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皇紀 in フィリピン Ⅵ

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 フィリピンに来て、1か月半が経った。
 いい加減諦めの境地だった僕も、もう我慢できなかった。
 今日は土曜日で、「土地の視察」は休みだ。
 タカさんに電話した。

 「タカさん! もう無理ですよー!」
 「おう!」
 「毎日毎日どっかの勢力を潰してばっかりで いつまでたっても基地の土地なんてありません!」
 「そうか」
 「一度日本へ戻りますから!」
 「じゃあ、最後の仕上げをするかぁ」
 「はい?」

 タカさんが、ちょっと待ってろと言って、電話を切った。
 30分後。
 防衛システムのレーダーが高速飛翔体が迫って来るのを感知した。
 速い。
 マッハ200と出た。

 「これは!」

 ミサイルや戦闘機ではない。
 「花岡」の「飛翔・鷹閃花」だ。
 急いで庭に出た。

 二つの飛翔体が減速して庭に降りた。

 「「皇紀ちゃーん!」」
 「ルー! ハー!」

 「Ωコンバットスーツ」を着た二人の妹たちだった。
 三人で抱き合って喜んだ。
 両側から頬にキスをされた。
 嬉しい。

 「皇紀ちゃん、元気?」
 「会いたかったよー!」
 「僕もだよー!」

 思わず涙が出た。
 二人が優しく顔を拭い、頭を撫でてくれた。
 一緒に中へ入り、ルーが紅茶を淹れてくれた。

 「あ、ルーとハーだね!」
 「はい、宜しくお願いします、ルー様、ハー様」

 ルーとハーは、タカさんに言われて来たと言った。

 「状況は知ってるよ。今、14Kと揉めてるんだよね?」
 「皇紀ちゃんたちが結構殺ったけど、まだまだいそうなんだよね?」

 二人は、フィリピンに軍事基地を作るにあたり、相当な反対勢力があったのだと話した。
 
 「それを無視してたら、絶対に大きな邪魔をされたって」
 「今の大統領ね、あんまし権力を持ってないんだって。だから反対勢力を潰しておかないと、上手く行かないんだってさ」
 「そうなんだ!」
 
 まだ「業」の勢力はそれほど表立って活動していない。
 実際に被害に遭ったのは、日本とアメリカくらいで、あとはヨーロッパで小競り合い。
 先日は北アフリカでの戦闘があったが、あれはあくまでも表向きはロシア軍の勢力だ。

 「だからね、何の被害も無いフィリピンで「業」の恐ろしさはまだ伝わってないんだよ」
 「それよりも自分たちの権益を守る方が優先されるからね」
 「なるほどー」

 ルーとハーの顔を見て、僕もようやく落ち着いて来た。

 「でもさ」
 「なーに?」
 「何でタカさんは最初からそういうことを話してくれなかったのかな?」
 「あー」

 二人はタカさんが僕に「経験」をさせたかったのだと言った。

 「皇紀ちゃんって、これまであんまし実戦には出なかったじゃない」
 「理不尽に巻き込まれる戦争を体験しろってことみたいよ?」
 「!」

 僕たちには恐ろしい敵がいる。
 でも、僕は実際に突然襲われたこともないし、更に自分でも戦おうをしたこともない。
 頭では敵がいることは分かっているが、その「経験」が無かった。

 「私たちは、これからどんどん戦場に出るよ」
 「関係ない人たちも巻き込んで行くよ」
 「そうだね」
 「「うん!」」

 僕たちの戦いはそうだ。
 いつ、どこが戦場になるのかも分からない。
 僕たちはそこへ行き、否応なく戦わなければならないのだ。

 「でもね、タカさんは出来るだけ皇紀ちゃんを戦場には送りたくないんだって」
 「え!」
 「皇紀ちゃんは優しいからね。それにタカさんは皇紀ちゃんが「護る人間」だって言ってた」
 「!」
 「大事な人たちを護ることに、皇紀ちゃんは一番燃えるんだって」
 「私たちもそう思うよ!」

 僕は泣いた。
 タカさんは僕のことをそういうように見ていてくれたんだ。

 「でも、皇紀ちゃんだって戦闘に巻き込まれることもあるよ」
 「だから「経験」をさせておきたかったんだって!」
 「うん!」

 二人が両側から僕を抱き締めた。

 「皇紀ちゃん、これからも私たちを護ってね!」
 「お願いね!」
 「うん! 絶対に護るよ!」





 二人が来たのは、フィリピンでの最後の仕上げをするためだと言った。

 「「三合会(サムハッホイ)」は大きな組織だよ。14Kは最大派閥だけど、全体を仕切っているわけじゃない」
 「フィリピンでも結構食い込んでいる組織だからね。大元を叩いておかないと、いつまでもフィリピン国内で邪魔が入るよ」
 「なるほど」
 
 本国の組織を叩くのだと二人は言った。

 「でも、中国の拠点は分かってるの?」
 「幾つかはね。でもこれから調べるから」
 「そうなんだ」

 まずは、今フィリピンにいる14Kの人間から情報を得ると言った。
 真岡さんに連絡し、14Kの幹部たちを集めてもらった。
 僕はこれが終われば日本に帰れるのだと思い、嬉しかった。
 




 「あーここかー!」

 ルーが嬉しそうに言った。
 ハーも笑っている。
 以前にタカさんとお姉ちゃんと一緒に襲撃したビルらしかった。

 「たのもー!」
 
 ルーが入り口で叫んだ。
 銃を持った男が出て来た。

 「行くよー!」

 ルーとハーが笑い、その横をデュールゲリエのルーとハーが走り去って行った。

 「ちょっとー! 私たちより先に行かないでー!」

 中からたちまち銃撃の音が響く。
 ルーとハーも飛び込んで行く。
 僕と真岡さんも慌てて走った。

 「「ギャハハハハハ!」」
 「「ギャハハハハハ!」」

 「「……」」

 なんか、いつも通りだった。
 話し合いじゃないの?
 二人でゆっくりと階段を上って行った。

 「皇紀さん」
 「はい」
 「いつも、お疲れ様です」
 「いいえ、真岡さんも」
 「はい」

 階段の上から、首が3つ転がって来た。
 僕たちは壁側に避けて、首はそのまま転がって行った。

 「ひでぇですね」
 「まったくですね」

 何がどう酷いのかはよく分からなくなった。
 分かるのは、僕たちが戦闘をしているということだ。
 襲われればやり返す。

 「《Der Krieg ernährt den Krieg》 かぁ」
 「なんです、それ?」
 「フリードリッヒ・シラーの『ヴァレンシュタイン』の中の言葉ですよ。《戦争は戦争を養う》という意味です」
 「なるほど!」
 「前にタカさんに教わったんですけどね。また、この言葉の深さが分かりました」
 「そうですか」

 僕たちは戦争をしている。

 「真岡さん」
 「はい!」
 「下のフロアは全部制圧して来ているはずですから」
 「はぁ」
 「ゆっくりと来て下さい」
 「はい?」

 僕は笑って階段を駆け上がった。
 妹たちが上で戦争をしている。
 僕はみんなを護ると決めたのだ。
 
 「ギャハハハハハ!」

 僕は笑いながら最上階まで走った。
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