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「紅六花ビル」宴 Ⅱ
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『シャコンヌ』は、エレキギター「レスポール」で竹流がメインのメロディを弾く。
俺はクラシックギターで即興で伴奏をする。
哀愁のメロディが「レスポール」で奏でられ、俺のギターがそれを壊しながら調和していく。
俺が竹流の前に立ち、竹流が打ち合わせ通りにギターをカットして下がる。
俺が即興のギターソロを奏でた。
会場から歓声が沸く。
俺がまた椅子に腰かけ、竹流がメインのメロディに戻った。
最後まで弾いて、二人で頭を下げた。
大歓声と拍手が湧いた。
「竹流ちゃん! 凄かった!」
「暁園」の子どもたちが次々に近寄って来て竹流を褒め称えた。
竹流が嬉しそうに笑っていた。
「神様、いい感じでしたね!」
「おう!」
俺も笑い返した。
サラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』も同じ弾き方で演奏した。
次に、竹流がジョン・ウィリアムス『シンドラーのリスト』をクラシックギターで演奏する。
みんな黙って聴いていた。
バッハ『アダージョ』BWV1001や子どもたちが知っているアニソンを弾き、盛り上げた。
「用意していたのはここまでなんだけどな。今日はもう一曲即興で弾きたくなった」
俺はそう言って、独りで弾き出した。
連城十五、竹流の父親を思って弾いた。
勇壮で悲しいメロディになった。
古代の英雄に憧れ、そうあれと竹流の名を冠した連城十五。
その最期にあって、竹流のことを思いながら死んで行った男。
俺は内容や曲に思ったことは何も話さなかった。
でも、竹流が泣いていた。
何か伝わったのかもしれない。
「神様! ありがとうございました!」
「おう、いいライブだったな!」
「はい!」
亜紀ちゃんが駆け寄って来て、ソニーの録音機を持って高く掲げた。
「今の演奏は全部録音しましたー! みんなにも配るからねー!」
また拍手が湧いた。
テーブルに戻り、吹雪を抱き上げた。
吹雪が嬉しそうに笑っていた。
「お前も良かったか?」
俺の顔に手を伸ばすので、一杯触らせてやった。
竹流と夏音もテーブルに呼ぶ。
夏音はずっと竹流を褒め称えていた。
「本当に凄かったよ! もう感動して泣いちゃった!」
「そんな、神様が上手いんですよ」
「うん! でも竹流君も凄かったよー!」
竹流は一度も俺に「どうだったか」と聞かなかった。
そういうことではないのだ。
竹流は俺に褒められたくてギターを弾いているわけではない。
亜紀ちゃんが来た。
「さっきの、橘さんにも送っときますね!」
「やめれ!」
俺が慌てて言った。
「誰です?」
聞いた夏音に、亜紀ちゃんが世界的ピアニストの橘弥生だと説明した。
「エェー!」
「タカさん、CDを出すのを頑強に拒んでいただけどね。でも橘さんに言われるとやるの」
「おい!」
「そうなんですか」
亜紀ちゃんがダッシュで消え、上からCDを持って来て夏音に渡した。
「あ! 石神さんですか!」
「そう。もうすぐ2枚目が出るから、また送るね?」
「はい! 嬉しい!」
こいつ、いつも持ち歩くようになりがやった。
「あー、聖歌にも聞かせたかったなー。聖歌、石神さんのコンサートで本当に喜んでたから」
「そうだったか。まあ、夏音と一緒に来てるんじゃないか?」
「え!」
「だって、聖歌が夢であの公園に行こうって言ったんだろ? 今日、ここに来るためだったんじゃないのか?」
「そうか!」
まあ、そんなことは分からない。
でも、俺たちはそういうことを願っているのだ。
夏音が涙ぐんで喜んでいた。
「石神さん、今日は連れて来て頂いて、本当にありがとうございました」
「いいよ。竹流が大分お世話になったんだしな。それに竹流の大事な人間だ。今後も宜しく頼む」
「はい! こちらこそ!」
竹流が微笑んで夏音を見た。
夏音が六花に看護師の話を聞いていた。
六花が丁寧に教えている。
小鉄が料理を一段落して、亜蘭の隣に座った。
二人で楽しそうに話し、タケとよしこも加わる。
俺は響子を誘って、ギターを持って外のベンチへ座った。
「響子、楽しかったか?」
「うん。私も何か楽器を始めるよ!」
「お前、フルート三日で飽きたじゃん」
「今度はやるよ!」
「まあ、好きにしろよ。俺は響子にギターと歌を聴かせるのが好きなだけだからな」
「うん!」
俺は井上陽水の『いっそセレナーデ』を奏でて歌った。
