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紅六花の「レッドオーガ」 Ⅱ

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 午後は2グループに分かれ、俺が山道に10台を率い、亜紀ちゃんと双子がコースで10台を指導した。
 響子と吹雪はハンガーでお休み。
 ロボは自由。

 「じゃあ、行くぞ!」

 俺は六花と他の9名を連れて出発した。
 比較的習熟した組だ。
 山道は起伏に富み、舗装されていない道も多い。
 ダートコースのような場所もある。

 悪路であってもコンピューターが即座に地面の状態を把握し、最適なドライブを実現してくれる。
 アラスカでの雪の中でも、問題なく走行出来た。
 通常であればそのようなプログラミングは困難を極めるが、俺たちには超高性能の量子コンピューターがある。
 制御プログラムはすぐに完成した。
 しかし、俺はこの構想はもっと先の実現と考えていた。
 プログラムもそうだが、各種機器の素材の研究もあった。
 それが不思議なほどに上手く進み、短期間での完成を遂げた。
 高機動装甲車「ファブニール」にしてもそうだ。
 高出力の「カサンドラ」もそうだ。
 柳が開発した「オロチストライク」を解析して「カサンドラ」に実装できたことも、本来は奇跡のようなことだった。
 でも、あれが無ければ聖の会社は壊滅的な打撃を受けただろう。
 聖も戦死していたかもしれない。
 皇紀が言っていた。

 「蓮花さんとも話しているんですが、アイデアがどんどん浮かんで来るんです」

 俺は「そうか」としか答えられなかった。
 どういうことかは分からなかったが、俺の中では「何かが変わった」という感覚がある。
 何とどう変わったのかはもちろん分からない。
 しかし、幾つかどうかと思うことがある。
 アラスカの諸見が上級の「花岡」の技を身に着けたと響子が知った時。
 あいつ、今にも泣きそうな顔で喜んでいた。
 俺からすぐに顔を隠したので一瞬のことだったが。
 何故、響子はあんなに嬉しそうにしたのか。
 諸見とはそれほど接していないはずだった。
 もちろん何度か顔を会わせて入るし、名前も知っている。

 あいつは、諸見の未来を観ていたのではないのか。
 そして、それは恐らく悲惨なものだったのだろう。
 
 俺は響子に問うことはない。
 それは、聞いてはいけないものなのだと俺の中で確信のようなものがある。
 どこの誰かは分からないが、俺に「未来に囚われるな」と誰かに言われた気がする。
 俺が信ずることで、その未来が引き寄せられる。

 


 「トラ? どうかしたんですか?」

 俺の隣に六花が来た。
 心配そうな顔で俺を見ている。

 「ああ、何でもない。どこかで一旦休憩しようかと思ってたんだ」
 「はい!」

 明るく笑って、後ろへ下がった。
 俺は山道から外れて林の中を走り、開けた場所へみんなを案内した。

 「へぇー! いい場所ですね!」

 タケが喜んだ。
 レンゲソウが一面に咲いている広場だ。
 日当たりが良く、美しい花畑になっている。

 みんなで「レッドオーガ」を降りて休憩した。
 キッチが紙コップに紅茶を入れて配って行く。

 「どうぞ!」
 「おう! 竹流にオッパイを触らせたか?」
 「はい!」

 他のメンバーに冷やかされる。
 キッチが竹流を好きなのは、公然のことになっている。
 竹流がどうするのかは、俺は知らん。

 「みんな、いい感じに慣れましたよ」
 「そうだな」

 タケが嬉しそうに言った。

 「この「レッドオーガ」は、そのうちに公道を走れるようになる」
 「そうなんですか!」
 「「虎」の軍の機体として、御堂が特別な法案を通してくれることになっているんだ。《対テロリスト特別法案》、通称は「虎法」だ」
 「ワハハハハハハ!」
 「まあ、最初のうちはいろいろとな。こんなバイクが走ってたら目立つし、出発点も特定される。だからチヌークみたいな輸送ヘリからの出発になるだろうな」
 「なるほど!」
 「お前らに関しても、緊急出動時だけな」
 
 タケが何か考えている。
 
 「あの、石神さん」
 「あんだよ?」
 「あたしらって「飛行」でもっと早く行けますよね?」
 「ばかやろう!」
 「すいません!」

 「これに乗ってった方がカッコイイだろう!」
 「は?」

 六花が腕を組んでうなずいている。

 「俺が折角用意したのに!」
 「すいませんでしたぁ!」
 
 まあ、他にも目的もあるのだが。

 「現場で誰かが負傷した、怪我人に薬や包帯を届ける。幾らでも運搬車両は必要なんだ」
 「なるほど!」
 「それにな。俺たちがこれに乗って行けば、「飛行」は万能ではないと敵に思わせることが出来る」
 「!」
 「分かったか?」
 「はい!」

 カッコイイからなのだが。

 俺たちは、下に戻った。




 下の連中が半裸、もしくは全裸になっている。
 双子はもちろん全裸だ。

 「おい、なんだ?」
 「タカさん! ちょっと脱衣レースをやってまして!」
 「……」

 何をやってんだ。

 「ルーとハーは操縦は上手いだろう?」
 「あー、あれはいつもので」
 「……」

 俺は服を着させて、交代で山道へ行かせた。
 亜紀ちゃんと双子が先導する。

 「マシンを壊したら、亜紀ちゃん、今晩は肉なしな」
 「!」

 「みんなー! 安全運転で行くよー!」

 言っておかないと、絶対に調子に乗って無茶な運転をする。
 アラスカでも、4台を破損した。
 「飛行」で空中機動を試したのが2回と、もう一回はチキンレースだ。
 ハーと遣り合った。
 敵に突っ込むこともあるから、障害物センサーで停まる機能を付けていなかった。
 慌てて付けた。

 上から戻った連中は、各自自主的にコースを回り始める。
 タケを呼んだ。

 「お前らが、他のメンバーに教えてやってくれな」
 「はい。ありがとうございました」
 「やっぱよ、お前らはバイクじゃないとな」
 「アハハハハハハ!」

 


 2時間ほどでみんな戻って来た。

 「壊してないな!」
 「もちろんです!」

 「ん?」

 ハーが背中にイノシシを背負っていた。

 「……」

 みんなでおやつに食べた。  
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