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皇紀 in フィリピン Ⅳ

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 ハンヴィの中で、ルーとハーが話し合っていた。

 「あー、ガン縛りのはずだったんだけどなー」
 「しょうがないじゃん。皇紀様が近くまで来てたんだから、危ないでしょ!」
 「そうだよねー」

 なんか、僕に話しかける時と口調が違う。

 「フローレスさん、次の場所って?」
 「はい、今度も地理的にいい場所なんですよ」
 「そうなんですか」
 「でも、一つだけ問題が」
 「また?」
 「はい。反乱軍ゲリラの巣窟でして」
 「……」

 僕は思い切ってフローレスさんに聞いた。

 「あの、もしかして僕たちに反政府勢力を潰させてるとか」
 「そんな! まさか!」
 「……」

 ルーとハーが喜んだ。

 「じゃーさ、次はカサンドラ縛りでどう?」
 「あ! いいかも!」

 「……」

 1時間後、山間の農村に着いた。
 僕たちのハンヴィが見えると、すぐに銃撃された。
 真岡さんたちが驚く。

 「僕が銃弾は全部引き受けますから!」
 「はい!」
 
 運転しているフローレスさんはそのまま農村へ突っ込んで行く。
 
 「フローレスさん! 一度戻りましょう!」
 「ワハハハハハハ!」
 「フローレスさん!」
 
 ハーがM2重機関銃に取りついた。
 ガンガン撃って行く。

 「ギャハハハハハ!」

 ルーがハンヴィから飛び出した。
 カサンドラをロングソードモードにして、銃火の見える家を斬り裂いていった。

 「ギャハハハハハ!」

 フローレスさんが村の真ん中でハンヴィを停め、真岡さんたちも武器を手に飛び出して行った。
 真岡さんが近くの家に入って、中を素早く確認する。

 「ここは誰もいない! こっちへ!」

 僕とフローレスさんもその家に入った。
 嫌な感じがした。
 
 「大闇月!」
 
 次の瞬間、家の壁が吹っ飛び、遅れて砲撃の音が聞こえた。
 キャタピラの音がする。

 「戦車だ! 外へ出よう!」

 動きが見えないと却って防御がしにくい。
 300メートル先に、FV101 スコーピオン軽戦車が見えた。
 
 「テッメェェェェェー!」

 ルーがカサンドラを手に、戦車の上に取りついた。

 「よくも皇紀様ヲォォォー!」
 
 装甲の上からカサンドラを無茶苦茶に挿し込む。
 軽戦車は高熱を帯びて炎上した。
 ハーが駆け寄って来る。

 「すいませんでした! 御無事ですか!」
 「ああ、大丈夫だよ」
 「では、掃討戦を続けます!」
 「え、僕を護るんじゃないの?」
 「攻撃が最大の防御故に!」
 「えぇー!」

 10分後、村の全ての家が無くなり、武器を捨てた30人程の人間が投降してきた。
 全員両手を上げて僕たちの前に並ぶ。

 「ふん!」

 ルーがカサンドラを一閃し、全員の胴が真っ二つになった。

 「!」

 ハーとハイタッチした。

 「……」

 「あ! 丁度クールタイムだ!」
 「幸先良いね!」

 カサンドラのビームが消えた。
 「ヴォイド機関」の充電が始まったのだ。

 「……」

 「コウキさん」
 「なんですか?」
 「あの、守って頂いてありがとうございました」
 「……いいえ……」
 
 フローレスさんがハンヴィに乗り、エンジンを掛けた。
 明るい笑顔で僕に言う。

 「そろそろお昼にしましょうか」
 「そうですか」
 「皇紀さん、自分はちょっと」
 「そうですか」
 
 死体があちこちに転がっている。
 特に目の前には内臓をはみ出した20人が。
 真岡さんは蒼白の顔色だった。
 他の人もゲンナリしている。

 「え、コウキさんは食欲ありませんか?」
 「そんなこともないですが」

 こんな中でもお腹が減る自分が嘆かわしい。
 マニラ市内に戻った。

 



 村を離れると、段々真岡さんたちの調子も戻って来た。

 「あ、軽い物なら食べられそうです」
 「そうですか!」
 
 フローレスさんが喜んだ。

 「コウキさん、中華は如何ですか?」
 「まあ、何でもいいですよ」
 「美味しいお店があるんです! 本場の中国人が作るんですよ!」
 「そうですか」

 まあ、何でもいい。
 とにかく、一度この異常なものをリセットしたい。

 マニラ市街の大通りに面した店だった。
 結構広い店だ。
 昼時ということもあって、大勢の客で賑わっている。
 僕たちは奥のテーブルに案内された。
 また店員や客たちが僕の頭を見て驚いていた。
 ハンヴィは表に止めたままだ。
 まあ、軍の車両であることは見て分かるので、誰も滅多なことはしないのだろう。

 フローレスさんが任せて欲しいと注文を入れて行った。
 真岡さんたちも何とかなって、ニコニコして料理を待っている。
 良かった、リセットされたようだ。

 焼きビーフンや海老の揚げ物、焼きめしやピータンなど、フローレスさんのお勧めの料理が並ぶ。
 僕たちはどんどん食べた。
 ルーとハーはテーブルの傍で立っている。
 フローレスさんが軍服なので、彼女らが武器を持っていてもそれ程の違和感は無い。
 二人はタイガーストライプのコンバットスーツだし。

 「美味いっすねぇ!」
 「そうでしょう? どんどん食べて下さいね」

 真岡さんとフローレスさんが笑いながら食べている。
 僕も夢中で食べた。
 確かに美味しい。

 「コウキさん、ビーフンのお替りはいかがですか?」
 「お願いします!」

 満腹ではなかったが、美味しかったので満足出来た。
 みんなで杏仁豆腐を食べていると、奥の個室のドアが開いた。
 一目でカタギではない連中が8人程出て来る。
 刺青のある人間も何人かいる。 
 僕たちのテーブルの傍を通った。

 「お前ら、軍人か?」

 一人の男が聞いて来た。
 フローレスさんが黙っている。

 「おい! 聞いてん……」

 男の首が落ちた。
 ルーがクックリナイフで斬り落としたのだ。
 そのまま蹴って血が僕たちに掛からないようにした。
 ハーがステアーAUGを連射し、残りの連中が血まみれになって倒れた。
 
 「……」

 店の中の全員が呆然とし、すぐに悲鳴を上げて逃げ出した。
 黙って僕たちを見ている人もいる。

 「あの! みなさん御無事ですかぁー!」
 
 僕が立ち上がって確認した。
 残った人は誰も返事しなかった。
 フローレスさんが僕の手を引いて店を出た。
 無言でハンヴィのエンジンを掛けて走り出す。

 「あの、お勘定をまだ……」
 「いいんです」
 「え?」
 「どうせ、あのお店にはもう二度と行けませんし」
 「いえ、そういう問題じゃ」
 「だったら払うだけ損じゃないですかぁ!」
 「……」

 フローレスさんは残念そうに言った。

 「コウキさん」
 「はい」
 「まあ、儲かっちゃいましたね?」
 「はぁ」

 


 フローレスさんは結構タフな人だった。
 その日、もう一件の土地を見に行った。
 そこは宗教団体の村だった。
 今度はクックリナイフ縛りの戦闘だったので、20分以上かかった。
 物凄い惨劇になった。
 真岡さんは、今度こそ全くの無言になり、別れる時だけ「それじゃ」と言った。

 もう、僕は全部諦めた。
 今日は外出しないで、ルームサービスで食べよう。 
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