響子はうっとりと聴いていた。
ギターの音が聞こえたか、誰かが外を見に来て、慌てて引っ込んで行った。
響子と二人で笑った。
響子とキスをした。
吹雪と響子をロボに任せて寝かせ、「暁園」の子どもたちも帰って行った。
みんな楽しそうに笑い、礼を言っていた。
残った連中で飲み始める。
「じゃあ、響子。ゆっくり眠れな」
「うん。タカトラ、今日もありがとう」
「おう」
「ロボ、二人に何かあったら「高速ロボ通信」でな」
「にゃ!」
本当に来そうだ。
まあ、響子にはレイがついているから安心なのだが。
「レイも宜しくな!」
「分かったって!」
「そうか!」
俺は笑って下に降りた。
「タカさん! さっきは何を大笑いしてたんですか?」
亜紀ちゃんが俺に聞いて来た。
「ああ、皇紀の話でな」
亜紀ちゃんたちも皇紀の装いは知らない。
簡単な壮行会を開いた後で俺が桜と皇紀を連れ出して、「タイガーファング」で送り出した。
家を出てから実に6時間後のことだ。
だから誰も皇紀の出で立ちを見ていない。
俺は笑って、またスマホの画像を見せた。
「「「「ギャハハハハハハ!」」」」
他の「紅六花」のメンバーも何事かと寄って来て、みんなで見た。
俺がまた経緯を話し、大爆笑だった。
「いや、十日くらいで帰って来ると思ってたんだけどな。向こうでどんどん話が決まって行って、皇紀も戻れないんだよ」
「そうなんですか」
「「虎」の軍とフィリピン政府は以前に協定を結んでいたんだけどな。だから今回は軍事基地の場所の選定をして帰る予定だったんだ。でも、大統領がもう大乗り気で、すぐに基地を作って欲しいと言って来てなぁ。土地は決まって、もう測量や図面の方まで進んでいる。まあ、俺たちとしても協力的なのは有難いからな。そのまま皇紀に頑張ってもらってるんだ」
そういう事情は子どもたちにも話している。
まあ、半分くらいは本当だ。
「タカさん、じゃあ顕さんたちとも会ってないんですね」
「ああ、最初のうちは何度か食事もご馳走になったりしてたんだけどな。その後はもう、基地の方の仕事でマニラにも戻ってないんだ」
「そうですかー」
酒が回り、宴会芸も出て来る。
双子がマイクロビキニでブレイクダンスをし、亜蘭が大興奮になり、よしこに目隠しをされた。
小鉄もだ。
もう、いろいろとはみ出していた。
俺も「オチンチン花岡」の数々を披露し、大喝采を浴びた。
遠い異国で頑張っている皇紀よ。
こっちは楽しいよ。
俺はクラシックギターで即興で伴奏をする。
哀愁のメロディが「レスポール」で奏でられ、俺のギターがそれを壊しながら調和していく。
俺が竹流の前に立ち、竹流が打ち合わせ通りにギターをカットして下がる。
俺が即興のギターソロを奏でた。
会場から歓声が沸く。
俺がまた椅子に腰かけ、竹流がメインのメロディに戻った。
最後まで弾いて、二人で頭を下げた。
大歓声と拍手が湧いた。
「竹流ちゃん! 凄かった!」
「暁園」の子どもたちが次々に近寄って来て竹流を褒め称えた。
竹流が嬉しそうに笑っていた。
「神様、いい感じでしたね!」
「おう!」
俺も笑い返した。
サラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』も同じ弾き方で演奏した。
次に、竹流がジョン・ウィリアムス『シンドラーのリスト』をクラシックギターで演奏する。
みんな黙って聴いていた。
バッハ『アダージョ』BWV1001や子どもたちが知っているアニソンを弾き、盛り上げた。
「用意していたのはここまでなんだけどな。今日はもう一曲即興で弾きたくなった」
俺はそう言って、独りで弾き出した。
連城十五、竹流の父親を思って弾いた。
勇壮で悲しいメロディになった。
古代の英雄に憧れ、そうあれと竹流の名を冠した連城十五。
その最期にあって、竹流のことを思いながら死んで行った男。
俺は内容や曲に思ったことは何も話さなかった。
でも、竹流が泣いていた。
何か伝わったのかもしれない。
「神様! ありがとうございました!」
「おう、いいライブだったな!」
「はい!」
亜紀ちゃんが駆け寄って来て、ソニーの録音機を持って高く掲げた。
「今の演奏は全部録音しましたー! みんなにも配るからねー!」
また拍手が湧いた。
テーブルに戻り、吹雪を抱き上げた。
吹雪が嬉しそうに笑っていた。
「お前も良かったか?」
俺の顔に手を伸ばすので、一杯触らせてやった。
竹流と夏音もテーブルに呼ぶ。
夏音はずっと竹流を褒め称えていた。
「本当に凄かったよ! もう感動して泣いちゃった!」
