過ぎて失敗ってことも多いよね」

 吉祥寺が良かったとか、神田の路地裏の店だとか、二人で話しながら地下鉄で丸の内へ向かった。
 地下鉄を降りる。

 「東京駅ってさー、やたら広いよね」
 「うん。昔は案内板も少なくて、何時間も迷う人がいたって」
 「あー、分かるー」

 二人もスマホを確認しながら歩いていた。

 「タカさん、前はよくオアゾに行ってたよね?」
 「最近は書店のバイヤーの人が勧めて来るんだって」
 「沢山買うからねー」
 「アハハハハハハ!」

 平日の午後だが、東京駅は人が多い。

 「そういえばさ、六花ちゃんが『リカちゃん忍者』の写真集を打診されたって」
 「ほんと!」
 「うん。こないだ響子ちゃんのとこに寄った時に聞いた」
 「すぐ教えてよー!」
 「ごめん! 今思い出した!」
 「もう!」

 ルーがハーの腕を軽く叩く。

 「それで、どうしたの?」
 「当然やらないって。撮影って何時間もかかるじゃん」
 「そうだねー」
 「吹雪ちゃんとかもいるしね。まあ、タカさんが勧めれば別だろうけど」
 「うん」

 話しながら歩いている。

 「「あ!」」

 駅構内の柱を見た。

 「『虎は孤高に』のポスターじゃん!」
 「亜紀ちゃん、知ってるかな?」
 「電話しとく?」
 「うん」

 姉の亜紀が『虎は孤高に』に夢中で、関連グッズやムック本を買い漁っているのを知っている。

 「あー、亜紀ちゃん? あのさ、『虎は孤高に』のポスターの新しいのがあるけど、知ってた?」
 「なんだとぉー!」
 「今、東京駅の地下を歩いてたらあった。タカさんを中心にした「ルート20」のメンバーの奴だよ?」
 「すぐにヤマトテレビに連絡する!」
 「がんばってねー」

 電話を切った。

 「ヤマトテレビ、大丈夫かなー」
 「亜紀ちゃんには全部関連物は渡すことになってるからねー」
 「忘れちゃったのかな?」
 「しーらない!」

 どうでも良かった。

 目当ての店がある喫茶店に着いた。

 「ここは良さそうだよ!」
 「うん! 路地裏の古いお店だね!」
 「いいクリームメロンソーダの匂いがする!」
 「ほんとだぁー!」

 別にしない。
 二人は嬉しそうに笑って店内に入った。

 出て来たのは、メロンの果肉を入れたバニラアイスのもので、ソーダも拘ったいい味のものだった。
 二人はナポリタンを3人前ずつ食べ、クリームメロンソーダは5杯頼んだ。
 大満足だった。

 「ここは☆3つだね!」
 「同意!」

 笑いながら、また地下鉄へ向かった。
 大手町まで歩く。
 野村ビルの前で二人は眺める。

 「タカさん、このビル好きだって」
 「いいよねー」
 「建物には威厳が必要なんだって」
 「アラスカの「ヘッジホッグ」は?」
 「「ギャハハハハハ!」」

 二人はいつでも楽しい。

 「前にさ、姉山こず恵さんが来たじゃん」
 「うん、タカさんに「RUH=HER」にお父さんを頼まれたよねー」
 「こず恵さんはうちを一度見たいって言ってたよね?」
 「うちっていいよね!」
 「最高!」

 「ちょっと変わっちゃったけどね」
 「でも、元のはそのままだしー」
 「「幻想空間」もあるしー」
 「諸見さんの虎もいるしー」
 「「ワハハハハハハ!」」

 丸の内線の「大手町」駅に向かう。
 その手前の公園に差し掛かり、二人は足を止めた。

 「ルー!」
 「うん! いるね!」

 二人は妖魔の気配を感知した。

 「どこか分かる?」
 「無理。相当気配を消すのが上手い奴だよ」
 「前にハーを殺した奴くらい?」
 「死んでないよ!」

 二人は互いに背中を付けて、辺りを見回した。
 突然、鉤爪のようなものがハーの頭部を襲う。
 ハーはギリギリで左腕で薙いで交わした。

 「速いよ!」
 「うん!」

 攻撃の一瞬しか姿が見えなかった。
 
 「ルー! こいつはヤバい」
 「うん、どうする?」
 「あれを使うよ」
 「え!」

 《無駄だ。我の姿はお前たちには見えぬ》

 「テレパシー!」
 「人語を喋ってる! こいつ、相当な奴だ!」

 《お前たちを殺せば、石神は苦しむだろう》

 「お前なんかにやられるか!」
 
 《フン、ではどうする?》

 妖魔の哄笑が聞こえた。
 でも、位置は分からない。

 「見ろ! 《ウンコ分身》!」

 《!》

 ハーの身体が8体に分かれた。
 ウンちゃんが「雲国斎」を取り込んだ結果、分身の術が使えるようになった。
 ルーは臭いので距離を取る。

 《なんだ、それは!》
 「お前に本体が分かるか!」
 《お前、バカにしてるのか?》

 7体のハーの頭に、とぐろウンコが乗っている。
 1体だけ乗っていなかった。

 「こい!」
 《いいのかよ》

 妖魔はウンコ無しのハーを襲った。
 姿を見せた妖魔を、残りの7体が襲う。
 鉤爪の突き刺さったウンコ無しハーの身体が霧散した。

 《なに!》

 セロ距離から「オロチストライク」を喰らい、妖魔がよろけた。

 《フン、そんな攻撃は効かぬ》
 「お前はもう死んでいる」
 《!》

 妖魔の身体が動かなかった。
 そのまま足元から変わっていく。

 《これは!》

 叫んだまま、妖魔は高さ1メートルのウンコと化した。

 「やったね!」
 「くっさーい」

 後ろから、鼻を摘まんでルーが来た。

 「これさ、無敵だけど、どうにも臭いよね」
 「うん、でもしょうがないよ」
 「ハーの頭のも臭い」
 「これねー。本体を隠すために、必ずほんとのウンコを被るから」
 「げぇー」
 「しょうがないじゃん!」

 結界が解けたか、通行人が通り始める。

 「これ、どうしよう!」
 「早乙女さんでしょう」
 「早く呼んで!」
 「うん」

 ルーが「アドヴェロス」に連絡する。

 「もうウンコになってるから安全だよ!」
 「……」

 副官の成瀬が電話を受け、処理に向かうと言った。

 「またなんですね」
 「しょうがないじゃん!」

 もう、「アドヴェロス」に任せて帰ってもいい。
 しかし……

 「ねえ、これじゃ地下鉄乗れないよね?」
 「そうだねー」
 「タカさんに迎えに来て貰おうか」
 「でも、まだ仕事中だよ?」
 「だって、緊急事態だよ!」

 ハーに気圧されて、ルーが石神に連絡した。

 「あー、それなら柳だろう。おい、何も言わずに、回収に来てとだけ伝えろな」
 「「はーい!」」

 




 30分後、柳がアルファードに乗って双子を迎えに来た。

 「……」
 
 「柳ちゃん、早く乗せて!」
 「頭のそれは取って!」
 「「あー!」」
 
 ハーはまだ乗せていたウンコを、巨大ウンコの上に乗せた。
 柳は泣きながら「ごめんね、ごめんね……」と呟きながら運転して帰った。
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