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偽高虎 Ⅱ

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 「あれ、石神さん!」
 「よう!」

 いつものように歌舞伎町のキャバレーに向かうと、石神さんが入り口で立っていた。
 珍しく、ジーンズに白いTシャツにスニーカー。

 「今日は何か御用ですか?」
 「ああ、ちょっとな」
 「珍しい恰好ですね」
 「たまにはいいだろう?」
 「はい。でもいつもとは全然違いますね」
 「俺は服装なんか拘らないんだよ」
 「え!」

 いつもの御冗談かと思ったが、俺は確信した。

 「じゃあ、どうぞ。事務所でお話ししましょうか」
 「ああ」

 中へ連れて行った。
 従業員が挨拶して来て、石神さんの姿に驚く。
 深々と挨拶していた。

 「今、飲み物を持って来ますね」
 「ああ、悪いな」
 
 事務所へ入れ、石神さんが手配してくれた亜紀さんに来たことを伝えた。
 亜紀さんの戦闘力は十分に知っている。
 一瞬ででかいビルを粉々にする人だ。

 「多分、来ましたよ」
 「分かりました」

 亜紀さんをお連れして、事務所へ戻った。

 「亜紀ちゃん!」
 
 笑顔で亜紀さんの名前を呼んだ。

 「お前、誰だ?」
 「おい、何言ってんだよ、亜紀ちゃん!」
 「ふざけるな! 私がタカさんを見間違えると思ったか!」

 石神さんの姿の奴が笑った。

 「俺は石神の全てをコピーしているんだ」
 「服がダサい」
 「え?」
 「タカさんはなぁ! 誰よりもカッコイイんだよ! なんだてめぇのダサ服とバカ面はぁ!」
 「おいおい」
 「それにタカさんは世界一優しいんだ! テメェ! タカさんの何をコピーしたって言うんだ、このバカ!」

 笑いながら、俺たちに近づいて来る。
 亜紀さんの身体がブレた。
 突風が室内に置き、書類が散乱した。

 激しい衝突音がして、亜紀さんが部屋の隅に吹っ飛んだ。

 「こいつ、強い!」
 「おい、石神をコピーした俺がお前に負けるわけないだろう!」
 「クッソォー!」
 
 石神さんの姿の奴がまた笑って部屋を出て行った。
 俺はすぐに亜紀さんに駆け寄ったが、亜紀さんは自分で立ち上がった。
 電話を掛け始める。

 「はい、私です。逃げられました」

 しばらく話した後で、亜紀さんは俺に頭を下げた。

 「すみませんでした。もうここにあいつは来ないと思いますが、一応気を付けておいて下さい」
 「はい! あの、お怪我はありませんか?」

 亜紀さんはニッコリと笑って、大丈夫だと言った。
 美しい顔に、獰猛な笑顔が浮かんでいた。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「亜紀ちゃんが逃げられたそうだ」
 「えぇー! 亜紀ちゃんがダメだったの!」

 リヴィングで子どもたちに伝えた。

 「相当な手練れだと亜紀ちゃんは言っている。まあ、怪我もねぇけどな」

 亜紀ちゃんが本気で戦えば、傍にいた柿崎や店の中の人間が無事には済まない。
 だから敢えて逃がした。
 
 「さて、行くかぁ!」
 「「「はい!」」」

 全員でハマーに乗り込んだ。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「石神せんせー!」

 六花が手を振っていた。
 六花が住むマンションの外だ。

 「おう! なんだ、もう片付けたのか?」
 「いいえ、まだ来てませんよ?」
 「そっかー」

 俺たちは途中で亜紀ちゃんをピックアップしてから来た。
 地下鉄で来たとしても、もう着いていないとおかしい。
 正体がバレたのだから、速攻で次の標的を狙うと考えていた。
 ガーディアンの付いていない六花だ。
 鷹には響子の傍にいてもらっている。