「そんな、神様が上手いんですよ」
「うん! でも竹流君も凄かったよー!」
竹流は一度も俺に「どうだったか」と聞かなかった。
そういうことではないのだ。
竹流は俺に褒められたくてギターを弾いているわけではない。
亜紀ちゃんが来た。
「さっきの、橘さんにも送っときますね!」
「やめれ!」
俺が慌てて言った。
「誰です?」
聞いた夏音に、亜紀ちゃんが世界的ピアニストの橘弥生だと説明した。
「エェー!」
「タカさん、CDを出すのを頑強に拒んでいただけどね。でも橘さんに言われるとやるの」
「おい!」
「そうなんですか」
亜紀ちゃんがダッシュで消え、上からCDを持って来て夏音に渡した。
「あ! 石神さんですか!」
「そう。もうすぐ2枚目が出るから、また送るね?」
「はい! 嬉しい!」
こいつ、いつも持ち歩くようになりがやった。
「あー、聖歌にも聞かせたかったなー。聖歌、石神さんのコンサートで本当に喜んでたから」
「そうだったか。まあ、夏音と一緒に来てるんじゃないか?」
「え!」
「だって、聖歌が夢であの公園に行こうって言ったんだろ? 今日、ここに来るためだったんじゃないのか?」
「そうか!」
まあ、そんなことは分からない。
でも、俺たちはそういうことを願っているのだ。
夏音が涙ぐんで喜んでいた。
「石神さん、今日は連れて来て頂いて、本当にありがとうございました」
「いいよ。竹流が大分お世話になったんだしな。それに竹流の大事な人間だ。今後も宜しく頼む」
「はい! こちらこそ!」
竹流が微笑んで夏音を見た。
夏音が六花に看護師の話を聞いていた。
六花が丁寧に教えている。
小鉄が料理を一段落して、亜蘭の隣に座った。
二人で楽しそうに話し、タケとよしこも加わる。
俺は響子を誘って、ギターを持って外のベンチへ座った。
「響子、楽しかったか?」
「うん。私も何か楽器を始めるよ!」
「お前、フルート三日で飽きたじゃん」
「今度はやるよ!」
「まあ、好きにしろよ。俺は響子にギターと歌を聴かせるのが好きなだけだからな」
「うん!」
俺は井上陽水の『いっそセレナーデ』を奏でて歌った。
響子はうっとりと聴いていた。
ギターの音が聞こえたか、誰かが外を見に来て、慌てて引っ込んで行った。
響子と二人で笑った。
響子とキスをした。
吹雪と響子をロボに任せて寝かせ、「暁園」の子どもたちも帰って行った。
みんな楽しそうに笑い、礼を言っていた。
残った連中で飲み始める。
「じゃあ、響子。ゆっくり眠れな」
「うん。タカトラ、今日もありがとう」
「おう」
「ロボ、二人に何かあったら「高速ロボ通信」でな」
「にゃ!」
本当に来そうだ。
まあ、響子にはレイがついているから安心なのだが。
「レイも宜しくな!」
「分かったって!」
「そうか!」
俺は笑って下に降りた。
「タカさん! さっきは何を大笑いしてたんですか?」
亜紀ちゃんが俺に聞いて来た。
「ああ、皇紀の話でな」
亜紀ちゃんたちも皇紀の装いは知らない。
簡単な壮行会を開いた後で俺が桜と皇紀を連れ出して、「タイガーファング」で送り出した。
家を出てから実に6時間後のことだ。
だから誰も皇紀の出で立ちを見ていない。
俺は笑って、またスマホの画像を見せた。
「「「「ギャハハハハハハ!」」」」
他の「紅六花」のメンバーも何事かと寄って来て、みんなで見た。
俺がまた経緯を話し、大爆笑だった。
「いや、十日くらいで帰って来ると思ってたんだけどな。向こうでどんどん話が決まって行って、皇紀も戻れないんだよ」
「そうなんですか」
「「虎」の軍とフィリピン政府は以前に協定を結んでいたんだけどな。だから今回は軍事基地の場所の選定をして帰る予定だったんだ。でも、大統領がもう大乗り気で、すぐに基地を作って欲しいと言って来てなぁ。土地は決まって、もう測量や図面の方まで進んでいる。まあ、俺たちとしても協力的なのは有難いからな。そのまま皇紀に頑張ってもらってるんだ」
そういう事情は子どもたちにも話している。
まあ、半分くらいは本当だ。
「タカさん、じゃあ顕さんたちとも会ってないんですね」
「ああ、最初のうちは何度か食事もご馳走になったりしてたんだけどな。その後はもう、基地の方の仕事でマニラにも戻ってないんだ」
「そうですかー」
酒が回り、宴会芸も出て来る。
双子がマイクロビキニでブレイクダンスをし、亜蘭が大興奮になり、よしこに目隠しをされた。
小鉄もだ。
もう、いろいろとはみ出していた。
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