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募集ポスター
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少し遡って、年明け1月の中旬。
院長に呼ばれた。
「おう、入れよ!」
院長が俺をソファに座らせた。
「お前に相談があるんだが、看護師のことだ」
「はい、どういうことですか?」
院長は俺に何でも投げて来る。
まあ、世話にもなっているし、尊敬する人間なので、俺も引き受けないことは滅多に無いのだが。
「どこもナースは不足している。うちはお前が実施した雇用改革や、〇〇大学病院から契約で一定数のナースが来たりもしているがな」
「はい」
以前にMRIを壊したという〇〇大学病院にうちで貸そうとし、大事件になりそうになった。
金属製品厳禁の部屋に、堂々と持ち込もうとして俺が激怒した。
その時に俺がねじ込んで、ナースを常勤30人、こちらへ派遣する契約を結んだ。
あちらは大変だろう。
「でもな、うちでも慢性的に不足している」
「そうですね」
看護師は激職だ。
医者もそうだが、看護師はとにかく数を必要とする仕事だ。
しかしどこの病院でもそうなわけで、そのために全国的に不足している。
「うちの雇用条件や仕事の内容を知れば、うちに来てくれる人は多いんじゃないかと思うんだよ」
「はい、そう思います」
院長の言う通りで、うちは給料もいいし、職場の環境も福利厚生も断然高い。
「そこでだな。募集を大々的に宣伝して、是非うちに来て貰いたいと思うんだ」
「それはいいですね」
流石だと思った。
「俺もやるけど、お前も看護学校に伝手があるだろう」
「はい、早速動いてみますよ」
院長が満足げにうなずく。
「それで今日の話のメインなんだが」
「はい?」
「募集にあたって、ポスターを作ろうと思うんだ」
「なるほど」
「お前、モデルになれ」
「えぇー!」
「後はもちろん看護師からもな。オペ看の峰岸や、あとは一色がいいんじゃないかと思うんだが」
「そっちはいいですけどぉー!」
「あとお前な」
「なんでぇー!」
後ろで秘書の二人が笑っている。
「お前は背も高いし、何しろ顔がいい」
「俺なんかダメですよ!」
「どうだ、君たち?」
笑っている秘書二人に院長が聞いた。
「最高ですね!」
「これでうちに来たいという人は大勢応募すると思います」
「おい!」
「決まりだな」
「決まってないですよ!」
鷹や六花もどうかと思うが、何しろ俺はダメだ。
「石神、院長命令だ」
「……」
「それと、この件はお前に任せる。ポスターの撮影や製作の手配も頼んだぞ」
「ちょっとぉー」
「うるさい! 出て行けぇー!」
俺は院長に背を向け、中指を胸の前に立てながら退出した。
秘書たちが大笑いしていた。
昼に鷹と六花を呼んで、一緒にオークラの「山里」で食事をした。
「さっき院長から言われてな」
俺は看護師募集のポスター制作を命じられた話をした。
「それでよ、院長は鷹と六花にモデルになって欲しいと言うんだよ」
「私たちですか!」
鷹は驚く。
六花はニコニコして食事を堪能している。
まあ、こっちはどうにでもなるだろう。
「な! 嫌だよな!」
「まあ。でも、石神先生と一緒ならちょっとやりたい気持ちもありますが」
鷹が言うと、六花もニコニコして頷く。
お前はどうでもいいんだろう!
「それがよ、院長は俺もモデルになれって言うんだよ」
「やっぱり!」
「はぅ!」
「でも俺、ナースじゃないじゃん」
「そんな! 石神先生がポスターになれば、きっと大成功ですよ!」
「バウバウ!」
口に食事を詰め込んだ六花が何言ってんのか分かんねぇ。
「俺は嫌なんだけどよ。命令じゃしょうがねぇ。ちっちゃく写るな」
「ダメですって! 石神先生がメインにならないと!」
「バウバウ!」
まあ、ナースの募集なのだから、二人をメインにした写真を推して、何とか認めさせようと思った。
「それで、撮影とかどうするんですか?」
六花が手を挙げる。
「お前、伝手があんのかよ!」
「はい!」
「ほんとか?」
「石神先生、うちには世界で一番石神先生のお写真があるんですよ」
「あー」
鷹がクスクス笑っていた。
六花の寝室を知っている。
壁一面、天井にまで俺の写真で覆われている。
ほとんどは六花と響子の隠し撮りだ。
最近は俺がまともに撮ったものも増えてはいるが。
「うちで最高の写真があります」
「お?」
「石神先生がご用意して下さいました!」
「アア!」
そうだった。
俺がモデル事務所「アスト」の石橋先輩に頼んで、六花をプロに撮影してもらったのだ。
あそこならば、当然様々なポスターを制作している。
「頼んでみるか!」
「はいはい!」
「あの」
鷹は知らないので、俺たちで話してやった。
「スゴイ伝手ですね!」
「そうだな!」
「やりましょう!」
そういうことになった。
モデル事務所「アスト」の石橋先輩は俺の頼みを快く引き受けてくれた。
見積りを貰い、院長の承諾を受けて、2月の中旬に撮影が決まった。
俺はスーツと白衣とオペ着、鷹と六花は看護師服だ。
病院に撮影のスタッフが来た。
事前にロケーションを済ませ、どこでどういうポーズで撮るかを打ち合わせた。
