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永遠の星

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 4月28日木曜日の午後8時。
 俺は明日から来月の10日火曜日まで休みを取ることにした。
 長い休みになって部下たちには申し訳ないが。
 29日は家にいる。
 亜紀ちゃんが『虎は孤高に』を生で観たがったためだ。
 30日から「紅六花ビル」に2泊。
 もちろん、響子と六花も一緒だ。
 5月3日からニューヨークで2泊とアラスカで1泊。
 院長夫妻も一緒だ。
 7日に戻って来て、のんびりする。
 そういう計画を立てた。

 「おい、御堂と全然会わないぞ?」
 「しょうがないでしょー!」
 
 御堂は多忙だ。
 麗星とも会いたいが、今回は行けない。
 蓮花とはアラスカで会う予定だった。
 皇紀もフィリピンのままだ。
 まあ、たまに「飛行」でうちに顔を出してはいるが。

 俺が夕食を食べ終わった後で、全員にゴールデンウィークの予定を発表した。
 亜紀ちゃんが酒を飲もうと言った。

 「亜紀ちゃんの進級祝いですね!」
 「「「!」」」

 柳に加え、双子も参加すると言った。
 風呂に入り、つまみを作った。

 そぼろ大根。
 スコッチエッグ。
 燻製タマゴ。
 ハム焼き。

 軽く飲むだけなので、そのくらいにした。

 「「虎酔花」が大盛況らしいんだ」
 「そうなんですか!」
 「まあ、料理は美味いし、何しろあの雰囲気がな」
 「素敵ですよねー!」

 亜紀ちゃんは行ったことがある。
 他の子どもたちも楽しみにしている。

 「噂を聞いて県外からも沢山来るらしいんだ」
 「へぇー!」
 「それにアトラクションも盛況でな。泊まり込みで来る人間が増えた」
 「良かったですね!」

 「結構収入も増えてな。今は「いちご狩り」なんかの企画も進めているらしいぞ」
 「できたら行きましょうね!」
 「絶対に辞めろ!」
 「え? なんでです?」
 「お前らが食い潰すからだよ!」

 みんなで笑った。
 絶対にそうなる。

 「いちごは栃木の名産なんだろ?」
 「あー、六花さん、言ってましたよね?」
 「名産品が食い潰されて、お前らのウンコになっちゃなぁ」
 「アハハハハハ!」

 俺は思い出して、サンルームのPCを立ち上げた。
 部屋からUSBを持って来て挿した。
 みんなを呼ぶ。

 一つの恒星の写真だ。

 「タカさん、なんですか、これ?」

 亜紀ちゃんが俺に聞いた。

 「去年の11月の初旬だったかな。「大銀河連合」の《グランマザー》に呼ばれたんだ」

 俺は語った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 9月に「大銀河連合」の格闘技大会で優勝した。
 その折に、俺たちに惑星をくれるという申し出を断った。
 《グランマザー》は、他の優勝賞品を、俺に相談に来た。
 11月の初旬のことだった。
 
 《グランマザー》は幾つかの代替の候補を持って来た。
 いろいろと説明してくれ、それなりに見合った素晴らしい賞品だった。
 地球では入手の難しい鉱物や資源。
 魅力的な技術や機械の提供。
 そういった中に、無尽蔵のエネルギーを引き出す技術もあった。

 「ああ、これは既にうちでも開発しているんだよ」
 「そうなのですか!」

 《グランマザー》も驚いていた。
 《グランマザー》の方法は、観た限りでも「ヴォイド機関」と同様のものだった。

 「周波数の組み合わせだろ?」
 「その通りです! よもや石神様が独力で実現されていたとは」
 「俺じゃなく、皇紀や双子だけどな」
 「いいえ、石神様の御指示であることは分かるのです」
 「どうしてだ?」
 「あれは、神に通ずるものにしか発想出来ないからでございます」
 「……」

 俺は人間だ。

 「私共も、以前はある恒星からエネルギーを吸い出していた時代も御座いました」
 「ああ、恒星のエネルギーは膨大だからな」
 「いいえ、そうではありません。ある特殊な時間を循環する恒星があるのです」
 「循環?」
 「はい。ですので永久にその恒星からエネルギーを吸い出すことが出来るのです。一定の時間を繰り返すものですので」
 「そんなものがあるのか」
 「はい」

 恒星と雖も、いずれは核融合を終えて死滅する。
 しかし、死滅する前にまた時間を戻して復活するのであれば、それは永久のことになる。

 「どうしてそれを辞めたんだ?」
 「はい」

 《グランマザー》が口ごもった。

 「別にいいよ。俺たちもそれを使いたいわけではないからな」
 「いいえ、石神様に隠したいということではないのです。説明が難しく」
 「だから別にいいって。どうしても知りたいわけでもない」
 
 《グランマザー》はまた沈黙していた。
 そして徐に俺に提案した。

 「石神様、これから一緒にその星を観に参りませんか?」
 「これからかよ!」
 「はい。マザーシップを使いますので、ほんの2時間ほどでここへ戻って参ります」
 「うーん」

 俺は考えたが、付き合うことにした。
 どうも、《グランマザー》は俺にどうしても見て欲しいようだったからだ。

 マザーシップが頭上に来て、俺は《グランマザー》に手を引かれて空中へ上がった。




 体感時間で40分後。
 俺はまた《グランマザー》に連れられ、マザーシップの展望台のような場所にいた。
 眼前に、巨大な恒星がある。

 「あれか」
 「はい。およそ3億年周期で時間が巻き戻っています」
 「不思議なことだな」
 「一応、量子的な解明は済んでいます」
 「そうか。ではお前たちでも実現出来るのだな」
 「理論的には。でも、一度も実行しておりません」
 「ああ」

 《グランマザー》はまたしても口を閉じた。
 俺には何となく分かった。

 「永遠とは醜いものだったんだな」
 「さようでございます。わたくしには、この星が何か憐れで、醜いものに見えます」
 「そうだな」

 赤く輝く巨大な惑星。
 《グランマザー》から話を聞かなくとも、この星が宇宙の理(ことわり)から切り離されていることが分かる。
 永遠に存在するのかもしれない。
 だからこそ、醜い。

 「今となってはもう分かりませんが、私が生まれる以前に、高度な文明を持った者たちがこの星を作り変えたようです」
 「そうなのか」
 「その者たちはここから膨大なエネルギーを得ていたのでしょう。でも、いつの間にか、それを辞めてしまった」
 「……」
 「私共も同じです。一時的に、ここからエネルギーを吸い出しておりましたが、辞めました」
 「分かったよ」
 
 「《ロボ》様は永遠の方です。でも、私には美しく尊いものに見えます」
 「ロボはカワイイ猫だ!」
 「ウフフフフ」

 俺は地球へ戻った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「この星って、破壊できないんですか?」

 亜紀ちゃんが俺に聞いた。

 「まあな。何しろ時間が逆行するんだ。ヘタに破壊したら、何が起こるか分からん」
 「そうですかー」

 全てのものには終わりがある。
 だからこそ、全てのものは存在する価値がある。

 「何か悲しい星ですね」
 「そうだな」
 
 ロボが俺の足に身体をこすり付けて来る。
 もうそろそろ寝ようと言っているのだ。

 「じゃあ、今日はここまでな」
 「「「「はい!」」」」

 俺は片づけを子どもたちに頼み、先に部屋へ行った。
 ロボが布団に潜り、俺の身体の上に乗って目を閉じる。
 
 「おい、今日はそこで寝るのかよ」

 俺は笑って目を閉じた。
 ロボのぬくもりが伝わって来た。
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