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《スノー・キャット》 Ⅳ

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 本部建物で衝撃音がした。
 妖魔の気配を感じた。
 すかさず、俺は「虎王」を呼んだ。

 まだルーとハーから連絡は無いが、何が起きたのかは悟っている。
 残った兵士たちを犠牲にして、妖魔を呼び出したのだろう。
 恐らく、襲撃の際に逃げ込む場所を指示し、そこに召喚の魔法陣を敷いていた。
 発動は、襲撃者がその部屋に入った時。

 こんな基地を襲うのは俺たちくらいなので、最初から狙っていたと思われる。

 聖たちが屋上から地上へ降りて来た。
 まだ「タイガーファング」は到着していないので、80人の救出者が残っている。
 その時、地面から強烈なプレッシャーが来た。

 「トラ!」
 「分からん!」

 ルーが俺に言った。

 「タカさん! 地下に原子炉があった!」
 「なんだと!」

 それに間違いない。
 原子炉がメルトダウンに向けて暴走しているのだろう。

 「私が止めて来ます!」

 ハーが叫んだ。

 「ダメだ! もう地下は放射能が漏れているはずだ!」
 「でも!」
 「お前! また死ぬ気か!」
 「一度も死んでないもん!」

 とにかく止めた。
 しかし、アナウンスもなく、あとどれくらいで原子炉が爆発するのか分からない。
 俺たちは逃げられるが、80人の救助者は無理だ。
 「花岡」の大技で全てを吹き飛ばすことは出来るが、放射能は撒き散らされる。

 妖魔が屋上から飛んで来た。
 100メートル離れて対峙した。
 ルーとハーが「オロチストライク」を連発する。
 しかし、スピードタイプのようで、回避していく。
 俺はアラスカへ連絡した。

 「原子炉の暴走だ! 誰か爆発までの時間を試算出来る奴を探せ!」

 ターナー少将がすぐに手配すると言った。

 2分後に「タイガーファング」が到着し、救助者たちを大急ぎで乗り込ませた。
 同時にターナー少将から連絡が来た。

 「原子炉で働いていた技術者だ!」
 「マーロウです!」
 「事態は分かっているな、マーロウ!」
 「はい。爆発はありましたか?」
 「聞こえていない!」
 「ならば冷却水の断水でしょう。数時間はもちます!」
 「分かった!」

 取り敢えずは安心だ。

 「マーロウ、何か止める手立てはあるか?」
 「制御棒を挿せば! でももう放射能が蔓延している可能性もあります」
 「そうか。多分、制御装置も壊されているだろう」
 「確かに」

 マーロウは少し考えさせて欲しいと言った。
 俺は待った。
 数語の遣り取りで、マーロウという男が信頼に足る人間と判断した。
 「タイガーファング」が飛び立ち、一応は安心した。

 「「虎」! 一つ方法を思いつきました!」
 「なんだ!」
 「原子炉の脇に、大穴を空けることは可能ですか?」
 「穴?」
 「はい! 地下数キロに及ぶものです! 「虎」の方々であれば可能かと!」
 「おお!」

 あとは聞かずとも分かった。
 地下核実験の応用だ。
 
 「ありがとう!」

 俺は礼を言って通話を切り、全員に言った。

 「これから地下2キロの穴を空ける! そこに原子炉を叩き落とすぞ!」
 「「「「「はい!」」」」」
 「おう」

 全員がやるべきことを分かった。
 双子に最初に建物脇に大穴を空けさせる。
 地下核実験は、本来は斜めに掘り進む。
 しかし今回は原子炉を落とす必要があるので垂直孔を掘る必要があった。
 原子炉を落としてから、上を破壊して穴を埋める。

 双子は「虚震花」で掘削していく。
 以前に温泉を掘ろうとして経験があった。

 「土はどうするんだ?」
 「どんどん運んで!」
 「お、おう」

 それしか無いらしい。
 そういえば、その過程で小判やら金鉱脈やらを見つけたんだっけか。
 みんな必死でブルーシートに土を運び、双子がガンガン下に穴を空けて行く。
 遅々として進まない。
 2時間が経過した。
 まだ400メートル程だ。