 いつまで待っても来ないので、一旦六花のマンションに入った。
 吹雪をみんなで可愛がり、ヒマなのでトランプをした。

 「おい、そう言えば食事は済んでるのか?」

 六花に聞いた。
 俺たちは食べている。

 「あ、まだでした!」
 「タカさーん、お腹空いたー」

 亜紀ちゃんもまだだった。
 出前を取った。
 夕飯を食ったはずの奴らまで喰った。

 「おっそいですねー」

 もう8時になっている。
 トランプも飽きた。
 チャイムが鳴った。
 カメラの映像で、あいつが来たのが分かった。

 「はーい!」

 六花が応え、全員で下に降りた。



 「お前ら!」
 「おい、随分と遅かったな」
 「……」

 「あ! もしかして、金が無いから歩いた?」
 「……」

 「「「「「「ギャハハハハハハハ!!!!!」」」」」」
 「お前ら……」

 「タカさん、こいつスニーカーですよ」
 「ああ、俺持ってないんだよなー」
 
 ハーが後ろに回り込んだ。

 「ジーンズはユニクロの一番安い奴だ!」
 「シャツもだよ!」

 「おい、マジか」

 みんなでまた笑った。

 「タカさん、私やっちゃっていいですかー?」

 亜紀ちゃんが言った。

 「しょうがねぇな」
 「わーい!」

 「おい、俺は石神の全てをコピーしているんだぞ!」
 「ふざけんなぁ! 下郎!」
 
 亜紀ちゃんが突っ込んで、俺の偽物の右肩を吹っ飛ばした。
 激しく血肉が舞う。

 「グッォォー!」
 「「あたしたちもー!」」
 
 双子も参戦した。

 「脱がしちゃえ!」
 「ワハハハハハハ!」

 偽物を全裸にする。

 「ツルツルじゃん」
 「タカさんより全然ちっちゃいじゃん」

 偽物の身体には傷がなく、アレは通常サイズだった。
 六花が良く見に行く。

 「ダメですね」
 「「「「ギャハハハハハハハ!!!!」」」」

 「お前、「業」に送られて来たのか?」
 「違う」
 「じゃあどっから来たんだよ?」
 「……」

 「あ?」
 「……」

 「お前、死んじゃうぞ?」
 「助けてくれるのか!」
 「お前がちゃんと喋れればな」
 「「反「虎」同盟」だ!」
 「なんだと?」
 「俺はそこで、義体が得意な妖魔を埋め込まれた」
 「お前、ライカンスロープだったのか?」

 道理で派手に血が出るはずだ。

 「「反「虎」同盟」の中に、妖術師がいる。そいつが俺を改造した」
 「お前、俺の能力をコピーしたとか言ってたな?」
 「そうだ。妖術師にそう言われた」
 「全然だったな」
 「……」

 更に幾つか尋問したが、大したことは知っていなかった。

 「タカさん、どうすんですか、そいつ?」
 「あ、ああ」
 
 「た、たすけて……」
 「もう遅ぇよ」
 「なんだ……」
 「失血死だ」
 「え、私のせいですかぁー!」
 「そうだな」
 
 早乙女に連絡し、「アドヴェロス」の回収部隊を回してもらった。
 みんなでもう一度六花のマンションに入る。

 双子がコーヒーを淹れた。

 「こないだの「砂漠の虎作戦」でもいたなー」
 「あー、ゴールドマンでしたっけ」
 「俺って嫌われてるよなー」
 「しょうがないですよ」
 「あんでだよ?」
 「だって、タカさん凄すぎですもん!」
 「ワハハハハハハ!」

 コーヒーを飲み終えたら帰るつもりだった。
 
 「でもよ、「反「虎」同盟」って、結構でかそうな組織だろ?」
 「まー、そうですかね?」
 「何であいつ、金を持って無かったんだよ?」
 「ああ、そういえば」




 後日。
 うちの病院内で遺失物が見つかった。
 男性物の財布だ。
 身分証明やカード類も無く、誰の落とし物かわからなかった。
 50万円入っていた。
 そんなに現金を持ち歩くのは俺くらいなので、聞かれたが違うと言った。
 
 警察に届けた。
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