上 下
1,858 / 2,806

全ての完了

しおりを挟む
 橘弥生と徹夜でCD録音を済ませた日曜日の午後。
 亜紀ちゃんと「虎温泉」に入り、亜紀ちゃんは大満足ですぐに寝た。
 俺も疲労困憊だった。
 徹夜は全然問題ない。
 戦闘中だったら、まったく疲れは感じなかっただろう。
 しかし、今回はギター演奏を集中してやった。
 特に、橘弥生との2度のセッションが、俺の神経を疲弊させていた。
 俺もすぐに寝るつもりだった。

 「タカさーん! 早乙女さんから電話ですよー」
 「あのやろう!」

 俺のスマホをハーが持って来た。
 電話を遠ざけて眠るため、リヴィングに置いていたのだ。
 
 「あんだよー!」
 「石神! 今台東区でライカンスロープが暴れているんだ」
 「そうか」
 「外道会の連中らしい」
 「へー」

 「石神! 数が多いんだ! 手伝ってもらえないか?」
 「分かったよ!」

 早乙女は、地元のヤクザとの揉め事から、妖魔化した連中が現われたのだと説明した。

 「早霧や磯良たちは名古屋の「太陽界」の隠し本部に行ってるんだ」
 「ハンター全員でか?」
 「そうなんだよ。成瀬も指揮を執ってていない。俺だけなんだよー」
 「情けない声を出すな! 柳とルーとハーを送る」
 「ありがとう! 石神!」

 俺は三人を呼んで、台東区の現場へ向かうように言った。

 「亜紀ちゃんはもう寝てるからな。三人で大丈夫だろう」
 「はい、石神さんは?」
 「家にいる。一応起きてるよ」
 「タカさん、寝てていーよー?」
 「ああ、ありがとうな。じゃあ、宜しく頼む」
 「「「はい!」」」

 三人が柳のアルファードで出掛けた。
 まあ、そんなに時間は掛からないだろう。

 俺はスマホを目の前に置いて、ソファで休んだ。




 ウトウトしている時に、スマホが鳴った。
 アラスカのターナー少将からだった。

 「タイガー! 「セイントPMC」が妖魔に襲撃された!」
 「そうか。敵の規模は?」
 「約5万だ。どうする?」
 「聖は何と言っている?」
 「応援は不要だと」
 「じゃあ大丈夫だ」
 「おい、5万だぞ?」
 「聖が大丈夫だと言えば、その通りだよ。あいつはヘンな意地を張らないし、必要ならなんでもする男だ」
 「そうか」
 「まあ、そっちでも状況を見張っててくれ。予想外のこともあるかもしれん」
 「分かった。ああ、ロックハート家でも状況を把握していて、支援砲撃をすると言って来た」
 「そうか。それじゃ聖にその旨を伝えてくれ。そのくらいはやらせてもらえるだろう」
 「了解! では、また状況が変わったら連絡する」
 「頼んだぞ!」

 なんなんだ、この状況は。
 まあ、俺の出番は無いだろうとは思った。
 現在午後3時。
 ニューヨークは夜中の1時くらいのはずだ。




 2時間後に聖から連絡が来た。
 妖魔の軍勢は全て撃破したとのことだった。

 「随分と早かったな」
 「ああ、ロックハート家の支援砲撃が効いた。それにクレアの「スズメバチ」もな」
 「おお、あれを出したのか!」
 「クレアが準備してくれていたよ。でも、半分以上が上級妖魔にやられた」
 「上級まで出たか!」

 上級妖魔は中級までとは桁違いに強力だ。
 聖が説明を始めたが、俺は息遣いが荒いことに気付いた。

 「お前、やられたのか!」
 「大丈夫だよ。爪を一発喰らっちまった」
 「バカヤロウ!

