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「セイントPMC」妖魔戦 Ⅱ

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 俺の副官であるスージーも、敵勢力が予想以上に多いことは分かっている。
 接敵は1時間後と計算された。
 コンボイはイーストン方面から国道78号線をこちらへ向かっている。
 そして輸送ヘリ軍が海上からニューヨーク湾を目指してきている。

 「ロックハートから連絡! 支援砲火の許可を求めています!」
 「頼むと言え!」
 「了解!」

 トラが仕込んだロックハート家から、超長距離のレールガンの砲門が海上のヘリを襲った。
 初めて見たが、恐ろしいほどのピンポイント攻撃だった。
 砲弾には特殊な爆裂弾が仕込まれており、妖魔を撃破する構造らしい。
 数百の輸送ヘリが次々と撃墜されていく。
 砲火開始2分で、既に30%が墜とされた。

 「すげぇな!」
 「皇紀さんのシステムですが、想像以上の攻撃力と精確さですね!」

 連射が難しいはずのレールガンだ。
 大電力を消費する上に、砲塔がすぐに高熱を持つ。
 それを避ける仕組みを持っているようだった。

 「ハンガー「C」が開きました!」
 「なんだと!」

 「セイント! クレアさんから連絡です!」
 
 通信員がスピーカーでオープンにする。
 トラがうちのガーディアンとして寄越してくれたクレアの声が聞こえた。

 「聖さん! 《guêpes(スズメバチ)》を飛ばします!」
 「クレアか!」
 「2万体を全て国道を輸送中の敵に向けます!」
 「こっちはいい! アンジーと聖雅を護ってくれ!」
 「いいえ! お二人は万一があれば、必ず私が安全な場所までお連れします! 今はそちらで敵戦力を撃破することを!」
 
 クレアはアラスカやここのシステムと連携し、最も有効な行動を取ろうとしていることが分かった。

 「じゃあ、頼むぜ! とにかく敵の数が多いんだ」
 「かしこまりました!」

 《guêpes(スズメバチ)》が、高速で移動を始める。
 カメラを持った奴もいるので、映像がコントロール・ルームのモニターの一つに映し出される。

 「アラスカ経由で石神様から準備を整えて置くように言われました」
 「準備?」
 「はい! 女王バチは《guêpes(スズメバチ)》1万8千に、対妖魔用の「オロチストライク」を発射出来るように書き換えました」
 「トラァー!」
 「情報が洩れる恐れがありましたので、今までお話ししなかったことをお許し下さい」
 「クレア! お前は最高だぁ!」
 「アハハハハハ!」

 マッハ2で飛行していた《guêpes(スズメバチ)》が、たちまちコンボイに取りついた。
 もうニューヨークにほど近い。
 トラックの荷台を殲滅戦装備の2千が破壊し、中の妖魔を残り1万8千が攻撃していく。

 「《ゴースト・レーダー》が解析! 敵戦力のうち、90%は低級妖魔と判明!」
 「おし!」
 「現在、全妖魔の60%を撃破!」
 
 コントロール・ルームで歓声が挙がる。
 
 「油断するな! 強い奴が残っているはずだ!」
 『はい!』

 全員が持ち場で真剣に取り組んで行く。

 「海上から23体の妖魔が飛び出しました! 中級以上のものと思われます!」
 「来るか!」
 「コンボイを攻撃中の《guêpes(スズメバチ)》1万が消失!」
 「!」

