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三度目の花見

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 4月最初の土曜日。
 例年通り、花見を開いた。
 アメリカ大使館大使夫妻とアビゲイル。
 今年はバチカン市国大使のガスパリ大司教と護衛として来日したマクシミリアンも来た。
 そして俺に断りもなくローマ教皇まで来た。
 みんなぶっ飛んだ。
 御堂と澪さん、大渕教授。
 院長夫妻。
 早乙女夫妻と羽入と紅。
 千両たち。
 場違い過ぎるので囲いで覆うかとも思ったが、景観が悪いのでやめた。
 大人しく飲ませることにする。
 鷹、六花、吹雪、響子。
 うちの子どもたちと真夜。

 最初は気軽に親しい人間が集まっての花見のつもりで始めた。
 ちょっと主旨が変わりつつある。
 ローマ教皇が来たからだ。
 本当はガスパリ大司教も呼ぶつもりは無かった。
 どこからか情報を聞いて、是非参加したいと申し出て来た。
 マクシミリアンからだったので、俺も受け入れた。
 どうして国家元首まで連れて来やがる!

 慌てて早乙女の家からいいテーブルと椅子を運んで座って頂いた。
 マホガニー無垢のVENのものだ。
 近未来的なデザインがいい。
 あそこにはそういうものが結構仕舞ってある。
 早乙女と雪野さんが驚いていた。

 俺が挨拶し、花見を始めた。
 来賓の言葉などは一切無い。
 そういう催しではないのだ。

 人数が増えても食材に関してはまったく問題は無い。
 勝手に来たのだから、料理に文句があっても受け付けない。
 まあ、ローマ教皇もガスパリ大司教も喜んで食べてくれたが。
 
 テーブルはローマ教皇、ガスパリ大司教、マクシミリアン、それと御堂と澪さんと大渕教授に座ってもらった。
 御堂も澪さんも最初は緊張していたが、教皇もガスパリ大司教も気さくな人柄なので、笑顔で食べていた。
 アメリカ大使夫妻とアビゲイル、そして響子と六花。
 吹雪は短時間同席させて、家の中で寝かせた。
 
 花見では、一応うちの人間たちが来客を歓待することになっている。
 別に決まったことではないのだが、子どもたちにそういうことを教えるいい機会だ。
 いつまでも人に楽しませてもらうばかりでは、人間として失格だ。
 俺も最初にローマ教皇のテーブルに行く。
 酒は飲まない人間たちなので、話が中心になる。
 御堂が一生懸命に話していた。
 ローマ教皇たちも、御堂のことは知っている。
 ジャングル・マスターによって、世界中に知られる人物となっているためだ。

 「マクシミリアン、こんな場所まで剣を持って来ているのかよ」
 「当然だ。俺はお二人の護衛だからな」
 「お前、散々飲み食いしてるじゃん」
 「ワハハハハハハ!」

 みんなが笑った。
 俺は羽入と紅を呼んだ。
 二人が緊張しながらすぐに来る。

 「おい、どっちがローマ教皇で、どっちがガスパリ大司教か分かるか?」
 「「!」」

 二人ともバチカンのことまで知らない。
 紅もデータに入っていない。
 御堂が手で示してバラした。

 「それじゃつまんないだろう!」
 「石神! 失礼なことをさせるな!」

 ローマ教皇たちが笑った。

 「猊下、この二人は先日石神家本家の人間と一緒に中東でロシア軍を撃退しました」
 
 ガスパリ大司教が通訳し、ローマ教皇が驚いていた。
 マクシミリアンもだ。

 「羽入、石神家本家がどんな人たちだったか説明しろ」
 「はい! もう無茶苦茶でした!」

 みんなが笑った。

 「あそこにいる桜さんが指揮官だったんですが、もう全然言うことを聞かなくて。勝手に戦場に出て敵をどんどん斃しちゃって」
 「そうだってな。ジェヴォーダンも出たんだろ?」
 「はい! 最初は「虎」の軍の特殊武器でやってましたが、最後は日本刀で斬り殺してましたね!」

 マクシミリアンが驚いた。

 「普通の剣でか!」
 「そうです。本当に無茶苦茶な人たちですよ」

 マクシミリアンが呆然としたが、次に爆笑した。

 「イシガミ、今度は是非一緒に戦わせてくれ!」
 「お前が望むなら、いつでも本家の鍛錬に入れてやるぞ?」
 「頼む!」

 知らねー。

 俺は双子を呼んで、御堂たちと代わらせた。
 双子なら万事上手くやるだろう。
 羽入と紅は千両たちの所へ行った。

 御堂たちをアメリカ大使夫妻とアビゲイルに挨拶させ、院長夫妻と早乙女たちのテーブルに座らせた。
 ホッとしていた。
 鷹が御堂たちにビールを注ぐ。
 柳が料理を取りに行った。