 「みんな出ろ!」

 俺の命令で全員が上がって来た。

 「クロピョン!」

 でかい黒の触手が現われた。

 「この穴をあと3キロ下に掘ってくれ! 俺たちが建物の一部を落としたら塞げ!」

 触手が「〇」を描いた。
 すぐに直径300メートル、深さは多分3キロの大穴が空いた。
 俺は「虚震花」で建物の下の地面を抉り、建物ごと穴に落した。

 「よし! 塞げ!」

 穴が大量の土砂で埋まって行く。
 地上にも粉塵が舞い上がった。

 「御苦労! 言っていいぞ!」

 触手が「♡」を描いて消えた。
 全員でハイタッチした。

 「あ」

 ハーが叫んだ。
 先ほどの妖魔がこっちを見ていた。
 俺たちが作業している間、全然襲って来なかった。
 だから忘れていた。
 
 「お前、まだいたのかよ」

 妖魔が首を縦に振った。
 細身で、黒い硬そうな革に覆われている。
 身体は人間のようだが、顔は鳥に似ている。

 「おい、逃げてもいいんだぞ?」
 
 妖魔は頭を抱えた。
 その発想が無かったらしい。

 「死にたいのか?」

 妖魔が顔の前で手を振った。
 なかなか愛嬌のある奴だ。
 そういえば、双子が攻撃していた時に、一度も反撃して来なかった。

 「まあ、好きにしろ。俺たちの敵になるなら、次は瞬殺だ」

 また首を縦に振った。

 「石神様、宜しいのですか?」

 ミユキが聞いて来た。

 「まあ、いいよ。邪悪な感じは無いしな」
 「はい……」

 「虎王」がそういう波動を俺に伝えて来た。
 そして、よくは分からないが、俺がその妖魔を知っているかのような感覚があった。

 俺たちはアラスカへ飛び立った。




 ターナー少将が出迎えてくれ、マーロウと引き合わせてくれた。
 アメリカ人で、「虎」の軍に憧れてここへ来た移住希望者だった。
 身長は180センチに少し欠ける。
 茶髪でいい面構えの50代の男だった。

 「マーロウ、本当に助かったぜ!」
 「いいえ! 原子炉の知識が役立つとは思いませんでした!」
 「いや、本当に助かった。穴を掘って埋めるなんて発想は無かったしな!」
 「思い付きでしたが、流石は「虎」です! 本当に実現するなんて」
 
 腰の低いいい男だと思った。
 酒が飲めるというので、「ほんとの虎の穴」の俺の専用ルームへ招待する。
 聖やミユキたちとも一緒だ。
 作戦成功の祝杯を挙げた。

 「しかし、「虎」の軍の方々はタフですね!」

 俺はニヤリと笑った。

 「If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.(タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない)」
 
 マーロウが大笑いした。

 「タカさん、どういう意味?」

 ハーが聞いた。

 「ばかやろう! レイモンド・チャンドラーくらい読んどけ!」

 双子がすぐにスマホで検索を始めた。

 「なぁ、聖?」
 「ワハハハハハハ!」

 「聖、知ってるの!」
 「チャントラくらい読んでおけ!」
 「「!」」

 聖が本なんか読むわけねぇ。





 翌日、双子から詳細な報告を聞いた。
 聖と遊んでいて、ハッキング機をダメにしたことを知った。

 「お前らなー」

 戦場の緊張感や冷静な判断を教えるために作戦に加え、聖に頼んだのだが。
 まあ、これからも機会はあるだろう。

 データは同時通信で全部アラスカへ届いていた。
 双子には『心霊XXX』のきつい奴を見せた。

 もう二度としないと失神後に大泣きで誓った。
 まあ、カワイイ奴らだ。
 無事で良かった。
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