 全員がモニターに注目した。

 「上級です! 一瞬で《guêpes(スズメバチ)》の半数が消失しました!」
 「すぐに残りを戻せ! ここに集結させろ!」

 クレアと連動していた戦略コンピューターがすぐに俺の指示を実行する。
 更に3千がやられた。
 どのような攻撃かさえ分からない。
 恐ろしく強い奴だ。

 「国道から5体の妖魔が飛び出しました! 残り200体あまりも後を追って来ます!」

 俺は全員に聞こえるように指示した。

 「いよいよ来るぞ! 全員気合を入れろ!」

 基地内で持ち場についている全員が身構えたはずだ。
 
 「俺も出る!」
 「セイント!」
 「スージー! 指揮を任せるぞ!」
 「はい! 御武運を!」

 俺は「Ωコンバットスーツ」を着て外へ出た。
 



 敵は余裕を持っていた。
 俺たちの攻撃を潜り抜けて来た奴らだ。
 相応に強いはずだった。

 下級の妖魔は部下たちの「ゴースト」で次々に消されて行く。
 俺は奴らの前に立ち、演習場へ飛んだ。
 案の定、俺を追って中級、上級の妖魔が追い掛けて来る。

 俺は「ゴースト」を撃ち込んだ。
 総数35体。
 中級と思われる奴らは、喰らうとダメージを負ったが、上級と思われる奴は全くダメージが無い。
 上級は8体いるようだった。

 全身が鉄棒を繋ぎ合わせたような形で、その骨格しか無い。
 子どもが何の考えも無しにくっつけたような、異様な身体だった。
 身長は2メートル50センチほど。
 腕や足の鉄棒は太い直径のものがくっついている。
 頭は逆に太い針金ほどのものが無数に密集している。
 鳥のくちばしのような形で、先が尖っている。
 目鼻も口も無い。
 表情は動かないが、俺はその化け物が怒っているのを感じた。
 妖魔に対して何の抵抗も出来ないはずの俺たちが、短時間で壊滅的な打撃を加えたからえたからだ。

 俺は「オロチストライク」を連射した。
 中級の妖魔はそれで片付いたが、上級8体には通じなかった。

 いきなり背後に気配があった。
 振り向くことなく、俺は横へ跳んだ。
 鉤爪で俺を襲って来る。
 かわしたつもりが、左腹に一発喰らった。
 身体を地面で回転させ、追撃して来るその手を蹴って一息で立ち上がる。
 腹から滴り落ちる血を無視して、俺は両足で踏ん張った。

 
 表情は動かないが、俺はその化け物が今度は笑っているのを感じた。

 「俺たちには銃弾も「花岡」も効かない」
 「……」
 「お前はここで死ぬのだ」
 「……」

 化け物が言葉を話していた。
 トラが、話をする妖魔は上級なので気をつけろと言っていた。
 化け物はもう自分の勝利を確信していた。
 
 「お前はここで死ぬのだ。お前の死骸は「業」様が有効に使ってくれる」
 「トラの親父さんのようにか」
 「そうだ。お前が「人形」になれば、イシガミはきっと苦しむだろう」
 
 俺は「ブリューナク」を化け物に撃った。

 「無駄だ。お前は俺に殺されるしかない」

 化け物は俺を嘲るように言い放った。
 8体が俺に近づいて来る。

 「ワハハハハハハ!」
 
 俺が大笑いすると、怪物は立ち止まり、驚くように俺を見ていた。

 「お前、俺が何も用意していないと思ったか?」
 「なんだと?」
 「トラを守るために生きている俺が、のんびりとこれまで何もして来なかったと思うのか?」
 「何を言っている。お前の得意な銃も「花岡」も通じないのだ」
 
 もう一度俺は笑った。

 「だからよ。トラを襲う敵をどうして俺が放置すると思ってるんだよ? 俺はトラを守るために強くなると誓ったんだ。だったら、お前たちを斃す技を用意するに決まっているだろうがぁ!」
 「!」

 俺は両手から九重の螺旋を撃ち出した。
 化け物の胸部が粉砕される。
 表情は動かないが、化け物たちが驚愕しているのが分かった。
 
 「お前!」
 「トラが妖魔と戦うと決まってから、すぐに俺はお前たちを殺す方法を考えた。俺はトラと違って頭は良くないけどな。でもよ、トラのためだったら絶対に何とかするんだぁ!」
 「!」