病院ガイドも一緒に作ることになり、写真の点数が増えた。
もちろん、院長に稟議は通している。
鷹と六花を見て、スタッフがその美しさに驚く。
「こりゃ、他の人間じゃレベルが合いませんね」
「石神先生でしたら文句ありませんが!」
「ワハハハハハハ!」
よく分からんが、早く済ませたい。
俺はスタッフの指示通りに立ち、動き、笑顔を作った。
病院のスタッフや患者が、撮影のために待機してもらったり、立ち入り禁止になったりした。
響子が嬉しそうに見学に来た。
「あ! あの子いい!」
「一緒に撮ってもいいですか?」
俺は笑って響子を呼び、何枚か一緒に撮った。
響子が大喜びだった。
オペ室や診療室、受付や待合室、食堂、そして院長室。
様々な場所で撮影していく。
優秀なカメラマンとスタッフで、普通は時間の掛かる照明のセッティングが短時間で次々と決まって行く。
それでも場所が多く、夕方まで掛かった。
ポスターと病院ガイドの提案が出来て来た。
院長と秘書課、広報部、人事部、俺、鷹と六花で検討していく。
俺は鷹と六花の二人のポスターを推奨したが、結局俺が入ったものに決まった。
しょうがねぇ。
俺が白衣を着て誰かに話しかけているポーズ。
鷹がオペ室を作っている時の真剣なポーズ。
六花が響子と一緒に微笑んでいるポーズ。
それらを病院の外観の前で組み合わせた、まあ流石プロの出来という感じだ。
病院ガイドは幾つか意見をまとめて、ゲラを確認し印刷に入った。
院長や俺などの伝手で、全国の看護学校や大学へ配られる。
3月中旬。
院長室に呼ばれた。
人事部長がいた。
「石神!」
院長が俺に向かって笑顔で親指を立てた。
「やったぞ!」
俺もにこやかに親指を立てた。
「石神部長、既に5000人の応募を頂きました」
「そうですか!」
「ありがとうございました」
「いいえ!」
まあ、院長のお手柄であり、鷹と六花の美しさと人柄が出た写真のお陰だ。
「流石は「1億チョコの男」ですね!」
「ワハハハハハハ!」
「みんな、早く石神部長に会いたいと言ってます」
「……」
「大変ですね」
「ワハハハハハハ!」
何か嫌な予感がするのだが。
君たち、大丈夫か?
院長に呼ばれた。
「おう、入れよ!」
院長が俺をソファに座らせた。
「お前に相談があるんだが、看護師のことだ」
「はい、どういうことですか?」
院長は俺に何でも投げて来る。
まあ、世話にもなっているし、尊敬する人間なので、俺も引き受けないことは滅多に無いのだが。
「どこもナースは不足している。うちはお前が実施した雇用改革や、〇〇大学病院から契約で一定数のナースが来たりもしているがな」
「はい」
以前にMRIを壊したという〇〇大学病院にうちで貸そうとし、大事件になりそうになった。
金属製品厳禁の部屋に、堂々と持ち込もうとして俺が激怒した。
その時に俺がねじ込んで、ナースを常勤30人、こちらへ派遣する契約を結んだ。
あちらは大変だろう。
「でもな、うちでも慢性的に不足している」
「そうですね」
看護師は激職だ。
医者もそうだが、看護師はとにかく数を必要とする仕事だ。
しかしどこの病院でもそうなわけで、そのために全国的に不足している。
「うちの雇用条件や仕事の内容を知れば、うちに来てくれる人は多いんじゃないかと思うんだよ」
「はい、そう思います」
院長の言う通りで、うちは給料もいいし、職場の環境も福利厚生も断然高い。
「そこでだな。募集を大々的に宣伝して、是非うちに来て貰いたいと思うんだ」
「それはいいですね」
流石だと思った。
「俺もやるけど、お前も看護学校に伝手があるだろう」
「はい、早速動いてみますよ」
院長が満足げにうなずく。
「それで今日の話のメインなんだが」
「はい?」
「募集にあたって、ポスターを作ろうと思うんだ」
「なるほど」
「お前、モデルになれ」
「えぇー!」
「後はもちろん看護師からもな。オペ看の峰岸や、あとは一色がいいんじゃないかと思うんだが」
「そっちはいいですけどぉー!」
「あとお前な」
「なんでぇー!」
後ろで秘書の二人が笑っている。
「お前は背も高いし、何しろ顔がいい」
「俺なんかダメですよ!」
「どうだ、君たち?」
笑っている秘書二人に院長が聞いた。
「最高ですね!」
「これでうちに来たいという人は大勢応募すると思います」
「おい!」
「決まりだな」
「決まってないですよ!」
鷹や六花もどうかと思うが、何しろ俺はダメだ。
「石神、院長命令だ」
「……」
「それと、この件はお前に任せる。ポスターの撮影や製作の手配も頼んだぞ」
「ちょっとぉー」
「うるさい! 出て行けぇー!」
俺は院長に背を向け、中指を胸の前に立てながら退出した。
秘書たちが大笑いしていた。
昼に鷹と六花を呼んで、一緒にオークラの「山里」で食事をした。
「さっき院長から言われてな」
俺は看護師募集のポスター制作を命じられた話をした。
「それでよ、院長は鷹と六花にモデルになって欲しいと言うんだよ」
「私たちですか!」
鷹は驚く。
六花はニコニコして食事を堪能している。
まあ、こっちはどうにでもなるだろう。
「な! 嫌だよな!」
「まあ。でも、石神先生と一緒ならちょっとやりたい気持ちもありますが」
鷹が言うと、六花もニコニコして頷く。
お前はどうでもいいんだろう!
