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金庫番 木村真一

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 花見が終わり、子どもたちは夕飯を食べた。
 鷹が出汁茶漬けを作ってくれ、俺と院長夫妻、早乙女夫妻、羽入で食べた。
 子どもたちは唐揚げを揚げた。
 今日は院長夫妻と鷹、羽入と紅を泊める。
 響子と六花はアビゲイルたちと一緒に帰っている。
 早乙女たちは近いので好きな時に帰る。
 羽入と紅は早乙女の部下なので、そっちに泊ってもいいのだが。

 「すみません、石神様の御宅で宜しいですか?」
 「構わないけど、紅は早乙女の家は嫌なのか?」
 「そういうわけではないのですが。あの、申し訳ないのですが、強い妖魔の王やよく分からない方々がいて、ちょっと落ち着かないといいますか」
 「そうか! やーい!」

 「「……」」

 俺が顔の横で両手の指をワキワキしてやると、早乙女達が沈黙した。

 「申し訳ありません」
 「いいって! じゃあ、お前たちは早乙女たちの「子作りの部屋」に泊めてやんな!」
 「石神!」
 「は?」

 俺がうちで怜花を仕込んだのだと話すと、四人が真っ赤になった。
 羽入たちはいいけど、早乙女たちは本当にそうだっただろう!

 「虎温泉」を用意し、みんなで順番に入った。
 院長夫妻は双子と。
 早乙女たちと羽入と紅は二人ずつで。
 最後に俺と亜紀ちゃんと柳。
 それほど長湯はしない。

 つまみを作る。

 ふろふき大根。
 ナスの煮びたし。
 豆腐と薬味各種。
 味噌田楽。
 獣用唐揚げ(さっきも食べてた)。
 鷹おでん(絶品)。
 
 今日は散々食べたので、あっさり目だ。
 みんなで「幻想空間」に移動する。




 「石神、今年も楽しかったよ」
 「そうですか。お二人にそう言って貰えると嬉しいですね」
 「ローマ教皇は参ったけどな」
 「アハハハハハ!」

 「石神さん、自分らまで呼んで頂いてありがとうございました」
 「羽入と紅には散々働いてもらっているからな」
 「はぁ」
 「お前らには気疲れもあったかもしれないけどなぁ」
 「いいえ! 千両の親父や桜さんたちとまた会えて嬉しかったですよ!」
 「そうか。紅は羽入がいればそれでいいんだよな?」
 「い、石神様!」

 紅が頬を染める。

 「皇紀ちゃんは残念だったね」

 ルーが言う。
 皇紀はまだフィリピンだ。
 
 「まあ、そうだけどな。でも俺たちは離れていたって一緒だしな」
 「そうだね!」

 俺と鷹、亜紀ちゃん、早乙女夫妻と羽入は冷酒を。
 院長夫妻はお茶。
 双子は千疋屋の生ジュース。
 
 「あー、御堂も泊まってけばいいのになー」
 「でましたね、御堂バカ!」
 「ワハハハハハハ!」

 御堂は酒も飲まなかった。
 本当に忙しいのだ。

 「俺は御堂と聖が……」

 早乙女が俺をじっと見ていた。

 「それと早乙女が大親友だからな!」

 早乙女がニコニコし、雪野さんが顔を背けて笑っていた。

 「タカさん、他にも一杯大事な人がいますもんねー」
 「そうなんだよな。あ! 院長たちはさっきローマ教皇に誓いましたからね!」
 「石神!」

 静子さんが笑った。

 「鷹はもちろん、最愛の女な!」
 「もう、他の女がいないからって」

 亜紀ちゃんの頭を引っぱたき、鷹が笑っていた。

 「じゃあ、タカさん、そろそろ」
 「鷹のおでんは最高だよなー」
 「石神先生、そろそろ」

 鷹が言い、みんなが笑った。

 「最愛の鷹に言われたらしょうがねぇな!」
 「はい!」

 「御堂を木村がまた迎えに来ただろう?」
 「はい、そうでしたね。タカさんに会えて嬉しいって言ってましたよね?」
 「あいつを御堂の秘書に誘った時に聞いた話なんだ」

 俺は高校時代の話をした。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 暴走族「ルート20」で、一つ下の木村が金庫番になった。

 敵対チームを潰して行くうちに、結構な金が集まっていた。
 誰かが管理しなければならないほどだった。
 木村は頭が良く、そして何よりも誠実で信頼出来る奴だった。
 井上さんが俺に相談し、俺は木村を推薦した。
 井上さんは、最初は俺に預けようと考えていたようだった。

 「あいつならしっかりやってくれますよ!」
 「そうだな!」

 井上さんもすぐに俺の推薦を認めてくれた。
 喧嘩は強くはないが、絶対に逃げることの無い男だった。
 それに、チームの誰かがやられそうになると、向かって行った。
 木村のお陰で助かった奴も多い。
 そして自分の意見は言わずに、言われたことは必ずやる。
 誰もがそんな木村を認めていた。

 木村はすぐに井上さんの名義で郵便局の預金口座を開設した。
 引き出せるのは通帳を持っている木村だけ。
 井上さんといえども、木村を通さなければ金は下せない。
 そういうことをした木村に、当初は他の幹部から反発があった。

 「キム! てめぇ井上さんにも引き出せるようにしろ!」
 「いけません!」
 「お前だけの金じゃねぇだろうがぁ!」
 「その通りです! でも、いけません!」
 「なんだとぉ!」

 幹部の一人が木村の胸倉を掴んだ。

 「自分だけが引き出せなければ、金の管理は出来ません!」

 木村が殴られた。
 何も言わないし逆らわない。

 「おい、木村。ちゃんと説明しろ」

 俺が乗り出して、幹部の奴に手を離させた。

 「井上さんは優しい方です!」

 みんなが納得している。

 「井上さんは頼まれれば、必ずその人に金を渡します!」
 「何がいけねぇんだ! 総長の権限だろう!」
 「そうすれば、収拾がつかない! あのお金は井上さんやトラさん、そしてみんなの力で集まったものです! 個人のことで使っちゃいけないんですよ!」

 全員が驚いた。
 木村はあの金の大事さを誰よりも考えていた。

 「使うならチームのためです! そして個人だって、井上さんや幹部の皆さんで話し合ってからです!」
 「木村!」

 井上さんが木村の名を叫んだ。

 「木村の言う通りだ! 簡単に手を付けちゃいけねぇ! キム! よく言った!」

 全員が木村を認め、殴った幹部は木村に謝った。

 「いいんですって。自分は命懸けであの金を守りますよ!」

 全員が木村を褒め称えた。
 木村は言った通り、金の管理をしっかりやってくれた。
 毎月、残高を幹部会で通帳を見せて説明した。
 金の出し入れを全て話し、俺たちはますます木村を信頼した。

 木村は金の使い道で、一つも自分の意見を言ったことは無かった。
 井上さんや幹部会で決まった通りに出し入れした。
 金を守るとは言ったが、それは管理の責任であって、チームの方針に従うだけだった。
 時々、誰かが木村の意見を求めた。
 その時だけは「自分などが」と言った上で、堂々と意見を述べた。
 その意見はいつも全員を納得させた。
 金の使い道に関しても、木村に意見を求めることが多くなった。

 木村は最高の金庫番だった。
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