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代官山の喫茶店

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 4月29日。
 朝食を食べ、双子を誘って散歩に出た。
 亜紀ちゃんは柳に手伝ってもらい、食材のチェックをしている。
 また長いこと留守にするので、生鮮食品は今日中に消費するのだ。
 もちろん事前に考えて、計画通りに進んでいるはずなのだが。

 双子といつもの公園のベンチでまったりする。
 缶ジュースを飲む。
 本当に気持ちがいい。

 「かぁー! お前らとの散歩はいいなー!」
 「「ワハハハハハ!」」

 「タカさん、散歩って好きだよね?」
 「「訓練」もね!」
 「ガハハハハハ!」

 その通りだ。
 
 「私たちが来る前にも散歩してたの?」
 「まあ、そうだな」
 「本当に好きなんだ」
 「うーん、まあドライブも好きだけどな」
 「外に出るのが好きなの?」
 「そうとも言えるけどなぁ。別に家の中でのんびりするのも好きだしなぁ」
 「なんだろうね?」

 他愛無い会話だ。

 「お前たちもよく「走り」に行くじゃない」
 「「ギャハハハハハ!」」

 自分たちの趣味が下品なことは自覚している。
 裸で夜中に走るのだ。
 しかも動物の頭を両肩に提げて。

 「あれってなんだよ?」
 「青春の疾走だね!」
 「パッションだよね!」
 「「「アハハハハハ!」」」

 三人で笑った。

 「まあ、そうなんだろうけどな。でもさ、俺は結局人間ってどこかへ行きたいんだと思うんだよ」
 「へー」
 「なるほどー」

 「散歩っていうのは、自由にどこへでも行けるじゃない。まあ、近所だけどな。遠くへ行くのは大変だ。だから近所で行きたい所へ行く、知らない所へ行く、何かを発見とか経験するかもしれない、そういうことが散歩の醍醐味だよな」
 「そうだね!」
 「そうだよ!」

 双子がちょっと興奮する。

 「まあ、大体大したことにはならないんだけどな。でも、いつでも気が向いたら出来る。だからいいんだよな」
 「「うん!」」
 「それがお前らみたいなカワイくて気持ちいー連中となら、こりゃ最高だ」
 「「うん!」」

 「ドライブもツーリングもな。同じことだよな」
 「私たちも早く免許が欲しいな」
 「亜紀ちゃん、時々出掛けるよね?」
 「そうだろう。まあ、俺に比べたら全然少ないけどなぁ」
 「亜紀ちゃん、タカさんの傍がいいもんね」
 「時々ウザいよな!」
 「「「アハハハハハハ!」」」

 三人で笑った。

 「柳ちゃんは全然だよね?」
 「そうだなぁ。あいつはロマンティシズムが少ねぇからなぁ」
 「「アハハハハハハ!」」
 「タカさん、でも柳ちゃんって、もう行きたい場所にいるからなんじゃないの?」
 「ルー! お前、大人になったな!」
 「アハハハハハ!」
 
 まあ、あいつはヒマがあれば庭で鍛錬している。
 自分がやりたいことは、人それぞれだ。

 「奈津江さんとはよく散歩に行ったの?」
 「おい、今日は突っ込むな、ルー」
 「だって、知りたいんだもん」

 俺は笑って奈津江との思い出を話してやった。
 



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「ねぇ、タカトラ」
 「おう!」
 「どっか行こうよ」
 「おう! そうだな!」
 「ねぇ、どこへ行く?」
 「うーん」

 奈津江に腕を叩かれる。

 「もう! 本当にダメ彼氏なんだから!」
 「ダメでもお前の彼氏ならいいんだけど」
 「ダメよ!」

 学食でよく交わされた会話。
 俺は奈津江がいればもうそれで十分で、奈津江は俺との思い出を欲しがった。

 「南の島のビーチとか」
 「おお、いいな!」
 「お金が無いじゃない!」
 「そっか」

 付き合って1年くらい。
 確か、6月頃のことだ。
 部活は試験前で休みだった。
 まだ二人ともデートのスキルは殆ど無かった。
 一緒に映画を観る。
 そんな程度。
 デートの食事も、高級店などはない。
 顕さんが御馳走してくれる時だけだ。
 食事が無いことも多かった。
 羽田空港に時々行く。
 あそこはいい。
 ただ、缶ジュースを飲むだけだったが。
 あとは大体「歩く」ということだけだった。
 それでも、十分に楽しかった。
 
 「明治神宮に行く?」
 「もう! あそこは小石の数まで覚えたわよ!」
 「マジ!」
 
 奈津江は2億8千万個だと言った。
 まあ、確かにしょっちゅう行っている。

 「たまには原宿とか」
 「私、あんまり好きじゃないんだよね」

 人が多い。
 服屋が多いが、奈津江の好みではないようだ。

 「渋谷をぶらぶら」
 「高虎、いつも喧嘩になるじゃん」
 「そっか」

 行くと大体喧嘩になっていた。
 俺のせいじゃねぇ。
 奈津江がカワイイから絡まれるのだ。
 俺は木村が言っていたことを思い出した。
 代官山がお洒落な街なのだと。

 「たまには代官山に行ってみるか」
 「あ、いいかも!」
 「お洒落な店が多いんだってさ」
 「いいね!」

 食事を終え、午後の授業を終えた俺たちは、代官山に向かって歩いた。
 電車でも行けるが、金の無い俺たちは歩く。
 まあ、奈津江と歩くのは楽しい。
 奈津江も同じだっただろう。

 旧山手通りを歩いた。
 奈津江が歌えと言えば歌い、笑えと言えば笑う。
 何か楽しい話と言えば話す。

 「隣の家に塀ができたってね。ブロォォォック!」
 「なにそれ?」
 「アレ?」

 俺が両手を上げて跳び上がると、奈津江が大笑いする。
 歩き慣れていない奈津江が途中で疲れる。
 ゆっくり休んで、話をする。
 そういうことまでが、奈津江と一緒だと楽しかった。

 「おぶってやろうか?」
 「やらしー」
 「なんでだよ!」

 その通りです。
 奈津江に触りたいです。

 「喉が渇いたけど、おしゃれな代官山で飲むからね!」
 「おう!」




 缶ジュースですら節約する俺たちだった。
 そういうもので良い二人だった。
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