 「石神、助かったよ」
 「何言ってやがる! お前は「世界の御堂」だろう!」
 「そんなものになったことは無いよ!」

 みんなが笑った。
 
 「院長も挨拶に行きますか!」
 「勘弁しろ!」

 でも俺が無理矢理院長と静子さんをローマ教皇たちのテーブルに引っ張って行った。

 「是非ご紹介したくて。俺がこの世で最も尊敬し、大切なお二人なんです」
 「石神!」

 ローマ教皇たちが立ち上がって挨拶した。
 院長と静子さんが驚いて恐縮し、握手を交わした。
 マクシミリアンもだ。

 「イシガミ様の最愛の方々でしたら、私共にとっても最愛の方々です」

 ガスパリ大司教がそう言うと、院長が卒倒しそうになった。
 俺は笑って元のテーブルへ連れて行った。

 「良かったですね!」
 「おい、お前、いい加減にしてくれ……」

 「お前らも行っとくか?」

 早乙女達に言ったが、早乙女が泣きそうな顔になったので辞めてやった。

 「俺なんていきなり家に押し掛けられたんだからな! ちょっとは俺の苦労が分かったか!」
 「最初から分かってる!」
 「そっか」

 鷹が院長たちにお茶を持って来た。
 やっと落ち着いたようだ。
 ゆっくりと食べて頂く。

 アメリカ大使夫妻のテーブルへ行く。

 「アビー、響子は綺麗になったよな!」
 「ああ! タカトラのお陰だ」

 響子がニコニコしている。
 六花も、もうそれほどの緊張はない。
 特に大使夫人のマリアとは親しくなっている。

 「身体も随分と丈夫になってなぁ。お菓子の隠し場所が広範囲になってきた」
 「タカトラ!」

 みんなが笑った。

 「こないだ拠点の一つを潰しましたよね?」
 「そうだよな。でもまだまだありそうだからなぁ」
 「六花! やめてぇー!」
 「第二外科部の冷蔵庫に「K」って書いてあるプリンがあるらしいんだよ」
 「買収も覚えましたね」
 「タカトラ~!」

 みんなが爆笑した。

 千両たちの所へ行く。
 亜紀ちゃんが御機嫌で飲んでいる。

 「おい、お前はホストの側だろう!」
 「はーい!」
 「いえ、亜紀の姐さんは楽しませてくれてますよ!」
 「桜、こいつを甘やかすなよなぁ」
 「エヘヘヘヘ」

 「千両、今日は西洋の剣士が来てるんだ」
 「はい、あのマクシミリアンという方ですね」
 「おう。ちょっとやってみるか?」
 「面白そうですね」

 俺は亜紀ちゃんに、木刀を二本持って来るように言った。
 すぐに戻って来る。
 マクシミリアンに、ちょっと相手をしてくれと言った。
 二人が開けた場所で向き合う。
 俺が立ち合いをした。

 「始め!」

 マクシミリアンが千両に高速で撃ち込む。
 千両は軽々と受け流していく。
 二人が一瞬で互いの実力を察し、本気で撃ち込んでいった。
 しばらく、両者の撃ち合いが続く。

 マクシミリアンが奥義を出そうとした。
 同時に千両が裂帛の気合で上段から撃ち込む。
 高速の突きを出そうとしたマクシミリアンの木刀が粉砕され、マクシミリアンの胸に千両の木刀が突き刺さった。
 もちろん、寸止めだ。

 「参りました」

 千両が木刀を腰に着け、深々と一礼した。
 マクシミリアンも同じ動作で礼をする。
 拍手が湧いた。

 2時間ほどでローマ教皇たちとアメリカ大使夫妻、アビゲイルが帰った。
 4時間が過ぎて、俺は解散を宣言した。
 また千両たちは夜まで飲むつもりだ。
 バーベキュー台を一台残して、子どもたちが片付けた。

 俺はレイの写真を持つ。

 「タカさん、今年も楽しかったですね!」
 「そうだな」

 亜紀ちゃんがテーブルを片付け、一緒に歩いて帰った。

 



 「タカさーん! 先に戻って夕飯の支度をしますねー!」

 ルーが前で俺に叫んだ。

 「俺はいらねー!」
 「私は食べるよー!」

 みんなで笑った。
 双子と柳が走って行った。
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