 俺は電話を切り、急いでハーを呼んだ。
 まだ早乙女に頼まれた現場は片付いていない。
 だから柳とルーに任せる。

 「聖がやられた!」
 「え!」
 
 ハーが飛んで来た。
 通常の戦闘なので、普通のコンバットスーツを着ていたためにもう服は無く全裸だ。
 俺のいるリヴィングに駆け上がって来る。

 「すぐに飛ぶぞ!」
 「はい!」

 俺も着替える間も惜しんでハーと飛んだ。
 2分後に「セイントPMC」に到着する。
 俺も全裸だ。
 コントロール・ルームに走り、椅子に座っている聖が俺に笑って手を挙げた。
 シャツを巻いていたが、左脇腹に血が滲んでいる。
 すぐに、太い動脈は傷ついていないことを見て取った。
 動脈が破れたら、あんな出血では済まない。

 「ばかやろう! 妖魔に負わされた傷はどうなるか分からねぇんだ!」
 「ああ、悪かった」

 俺はすぐに「エグリゴリΩ」の粉末と「オロチ」の皮を聖に食べさせた。
 嚥下した瞬間に、聖の身体が戻ったことが分かった。
 念のためにハーに走査と「手かざし」をさせた。
 聖がもう大丈夫だと言った。

 スージーが服を用意してくれ、俺は着たがハーはタオルを巻いただけだった。
 こいつは全裸が大好きだ。
 まあ、帰りも全裸になるので、面倒だと思ったのかもしれない。
 中学生だが、もう身長は175センチになっており、顔は亜紀ちゃんに似た相当な美人だ。
 コントロール・ルームの男たちが目のやり場に困っていた。

 俺は聖を医療ルームに運んで、改めて戦闘の話を聞いた。
 スージーが記録映像を持って来る。

 「聖! あいつと遣り合ったの!」

 ハーが叫んだ。
 ロシアでの移民輸送作戦の折に見た上級妖魔のタイプがいた。
 亜紀ちゃん以外では歯が立たなかった奴だ。
 それが8体いた。
 聖が腹に負傷しながらも、こいつが自分で編み出した技で撃破していた。

 「トラ」
 「なんだよ?」
 「あの技に名前を付けて」
 「あ?」
 
 聖がよく分からないことを言った。

 「俺ってさ、バカじゃん。技は作ったんだけど、カッコイイ名前が思い付かなくて」
 「ああ」
 「トラ、頼むよ!」

 聖の両手から撃ち出される、真っ白な美しい螺旋だった。
 俺の知らない所で、密かに鍛錬して編み出したのだろう。
 俺を護るために。

 「Saint-Helical(聖なる螺旋)」
 「ウオォー!」

 聖が喜んだ。

 「聖、ありがとうな」
 「何言ってんだ? 礼は俺が言う方だろう?」

 聖がもう大丈夫なことを確認し、帰ることにした。
 外に出てからでいいのに、ハーがすぐにタオルを外し全裸になった。
 俺も笑って服を脱いだ。

 聖とスージーが外まで見送りに来た。
 ハーと「オッケーおけけ」を踊ってやった。
 二人が爆笑した。

 「じゃあ、帰るな」
 「ああ、わざわざ来てくれてありがとう」
 「石神さん、また」
 「スージーも元気でな!」

 夜の6時に家に着いた。





 亜紀ちゃんが起きており、柳とルーも戻っていた。
 皇紀はフィリピンに出張中。

 これから夕飯の準備をすると亜紀ちゃんが言ったので、俺は出前にしようと言った。
 鰻と寿司を取る。
 亜紀ちゃんと柳が寿司の注文を取って回った。

 8時に出前が届き、うちにしては遅い夕飯をみんなで食べた。

 「タカさん、すいません。眠ってしまってて」
 「いいよ。今日は亜紀ちゃんの出番は無かったさ」
 「すいません」

 柳とルーから状況を聞いた。

 「私たちが到着したら、もう逃げ回って隠れちゃってて」
 「探すの大変だったよね!」

 ルーが探知をして回ったらしい。

 「隠れるのが上手い奴がいてね。気配はあるんだけど、どこか分からなくて」
 
 そのために時間が掛かった。
 
 「しょうがないんで、便利屋さんを呼んでもらったの」
 「そうしたらすぐだったよね?」

 俺は笑った。
 まあ、みんな無事で良かった。

 夕飯を食べ終え、みんなで「虎温泉」に入った。
 双子がまたかき氷を作ってくれる。

 「タカさん、お疲れ様でしたー!」

 亜紀ちゃんが湯船で俺の肩を揉んでくれる。

 「マジ、疲れたよなー!」

 「虎温泉」のナゾ成分が俺の疲れを癒してくれる。

 「明日は休むよ」
 「はい!」

 そう決めて、俺は風呂上がりに少し飲もうと言った。
 一江に電話し、休むことを話した。





 身体がいい具合に疲労を訴え、気分が良くなった。
 本当にやり切った実感があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...