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皇紀 in フィリピン

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 「タイガーファング」の中では、青嵐さんも紫嵐さんも、あまり口を開かなかった。
 分かってる。
 僕の髪型のせいだ。
 自分ではもう見えないからいいけど、あれは酷い。
 本当にこれから、フィリピンで偉い人たちと会うのだろうか。

 15分で着いた。
 イサベラの米軍基地だ。
 フィリピンはアメリカの植民地から独立し、一旦は米軍はフィリピンから撤退した。
 しかし、様々な国際情勢の変化から一部で米軍基地が復活し、今また「業」の世界侵略が知られるようになり、一層米軍と共に「虎」の軍の駐留が求められるようになった。
 
 「皇紀さん、到着しました」
 「ありがとうございました!」
 
 青嵐さんたちが僕の荷物を降ろすのを手伝ってくれ、米軍が用意したジープに積み込んでくれた。
 運転して来た米兵が僕を見て小さく口笛を吹いた。

 「では我々はこれで」
 「はい! お世話になりました」
 
 二人と握手をした。

 「あ、あの」
 「はい?」
 「その髪型、素敵ですね」
 「ありがとうございます!」

 良かった、褒めてもらえた。
 青嵐さんたちはちょっと複雑な顔をして飛び立って行った。
 
 「じゃあ、ここから宜しくお願いします」

 通訳のフローレスさんにまずは挨拶する。
 30代の綺麗な女性だ。
 軍籍であり、制服を着ている。
 中尉階級と聞いている。
 フローレスさんも、他の兵士の人たちも、ずっと僕を見ている。

 「あの?」
 「は、はい! コウキさん、宜しくお願いしますね!」

 やっとフローレスさんが僕に笑い掛け、そう言ってくれた。
 みんなが僕の頭を見ている。

 「あの、やっぱりこの髪型って……」
 「……」
 「ヘンですよね?」
 「い、いいえ! とてもよくお似合いです!」
 「そうですか!」

 ちょっとインパクトが強いが、みんな褒めてくれるので嬉しくなった。
 まあ、自分では見えないけど。

 基地の建物の中へ案内された。
 そこで先に来ていた二人のデュールゲリエが僕を出迎えてくれた。
 顔立ちがそっくりな女性型だった。

 「ルーシーです」
 「ハーマイオニーです」

 「え!」

 タカさんから説明は受けていた。
 二人とも戦闘力は非常に高い上に、今回の仕事に関する測量や地質調査などの機能に加えて秘書としても優秀なのだと。
 見た目はディディさんや紅さんたちと同じく、人間にしか見えない。

 「あの、その名前って」
 「はい! どうぞルーとハーとお呼び下さい」
 「やっぱぁー!」

 タカさんがそうしたのだろう。

 「皇紀様、その髪型、とても素敵です」
 「漢の風格ですね!」
 「そ、そう?」
 「「はい!」」

 よく見ると、二人の目の色だけが違う。
 ルーは明るい空色で、ハーは優しいピンクだ。
 二人がニコニコして僕を見ていた。

 「早速ですが、今晩は6時から大統領夫妻との会食がございます」
 「2時間ほど時間がございますが、お休みになられますか?」
 「ああ、ちょっと行きたい所があるんだけど」
 「さようでございますか」
 「マニラ市内の顕さんの所って分かるかな?」
 「はい、住所は存じております」
 「すぐにお車をご用意します」