「それがよ、院長は俺もモデルになれって言うんだよ」
「やっぱり!」
「はぅ!」
「でも俺、ナースじゃないじゃん」
「そんな! 石神先生がポスターになれば、きっと大成功ですよ!」
「バウバウ!」
口に食事を詰め込んだ六花が何言ってんのか分かんねぇ。
「俺は嫌なんだけどよ。命令じゃしょうがねぇ。ちっちゃく写るな」
「ダメですって! 石神先生がメインにならないと!」
「バウバウ!」
まあ、ナースの募集なのだから、二人をメインにした写真を推して、何とか認めさせようと思った。
「それで、撮影とかどうするんですか?」
六花が手を挙げる。
「お前、伝手があんのかよ!」
「はい!」
「ほんとか?」
「石神先生、うちには世界で一番石神先生のお写真があるんですよ」
「あー」
鷹がクスクス笑っていた。
六花の寝室を知っている。
壁一面、天井にまで俺の写真で覆われている。
ほとんどは六花と響子の隠し撮りだ。
最近は俺がまともに撮ったものも増えてはいるが。
「うちで最高の写真があります」
「お?」
「石神先生がご用意して下さいました!」
「アア!」
そうだった。
俺がモデル事務所「アスト」の石橋先輩に頼んで、六花をプロに撮影してもらったのだ。
あそこならば、当然様々なポスターを制作している。
「頼んでみるか!」
「はいはい!」
「あの」
鷹は知らないので、俺たちで話してやった。
「スゴイ伝手ですね!」
「そうだな!」
「やりましょう!」
そういうことになった。
モデル事務所「アスト」の石橋先輩は俺の頼みを快く引き受けてくれた。
見積りを貰い、院長の承諾を受けて、2月の中旬に撮影が決まった。
俺はスーツと白衣とオペ着、鷹と六花は看護師服だ。
病院に撮影のスタッフが来た。
事前にロケーションを済ませ、どこでどういうポーズで撮るかを打ち合わせた。
病院ガイドも一緒に作ることになり、写真の点数が増えた。
もちろん、院長に稟議は通している。
鷹と六花を見て、スタッフがその美しさに驚く。
「こりゃ、他の人間じゃレベルが合いませんね」
「石神先生でしたら文句ありませんが!」
「ワハハハハハハ!」
よく分からんが、早く済ませたい。
俺はスタッフの指示通りに立ち、動き、笑顔を作った。
病院のスタッフや患者が、撮影のために待機してもらったり、立ち入り禁止になったりした。
響子が嬉しそうに見学に来た。
「あ! あの子いい!」
「一緒に撮ってもいいですか?」
俺は笑って響子を呼び、何枚か一緒に撮った。
響子が大喜びだった。
オペ室や診療室、受付や待合室、食堂、そして院長室。
様々な場所で撮影していく。
優秀なカメラマンとスタッフで、普通は時間の掛かる照明のセッティングが短時間で次々と決まって行く。
それでも場所が多く、夕方まで掛かった。
ポスターと病院ガイドの提案が出来て来た。
院長と秘書課、広報部、人事部、俺、鷹と六花で検討していく。
俺は鷹と六花の二人のポスターを推奨したが、結局俺が入ったものに決まった。
しょうがねぇ。
俺が白衣を着て誰かに話しかけているポーズ。
鷹がオペ室を作っている時の真剣なポーズ。
六花が響子と一緒に微笑んでいるポーズ。
それらを病院の外観の前で組み合わせた、まあ流石プロの出来という感じだ。
病院ガイドは幾つか意見をまとめて、ゲラを確認し印刷に入った。
院長や俺などの伝手で、全国の看護学校や大学へ配られる。
3月中旬。
院長室に呼ばれた。
人事部長がいた。
「石神!」
院長が俺に向かって笑顔で親指を立てた。
「やったぞ!」
俺もにこやかに親指を立てた。
「石神部長、既に5000人の応募を頂きました」
「そうですか!」
「ありがとうございました」
「いいえ!」
まあ、院長のお手柄であり、鷹と六花の美しさと人柄が出た写真のお陰だ。
「流石は「1億チョコの男」ですね!」
「ワハハハハハハ!」
「みんな、早く石神部長に会いたいと言ってます」
「……」
「大変ですね」
「ワハハハハハハ!」
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君たち、大丈夫か?
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