 俺は化け物たちに螺旋を次々に撃ち込んだ。
 化け物たちの身体が四散していく。
 
 全ての化け物が塵になって消え去った。





 「よう」

 演習場の入り口にいた奴に声を掛けた。

 「守ろうとしてくれたのか。俺で十分だったよ」

 巨大な目玉の化け物のような「あいつ」が黙って消えていった。
 腹が痛み出した。
 戦闘時のアドレナリンの放出で痛みを感じていなかったが、ようやくリラックスして来たようだ。
 シャツを脱いで、腹に強く巻き付けた。
 コントロール・ルームに向かうと、あちこちで戦っていた連中が俺に駆け寄って来た。
 戦闘の終了が、全員に通達されている。
 俺が怪我を追っているのを見て、すぐにストレッチャーが運ばれて来た。
 医療ルームに運ぼうとするので、一度コントロール・ルームに向かえと命じた。

 スージーがすぐに来て、俺はトラに連絡するように言った。
 スージーが俺のスマホを持って来て、トラに繋げた。

 「トラ、片づけたぜ」
 「そうか!」
 「お前が前に言っていた、鉄骨をでたらめに組んだような奴らがいた」
 「おい、聖!」
 「なんだ?」
 「お前やられたのか!」

 トラは俺の声を聞いただけで、俺の状態を見通した。

 「大丈夫だよ。爪を一発喰らっちまった」
 「バカヤロウ!」

 いきなり電話が切れた。
 数分後にトラがハーを連れて「飛んで」来た。
 「Ωスーツ」を着る間も惜しんで来てくれたので、トラたちは裸だった。

 「すぐにこれを飲め!」

 トラが粉末と紙のようなものを俺の口の中へ入れた。
 腹の痛みが一瞬で消えた。
 ハーが俺の腹に両手を当てて何かしていた。
 暖かくなって来る。
 そのまま医療ルームへ運ぶと言われた。
 
 「その前に服を着ろよ」
 「ああ!」

 全員が笑って、すぐに自分たちの服を脱いでトラに渡した。
 ハーは適当にタオルを巻いて、これで十分だと言った。
 変わった奴だ。

 トラがベッドの上で俺の服を脱がせた。

 「おし! 大丈夫そうだな!」

 刺された腹の傷はすっかり消えていた。
 コンバットスーツには血糊が付いている。
 スージーが俺の戦闘の記録映像を持って来て、トラに見せた。

 「聖! あいつとやり合ったの!」

 ハーが叫ぶ。

 「知っているのか?」
 「うん! 硬い奴だよね? タカさんしか無理だった」
 「そうか」
 「よく無事だったね!」

 ハーが驚いていた。
 
 「聖は俺よりも強いからな」

 トラがそう言った。
 嬉しかった。

 「まあ、俺は一発も喰らわなかったけどな!」
 「うるせぇ!」

 スージーとハーが笑った。

 「じゃあ、俺たちは帰るな。大丈夫と思うけど、何かあったらすぐに言ってくれ」
 「ああ、悪かったな」

 トラは俺にさっきの粉末と紙のようなものを置いて行った。

 「これはお前とお前の大事な人間にだけ使ってくれ」
 「凄いものだよな?」
 「ああ。お前に任せるよ。無くなったら言ってくれ」
 「ありがとう」

 トラとハーは服を脱いで素っ裸になった。
 そのまま外に出て、飛び立って行った。
 きっと、相当忙しい中を来てくれたのだろう。
 必要なことだけやって、そのまま帰ったのだ。

 戦闘が終わったことを知り、クレアがアンジーと聖雅を連れて来てくれた。
 ベッドに横たわっていたので、アンジーが驚く。
 もう傷も消えたと言うと、呆れていた。

 「でも、まさかあなたが怪我をするなんてね」
 「まあな」

 トラがさっきまでいたことを話した。

 「あいつ、俺が怪我したと話さないうちに飛んできてくれた」
 「あなたたちはそういうのよね?」
 「そうだぁ!」

 アンジーを抱きしめて笑った。

 「俺もトラとお前たちのことは同じように分かる」
 「うん、知ってる」

 アンジーとキスをした。




 二人でしばらくトラたちが飛んで行った夜空を見ていた。
 月が明るく昇って来た。
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