 ルーが部屋の入り口にいた兵士に声を掛けた。
 きっと、車を手配してくれるのだろう。
 10分程で、兵士が呼びに来た。

 「では参りましょう」
 「うん」

 3人で建物の外に出た。
 白の大きな車としか、僕には分からない。

 「石神様がご用意されました。ベントレー「BENTAYGA SPEED」です」
 「そうなんですか」

 まあ、軍の車とは思っていなかったが、タカさんが僕のために用意してくれたと聞いて嬉しかった。
 
 「では、参ります」

 僕は後部座席に座り、ルーが運転席に座った。
 助手席はハーだ。

 「え、ルーは運転出来るの?」
 「はい、あらゆる車両、航空機に習熟しております」
 「免許は大変だったでしょう?」
 「必要ありません」
 「え?」

 物凄いスピードで発進した。
 クラクションを鳴らし続ける。
 門衛が慌ててゲートを開いた。
 ハーが窓を開けて腕を出し「ハリー、ハリー」と言っている。

 「ちょ、ちょっとぉー!」
 「少々お時間がありませんので急ぎます」
 「なーにー!」

 助手席のハーがこの車の諸元を説明してくれた。
 6000CCのW12気筒ツインターボTSI、最高速度は時速300キロだが、タカさんが例によって改造して400キロまで出るそうだ。
 ルーは華麗な運転テクニックで車両を縫うようにかわしながら、ほとんどスピードを落とさずに走っていく。
 まあ、「鷹閃花」では音速を超えるので、恐怖感は無かったが。

 トラックを無理矢理追い抜いた後ろで大きな激突音が響いだ。

 「どうやら事故のようです」

 ハーが後ろを振り向きながら言った。

 「……」
 
 僕も見たけど、2台の接触事故のようだった。

 「フィリピンは未熟な運転手が多いようですね」
 「ええ、気を付けましょう、ハー」
 「……」

 30分ほどで、顕さんの家に着いた。
 市内の高級住宅の並ぶ地域だったが、一際大きな邸宅だった。
 タカさんが用意したと聞いている。
 ハーが助手席から降りて、周囲を警戒している。
 僕も降りようとしたが、一度止められた。

 「私がちゃんと安全を確認してからです」
 「はい、すみません」

 数秒後にハーがうなずいて、僕も車を降り、チャイムを鳴らした。

 「やっぱり皇紀君か!」
 「顕さん!」

 すぐに門が開けられ、僕が乗ったのを確認してルーが車を中へ入れた。
 ハーは外で並走する。
 玄関で顕さんとモニカさんが出迎えてくれた。

 「皇紀く……何だ!」

 笑顔だった顕さんが驚いている。
 ハーがどこからかMP5を構えて顕さんに銃口を向けていた。

 「ハー! すぐに降ろして!」
 「かしこまりました」

 ルーが軽機関銃XM250を抱えて運転席から降りて来た。

 「「!」」
 「あの! 二人とも銃を置いて!」
 「それは出来ません。常に皇紀様を護衛する任務があります」
 
 二人とも僕の命令以上の指令があるようで、全然言うことを聞いてくれない。
 
 「まあ、そのお二人はいいんだけど、それよりも……」
 「はい?」
 
 顕さんたちが僕を見ていた。

 「あの、皇紀君だよね?」
 「そうですよ?」
 「あの、その髪……い、いや、いいんだ」
 「はい?」

 とにかく中へ入れてもらった。
 1階のリヴィングでコーヒーを頂く。

 「石神君から君たちの事情を聴いた時には驚いたよ」
 「はい」

 顕さんには僕たちが「虎」の軍の人間であることを話していた。
 今後顕さんたちを護るのに、必要だとタカさんが考えたからだ。
 だからこの家も顕さんは受け入れてくれ、既に防衛システムも入っている。

 「皇紀君は大事な仕事でここに来たんだよね?」
 「はい。軍事基地をフィリピンに建設する予定で。話はほとんど通っているんですけど」
 「そうか」
 
 顕さんはそこまで知っている。

 「この後で、大統領と食事なんです。だからあまりここにはいられなくて」
 「忙しい中をわざわざ来てくれたのか」
 「もちろん! 到着したら真っ先にお会いしたくて」
 「ありがとう」

 僕はタカさんから預かったお土産を渡した。
 食器と日本の酒や食材と聞いている。
 顕さんは嬉しそうに受け取ってくれた。

 「じゃあ、僕はこれで」
 「もう行っちゃうのか」
 「はい」
 「もしも時間が出来たら言ってくれ。ゆっくり話もしたいよ」
 「はい、ありがとうございます!」

 僕は礼を言って部屋を出た。
 顕さんたちが玄関まで見送ってくれる。

 「護衛の二人が失礼しました」
 「いいよ。君は大事な使命を持った人間なんだから、当然だ」
 「はい」
 「君のその頭にはびっくりしたけどね」
 「え?」
 「アハハハハハ!」

 


 いきなり銃口を向けられて脅えさせてしまった。
 しかし、そうではなかったことをすぐに思い知る。

 僕は大統領官邸「マラカニアン宮殿」に向かった。 
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