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《スノー・キャット》 Ⅱ

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 2時間程休憩した。
 聖は食事を終えるとすぐに眠った。
 ルーとハーもそれを見て目を閉じた。
 口ではいろいろ言いながらも、二人は聖を尊敬し、信頼している。

 「お前たちも少し眠れ」
 「いいえ、石神様こそ」

 ミユキたちに声を掛けたが、起きていると言う。

 「お前たちはまだ戦場に不慣れだ。こういう場所で眠ることも覚えろ」
 「はい、分かりました」

 ミユキたちも目を閉じた。
 眠れないだろうが、目を閉じることで身体は休まる。
 気温は低く、地面には雪がある。
 しかし防水性でヒーター機能のあるコンバットスーツのお陰で寒さは無い。
 食事もした。
 
 G-SHOCK「MRG-G1000B-1A4JR」を見た。
 6:00。

 俺は全員を起こし、出発した。




 俺がセンサーや監視兵を避けながら走る。
 後ろをミユキ、前鬼、後鬼の三人。
 その後ろをルーとハー。
 最後尾を聖が続く。

 1時間で200キロを走破し、作戦目標の基地に到着した。
 基地名は分からなかったので、俺たちは「キッドナッパー(誘拐犯)」と仮称した。

 「予定通りだ! 行くぞ!」

 敷地は2メートルのフェンスがあるだけだった。
 防備の硬い基地では、そういうことも多い。
 視界を遮る壁では、却って邪魔になる。
 まあ、ここはそういうことでもなさそうだ。
 単に、防備に関してはあまり考えていないのだろう。
 この基地を攻撃するメリットが少ない。

 もうここまで来れば、発見されても構わない。
 俺たちは、そのまま突っ込んで行く。

 聖が中央の建物の上のでかいサイレンを「ドラクーン」で破壊した。

 「これで基地全体にサイレンは鳴らねぇ!」
 「「スゴイね!」」

 サイレンが鳴り響いた。
 他にもあるのだ。

 「「「……」」」

 ミユキたちが飛行場へ向かう。
 時速300キロのスピードだ。
 ここまでは、ミユキたちに足を合わせて来た。

 双子と聖は中央の本部建物と思しきものへ。
 俺は途中まで並走し、外に残った。
 建物外の敵を迎え撃つ。

 飛行場から戦闘ヘリ「Ka-52 アリガートル」が上がろうとしたが、全てミユキたちが撃墜した。
 ミユキたちは、そのまま飛行場の破壊と、周囲のハンガーを破壊していく。
 前鬼が周囲から来る銃弾に対処しながら、ミユキが「フーファイト」と「ロンファイト」でハンガーを粉砕していく。
 後鬼が遊撃でロシア兵を「アスラ・スレッド」で切り刻む。
 予想通り、ミユキたちは問題無さそうだ。

 俺は向かってくる兵士や戦車を相手にした。
 建物からも徐々に銃を撃って来るようになった。
 
 俺たちの戦闘力であれば、軍事基地の襲撃も苦にならないと思っていたが、その通りだった。
 しかも、この基地は低レベルだ。
 兵士の練度も低いし、指揮も稚拙。
 ほとんど、襲撃される前提を考えていないかのようだった。

 実際にそうなのだろう。
 戦略的には意味の無い場所にあるし、そもそもが攻撃や防衛のための基地でもない。
 基地の防御に割く人員も難しいのかもしれない。
 ロシア軍としては、喪って構わないものの可能性もある。
 必要としているのは「業」だけだ。
 武装の無い民間人を襲って移動させるだけの兵士に、訓練もそれほど必要は無い。
 指揮官も優秀である必要もない。

 必要なのは、そういう冷酷無残な命令に従える、ということだけだ。
 軍法会議で有罪となった人間たちが使われているようだが、恐らく一般の囚人も多いだろう。
 軍人の中から適当に指揮官を任命し、後は脱走と命令違反に対処すればいいだけだ。

 俺は洗脳されていると考えていた。
 更に、「業」の実験も兼ねて兵士たちの一部がライカンスロープなどにされている可能性も警戒していた。
 森の中には、確かにライカンスロープらしき者もいた。
 しかし、基地内にはまだ見当たらない。
 森からライカンスロープが呼び戻される気配も無い。




 ミユキたちが早々に俺の所へ来た。
 しかし、俺の方でも散発的になってきた抵抗が、既にすっかり止んでいた。

 「石神様!」
 「御苦労。もうこっちも終わったようだ」
 「おかしいですね?」

 まあ、俺たちの戦力を見て、みんな隠れているのだろう。
 攻撃すれば、必ず死ぬ。
 俺たちは本部建物以外の、2つの建物へ向かった。

 一つは車両・武器庫兼資材の格納庫のようだった。
 門番がいたはずだが、最初に俺に向かって来たか、逃げ出したかで誰もいなかった。
 ミユキたちが1階の車両を全て破壊し、逃走出来ないようにした。
 別な建物へ向かう。
 4階建ての施設だ。

 「なんだ、ここは?」

 ただ、大きな部屋が区切ってあるだけのものだった。
 部屋は全て施錠されており、ドアを破壊して入ると酷く臭う。

 「ここに連れ去って来た人間たちを収容していたのか」

 床に敷き詰めたマットと、一辺は長い水路のようなもの。
 トイレだろう。
 トイレには囲いも何もなく、人間的な扱いの一切が無い。
 上の階で囚われていた人々がいた。
 80名ほどだった。
 みんな酷く痩せ、寒さに震えていた。
 暖房は最低限のものが入ってはいた。

 ロシア語の出来る前鬼が話した。

 「ヤクーツクの小村から10日前に連れて来られたそうです」
 「そうか。全員救出すると伝えてくれ。もう安心だと」

 前鬼が説明すると、みんな喜んだ。
 前鬼に近寄り、感謝していた。
 前鬼が安心させるために、また話している。
 前鬼を残し、俺たちは他の部屋も全て見て回った。
 収容されているのは、先ほどの人間たちだけだった。
 途中で食糧を見つけたので、持って行った。
 ハムや缶詰などで、すぐに食べられるものだ。

 「ミユキ、この人たちが食べ終えたら、下の階に移動させろ」
 「はい!」
 「俺は一度「タイガーファング」を呼ぶ。先にこの人たちを移動させる」
 「分かりました!」
 「「タイガーファング」が到着したら、護衛しながら搭乗させろ」
 「はい!」

 俺は一度外へ出て、アラスカへ連絡した。
 10分もすれば「タイガーファング」が来るはずだ。

 しかし簡単すぎる襲撃だった。
 他の基地から防空戦力が来ると思っていたが、気配も無い。
 この基地自体が極秘なので、応援も呼べないということか。
 防衛に関しては、対空システムは一切無く、戦車は3両ほど来たが、それだけだった。
 ミサイルはおろか、無反動砲や重機関銃すら反撃は無かった。
 一応、グレネードランチャーや重機関銃は武器庫にはあった。
 でも、通常の防衛として配備していないということか。

 前鬼が先に降りて来た。

 「おう、あと10分もすれば「タイガーファング」が来るぞ」
 「はい。石神様、その前にお話ししておこうかと」
 「なんだ?」
 「囚われた人たちなのですが、随分と酷い目に遭っていたようです」
 「そうか」

 それは想像がついた。
 犯罪者たちが集まっているのだ。
 人道的な扱いにはならないだろう。

 前鬼は予想通り、レイプや酷い殺人までがあったことを俺に話した。
 子どもまでもだ。

 「石神様、自分は許せんのです」
 「俺もだ、前鬼」

 前鬼は涙を流していた。
 作戦行動中だが、感情が爆発している。

 「それがあいつらのストレス発散だったんだろうよ」
 「そんな……」
 「ここにいる連中は、いつ報いを受けてもいい奴らだ。遠慮なくぶっ殺せ」
 「はい!」

 前鬼を本来の任務に戻した。
 俺たちは、この基地を破壊するために来たのだ。
 前鬼は、囚われていた人たちを外に呼びに行った。
 あの人たちを脱出させたら、聖たちと合流するつもりだった。




 その時、聖たちが入った本部建物で凶悪な気配を感じた。
 俺はミユキたちに輸送を任せ、建物へ飛び込んだ。
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